<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> スイス
<タイトル>
スイスの核燃料サイクル (14-05-09-04)

<概要>
 スイスでは、ウランを全面的に輸入に依存しており、濃縮は長期契約の他、スポット購入も行っている。燃料も輸入している。使用済燃料は、発生量の半分を英仏に再処理委託し、混合酸化物(MOX)燃料として利用していたが、2005年2月の原子力法改正により、海外再処理委託契約が切れる2006年7月以降、10年間にわたって凍結された。
 放射性廃棄物は、放射能レベルと半減期に応じて、低中レベル放射性廃棄物処分と高レベル放射性廃棄物TRU廃棄物に区分され、長期安全性と回収可能性を融合させた「監視付き長期地層処分」の概念のもと、国内で深地層処分する方針で、放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が実施主体となって、最終処分場のサイト候補地選定を進めている。現在、NAGRAにより候補サイト地域の選定が開始されているが、今後、2018年頃に概要承認、処分サイトの確定を行い、低中レベル放射性廃棄物処分場は2030年〜2035年、高レベル放射性廃棄物及びTRU廃棄物は2050年頃、処分場操業の開始を目指している。
<更新年月>
2010年10月   

<本文>
 スイスには、2010年8月時点で5基、合計容量340.5万kWの原子力発電設備が存在する(図1参照)。原子炉は一般的に安全が保証される限り、運転継続が認められているが、各炉の実質的耐用年数は50年〜55年前後と推定されている。また、スイスの核燃料サイクルは1992年から再処理による燃料リサイクル方式と、ワンススルー方式の両方が併用されている。スイスの核燃料サイクルをゲスゲン原子力発電所を例にとって図2に示す。
1.ウラン採鉱
 スイスでは連邦政府、電力会社、民間企業の出資により1980年から1984年にかけてウラン探査が行われたが、商業的に採鉱可能な鉱脈は見出されず、1985年から全ての探鉱活動を停止した。このため、ウランはすべて輸入に頼っている。北東スイス発電(NOK、親会社はAXPO)、ゲスゲン・デニゲン原子力発電、ライプシュタットの3社は、米国エナジー・フューエル社にそれぞれ資本参加しているほか、ベルニッシュ発電(BKW)も外国の探査ベンチャー企業に小株主として参加している。
2.濃縮
 スイスの電力会社は長年、米国に濃縮役務を依存していたが、1984年以降は欧州のフランス核燃料公社(COGEMA;現AREVA NC)やウレンコ社とも契約を結ぶようになった。スポット市場での購入も行われている。
3.燃料加工
 スイスには燃料加工工場はないため、電力会社は当初、燃料を原子炉の供給メーカーに発注していた。しかし、現在はベツナウやゲスゲン発電所(PWR)はシーメンス社(現AREVA NP)へ、ライプシュタット発電所はGE/ABB社へ、ミューレベルグ発電所はGEテクニカルサービス社(General Electric Technical Services Co.)へそれぞれ発注している。
4.使用済燃料の再処理
 スイスは従来、再処理リサイクル路線を前提に原子力開発を進め、フランスのラ・アーグ再処理工場(AREVA NC)や英国セラフィールド再処理工場(BNFL)の海外委託契約により再処理を行ってきた。しかし、2005年2月の原子力法改正により、海外再処理委託契約が切れる2006年7月以降、10年間にわたって凍結されている。
5.プルトニウム利用
 1978年にベツナウ1号機で試験的にプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料が装荷されて以来、豊富なMOX装荷の実績をもつ(図3参照)。現在は同機のほか、2号機、ゲスゲンでもMOX燃料が利用されている。なお、2000年以降、ウランの一部はロシアへ輸送され、ライセンスを取得しているAREVA NPにより、解体された核兵器級ウランと混合され、再度ウラン燃料となって利用されている。燃料加工はドイツ・リンゲン工場で行われている。
6.放射性廃棄物管理
 スイスの放射性廃棄物は、1959年連邦原子力法に基づき、放射性廃棄物の発生者は連邦議会の監督の下、永久にその廃棄物の安全な処分に義務を有することになっている。これを受けて、原子力発電所を有する電力会社と連邦政府(医療、産業、研究部門から発生した廃棄物に責任を有する)により放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が1972年に設立された。
 なお、スイスの放射性廃棄物は(1)高レベル放射性廃棄物・・・使用済燃料の再処理により発生するガラス固化体及び再利用されない使用済燃料、(2)α廃棄・・・α線放射体の含有量がコンディショニングされた廃棄物1グラム当たり20,000ベクレルを超える(TRU廃棄物)、(3)低中レベル放射性廃棄物・・・高レベル放射性廃棄物及びα廃棄物以外の放射性廃棄物に区分される。また、放射性廃棄物の最終処分プログラムは、放射能レベルと半減期に応じて(1)短命核種による低中レベル放射性廃棄物処分と(2)高レベル放射性廃棄物と長寿命核種処分の2種類の深地層処分が実施される。図4に放射性廃棄物管理関係機関を、図5に放射性廃棄物の発生量の見積りを示す。
(1)廃炉及び放射性廃棄物管理への資金面での取り組み
 原子炉の廃止措置に関しては、運転期間40年と想定して5基合計で15億CHF(約1200億円)と試算され、廃止措置費用として1983年に連邦内閣の責任のもとでファンドが設立され、各原子力発電所管理者が毎年分担金を拠出している。(CHF=スイスフラン)
 また、高レベル放射性廃棄物の処分費用総額は2008年の試算で約38億CHF(約3,150億円)と見積もられている。内訳は、サイト選定を含む概要承認までの準備作業費が約8億CHF(約660億円)、サイト特性調査活動及び処分場建設費が14億CHF(約1,160億円)、処分場操業費用が6億CHF(約500億円)、処分場の閉鎖費用が約4億CHF(約340億円)である(1CHF=83円として換算)。基金の管理は、連邦評議会によって任命された委員で構成される基金の管理委員会が行っている。
(2)中間貯蔵
 最終処分場が操業されるまでの間、あらゆる種類の放射性廃棄物が中間貯蔵される。
 医療、産業、研究部門で発生した廃棄物は連邦政府が責任を負っており、1992年以来、スイス北部のビュレンリンゲンにあるパウル・シェラー研究所(PSI)近郊の連邦中間貯蔵施設(BZL)で貯蔵されている。また、原子力発電所から生じる放射性廃棄物は、PSIサイト内にある中間貯蔵施設(ZWILAG)へ搬入される。ZWILAGは2001年7月に使用済燃料を受入れ、12月にフランスからガラス固化体を初めて受入れた。同施設は、全種類の放射性廃棄物を対象とした中間貯蔵と低・中レベル放射性廃棄物の焼却・前処理施設として、1996年に着工、2000年4月に操業を開始した。なお、使用済燃料は各発電所サイトでも貯蔵施設が建設され、運転されている。
(3)低・中レベル放射性廃棄物の最終処分
 NAGRAは1970年代に低中レベル廃棄物処分場のサイト選定を開始。1993年にニトバルデン州のベレンベルクを提案し、適性確認後、一般認可申請が連邦議会に提出された。しかし、1995年の住民投票で、48%(賛成)対52%(反対)で否決された。専門委員会(EKRA)は処分方法を見直して、深地層による回収可能な貯蔵方針とし、当面は研究施設の建設を行う段階的な意思決定プロセスを採用した。ニトバルデン州議会はベレンベルクに地下研究所を建設することを承認したが、2002年の州民投票で42.5%(賛成)対57.5%(反対)で否決された。現在はNAGRAにより6ヶ所の最終処分候補地域(内3ヶ所は高レベル処分地と重複)が提案され、適正確認調査が実施されているが、最終決定は原子力法の改正により、国民投票に委ねられている。なお、処分場操業開始は2030年〜2035年頃を目指している。
(4)高レベル放射性廃棄物と長寿命核種の最終処分
 高レベル廃棄物と使用済燃料は、放射能レベルの減衰を待つために少なくとも40年間、中間貯蔵施設で一時貯蔵され、エンジニアリングや経済性を考慮して、処分場の操業は2050年頃とされている。対象は海外再処理で発生して返還される高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)とTRU廃棄物、及び使用済燃料が同一の処分場に最終処分される。処分は長期安全性と回収可能性を融合させた「監視付き長期地層処分」概念が採用され、原則として国内で処分する方針であるが、国際共同処分も可能なオプションとなっている。
 調査研究は1970年代後半から始まり、NAGRAにより、結晶質岩と堆積岩のオパリナス粘土の2種類に対して実現可能性が実証されている。結晶質岩については、1985年に「保証プロジェクト」報告書と1994年の追補報告書「クリスタリン-I」報告書で実現可能性が示された。また、北部チュルヒャー・ヴァインラントのオパリナス粘土層のボーリング調査から、2006年には「処分の実現可能性実証プロジェクト」報告書を作成している。
 連邦エネルギー庁(BFE)は原子力令に基づき、サイト選定手続や基準を定めた特別計画「地層処分場」を2008年4月に策定した。サイト選定は、(1)第1段階:適性を有する複数の候補サイト地域の選定、(2)第2段階:2ヶ所以上の候補サイトの選定、(3)第3段階:処分サイトの確定、概要承認手続の3段階で構成される。これに従い、NAGRAは2008年10月にチュルヒャー・ヴァインラント、北部レゲレン、ベツベルクの3候補サイト地域を提案。2010年2月には、連邦原子力安全検査局(ENSI)が安全・技術面からの適性を確認。2010年8月には全候補サイトを適当とする「特別計画 第1段階 成果報告書」草案を発表した。今後、候補サイト地域に関係する自治体の住民説明会などを経て、2011年半ばには連邦評議会の候補サイト地域の承認を予定している。計画では、2018年頃の概要承認の発給、2020年頃の建設許可、2050年頃の処分場の操業を目指している。図6に最終処分候補サイト地域を示す。
*特別計画・・・スイスの都市計画法令で、事業の具体的目標、他の計画との調整、事業の進捗方針など、空間及び環境に大きな影響を与える事業を行う際に策定される。
*概要承認・・・立地場所、施設の目的及びプロジェクトの基本事項などを定める、建設許可申請前に取得が必要な連邦評議会の許可。
(前回更新:2002年1月)
<図/表>
図1 スイスの原子力発電所
図2 ゲスゲン原子力発電所の核燃料サイクル
図3 スイスのMOX燃料利用状況
図4 スイスの放射性廃棄物管理関係機関
図5 発生源別にみたスイスの放射性廃棄物の発生量の見積り
図6 スイスの放射性廃棄物の処分候補地

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<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
フランス、ベルギー、スイスに於ける放射性廃棄物処理・処分の動向 (05-01-03-26)
スイスのエネルギー政策と原子力政策・計画 (14-05-09-01)
スイスの原子力発電開発と開発体制 (14-05-09-02)
スイスの原子力安全規制体制 (14-05-09-03)
スイスの国民投票 (14-05-09-07)

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2010年版(2010年4月)
(2)(社)日本原子力産業協会:原子力年鑑 2010(2009年10月)、p.242-246
(3)(社)海外電力調査会:海外諸国の電気事業第2編 2010年(2010年3月)、p.65-75
(4)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における高レベル放射性廃棄物処分について スイス(2010年2月)
(5)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の高レベル放射性廃棄物処分等の状況 スイスにおける高レベル放射性廃棄物処分
(6)(財)日本原子力文化振興財団:原子力2009、2009年9月、P.132
(7)電気事業連合会:原子力・エネルギー図面集 2010年版、p.24
(8)放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA):廃棄物管理プログラムと地層処分場候補サイト地域(Entsorgungsprogramm und Standortgebiete fur geologische Tiefenlager. Zusammenfassung)(2008年11月)
(9)Kernkraftwerk Gosgen:KKG技術パンフレット(2010年版)
(10)スイス連邦エネルギー庁(BFE):特別計画「第1段階成果報告書(決定内容とファクトシート 草案)」(2010年8月20日)、http://www.news.admin.ch/NSBSubscriber/message/attachments/20133.pdf
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