<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> スイス
<タイトル>
スイスのPA動向 (14-05-09-06)

<概要>
 直接民主主義制度をとるスイスでは、連邦、州、自治体の3行政区において国民投票(または住民投票)が実施され、1990年以降の原子力政策の方針が策定された経緯がある。原子力法および原子力令では、原子力発電事業者に対して「放射性廃棄物管理プログラム」の作成を義務づけており、2020年以降予想される既存原子炉施設の建替えに当り、最終処分場の計画・推進は重要な課題となっている。
 電気事業者は、発電所以外の放射性廃棄物に責任のある連邦政府と共同出資して、1972年に放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)を設けた。NAGRAは、最終処分のための中長期基本計画を策定し、研究開発プロジェクトによって放射性廃棄物の恒久的かつ安全な処分が保証されることを1985年に連邦政府に提示して承認を受けている。同時に、この保証プロジェクトで構築した技術的な処分コンセプトを一般公衆に理解し、納得してもらうPAを得るため、1991年に新しい情報戦略として、5つに区分されたコミュニケーション・レベルのそれぞれに適合した各種のPA方策を実施している。現在、特別ツアー、イベント、展示、印刷物の配布、Web等による広報を実施しているほか、施設見学、一般公開、若者を対象とした講義や教育、地域住民との対話活動などの努力を継続的に実施している。
<更新年月>
2009年12月   

<本文>
 アルプス山系を抱えるスイスは、水力が重要な電源であるが、原子力は総発電電力量の約40%を供給する安定した、水力に次ぐ主要な電力源となっている。スイスの原子力開発は、1959年の原子力法に基づき、1962年の加圧管実験炉の着工に始まる。1978年には当該原子力施設の必要性の証明と放射性廃棄物の恒久的な安全管理の保証が加わり、原子力法が改訂されている。
 直接民主主義制度をとるスイスでは、連邦、州(実質的には26州)、自治体(全国に3,000)の3行政区において国民投票(または住民投票)が実施される。それぞれの投票は、憲法改正のための「義務的国民投票」、法律や15年以上にわたり効力をもつ外国との条約のための「任意的国民投票」、憲法の追加、削除、修正を問うことができる「国民発議(イニシアチブ)」の3つに分類される。なお、イニシアチブによる国民投票の実施には、10万人以上の市民の署名が必要となる。スイスの原子力政策もまた、これら国民投票制度の中で決定されるため、原子力技術のコンセプトや具体的情報も含めて一般公衆に理解し、納得してもらうための情報の伝達方法について、様々な研究と工夫がなされている。
1.放射性廃棄物の基本政策・計画
 スイスでは現在、ベツナウ原子力発電所(PWR、38万kW×2基)、ゲスゲン・デニケン原子力発電所(PWR、102万kW)、ライプシュタット原子力発電所(BWR、122万kW)およびミューレベルク原子力発電所(BWR、37.2万kW)の4カ所のサイトで計5基の原子炉が運転中である(図1参照)。2006年のスイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)の推定では、原子炉の運転寿命を50年と仮定した場合、使用済燃料の総量は約3,600トンUと見積もられている。そのうち約1,100トンUの使用済燃料は国外で再処理され、返還されて115m3のガラス固化体が生じ、使用済燃料は約2,435トンUになると予測されている。返還高レベル放射性廃棄物は、ヴュレンリンゲン中間貯蔵施設(ZWILAG)で貯蔵されているが、最終的には全ての放射性廃棄物7,325m3が適切な地層内に設置された処分場で最終処分される。なお、放射性廃棄物の地層処分の許可発給を規定した原子力法・原子力令は2005年2月に施行されている。
 1959年の旧原子力法以来、スイスでは、放射性廃棄物の発生者がその安全な処分に責任を負うことになっている。そこで、放射性廃棄物の安全な処分方法の確立を主目的として、原子力発電に関与する電気事業者と工業・医療・研究廃棄物の責任を負う連邦政府とが共同出資で、1972年にスイス放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)を設立した。NAGRAは、スイス国内での高レベル放射性廃棄物処分の実現可能性を実証するため、スイス北部の結晶質岩(グリムゼル試験サイト(1984年設立))と堆積岩のオパリナス粘土(モン・テリ岩盤研究所(1996年設立))の2種類の岩種を対象に研究を行っている(図2参照)。NAGRAは結晶質岩に関しては1985年に「保証プロジェクト(Project Gewahr 1985)」報告書(図3参照)を、1994年に「クリスタリン−I」報告書を公表、オパリナス粘土に関しては2002年に「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書(図4参照)を作成し、岩種における処分の安全性を示した。報告書は、原子力施設安全本部(HSK)、原子力施設安全委員会(KNS)、放射性廃棄物管理委員会(KNE)等によるレビューが行われ、処分の実現可能性の実証がなされたとの評価が公表された。また、連邦評議会は処分の実現可能性実証結果を承認する決定を2006年6月に行っている。図5にスイスにおける地層処分の組織構成を示す。
2.放射性廃棄物処分理解へ向けてのPA活動
 一般公衆にむけての情報提供については、ガイドラインを作成し、それに基づいてきめ細かいさまざまな情報提供活動を行ってきた。NAGRAが実施した1989年のスイス国民に対する社会心理学的調査では、放射性廃棄物処分に関して「今の技術では解決できない」、「そんなに急ぐ必要はない」など、処分に対するPA効果は思いのほか上がっていないことが判明した。このため、NAGRAは、「倫理コード」を新たに策定して新しい情報戦略「1991年NAGRA情報戦略」を構築し、実施に移した。この努力は現在でも継承している。
2.1 情報戦略のコミュニケーション・レベル
 直接民主制のスイスでは、適切なメッセージが適切な人々に伝わることが重視されている。スイスの政治構造、すなわち、連邦、カントン(州)、市町村レベルを一方とし、さらに放射性廃棄物(医療、産業、研究用)の発生者でもあり、科学的な審査という規制を行う機関でもある連邦政府を他方とする二重の構造を配慮して、コミュニケーションの対象を以下の4つのレベルに分けて、情報提供を行うこととした。
・国民レベル(スイス国民、最終判断を下す全有権者)
・地方レベル(住民、政治家、マスコミ、NAGRAが調査を行っている地方の政党)
・政治レベル(政治家、議会議員、連邦レベルで活躍している政党)
・科学・技術レベル(科学審査委員会、研究機関、科学者、スイス内外の科学機関)
2.2 具体的な対策−コミュニケーション手段
(1)出版物等
・NAGRAニュース、NAGRAフォーカス、より技術的なNAGRA広報誌(NAGRA Technischte Berichte (NTB)、NAGRA Bulletin等)
・地層処分を紹介する広報ビデオ、CD、DVD
・ウェブサイト、インフォメーションセンターによる双方向の情報提供
(2)放射線に関する教材
・学校内での使用を目的とした資料(実験セット)と教師に対する資料の提供
(3)メディアを通した情報提供
・新聞記事とインタビュー
・テレビとラジオでの特集とインタビュー
・新聞と雑誌の広告
(4)展示・ツアー・一般公開
・政治家および公衆に対するグリムゼル試験サイト、モン・テリ岩盤研究所などでの地球科学的な調査・研究に関するガイドツアー、展示会と見本市への出展
・スウェーデン、フィンランドなどの処分関連施設への見学ツアーの企画・実施
 そのほか、NAGRAは世界各国の処分実施主体、規制機関、大学、研究機関、民間企業(2009年で6カ国、61機関)により組織された最終処分国際研修センター(ITC:School of Underground Waste Storage and Disposal)にも地層処分知識の継承と人材育成の観点から積極的に参加している。
2.3 効果
 返還高レベル廃棄物貯蔵施設ヴュレンリンゲン中間貯蔵施設(ZWILAG)は二度の住民投票による合意のもと建設されている。しかし、地域住民との間に十分なコンセンサスが得られなかった例として、中低レベル放射性廃棄物処分場計画がある。この計画は、電力会社と地方自治体の共同出資によって設立されたヴェレンベルグ放射性廃棄物管理共同組合(GNW)が、1994年にスイス中部のニドヴァルデン州ヴェレンベルグ(Nidwalden州 Wellenberg)に処分場建設の計画を発表した。1995年6月の州民投票では、探査坑掘削のための地下空間利用の州への許可申請等は否決されている。GNWは連邦、州政府、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)等と処分概念を見直し、許可申請を州に再度提出したが、2002年9月の州民投票で再度否決され、GNWは解散した。
 2008年10月以降、最終地層処分のサイト選定に関して、連邦エネルギー庁(BFE)が策定した特別計画「地層処分場」に従い、NAGRAにより、チュルヒャー・ヴァインラント、北部レゲレン、ベツベルクの3サイトが提案されている。今後、処分事業を進めるに当り、地域住民の理解を得ることが益々重要になると思われる。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 スイスの主な原子力関連施設
図2 スイスにおける地下研究施設
図3 保証プロジェクトの報告書(NAGRA's Project Gewahr 1985)の構造
図4 「地層処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書(Entsorgungsnachweis project 2002)の構造
図5 スイスにおける地層処分の組織構成

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
フランス、ベルギー、スイスに於ける放射性廃棄物処理・処分の動向 (05-01-03-26)
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
スイスの原子力安全規制体制 (14-05-09-03)
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)

<参考文献>
(1)NAGRA“Project Gewahr 1985”Jan.1985
(2)NAGRA“NAGRA’s Information Strategy 1991”Jan.1991
(3)原子力施設等放射能調査機関連絡協議会:放射線に係る海外調査報告書(スイス、ドイツ)、(2003年2月)
(4)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:スイスの地層処分状況(2008年11月)、および、海外における高レベル放射性廃棄物処分の現状(2009年3月)
(5)土木学会岩盤力学委員会:ニュースレター No.10、スイスにおける地層処分の実現可能性実証プロジェクト(2006.7.25)、http://www.jsce.or.jp/committee/rm/News/news10/No10TopicsTakahashi.pdf
(6)NAGRAウェブサイト:http://www.nagra.ch/
(7)経済産業省資源エネルギー庁:諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について(2009年2月)、p.134-146、178-183
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ