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<概要>
 社会・経済活動の進展に伴いエネルギー消費が増大した中で、地球的規模での環境対策の必要性が高まっているため、科学技術政策研究所は、アジア全域の25ヶ国を対象として、長期的な視点でエネルギー消費量などを予測する調査研究を行った。
 エネルギー消費量の将来予測の設定条件として、自然体ケースと技術進歩ケースの2つを設定し、それぞれについてGDPの動向、1次エネルギー消費量の将来動向、エネルギー源構成の推移などについて予測分析した。
 予測結果によれば、エネルギーの利用効率向上により省エネルギーを達成できること、石炭などの化石燃料への依存拡大にともない、さらに環境悪化が懸念される、としている。
<更新年月>
1997年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
通商産業大臣(現経済産業大臣)の諮問機関である、総合エネルギー調査会国際エネルギー部会(当時)が、1995年(平成7年)6月に取りまとめた中間報告で示している「アジア地域のエネルギー需給見通し」によると、2010年には、中国は、我が国以上の石油消費国となる。同じく、ASEAN(Association of South-East Asian Nations:東南アジア諸国連合)が我が国程度、アジアNIES(Newly Industrializing Economies:新興工業経済群)は我が国の3/4程度の石油輸入地域になる見込みとなっている。また、アジア地域全体の石油輸入依存度は、約70%に達し、そのほとんどが中東地域に依存すると見込まれている。
 このように、社会・経済活動の進展に伴い、エネルギー消費がこれまでになく増大した中で、地球的規模での環境対策の必要性が高まっている。科学技術政策研究所が、アジア全域の25ヶ国を対象として、科学的データに基づく分析や長期的な視点で、環境の変化に関する把握やこの問題に関する理解を深める調査研究を行った予測を紹介する。
1.エネルギー消費量の将来予測の設定条件
 将来のエネルギー消費量を予測するにあたり、エネルギー利用形態の違いによる差をみるため、以下の2ケースを設定した。
ケース1:自然体ケース
 エネルギー消費に係る特段の追加的な政策がとられない場合で、各国の既往のエネルギー見通し又は実績の傾向をトレンドしたケース
ケース2:技術進歩ケース
 全消費部門において、エネルギー消費に係る新たな技術革新がとられることによる省エネルギー及び環境負荷の小さい新エネルギー開発・普及が図られるケース
 ケース1では、エネルギー需要の大幅な増加が見込まれ(特に化石燃料において)、地球環境への負荷が増大するものと予想される。その対策としてケース2で技術進歩による省エネルギー・化石燃料代替エネルギー利用の進展を想定した(シミュレーションでは、エネルギー関係への研究開発投資が増加すると仮定した)。
 エネルギー消費量の算定には、いずれのケースもFUGIモデルによるが、前提条件としては、以下のようになっている。
・人口:いずれのケースも、人口は国連による中位推計値を用いる。( 表1を参照)
・石油価格:いずれのケースも、原油価格は、1990年の1バレル当たり17.9ドルをべースに漸次上昇して、2000年の名目価格が40ドルになることを想定し、2000年以降も同様の傾向が継続するものとした。
・省エネルギーの設定:ケース2はケース1に対してGDP当たりエネルギー消費で年平均1.5〜2.0%の省エネルギーが行われるものとした(日本における1975〜1987年の同率は、3.0%)。さらに、化石燃料の代替エネルギー促進のための開発投資が、ケース1に対して各年10%増加され、その効果によって代替エネルギーの供給量が増加するものとした。
2.アジア地域のエネルギー消費の予測結果
 多くの人口をかかえるアジア地域が2000年、2010年と活発な経済活動を継続していく中で、それらに伴うエネルギー消費量の変化、部門別エネルギー消費構造の変化等を予測分析した。
(1)人口とGDP
a.人口の動向
 国連の中位推計値(表1)によると、アジア地域の人口は年平均1.8%で伸びており、1987年の27.5億人が2000年には34.7億人、さらに年平均1.3%で伸びて2010年には39.4億人と拡大することが見込まれている。
b.GDPの動向
 アジア地域全体の実質GDPは、1987年の26,494億ドルから、2000年にはケース1で47,048億ドル、ケース2で48,904億ドルと増加しており、それぞれ年平均で4.5%、4.8%の成長となっている。また、2000年から2010年にはケース1で68,625億ドル、ケース2で74,998億ドルと増加しており、それぞれ年平均で3.8%、4.4%と速度は緩やかになっているものの、依然着実な成長が見込まれている。なお、ケース2の場合、省エネルギーの効果やそれに伴う設備投資に支えられ、ケース1を上回る4.8%、4.4%の経済成長となっている。また、年平均伸び率は、ケース1に比べてケース2の方が高い伸びを示しているが、一部の国ではケース2の方が伸びが低くなっている。これらの国ではケース1に比べてケース2の方が輸入が多くなっており、技術進歩に見合う設備投資の大半を海外に依存した結果と考えられる。
c.1人当たりGDP
 人口と実質GDPのデータに基づいてドルベースで求めた2000年、2010年の1人当たりGDPを 表2 に示した。
 ケース1(ケース2)では、1987年に最高であったブルネイを追い越し、日本が17,627$/人(18,753$/人)で1位となっている。次いで香港、ブルネイ、シンガポール等が続いている。アジア全体でみると、人口の伸びを大きく上回る経済成長が続き、この結果、1人当たりGDPは1987年の974$/人から2000年1,3724/人(1,426$/人)、2010年1,766$/人(1,930$/人)ヘと増加している。
(2)エネルギー消費量
a.1次エネルギー消費量の将来動向
 アジア各国の2000年、2010年の1次エネルギー消費量に対するGDP弾性値を 表3 および 表4 に示す。
 一般に、1次エネルギー消費量の対GDP弾性値は、大きな変動がないときはほぼ1に近い値を取ると考えられている。なお、日本が石油危機を契機として省エネルギーの進展を果たしているが、この時(1975〜1987年)の実績として0.3〜0.4という値が記録されている。2000〜2010年について、ケース1でみると、日本が0.6台で最も低く、政策的な省エネルギーを進めている中国を始め、インド、インドネシア、タイ、フィリピン、スリランカで0.9〜0.7の数値となっている。しかし、韓国、台湾といったアジアNIESをはじめ他の国々では1を超えている。アジア全体では0.9となっているが、これはGDP、エネルギー消費量ともに大きなシェアを持つ中国、日本で0.6〜0.9となっていることによる。また、ケース2では、技術進歩による省エネルギーを主課題としていることから、ほとんどの国でケース1より30〜60%低い値となっている。総じて工業化の遅れている国の低下率が低いのは、本調査研究では省エネルギーを見込んでいない植物性燃料への依存度が高いためであり、植物性燃料のシェアが90%を超えるネパールやアフガニスタンではほとんど変化がない。
 次に、 図1 および 図2 に1人当たりGDPとGDP当たり1次エネルギー消費量の関係を示す。これらの図から、前述した経済とエネルギー消費量の関係が理解できる。経済成長を遂げながらもエネルギー利用効率の向上による省エネルギーが進めば日本や中国のように右下がりに、この効果が少ないと韓国、台湾のように水平に、さらにエネルギー多消費の方向で推移するとモルジブの様に右上がりの線となる。ケース1に対しケース2の省エネルギ一の効果がよく現われている。
b.エネルギー源構成の推移の特徴
 化石燃料(石炭、石油、ガス)、1次電力、植物性燃料の推移を 図3 に示した。
 まず、ケース1についてみると、アジアでは化石燃料、とりわけ石炭依存を高めてきており、石炭のシェアは1987年の42.9%から2000年45.6%、2010年46.0%と増加している。石炭依存を高めている国は中国、インド、タイ、フィリピン、香港等が挙げられる。アジアの石炭利用は、約8割を占める中国、インドの動向に大きく左右されるが、タイ、フィリピン、香港での石炭利用の増加によりこの3国のシェアは、1987年1.2%から2000年2.2%、2010年3.2%ヘと着実に増加しており、注目に値する。日本はガス、水力・原子力等の1次電力に重点をおいたものとなり、脱石油が進んでいる。また、工業化の進むインドネシアやタイ、フィリピン等では植物性燃料のシェアが急速に減少しており、インドネシアでは石油・ガスの、タイでは石炭・ガスの、フィリピンでは1次電力のシェアが高くなっている。
 次いでケース2についてみると、ケース1で述べた方向は同様であり依然として石炭が主要なエネルギー源であることに変わりはない。しかし、各国において石炭、石油、ガスの化石燃料を減少させ、水力等の1次電力への転換が進んでいることが明確に現れている。いずれにしても、日本や韓国、台湾等の工業化の進んでいる国での化石燃料の減少方向は示されているが、その他の発展途上国では依然として化石燃料に依存する方向に変わりはなく、さらに環境を悪化させることが懸念される。
c.部門別エネルギー消費量の動向
 アジア全体の部門別エネルギー消費量、その構成比、年平均伸び率の推移を 表5 及び 図4 に示す。1987年の時点で、エネルギー転換部門は3.8億トンで23.6%を占め、産業部門は5.9億トン、36.3%、輸送部門は1.6億トン、10.1%、その他部門は4.6億トン、28.4%、非エネルギー消費0.2億トン、1.1%であった。今後の変化を予測結果からみると、ケース1においては2000年にエネルギー転換部門が年平均伸び率5.0%と最も高い伸びを示し、そのシェアは26.0%に拡大している。2010年には年平均伸び率4.2%と若干緩やかになるものの、依然として最高の伸び率で増加してシェアは27.9%まで拡大する。これは、電力需要の増加による発電部門の伸びが、最終消費部門の伸びを上回っていることに起因する。最終消費部門の中では、大きなシェアの変化は見られないが、産業部門、輸送部門のシェアが増加し、その他部門が減少する傾向がみられる。
<図/表>
表1 人口設定値(国連中位推進計画値)
表1  人口設定値(国連中位推進計画値)
表2 一人当たりGDP
表2  一人当たりGDP
表3 1次エネルギー消費量の対GDP弾性値
表3  1次エネルギー消費量の対GDP弾性値
表4 1次エネルギー消費量の対GDP弾性値
表4  1次エネルギー消費量の対GDP弾性値
表5 部門別エネルギー消費量
表5  部門別エネルギー消費量
図1 経済水準とエネルギー利用効率
図1  経済水準とエネルギー利用効率
図2 経済水準とエネルギー利用効率
図2  経済水準とエネルギー利用効率
図3 1次エネルギー消費量の推移
図3  1次エネルギー消費量の推移
図4 部門別エネルギー消費量の推移
図4  部門別エネルギー消費量の推移

<参考文献>
(1) 科学技術庁科学技術政策研究所(編):アジア地域のエネルギー利用と環境予測、大蔵省印刷局(平成5年6月18日)
(2) 通商産業省資源エネルギー庁企画調査課(編):アジア・エネルギービジョン総合エネルギー調査会国際エネルギー部会中間報告−、(財)通商産業調査会出版部(1995年10月5日)
(3) 通商産業省(編):エネルギー'97、(株)電力新報社(1997年10月10日)
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