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<概要>
 カナダのエネルギー政策に関して、得られた情報をカナダ天然資源省提供のデータに基づきIEAの統計分析によって補い、報告書としてまとめている。ここでは、その報告書をもとに、エネルギー政策の背景、エネルギーと環境、エネルギー効率、電力自由化再生可能エネルギー、原子力等について要約した。
<更新年月>
2003年10月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.カナダエネルギー政策の背景
 カナダは10の州(province)と3つの準州(territory)からなる連邦である(注1)。首都はオタワにある。カナダは、OECDで最も大きく(ほぼ1000万平方キロメートル)、世界では2番目に大きい国である。人口はおよそ3000万人、1500万人以上(1998年のデータ)の労働力がある。1990年代のカナダでの人口増加率は、全てのG-7工業国中で最も高く、2020年までにおよそ3700万人まで増加すると予測される。全人口の4分の3以上は都市部に、ほぼ3分の1は、トロント、モントリオールとバンクーバーの3つの大都市に住んでいる。世界で第6位の高い生活水準にある。カナダの地図を図1に示す。
 比較的低コストの全ての型のエネルギー資源に恵まれたカナダは、エネルギー集約型の産業を基礎とするエネルギー経済を発達させることができた。米国へのエネルギー供給、アジアへの石炭と原子力技術の供給者として、その役割を向上させた。しかし、州毎にエネルギーの賦存状態が異なり、エネルギーセクター(エネルギー部門のこと)に関する権限が分離しているため、州毎にエネルギーセクターの発達状況は異なり、エネルギー政策も異なる。
 エネルギー政策の責任は、地理的に、そして、機能的に州と連邦政府に分けられている。連邦政府は、準州及び沖合の開発において、州と同様な権限を持っている。辺境地帯協定地域(注2)でも、同等な権限を持っている。表1に、主要なエネルギー政策の責任分担を示す。
 エネルギー政策は以下の項目を主要な目標としている。
・競争的で革新的なエネルギー・セクター
・環境管理
・エネルギー安全保障—供給、信頼性、健康と安全
・採掘権所有権から公平な経済的使用料を受け取ること
・経済的発展
(注1) カナダは次の10州と3準州で構成される(図1)。アルバータ州(Alberta)、ブリティッシュ・コロンビア州(British Columbia)、プリンス・エドワード・アイランド州(Prince Edward Island)、マニトバ州(Manitoba)、ニューブランズウィック州(New Brunswick)、ノバスコシア州(Nova Scotia)、オンタリオ州(Ontario)、ケベック州(Quebec)、サスカチュワン州(Saskatchewan)、ニューファンドランド・ラブラドール州(Newfoundland and Labrador)、ノースウエスト準州(Northwest Territories)、ユーコン準州(Yukon Territory )、ヌナブト準州(Nunavut)。
(注2) 辺境地帯協定地域は、広く沖合ラブラドル、ニューファンドランド、沖合ニューファンドランドと沖合ノヴァスコシアである。
2.エネルギーと環境問題
 1995年に開始された国の気候変動国家対応プログラム(NAPCC:National Action Program on Climate Change)によって、気候変動に関する対応策が進められている。プログラムは、連邦、州および準州の既定の、あるいは新規の発議を含むもので、エネルギー効率、代替エネルギー、温室効果ガスの低減に重点をおいている。若干の州では、自身の権限で利害関係者と行動を起こしている。プログラムの重要な要素として、カナダのVoluntary Challenge & Registry Inc(1994年に設立、1997年10月に民営化)に登録される自発的な事業(例えば産業による)であることが挙げられる。
 温室効果ガス削減達成のための国家戦略を構築するために、カナダの連邦、州、準州、地方自治体(市など)は、利害関係者との作業に入った。1998年7月から、政府、商社、産業界、学会、環境団体、非営利団体(NGO)から約450名の専門家が16の問題点目録/分野(表2)に参加し、気候変動に関する対応策の効果、コスト、利益について調査、解析を行っている。
 この問題点目録の調査・解析作業(Tables Process)は、勧告にすぎないが、この作業によって、2000−2001年にわたる連邦、州、準州のエネルギー大臣および環境大臣による一連の合同会議に際して、討議のためのカナダの国家実施戦略の基礎が形成される。
2.1 エネルギー部門の温室効果ガス排出
 燃料毎、部門毎の二酸化炭素排出を、図2に示す。エネルギー使用に関連する排出は、カナダの温室効果ガス排出の約90%に達する。ガス排出の増加は、北米のエネルギー産物の需要に起因している。
 1990年から1997年までに、カナダの温室効果ガス排出は13%増加した。最も大きな発生源は輸送部門である。産業部門からの排出は、エネルギー効率の改良にもかかわらず増加している。商業部門の排出は一定であり、住宅部門は減少傾向にある。カナダの電力の75%以上は、主に非排出源の水力と原子力およびバイオマスと再生可能エネルギーによって発電されている。温室効果ガス発生源のうち、石炭(17.4%の電力生産で80%以上の排出)は最も大きい構成要素であり、天然ガス(4.1%の電力生産と約10%の排出)と石油(約2%の電力生産)が続く。
 化石燃料製品からの二酸化炭素排出(大部分は天然ガスとオイルサンド製品の使用と関連する)は、2000年に全排出の約12%になると予想される。
2.2 温室効果ガス排出の予測
 1990年の温室効果ガス排出は、二酸化炭素換算601百万トンであった。1997年に682百万トンに上昇し、成長率13%であった。最近の予測では、2010年までにカナダの温室効果ガス排出は764百万トンまで増加し、2020年までに845百万トンに増加することを示唆している。2010年までに1990年のレベルの27%上昇し、政策の変更がない場合、2020年までに1990年のレベルよりも約41%上昇になるであろう(図3)。
 2008年から2012年の約束期間におけるカナダの京都目標は、年間二酸化炭素換算565百万トンの排出である。この目標を達成するために、2010年の排出を199百万トン減らされなければならない。このことは、予測される排出レベルと京都目標のレベルの間に約26%のギャップがあることを表わしている(図3)。
 排出の最大の増加は、まず化石燃料製品の使用によって起こり、輸送部門がこれに続くと予測されている。排出の増加は、大きい州(オンタリオとケベック)と、アルバータ州(化石燃料製品の結果として)で起こっている。州の排出は、各州の異なる燃料混合(特に州が利用できる水力の割合)と経済の構造を反映している(図4)。国の平均温室効果ガス排出22.5トン/人と比較して、一人当たり排出の順にアルバータ(70.6)、サスカチュワン(58.5)、ニューブランズウィック(25.3)、ノヴァスコシア(21.1)、オンタリオ(17.2)、ニューファンドランド(15.8)、ブリティッシュ・コロンビア(14.4)、ケベック(11.9)とマニトバ(11.6)である。
 全体的に、NAPCCイニシアティブ(実施計画)では、2000年に35百万トン、2010年に60百万トン、2020年に100百万トン減少させると予測している(表3)。これらの実施計画なしでは、排出は2010年には8%高く、2020年には11%高い。京都議定書とのギャップは、およそ30%大きいであろう。長い期間でみると、実施計画には排出の増加を徐々に抑制することが期待され、エネルギー消費のための資本金運用の際にも、常に改善された基準と実務を通して同様の効果が期待されている。
3.エネルギー効率
 カナダは1990年代初め以来、エネルギーの効率的使用を助成する対策を拡大している。目的は環境への影響を抑え経済的競争力を上げるために生産性を上げることにある。1993年にEnergy Efficiency Act(エネルギー効率法)を成立させ、連邦政府に以下の権限を持たせた。
・州間で輸出入(取引)されるエネルギー使用製品(窓、ドアを含む)のエネルギー性能の規制
・上述製品についてのエネルギーをラベルに表記
・統計およびエネルギー使用と代替エネルギーに関する情報の収集
 1991年、エネルギー効率・代替エネルギー計画(EAE:Energy Efficiency and Alternative Energy Program)がスタートし、最終利用部門で30以上の計画を含むようになっている。また、1998年にはEAEの予算増に加えて、EAEは、透明性と責任を増すよう経営陣を含め再構成され、エネルギー効率オフィス(OEE:Office of Energy Efficiency)が研究開発以外のプログラムを管理するようになっている。その効果は、各計画に対して、成果、目標への効果、市場効果を評価するための進歩指標(progress indicators)によって判定される。OEEの研究法は、カナダ議会報告「Improving Energy Use(1998)」にまとめられている。これ以上に効率を改善しようという対策については、問題点目録プロセスに期待している。
4.その他
・電力市場の再編
 幾つかの州では、再編が成功して州政府は州内に自由市場を発展させている。企業、投資家と消費者の利益に対する州の目標達成に加えて、電力自由化は米国市場への接近を強化するように進みつつある。カナダの国家的市場を発展させることは地理的にできないが、米国との北−南間(幾つかの州と隣接する米国の州を含む)には通商と強力な潜在的市場がある。州間の通商は禁止されていない。隣接する州の公益事業は、自由に商取引に加わることができる。連邦、州政府ともに州の権限を横断して自由な配電をすることに合意している。米国の連邦エネルギー規制委員会(FREC:Federal Energy Regulatory Commission)の見解はカナダの政策発展に大きな影響を持っている。市場は幾つかの州で発展を続け、国内での競争をもたらすとともに、米国の市場への広範囲のアクセスを獲得しようとするであろう。このためには、アルバータ州政府(Government of Alberta)のようにFRECのルールを越境して適用することに反対があるにも拘わらず、州の市場の構造を部分的にFRECに適合させる必要がある。再編のペースが州毎に不揃いであるのは、効率の利益が全て実現されるとは限らず、インフラストラクチャーへの投資も部分的最適化に留まることを意味している。しかし、新しい市場構造は、州間の協力を強化している。米国と幾つかの州の市場を統合しようという現在の動きは州の利益になり、奨励されるべきであろう。
・原子力
 カナダの原子力発電はCANDU技術に基づいている。大部分の原子炉はオンタリオ州にあるが、8基が老朽化のため長期にわたって停止中であり、新設計画はない。原子力発電の特性は、化石燃料が低い原子力の出力を補うように、環境エネルギー政策上特別の意味を持っている。国産のCANDU技術に起因する政府の広範囲にわたる活動のネットワークは、原子力産業を支えている。原子力に関連した活動は、医学、産業、輸出促進等多くの分野の種々の対象に向けられている。CANDUと他の原子力の活動は、現在、AECL(Atomic Energy of Canada Limited:カナダ原子力公社)にまとめられている。もし分割されていたら、原子力産業及びR&Dの優先度を定義し、政府の役割をうまく決めることはできなかったであろう。
・再生可能エネルギー
 短期的には、水力以外の再生可能エネルギーは、カナダでは限定的な役割しか持たない。にも拘わらず、電力網の採算が取れない辺境地帯においては、非水力の再生可能エネルギー(風力、バイオマス、太陽光発電)活動の余地がある。小規模のコジェネレーションと再生可能エネルギーは、電力需要のピーク時用として求められ、または補助的サービスが求められる自由市場や消費者がグリーン電力を求めるところでは、魅力的であるかもしれない。より一層の利用には、自由化された市場の要求が必要になるであろう。
・研究・開発
 政府の研究・開発支出は予算削減と優先順位の変更によって、かなりの再編成を受けた。その結果、連邦政府の非原子力研究・開発支出の透明性と責任は改善された。計画は、政府の優先順位、特に温室効果ガス排出低減に適合する優先度に対して、効率的に、柔軟に運営されている。産業との協力研究は優先度が高い。しかし、大規模な研究・開発費の削減は、心配の種でもある。現在の研究・開発の支援は見なおされるべきで、中・長期のプロジェクトは維持して重要性を認めるべきで、政府の役割も再考すべきである。
 政府の原子力研究・開発費も同様に、しかし、非原子力とは異なったプロセスでレビューすべきである。
<図/表>
表1 エネルギー政策の責任分担
表1  エネルギー政策の責任分担
表2 問題点目録プロセス(Tables Process)
表2  問題点目録プロセス(Tables Process)
表3 NAPCCイニシアティブによる温室効果ガス排出に及ぼす効果
表3  NAPCCイニシアティブによる温室効果ガス排出に及ぼす効果
図1 カナダの地図(2000年現在)
図1  カナダの地図(2000年現在)
図2 燃料毎、部門毎の二酸化炭素排出(1975〜1998)
図2  燃料毎、部門毎の二酸化炭素排出(1975〜1998)
図3 カナダの排出予測と京都目標(1990〜2015)
図3  カナダの排出予測と京都目標(1990〜2015)
図4 州毎の温室効果ガス排出(1990〜2010)
図4  州毎の温室効果ガス排出(1990〜2010)

<関連タイトル>
IEAによる米国エネルギー政策のレビュー(2002年)(1)政策の概観 (01-07-06-01)

<参考文献>
(1)International Energy Agency:Energy Policy of IEA Countries,Canada 2000 Review, OECD/IEA(2000),
(2)Energy Policy of IEA Countries,Canada 2000 Review,OECD/IEA(2000),p.6,p.7-15,p.29,p.31-33,p.41-50,p.57-61,p.90-99
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