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<概要>
 フランスでは、高レベル放射性廃棄物について2006年6月に「放射性物質及び放射性廃棄物の持続可能な管理計画法」が公布され、長寿命核種の分離・変換、中間貯蔵および深地層への処分の3分野について調査・研究を実施することが決定された。このうち深地層への処分については、ビュール地下研究所において研究がなされている。短寿命の低・中レベルについては、オーブ処分場で処分されている。極低レベルについては、モルビリエ処分場に於いて処分されている。ベルギーおよびスイスでは、放射性廃棄物の処分方法について検討中であり、廃棄物は貯蔵されている。高レベル廃棄物について、それぞれ国内の地下研究所において深地層への処分に関する研究を実施中である。ベルギーでは粘土層、スイスでは堆積岩および結晶質岩を対象にした研究が行われている。
<更新年月>
2006年10月   

<本文>
1.フランスにおける放射性廃棄物処理処分の動向
 現在フランスでは、総発電電力量の4分の3以上を原子力発電に依存しており、原子力発電所から取り出された使用済燃料再処理する方針をとっている。再処理の際に発生する高レベル放射性廃棄物の管理については、1991年末に制定された放射性廃棄物管理研究法に基づき、核種分離・変換、深地層への処分、長期地上貯蔵の3分野の研究を15年間にわたって実施してきており、その成果を踏まえて2006年6月に、「放射性物質及び放射性廃棄物の持続可能な管理計画法」が公布された。同法では、(1)長寿命放射性核種の分離・変換については、新世代の原子炉および放射性廃棄物の核変換を専用に行う加速器駆動炉に関する研究および調査との関連において研究・調査を実施、(2)可逆性のある地層処分場については、2015年に処分場の設置許可申請、2025年に操業開始ができるよう研究・調査を実施、(3)中間貯蔵については、中間貯蔵施設を2015年までに設置できるよう研究・調査を実施とされている。
 高レベル放射性廃棄物の深地層への処分の研究の一環として、ムーズ/オート=マルヌ両県にまたがる東部サイトのビュールにおいて粘土質岩を対象にした地下研究所の建設が2000年から進められている。このビュール地下研究所は、地上施設、主立坑、補助立坑および地下445mレベルと490mレベルにある水平坑道群からなりたっている(図1)。地上施設としては、地下施設建設のための櫓、掘削土置き場、調整池、資材置き場、研究員の研究棟、ボーリングコア保存庫などが整備されている。地下施設は現在建設中であるため一般の見学は許可されておらず、地上施設に設けられた見学者用のビジターセンターの地下1階に地下研究所の坑道が再現されており、地下施設への見学が模擬体験できるようになっている。
 ビュール地下研究所では、粘土層の原位置における地盤力学的特性、化学的解析および同位元素解析のための地下水試料の採取、透水係数および間隙水の測定、化学的拡散保持の特性評価、横坑における変位、変形、EDZ(掘削損傷領域)に関する特性調査、熱的拘束に対する粘土層の応答などの試験が実施される。
 一方、低・中レベル放射性廃棄物については、オーブ処分場において処分中である(図2)。フランスの低・中レベル放射性廃棄物は1969年からラ・マンシュ処分場で受入れられてきたが1994年に処分容量が限界に達したため閉鎖された。オーブ処分場はラ・マンシュの後継処分場として計画・建設され、1992年に操業を開始した。
 オーブ処分場では、フランス国内の諸施設から発生する短寿命の低・中レベル放射性廃棄物の全てを受入れ対象としている。処分容量は約100万m3(先行のラ・マンシュ処分場は53万m3)で、2050年頃まで約60年間の操業が可能と見込まれている。2004年末現在、168,000m3(全処分容量の約17%)を処分済みである。処分施設は、整地された地表面(砂層)にコンクリート製のセル(disposal cell)を設置し、このセル内に廃棄体を定置して空隙にコンクリートや砂利を充てん後、覆土する方式である。セルは地下水面より上に設置されている(図3)。
 一部の低レベル放射性廃棄物はセントラコ低レベル放射性廃棄物集中処理センターにおいて減容されている。この施設はフランス電力庁(EDF)とCOGEMA社(現AREVA)が共同出資(EDF51%、COGEMA49%)して設立したSOCODEI社が運営し、廃棄物の減容により処分コストの低減と処分場の延命を目的としたフランス唯一の低レベル放射性廃棄物集中処理センターである。1999年から操業しており、ローヌ川に面した約30,000m2の土地に焼却処理装置と溶融処理装置並びに溶融した金属廃棄物の再利用のための遠心鋳造装置が設置されている。発電所から発生する低レベル廃棄物のうち約35%を受入れており、残りは発電所から直接オーブ処分場に搬出されている。オーブへ直接輸送するかどうかの判断は、発生者(電力)に任されている。セントラコで処理した場合、オーブ中低レベル処分場へ直接処分する場合に比べコスト高になるが、(1)廃棄物の減容率が高い、(2)廃棄物が均質になる、(3)放射能濃度の管理が廃棄体毎に行える、(4)原子力発電所が適切に処理・処分を行っているという発電所近隣地域へのアピールになるなどのメリットがある。溶融後の金属は、遠心鋳造により遮蔽金属ドラムやコンクリート容器の内張り材として使われ、放射能レベルの高い廃棄物の遮蔽容器としてフランス国内の原子力施設に出荷される。
 極低レベル放射性廃棄物については、モルビリエ処分場にて処分中である。モルビリエ極低レベル放射性廃棄物処分場(以下、「VLLW処分場」という)は、オーブ中低レベル処分場から数kmの地点に位置し、2003年10月より操業している。オーブ同様ANDRAが運営管理している。処分容量は650,000m3で向こう30年間の操業が想定されている。VLLW処分場は、処分される廃棄物中の放射性核種濃度が低いため、原子力基本施設に適用される規制は受けず、環境保護指定施設に適用される規制を受ける。両者の施設運用上の大きな違いとしては、原子力基本施設の場合10年ごとに安全評価を実施し、ライセンスの更新(新たに許可申請を行うのと同等程度の困難さを有する)を行う必要がある。
 処分施設の設計としては、処分セルがすべて地下水面上に位置するように計画されている。セルの側面と底面は水密性の高密度ポリエチレンシートによって保護され、廃棄物の定置作業中は移動式のシェルターにより風雨から保護される。セル内の埋め戻しは長期安定性と取り扱いの容易さおよびコスト面で有利な砂が用いられている。VLLW処分場は放射性廃棄物と有害化学物質の両方を処分することが可能である。
2.ベルギーにおける高レベル廃棄物処分研究
 ベルギーでは、使用済燃料の再処理を凍結して、使用済燃料の管理オプションについて評価が行われている段階である。当初は全ての使用済燃料を再処理する計画であったが、1993年に新たな再処理契約を凍結し、再処理又は直接処分の両オプションの比較を行う決定がなされ、現在も引き続き調査が行われている。両オプションの場合とも、粘土層での地層処分が検討されている。
 長寿命中低レベル放射性廃棄物についても高レベル放射性廃棄物とともに地層処分することが考えられている。短寿命中低レベル放射性廃棄物については処分方法の検討中である。これらの廃棄物は、ベルゴプロセス社サイト内貯蔵施設内で貯蔵されている。
 ベルギーには処分場の建設が可能となるような岩塩ドームは無く、また結晶質岩層は非常に深い位置にあるため、粘土層における地層処分の可能性が研究されている。また、ベルギー原子力研究センター(SCK・CEN)のあるモル地点では、ブーム粘土層に地下研究所が建設されており、研究開発が実施されている。
 モル(ハーデス)地下研究所は、地層処分の研究のために、地下180m〜280mに分布するブーム粘土中の地下約230mに建設された施設であり、配置を図4に示す。モル(ハーデス)地下研究所での主な研究内容は以下の通りである。
(1)RESEAL(立坑と横坑のシーリングの可能性の実証)、(2)CORALUS(熱とγ線下におけるα線放射性ガラスとバックフィル材の相互作用の関連性)、(3)CLIPEX(坑道掘削に伴う周辺岩盤への影響)、(4)SELFRAC(自己シーリング性能の把握と定量化およびEDZによる放射性廃棄物への長期影響評価)、(5)PRACLAY(掘削と熱による熱、水理、力学、化学連成効果の確認のための試験および交差する坑道の掘削損傷領域を極力拡大させない建設方法の実証試験)
 また、PRACLAYについては、2005−2006年にPRACLAY GALLERYを建設し、その後加熱を開始する予定である。
3.スイスにおける高レベル廃棄物処分研究
 スイスでは、以前はすべての使用済燃料を再処理し、発生する高レベル放射性廃棄物を処分することが基本路線となっていたが、1992年から使用済燃料を再処理せずに直接処分することも高レベル放射性廃棄物処分と同等のオプションとして扱われている。また、主として再処理に伴って発生する長寿命中レベル放射性廃棄物についても同じ処分場への処分が想定されており、現在はヴユレンリンゲン中間貯蔵施設(ツヴィラグ)に貯蔵されている。なお、その他の中低レベル廃棄物は、各発電所等およびパウル・シェラー研究所にて貯蔵されている。
 スイスでは高レベル放射性廃棄物処分の実現可能性実証のために、結晶質岩と堆積岩(オパリナス粘土)の2種類の候補岩種を主に対象とした調査が行われてきている。地層処分の研究施設としては、花崗岩を対象にした試験施設であるグリムゼル岩盤研究所と堆積岩を対象としたモン・テリ岩盤研究所がある.
 グリムゼル試験サイトは、1983年から放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)によって操業されている。同サイトでの調査活動にはドイツ、フランス、日本、スペイン、スウェーデン、台湾、米国、欧州連合等の機関が参加している。現在は放射性廃棄物の定置を実証することを目的とした長期的な実験が中心となっており、実スケールでの高レベル廃棄物の定置概念の実証、人工バリアや周囲の岩盤を通してのガスの移行実験など、処分場と同様の条件下での現実的実証に主眼が置かれている。
 モン・テリ岩盤研究所は、1996年に各国関係機関による国際共同プロジェクトとして、スイス国立水文学・地質調査所が中心となる形で設置された。1995年にオパリナス粘土を対象とした研究を行うことが複数の研究機関により決定された後、1996年にニッチェ(小規模な横穴)を利用した試験が開始され、1998年に最初の試験坑道が完成して試験範囲を大幅に拡大した。その後既存ギャラリーのさらに外側に追加坑道が掘削されヒーター試験、ガス移行試験等各種の試験が実施されている。
<図/表>
図1 ビュール地下研究所の配置
図1  ビュール地下研究所の配置
図2 オーブ処分場
図2  オーブ処分場
図3 オーブ処分場の断面図
図3  オーブ処分場の断面図
図4 モル地下研究所の配置図
図4  モル地下研究所の配置図

<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(1)−仏、英編− (05-01-03-07)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)

<参考文献>
(1)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の状況、フランス、概要
(2)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の動き、NewsFlash.2006−07−05
(3)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の状況、フランス、研究開発
(4)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国に於ける高レベル放射性廃棄物の処分について(2006年3月)
(5)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:欧州調査団に参加して?放射性廃棄物処理・処分の動向?、原環センタートピックス、No.76(2005年12月)
(6)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の状況、ベルギー、概要
(7)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の状況、スイス、概要
(8)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国の状況、スイス、研究開発
(9)(株)日本原子力情報センター:2005年欧州放射性廃棄物処理処分技術調査団報告書(2005年12月)
(10)(株)日本原子力情報センター:放射性廃棄物処理処分を巡る海外最新動向(2005年12月12日)
(11)(財)原子力環境整備促進・資金管理センター:ポケットブック
(12)ESV EURIDICE GIE:Research Programme,PRRACLAY,
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