<大項目> エネルギーと地球環境
<中項目> 世界のエネルギー情勢
<小項目> 世界のエネルギー需給
<タイトル>
電力自由化と原子力規制(OECD/NEA) (01-07-02-11)

<概要>
 従来OECD加盟国で電力の供給を行ってきたのは、国営の電力会社や、国の規制を受けていた独占企業である。最近、いくつかの国で電力市場の規制緩和が行われ、電力の供給や価格の設定が自由化されることになった。しかし、2000年夏米国カリフォルニア州で発生した深刻な電力危機は、供給の安定という公益性を損ない、かつ、原子力発電が含まれているときは安全確保にも脅威となりかねない事態であった。電力自由化が原子力発電事業及び原子力規制に与える影響とその対応について調査したOECD/NEAの調査結果を紹介する。
<更新年月>
2001年09月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 従来OECD加盟国で電力の供給を行ってきたのは、国営の電力会社や、国の規制を受けていた独占企業である。最近、いくつかの国で電力市場の規制緩和が行われ、電力の供給や価格の設定が自由化されることになった( 表1 参照)。しかし、2000年夏米国カリフォルニア州で発生した深刻な電力危機は、供給の安定という公益性を損ない、かつ、原子力発電が含まれているときは安全確保にも脅威となりかねない事態であった。OECD/NEAの「原子力開発と燃料サイクルに関する技術・経済調査委員会」は電力自由化が現在の原子力発電所だけでなく将来の原子力発電所にどのような影響を及ぼす可能性があるかということを検証、分析した。「原子力規制活動委員会」は、電力自由化によって原子力規制当局が直面すると思われる課題について検討している。
1.稼動中の原子力発電所の実績に及ぼす影響
(1)実績
 電力市場の規制緩和が原子力発電所の実績に及ぼす影響は肯定的なものになると期待されている。規制緩和市場で競争が激化するのに伴い、人員の削減や生産性の向上、利用率の向上などによってコストの削減がもたらされると期待されている。例えば米国の原子力発電所の実績は大きく改善されてきている。1987年には設備利用率が70%を超える原子力発電所は42%にすぎなかったが、1997年には全体の75%が設備利用率70%以上で運転された。1998年には平均設備利用率は78.2%に達した。1990年から96年にかけて原子力発電所の熱効率が2%上昇する中で、従業員数は7%減少した。また、燃料交換に要する時間も3分の1以上短縮された。
 電力市場が自由化されている英国では、原子力発電事業者であるブリティッシュ・エナジー社が良好な実績を重ねている。同社の発電量は1994年の54TWhから、98年には67TWhに増加し、稼働率も98年には81%を記録した。1基あたりの運転コストも、同期間に20%以上も低下した。
(2)安全と規制
 米原子力エネルギー協会(NEI)は、高い安全技術水準と良好な経済性は両立できる。米国の原子力発電所では、生産コストが3分の1削減されているが高い安全性と信頼性が達成されているといっている。
 規制緩和により、発電事業者が送電網の安定性や信頼性に責任を持とうとしなくなることが考えられるが、こうした責任は独立した送電網の規制当局が負うことになるものとみられる。原子力発電所に関して言えば、送電網の信頼性は安全問題とみることができる。これは、送電網の状況悪化とサイト外の電源喪失の頻度に関係してくるためである。2000年夏に米国カリフォルニア州で起こった輪番停電の頻発は送電系統の脆弱が原因とされているが、ここには原子力発電所はなかった。
(3)運転期間延長と出力上昇
 原子力発電所の運転期間延長は、どんな発電所を新規に建設するより、コストが低くなると予想されている。運転期間の更新(延長)によって、代替発電所建設の莫大な投資をしないで、発電設備を維持することができる。もう1つのコスト低減の動きとして、出力上昇がある。わずかの投資によって、設備容量が増加できるため、ドイツ、韓国、スペイン、スウェーデン、米国で出力の上昇が実施され、計画されている。
(4)回収不能コスト
 回収不能コストとは、米国では、州政府や連邦政府の命令によって、課せられたコストのことで、公益事業規制政策法(PURPA)に従った(風力等の再生型の)電力購入契約、未回収(電気料金として)の投資、デコミッショニングコスト(まだ確保されていない)等である。
 米国では、1992年のエネルギー政策法の下で回収不能コストを回収する機会を電力会社に許可するとした原則が支持されている。英国では、化石燃料税から、原子力発電を含む非化石燃料を用いた発電所から一定の電力を割増価格で購入することが義務付けられている。現在は原子力に割り当てられた分はブリティッシュ・エナジー社が設立された1996年に廃止された。
(5)競争力
 近年、いくつかの国では石炭火力と天然ガス火力の燃料コストが大きく下がっており、このことが原子力発電所に対する競争圧力となって加わってきている。米国では、現在原子力発電所の統合や売買が盛んに行われているが、実績の優れた原子力発電所は価値ある資産として、早期閉鎖のリスクを低減するものとなっている。英国では、原子力発電は競争市場で他の電源と競合できるかどうかといういくつかの課題を突きつけられている。フランスでは、標準化により建設コストが低い、投資の半分は既に回収されている、運転期間は40年を超えるという三つの要因により、火力発電と競合している。ドイツとスペインでも1998年にはじめて導入された競争市場で競争力を確保している。他のOECD加盟国でも他の電源と競合できるものと見られている。
(6)責任・保険への影響
 規制緩和により、原子力に関係した各種の責任と保険が、経済性にどのような影響を及ぼすかということを明らかにし、これを定量化して電気料金に含めようという圧力が発電事業者に加わるとみられる。競争市場では、規制要件の変更も考慮しなければならなくなるかもしれない。しかし、原子力発電所に関係した各種の責任とこれに関連した保険制度のためのコストはほぼ確定しており、規制緩和された市場でも変わることはないとみられる。デコミッショニングと廃棄物管理にともなう責任は、競争市場で原子力発電が直面する各種リスクの中で最も重要であると考えられる。デコミッショニングや放射性廃棄物の管理分野で市場競争が強まることによって、そうした価格が低下する可能性もある。放射性廃棄物管理とデコミッショニングを完全に民営化することによって成果が得られることも考えられる。安全面での規制についてはこれまで通り政府が行うが、放射性廃棄物管理とデコミッショニングについては原子力発電所の所有者が完全に責任を持つようにしている国(政府)もある。
2.新規原子力発電所
 発電コストの予測に関する最近のNEA/IEA共同調査によると、2005年から2010年にかけて運転を開始すると見られている原子力発電所の発電コストは、他の電源に比べてそれほど低くないと結論されている。19ケ国が参加したこの調査では、割引率(現在価値換算するための値)5%の場合、ガス火力が最も低かったのが3ケ国、石炭火力が最も低かったのが3ケ国、原子力が最も低かったのが5ケ国である。また、7ケ国ではコストが低い上位2つの電源のコスト差は10%以下である( 図1-1図1-2図1-3 参照)。
 割引率10%では、資本コストが大きい原子力発電所は競争力が低下し、ガス火力が有利になる。競争市場では、原子力発電所の新規投資には慎重にならざるを得ないということである。
 ただし、規制当局と電力会社が設計の当初から緊密に協力することによって、規制に余分なコストがかかることを回避したり、気候変動問題への関心の高まりのような要因、例えば炭素税によって環境コストが市場価格に反映されれば、原子力発電の競争余力は高まるものと思われる。
3.原子力規制の課題
(1)想定される課題
 すべての国で電力市場の自由化による影響が実感として出ているわけではないが、市場の変化によって規制当局として理解、対応しなければならない新たな問題が浮上してきている。規制当局としても、市場競争下で原子力発電業界に起こっている変化を理解し、これらに対処する必要がある。
A.管理面での問題−所有権、財務、組織
・安全にかかる責任の希薄化(所有権の変更、原子力発電所の一部の他杜へのリース)
・原子力発電所を運転する技術部門の管理者、所有者、経営幹部らの乖離
・価格の低い(おそらく能力が劣った)契約業者の採用拡大
・認可取得者の財務面での能力低下の可能性
・デコミッショニングや使用済み燃料及び放射性廃棄物管理のための資金不足
B.安全面での直接的な課題
・管理面で安全より経済性に重点が置かれる
・現場の作業者にさらに多くの圧力がかかり、おそらく過剰なストレスを与える
・過剰な残業によって作業者の疲労を引き起こす
・専門知識の低下や低品質の機器(の採用)によって作業の質が低下する
・保守作業の削減や運転期間延長への圧力が強まり、発電所の老朽化問題が発生する
安全余裕が低下する(定格出力の増強、燃料の燃焼度向上)
・機器の改良や安全面での改善への投資が減少する
・保守戦略の変更(予防保全の削減やオンライン保守の拡大)により機器の信頼性低下する・送電網の安定性と信頼性が低下する
C.原子力技術の基盤問題
・発電事業者やメーカー、契約業者の専門知識の低下
・設計能力の拡散(基礎的な設計知識の喪失)
・事業者間での協力関係の希薄化
・事業者による安全研究の弱体化
・規制に関係した安全研究プログラム縮小への圧力
D.規制当局に対する圧力の拡大
・新しい規制権限の必要性
・規制当局としての専門知識の低下
・事業者と規制当局間での対立関係の深化(バックフィットに対する反抗)
・機密にかかわる市場情報という理由による情報の流通悪化
・執行のための法的基準が不適切になることも考えられる
・規制当局の運転停止要求を退ける圧力が高まる(長期間に及ぶ運転停止はデコミッショニングにつながる可能性もある)
・事業者が規制を国際的に統一するよう要求するとみられる
・規制にかかるコストの削減圧力(手数料、規制当局による研究や規制当局自体の規模)
・不要な規制負担を削減するという圧力が規制当局に対して直接強まる
(2)規制当局の対応
・ 規制当局は、事業者が原子力発電所の安全性をどのように維持する考えであるかを知るため、経営幹部と密接に意見交換をする必要があると思われる。
 また、既存の技術的能力をどのように維持するか、とくに市場経済や財務、企業経営、安全文化、組織問題といった分野で規制当局の担当官にどのような新しい技能や権限を与えなければならないかということを検討する必要があるとみられる。
・規制当局は、安全性が低下しているという兆候を早期に検出するため、規制面での検査プログラムを再検証すべきである。また、事業者の安全姿勢を正当化するのにどのような研究情報が必要かを明らかにするとともに、適切な規制研究プログラムを策定しなければならなくなるとみられる。
・規制当局は、現行の一連の規制ならびに執行権限が市場競争によって、もたらされた状況変化に対応する上で適切であるかということを検討しなければならなくなるとみられる。
・規制当局は、とくに運転事象の経験について各国の規制当局との間で重要な安全情報を共有し続けると同時に、電力市場の自由化の進展とともにそれぞれの経験を共有する努力を払わなければならないものとみられる。
<図/表>
表1 電力自由化のモデル
図1-1 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算定した平準化発電コスト(1/3)
図1-2 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算定した平準化発電コスト(2/3)
図1-3 年5%の割引率で共通の前提条件に基づいて算定した平準化発電コスト(3/3)

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<関連タイトル>
2005年運転開始発電所の発電コスト比較(1998年OECD・NEA/IEAの予測) (01-04-01-08)

<参考文献>
(1) 日本原子力産業会議:電力自由化と原子力発電、原子力資料 No.304(2001/3)
(2) 日本原子力産業会議:電力自由化と原子力規制、原産マンスリーNo.65 別冊(2001/7)
(3) 電力自由化の落とし穴 火力原子力発電 Vol.52 No.533p.21(2001/2)
(4) 電気事業講座編集委員会(編):電気事業講座15 海外の電気事業(1996/8/30)
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