<本文>
1.エネルギー事情の概観
フランスは、ほとんどエネルギー資源を持たない。1997年末現在、フランス国内の化石燃料資源量は原油1300万トン、天然ガス液(NGL)120万トンおよび天然ガス140億立方メートルで、世界の化石燃料資源量の0.01%しかない。唯一の資源は
ウランで、ヨーロッパのおよそ3分の1、世界の約7%がある。
図1は、1973年から2020年までの一次エネルギー供給の推移を示す。原子力は1970年代中頃から1998年までに石油にとって代わり、1973年の22%から1998年の約40%になり、石油はこの間に70%以上から35%〜37%へと半減した。これに対応してエネルギーの輸入依存は1973年の81%から1998年の50%まで減少した。1973年の1億3480万トンの石油輸入(85%)は、1998年に9050万トンまで減少し原産国が多様化された。石炭輸入も、1973年はドイツの1650万トン(57.1%)から、1998年、1940万トンに増加したが、原産国は、6主要国および多くの小国に多様化された。ドイツ産の輸入は、0.4%までに縮小した。
対照的に、天然ガス輸入は1973年から1998年までの間に4倍になり、1998年に石油換算3千10万トンになった。1998年には、アルジェリアとロシア両方から約28%、ノルウェーから30.2%、オランダから13.7%を輸入するように多様化されている。
再生可能エネルギーの生産と供給は、1998年に石油換算1680万トン、これは生産される全エネルギーの約13%と供給の約7%で、比較的有意の量であった。太陽、風力と地熱は、1998年に全部で20万トンだけ寄与した。
フランスは、13の精油所と113の熱エネルギー生産設備を持っている。
部門毎の
最終エネルギー消費の推移を
図2に示す。産業部門の消費は、2回のオイルショック後、劇的に減少し安定している。輸送部門は急速に成長して、30%に達している。輸送用エネルギーは、代替がなく石油消費の半分以上が使用されている。
2.エネルギー政策
2.1 政策目標
フランスのエネルギー政策は三つの主要な目標に特徴づけられる。これらの目標は、多数の法律書類および政府政策出版物で述べられ、最近の数十年間大きな変化はない。次のとおりである。
(1)長期にわたるエネルギー供給の保障と継続
(2)世界市場におけるフランス企業の競争力および国内雇用の確保と、これによる経済効率と安いエネルギー価格の達成
(3)持続可能で環境に優しい—特に気候変動に関して—エネルギー供給
京都議定書とEUの下で責任を分担するフランスは、2008−2012年までにCO
2換算排出量を安定させることを要求されている。
政策や立法は第4の政策原則、公益サービス原則によって、強く影響される。公益サービスとは、社会的相互依存に不可欠で、政府によって保証・提供・規制・管理される公開の活動として定義される。
政府は、この原則は各エネルギー市場によくあてはまると考えている。電力に関するこの原則は、電力法で初めての定義である。(
表1)。
2.2 市場構造
フランスのエネルギー市場全体は、政府所有権のもとにある。すなわち電力会社(Electricite de France:
EDF)、ガス会社(Gaz de France:GDF)、採炭会社(Charbonnages de France:CDF)とフランス原子力庁(Commissariat a l’Energie Atomique:CEA)等がそれである。
近年、政府はエネルギー部門の一部分を民営化する処置をとり始めている。石油産業の民営化は、1990年代半ばに始まり、1999年9月にTotalFinaElf(TFE、世界で4番目の規模の石油会社)をつくった。政府はまた、1993年以来、CEAの子会社(Cogema、Framatome)の民営化にも
着手している。
・エネルギー課税
エネルギー課税では2つ主要な改革の要素がある。ひとつは自動車燃料の課税の再調整に関係し、もう一つはエネルギー市場の中の環境に有害な活動に対して税を増やそうというものである。
自動車燃料税の再調整は、油種間格差がIEA諸国中でも最も高いガソリンとディーゼル油の物品税の是正で、格差は車購入に影響を及ぼし、結果として1999年にディーゼル油消費の25%を輸入し、過剰なガソリン生産(ガソリン生産の29%)を輸出するようになった。ディーゼルエンジンの健康影響を考慮し、政府は、7年以内に油種間格差を欧州連合平均まで小さくすることに決めている。
・環境税
エネルギー使用の環境への影響は税政策に反映されている。税率は有鉛ガソリンには高く、自動車用の天然ガスでは欧州連合の定めた最低水準の税で、自動車用のLPGは1996年以後税金割戻しの利益を受けている。天然ガスは、産業用だけ比較的に安く(EU平均より40%低く)課税される。
また、議会は、行為に対する国税(TCAP)を採択した。この税は、環境省の環境エネルギー・効率局(ADEME)の活動(後述)に当てるため設定された。
3.気候変動
2008〜2012年間に、1990年の水準で温室効果ガス排出を安定させるという目標は、フランスが1980年以来徹底的にCO
2排出を減らしたという実績に基づいて示された。一人当たりの炭素排出量は、ヨーロッパ平均の2.3トン、IEA平均の約2.6トンと比較して、フランスは1.7トンでありIEA諸国で5番目に低い。GDPあたりの炭素原単位では、非化石燃料発電だけに頼るIEA諸国の間で、スイス、スウェーデンについで3番目に低い位置にある。
図3は、1971年以降の部門毎における二酸化炭素排出の推移を示す。1979〜1987年まで、排出は著しく減少したが、1980年代後半、石油価格の1986年の下落以後、再び上昇し始めた。
1980〜1998年で発電所からの排出は62%減少し、産業と農業で26%減少したのに対し、輸送部門は同じ期間に41%排出を増やし、最大のCO
2排出者となっている。1998年、1億850万トンの炭素排出中4,120万トン(38%)に相当する。発電は1,110万トン(10%)である。
気候変動対応政策は、経済、運輸、環境・宇宙計画省を含む約10の省を巻き込んでいる。政策調整のため、気候変動省間委員会(Inter-ministerial Mission on Climate Change:MIES)が組織され、1998年から、首相を議長とする委員会に強化された。MIESの優先事項は、1998年11月の閣僚会議で決定されている。
その目的を達成するために、MIESは、関連する省の担当者、世界開発フランス基金(French Fund for World Development)等の開発機関、国のまたは国際的研究機関、産業界、NGOと協力する。また、
欧州委員会、EUメンバー政府との接触の中心でもある。
気候変動論争国家計画(2000年1月19日にMIESで承認)では、排出目標を2010年頃に炭素換算1億4350万トンとしている。レポートは、2010年に炭素換算1億7500万トンまで温室効果ガス排出が上昇する参考シナリオを引用している。予測には使われていない対応策を考慮に入れると、2010年の排出は炭素換算1億5958万トンとなり、1990年水準を1608万トン超える、としている。さらに10%減らさなければならない。CO
2のみの排出は、1990年の1億340万トンから2010年の1億2280万トンまで増加している。
参考シナリオの、2010年までの年率2.2%のGDP成長率を2.8%の成長率に変えるならば、温室効果ガス排出は約1億6000万トンから1億7100万トンまで上がる。
国家計画は“第1分類”対策と呼ばれる約100の対策を指定している。第1分類対策は、炭素換算704万トン(目標の44%)排出(CO
2だけの504万トンを含む)を削減すると考えている。残る56%を削減するために、政府は、現在、経済的手段、特に炭素税を使うオプションを考慮している。トン当たりFF 500(500フランスフラン)の税率を2010年の目標とし、最初の税率はトン当たりFF 150とFF 200の間でなければならないと考えている。国家計画も、この税率は国内の削減目標の半分以上を達成するように導くであろうとしている。柔軟性メカニズムを使って、残りは海外で達成される。
また、政府は既述の国税であるTCAPを拡張して気候変動に当てるべく考慮中である。温室効果ガス課税が本当に実行されるならば、炭素換算670万トン、CO
2だけで580万トンの削減に導くと見積られている。これは、1374万トンまたは目標の86%の削減をもたらす。残りは、供給側に対する長期の政策に期待している。輸送部門は、2010〜2020年に炭素換算4000万トンで、輸送からの排出増加を安定させることを目指している。
3.1 エネルギー効率
フランスのエネルギー効率政策は、資源・エネルギー総局(DGEMP)によって明確になり、多数の組織によって実行されているが、その中心機関は、環境省の環境エネルギー・効率局(ADEME)である。
表2に組織の概要を示す。
4.原子力
フランスは、十分に統合された世界最大の
原子力発電システムをもっている。現在58基が稼動中で、その全ては同じ設計の
加圧水型原子炉である。
原子力発電による電力供給は、1998年にフランスの全電力の76.5%を占めた。設備容量(62,400MWe)は、国内の需要をかなり上回る。58TWh(平均出力の発電プラント9基分の出力に相当)が、1998年にヨーロッパ近隣諸国に輸出された。
フランスはその電力政策の目的、すなわち供給の保証、環境への最小限の影響、最小限のコストを、独自の
原子力発電所の設備を開発することによって達成した。これは、設計・建設・運転、そしてこれを支援するに必要な
核燃料サイクルという強力な能力に起因する。現在は、フランスに新しい原子力発電所設置の計画はないが、将来に備えて原子力開発の固有の能力を維持する政策を採っている。
フランスの主要な原子力機関を
表3に示す。
4.1 プラント建設
現在、建設中の原子力発電所はない。フラマトムとシーメンスの最近の合併は、将来の厳しい見通しと合理化の結果である。新しいプラントの発注がなくて、2000年を超えて実用的な原子力工学技術をどのように維持するか、戦略的決定をしなくてはならない。資金の問題もある。
・原子力の経済性
新しい原子力発電所建設は、フランスでは経済的であると期待されている。IEA/NEAの発電原価研究は、5%と10%の割引率で、フランスでは原子力が石炭または天然ガスより安いことを示している。実際、その研究によれば、IEA諸国のなかでフランスは、原子力が10%の割引率で、ベースロード(基礎負荷)で最も安い唯一の国である。ほとんど同一の型式で原子力発電所を標準化したことが、フランスの原子力を良好な経済性に導いた要因の一つである。また、原子力発電所の運転を支援する核燃料サイクルは、現在、フランス独自のものである。
フランスは、以前に
高速増殖炉とそれらの
原子炉のために、使用済み燃料の
再処理を含んだ原子力プログラムの開発路線を選んだ。その後このプログラムは放棄されたが、再処理事業はフランスと外国の原子力発電所のために続けられている。再処理を選択した他の理由は廃棄物の貯蔵量を減らし、貯蔵に必要なプルトニウム量を減らし、核分裂物質のリサイクルのためである。ウランと濃縮ウランの市場での低価格のために、経済性の理由はなくなっている。
・環境と健康への影響
原子力は、フランスの環境に大きな影響(その多くは有益な)をもたらしている。フランスの二酸化炭素排出は、同じ規模の他の先進工業国と比較して低く、原子力は否定できないほど大きく寄与した。新しい原子力の急速な導入が、1980年以降CO
2排出の劇的な縮小につながった。原子力によって回避された1981〜1997年のCO
2排出量は、ガス火力発電所を使った場合に比較し炭素換算5億トン、石炭火力発電所に比較し15億トンくらいになったであろう。さらに、空気汚染物質の排出も減らした。しかし、これらは、定量化するのが非常に難しく、評価の試みはない。電力を輸出しているので、これに相当する発電に伴う炭素と空気汚染物質の削減の一部は、フランス以外で起こっているかもしれない。
<図/表>
<関連タイトル>
2005年運転開始発電所の発電コスト比較(1998年OECD・NEA/IEAの予測) (01-04-01-08)
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)
IEAによるカナダのエネルギー政策のレビュー(2000年) (01-07-06-09)
<参考文献>
(1)Energy Policy of IEA Countries,France 2000 Review,OECD/IEA(2000):
(2)Energy Policy of IEA Countries,France 2000 Review,OECD/IEA(2000),p.13-87,p91-100,p.121-127