<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> フランス
<タイトル>
フランスのPA動向 (14-05-02-07)

<概要>
 核保有国であるフランスでは、原子力の民生利用に対して抵抗が少なく、資源弱小国でエネルギー自立の観点から原子力は不可欠と理解され、反対運動は他のヨーロッパの国々と比べて激しくなかった。しかし、1997年から2002年まで続いた左翼連立政権に環境保護政党である緑の党が加わり、経済性を理由に高速増殖炉FBR)のスーパーフェニックスが閉鎖されたのをはじめ、原子炉の新規発注やMOX燃料利用も滞った。しかし、その後誕生した中道・右派政権は国主導の開発路線を国民参加型に改める方針を打ち出した。
 2006年6月には「原子力安全・情報開示法」が制定され、「原子力安全機関(ASN)」の役割が強化、原子力の安全に関する公衆への情報公開、原子力基本施設と放射性廃棄物質輸送等のリスクの開示と回避方法の情報提供が規定された。また、フランスの原子力施設では、地元住民への情報公開を目的に「地方情報委員会(CLI)」が組織された。CLIは施設の原子力安全および放射線防護に関する一般的な情報の入手や専門家による環境影響調査などを通じて総合的に情報評価を行い、分かりやすい形で住民へ情報を公開することで、情報伝達の透明性の確保や一般公衆の理解促進に役立っている。
<更新年月>
2010年09月   

<本文>
1.はじめに
 フランスの原子力パブリック・アクセプタンス(PA)は、他の先進諸国に比べて良好である。これは、第一に核保有国であるため、民生利用に対して抵抗が少ないこと、資源弱小国であるため、エネルギーの自立の観点から原子力が不可欠とのコンセンサスが形成されてきたことなどによる。世論調査でもチェルノブイリ事故(1986年)、ムルロワ環礁での核実験(1996年)直後を除いて、常に賛成が過半数を占めてきた。政党も環境保護政党を除き、原子力開発に賛成あるいは容認する立場にある。しかしながら、1997年に左翼内閣(緑の党から環境大臣が入閣)が誕生すると、経済性を理由にスーパーフェニックス(FBR、124万kW)が1998年12月に閉鎖され、2000年には高レベル廃棄物の花崗岩層における地下貯蔵実験施設サイト選定が地域住民の反対により中止された。2002年に誕生した中道・右派政権は国主導による原子力開発路線を改め、国民参加型とする方針を打ち出した。2005年の「エネルギー指針法」では、気候変動対策やエネルギー・セキュリティ対策のため、省エネルギー、再生可能エネルギーの開発を進めながら、原子力開発を維持していく方針を打出している。
 2009年末時点で、59基グロス電気出力6,602万kWの原子力発電所が稼働中であり、1次エネルギーの40%、発電の80%を賄い、フランスのエネルギー自給率は1970年代初めの20%台から50%まで改善されている。また、フランスの電源の90%以上が二酸化炭素を排出しない電源構成となっている。
2.世論調査の推移
 フランスでは3つの段階に分かれて原子力に関する世論が形成され、それにつれ広報のあり方も変化してきた。フランス電力公社EDF)の活動を参考に以下で状況を述べる。
(1)第1段階(1970年〜1980年)
 第1次石油ショック(1973年)の影響でエネルギー自給率を高める必要性から、国策として原子力を選択した時期である。原子力発電所の建設は国レベル、地方レベルで議論がなされ、反対派の運動も活発だった。当時、EDFの広報は経済的にいかに原子力開発が有効であるか、エネルギー自給率を高めるためにいかに重要であるかを訴え、徐々に国民の信頼を培おうとしていた。1979年の第2次石油ショックが起こると、更に原子力の認識は高まり、国民も原子力発電所の建設を受け入れていった。
(2)第2段階(1980年〜1985年)
 軽水炉が稼働率を高めている時期で、原子炉の運転は順調に行われ、世論の理解が強化されると同時に、反対派が組織されたが、政策的に有効な手段を前面に出せる時期ではなかった。EDFの存在は一般の国民に周知され、非常に品質の高い発電を行い、電力供給が安定していたことから、かなり信頼を勝ち得た時期となった。EDFの広報は施設の稼働状況、安全管理、技術仕様など運転事業者としての説明に切り替わった。
 原子力広報は、建設現場の見学、操業施設の見学、PR館での説明等を通じて行なわれ、その結果1985年末には世論の62%から65%の人々が原子力に対して賛成を表明した。
(3)第3段階(1986年〜2003年)
 1986年のチェルノブイリの事故により、公衆の原子力に対する懸念が一挙に噴出し、EDFの情報にも疑いが持たれ、同時に政府も信頼を失った時期である。さらに2001年9.11同時多発テロにより原子力に対する懸念はいっそう増加した。EDFは失った信頼の回復のため、再度新たな広報活動を始める。出来るだけ多くの情報を開示し、透明性の高い広報活動を行う。特に安全管理上どのような対策がとられているか、設備の具体的説明、トラブルの情報開示、事故時の緊急対応策、防災訓練なども積極的に行なわれた。
 2002年6月に発表した経済財政産業省の世論調査結果報告書「フランス人とエネルギーに関するバロメーター」によると、原子力の選択に関する質問に対し「不利益をもたらす」が43.9%、「便益をもたらす」が42.3%と僅差で上回り、「分からない」は14%だった。否定が肯定を上回ったのは、同調査が1994年に開始されて以来初めてであった。この調査は、2001年12月〜2002年1月にかけて、18歳以上の2,000人を対象に実施された。原子力のメリットとしては、電気料金の低価格が37%、料金の安定性が19.3%、温室効果防止が10.3%、先端技術の開発が7.1%。デメリットとしては、放射性廃棄物の発生と貯蔵が39.9%、重大事故のリスクが35.3%、放射線の危険性が20.3%であった。放射性廃棄物の管理にむけた政府当局による研究努力をどのように評価するかという問いに対しては、「不十分」が77.5%と大半を占め、「十分」が16.2%、「分からない」が6.3%となった。石油ショック後、政府がエネルギーの安定供給強化のため原子力発電開発を進めたことに対しては、76.6%がその努力を評価すると回答した。なお、将来の開発にあたっては、51%が再生可能エネルギー、15.4%が水素・燃料電池・コジェネなどの新エネ、10.2%が原子力推進の努力を最優先することを希望した。電力料金の上昇は開発推進のため、2%未満ならば構わないという意見が多数であった。
(4)第4段階(2003年〜)
 2006年12月末のEDFの世論調査では、原子力推進に53%が懸念を表明したが(賛成は44%)、2007年7月の調査結果では「フランスにおける発電電力量の75%を原子力で賄っていることについてどう思うか」の質問に対し、「良い」が51%、「良くない」が39%、「意見なし」が10%となり、2003年以降状況は次第に改善されつつある。また、原子力推進に反対を表明している人の約50%は放射性廃棄物の問題を解決すれば、賛成に回ると回答した。フランス国民の原子力に対する考え方は、エネルギーとして原子力の重要性を認めながらも、放射性廃棄物の処理問題は研究課題であり、最終的な深地層処分への理解は、なかなか一般には浸透していないようである。
3.情報公開
 フランスでは政府機関、電力会社、原子力関連機関により、原子力関連の情報公開や広報活動が活発に行なわれてきた。原子力安全規制当局(ASN)は1987年から電話回線を利用した原子力施設の運転状況等の情報を公開しており、1989年から発電所のトラブルや事故を独自の等級区分で発表してきた(1994年からIAEA国際評価尺度に変更)。また、電力会社もPR館の展示、出版、インターネット、新聞、テレビなどの広告等で広報活動を展開している。
 地元への情報公開では、「地方情報委員会(CLI)」と呼ばれる組織を設置している。CLIは1981年12月の首相令により原子力施設立地地域に設置を勧告されてきたもので、原子力施設周辺の環境影響評価や事業者から得た情報を住民へ伝える役割を担ってきたが、2006年6月の「原子力安全・情報開示法」で明確にその役割等が規定化・義務化された。
 同法では政府の責任として、(1)原子力安全および放射線防護の監視の方法およびそれらの結果について国民に情報を提供すること、(2)特に原子力事象および事故時において国外での原子力活動による国内への影響に関する情報を国民に周知することを義務付けた。
 また、「国民の知る権利」として、全ての国民は原子力事業者あるいは政令による規定値を超える量の放射性物質を取り扱う輸送事業者や放射性物質の保有事業者から、放射線被ばくに対するリスクや、そのリスクの低減、あるいは予防するための情報を得る権利が保障されている。国民が情報を入手する手段として、1つ以上の原子力関連施設立地サイトにCLIの設置が義務付けられ、CLI委員長はエネルギー担当大臣に意見・勧告を通知することができる。CLIは当該地方の市町村議会・県議会・地域議会議員、環境保護団体の代表、経済界の代表、労働組合、医療機関、原子力産業や市民防災の専門家等の有識者で構成される。定例会合は年2回開かれ、全国レベルの総会(ANCLI)で経験や活動内容などの情報交流が図られる。委員長は県議会議長で、安全規制当局やその他の政府関連機関、原子力事業者もオブザーバーとして会議に出席できる。CLIの活動は当該施設の原子力安全および放射線防護に関する一般的な情報入手、専門家による測定・分析などの環境影響調査結果を通して、中立の立場で総合的に情報評価を行い、分かりやすく住民に伝えることであり、原子力情報伝達の透明性の確保および一般世論の理解促進を図ることにある。
(前回更新:2003年1月)
<関連タイトル>
フランスの原子力政策および計画 (14-05-02-01)
フランスの原子力開発体制 (14-05-02-03)
フランスの原子力安全規制体制 (14-05-02-04)
フランスの核燃料サイクル (14-05-02-05)
フランスの電気事業および原子力産業 (14-05-02-06)

<参考文献>
(1)(社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業 第1編 1998年(1998年3月)、p.81-126
(2)(社)海外電力調査会(編集発行):海外電力2002年10月号、p.75-78
(3)(社)日本原子力産業協会(編集発行):世界の原子力発電開発の動向 2001年次報告(2002年5月)、p.43-46
(4)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力年鑑 平成2003年版(2002年11月)、p.371-379
(5)(社)日本原子力学会:日本原子力学会誌アトモス vol.52(2010年2月)、p.32-37
(6)(社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業 第1編2008年(2008年10月)、p.141-143
(7)(財)むつ小川原産業活性化センター:海外核燃料サイクル施設調査報告書平成19年度、http://www.mutsu-ogawara.or.jp/jouhou/2007_kaigai.pdf
(8)(財)日本原子力文化振興財団:平成17年度 原子力の平和利用に関する知識普及啓発のあり方に関する世論調査第4章 2.海外との比較—世界各国の世論、p.16/29
(8)フランス電力会社(EDF)
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