<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> スイス
<タイトル>
スイスの原子力安全規制体制 (14-05-09-03)

<概要>
 原子力施設の許認可当局は、連邦環境運輸エネルギー通信省の原子力安全検査局(ENSI)が所管している。原子力施設の建設・運転には、計画段階の概要承認許可、建設段階の技術許可、運転開始前の運転認可の3種類の許認可取得が必要である。1959年に策定された原子力法は、1978年に改正され、原子力施設の必要性の証明と放射性廃棄物の恒久的な安全管理の保証の2要件が加わった。 同法はさらに、2000年以降の原子力開発政策やバックエンド政策を盛り込んだ原子力法として2005年2月に改正された。
<更新年月>
2010年10月   

<本文>
1.スイスの原子力法の概要と安全規制
 スイスでは、原子力の平和利用を目的として1946年から法整備が進められ、1957年の法改正に伴い、原子力関連の法令は各州(Canton)の所轄ではなく、スイス連邦政府の管轄になることが定められた。原子力施設に対する規制は基本的には1959年の「原子力の平和利用および放射線防護に関する法律」(1959年12月23日)という連邦原子力法によっている。現在のスイスの原子力保安規則は、この法と付随して制定された原子力発電所、核物質輸送、放射性廃棄物等に関する幾つかの制令に基づいて実施されている。
 1978年10月には同法の改正が行われ、当該原子力施設の必要性の証明と放射性廃棄物の恒久的な安全管理の保証の2要件が加わった。近年、原子力施設そのものの取扱いが国民投票の対象として議論・意思決定が行われ、1990年9月には原子力発電所の新規建設を凍結する10年間のモラトリアムが採択。しかし、1999年のモラトリアムの延長と2003年の原子力の段階的閉鎖を求めるイニシャチブ(反原子力国民請願)は否決されている。これにより、2005年2月、原子力法が改正された。2005年の改正原子力法では、新規原子力の建設凍結が解除され、2006年7月から10年間、再処理のための使用済燃料の国外移送が禁じられた。
2.原子力安全規制体制
(1)環境、運輸、エネルギー、通信省(UVEK(独)、DTEC(英))
 UVEKの業務の内容は、自治省と協力し、諮問機関との協議を得て、原子力関連法令等の整備等を実施することである。原子力施設の概要承認許可、建設許可等の規制手続の実施、放射性廃棄物処分施設のサイト選定に必要な手続きの実施、原子力安全委員会の監督を行う。以下に内部組織を示す。
○連邦エネルギー庁(BFE(独)、FOE(英))
 電力市場法等を含め、エネルギー政策全般を掌握する。原子力に関しては、原子力関連法の整備を実施するとともに、核燃料の所有・運搬・輸出入の許可、原子力施設の概要承認許可・建設許可・運転許可・変更許可の規制手続きの実施、核燃料・放射性廃棄物の貯蔵・処分サイト選定手続きの実施、セーフガード措置、モニタリングや緊急時の対応について、責任を有する。図1にBFE組織図を示す。
○連邦原子力安全検査局(ENSI)
 原子力安全に関する独立した安全規制機関で、原子力施設の技術的な審査、検査等を実施する。また、原子力安全及び放射線防護に関する指針を策定する責任を有している。前身は原子力施設安全本部(HSK)。HSKは2005年2月に施行された「原子力令(2004.12.10)」で原子力施設の原子力安全に対する責任を持つ監督官庁であることなどが定められた。また、2007年6月に「連邦原子力安全検査局(ENSI)に関する連邦法」が連邦議会で可決され、これまで組織上、連邦エネルギー庁(BFE)の一部であった原子力施設安全本部(HSK)を連邦原子力安全検査局(ENSI)として独立させることとなった。図2にENSI組織図を示す。
○諮問委員会
(a)原子力安全委員会(KNS)
 1960年に設立された組織で、原子力法によりその役割は、ENSI、UVEK及び連邦評議会の依頼により、安全性に関する基本的な問題を検討すること、及び原子力安全の分野での立法作業に協力することとされている。5〜7名の専門家で構成され、委員会内に常設部会、専門部会を有する。
(b)放射性廃棄物管理委員会(KNE)
 連邦エネルギー庁(BFE)に属し、連邦政府及びUVEKへ放射性廃棄物の最終処分に関する答申・助言を与える。放射性廃棄物管理共同組合NAGRAの作成した科学技術レポートを地質科学的安全性の観点から検討する。10名の専門家で構成され、UVEKおよび防衛・市民防護・スポーツ省(VBS)から任命される。2008年原子力委員会から改組。主な活動を以下に示す。
・原子力施設の一般許可、建設・運転許可、変更許可の申請に対する答申
・科学技術的知見に基づいた放射線防護措置に関する助言
・第3者による原子力施設に対する攻撃からの防護に関する助言、及び連邦政府からの対策レポートに対する助言
・スイス国内外の原子力施設運転状況の安全監視
・原子力関連法規の制定、及び改正に当たっての答申
・原子力施設の課題分析、許可手続の改善、安全性向上、運転性向上のための勧告
・国内外の安全研究のフォローアップ、実施の提案、など。
(c)廃止措置・放射性廃棄物基金管理委員会(Decommissioning and waste disposal funds)
 連邦エネルギー庁(BFE)に属し、原子力発電所の廃止措置、及び放射性廃棄物や使用済燃料管理に必要な資金を、原子力施設を所有する電気事業者等から徴収、管理する。
(2)自治省(EDI(独)、FDHA(英))
 放射線防護問題に関する一般的な権限と責任を有し、諮問委員会と協議した上で、放射線防護のガイドラインを策定する。また、スイス国内の科学技術関連活動も所掌しており、原子力に関する大学と産業界の共同研究についても権限を有する。
○公衆衛生局(BAG、Swiss federal office of Public Health(SFOPH))
 放射線防護に関する業務を行う。産業利用、医療利用にかかわらず、放射性物質(原子力機器、核燃料、放射性廃棄物を除く)の生産、使用、所有、廃棄、輸出入に関する許可、許可の取り消し等の行政手続きを担当するほか、放射性物質取扱者に対する研修も実施する。また、産業用、医用放射性物質の廃棄物の収集、廃棄についても責任を有する。
 規制内容は一般的には国際放射線防護委員会ICRP)勧告等に基いて実施している。1959年の連邦原子力法から放射線防護部門を分離することが望ましいため、放射線の危険から人間および環境を防護する枠組み法として1991年の「放射線防護法」が制定され、1994年6月の「新放射線防護法」では、ICRPの最新の勧告が組み込まれた。1991年法と1994年法は共に、1994年10月1日に発効した。
○連邦教育研究事務局(SBF(独)、SER(英))
 大学と産業界との調整役、研究開発テーマの指導や、産業界への技術導入などを行う。スイスの原子力研究所ポール・シェラー(PSI)研究所等を監督する。
(3)防衛・市民防護・スポーツ省(VBS(独)、NEOC(英))
○国家緊急オペレーションセンター(NEOC)
 国内外の原子力発電所の事故、研究所・核物質移送中の事故、核テロ対応等、緊急時の対応を行う。
3.原子力安全に関する主な規制項目
3.1 核燃料
 燃料を所有、運搬、輸入、輸出する場合は連邦政府の許可を受けなければならない。許可はエネルギー庁(BFE)から発給され、核燃料は連邦政府の監督下で、内閣府及び関係省庁の安全、所有等についての手続きをとる必要がある。内閣府は、組織の設立、法運用のための詳細規定を定める役割を負う。
3.2 放射性物質、電離放射線装置
 1994年策定の放射線防護令に基づき、ある一定以上の放射線強度、濃度、汚染度を有する物質、装置、廃棄物の所持、使用に関して規制される。許可の責任は主に連邦政府が有するが、照射用試験などで使われる放射性物質の許可は、BFEが責任を有する。
3.3 原子力施設(原子力発電所、廃棄物貯蔵施設、廃棄物処理施設等)
 スイスの原子力施設の建設、運転、変更に対する許認可制度は、図3に示すとおり「概要承認許可」、「建設許可」、「運転認可」の3つのステップから構成される。最終処分場建設も同様である(図4参照)。原子力施設の概要承認許可の取得義務は原子力法第12条に規定され、内容は立地、施設の目的、主要仕様等で、原子力施設が社会的ニーズへの整合性や廃炉や放射性廃棄物の処分に関する計画が明確化されている必要がある。概要承認の申請はエネルギー庁(BFE)に提出され、連邦評議会の同意を経て連邦政府により交付されるが、連邦議会の承認が必要であり、5万人以上の請求があれば、国民投票にかけられる。一方、建設許可、運転許可は詳細な設計計画、組織体制、保安管理体制等の技術的側面が原子力安全検査局(ENSI)により審査され、連邦政府のみに発給権限が与えられている。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
図1 連邦エネルギー庁(BFE)組織図
図2 連邦原子力安全検査局(ENSI)組織図
図3 スイスの新規原子力発電所建設手順の概略
図4 スイスの放射性廃棄物処分場建設の手順

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
スイスの原子力発電開発と開発体制 (14-05-09-02)
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)
スイスの電気事業および原子力産業 (14-05-09-05)
スイスのPA動向 (14-05-09-06)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業 第2編 2000年(2000年3月)、p.53-61、2010年(2010年3月)、p.71-72
(2)(社)日本原子力産業会議(編集発行):世界の原子力発電開発の動向 2001年次報告(2002年5月)、p.4-7、52-53
(3)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力年鑑 平成2003年版(2002年11月)、p.396-398、2010年(2009年10月)、p.242-246
(4)(株)アイ・イー・エー・ジャパン:欧州原子力情報サービス 1992年12月号
(5)OECD/NEA:Nuclear Legislation Analytical Study(1995 Edition),Switzerland 1 34
(6)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物処分について スイス(2010年2月)
(7)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の高レベル放射性廃棄物処分等の状況 スイスにおける高レベル放射性廃棄物処分
(8)スイス連邦、http://www.admin.ch/
(9)スイス連邦原子力安全検査局(ENNSI)、http://www.ensi.ch/index.php?id=31&L=0
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