<本文>
1. 電気事業
1.1 フランスの電力自由化
第二次世界大戦後、経済復興が急務であった1946年4月に「電気・ガス事業国有化法」が制定されて以来、フランスの電力事業に関してはEDF(
フランス電力公社)が発送配電一貫体制の下、ほぼ独占的に全国に電力供給を行ってきた。しかし、フランスが加盟する欧州共同体(
EC)で「単一欧州議定書」が1987年6月に制定されるとEC域内の市場統合が進められ、1996年12月に「EU電力自由化指令」が制定された。これを受けてフランスでも電力市場自由化へ向けた動きが活発化し、2000年2月には「公共サービスとしての電気事業の近代化と発展に関する法律(電力自由化法)」が制定された。そして、同法に基づき、政府から独立して電力・ガス市場の規制を担当するエネルギー規制委員会(CRE)が設置された。2003年1月には「電力・ガス市場およびエネルギー公共サービス法」が、2004年8月には国有企業であるEDFおよびフランスガス公社GDFの株式会社化・部分民営化等を規定した「EDF・GDF株式会社法」が制定された。これに従って、EDFは2004年11月以降、株式が公開され、フランス電力株式会社(Electricite de France S.A.:EDF)となっている。ただし、フランス電力自由化法では「公共サービスは一般公衆の利益を鑑みて、国内全土への電力供給を保障することを目的とする」と規定されており、発電設備の整備、送配電系統運用と整備、供給保障は公共サービスとしてあげられ、EDFおよびGDFの資本の70%以上を政府が保有している(2016年10月時点のEDF株式比率は政府:85.6%、一般投資家:12.73%、従業員:1.6%、自己株式:0.1%)。2004年8月にはEDF送電系統運用部門RTEがRTE EDF Transport社として子会社化され、送電部門の法的分離がなされた。また、2006年12月には配電事業者の法的分離を規定する「エネルギー部門法」が制定され、2008年1月からEDF内の配電部門がeRDF社として子会社化、配電部門の法的分離も実現された。家庭用需要家を含めた全面自由化が2007年7月に実施されている。
なお、フランスでは電力自由化の権利を行使しない需要家に向けて、EDFの
原子力発電をベースとして総括原価方式で設定された規制料金が維持されている。そのため、2013年9月末時点でEDF以外の新規事業者と契約している需要家は、消費電力ベースでみると、家庭用需要家で全体の8.5%、家庭用以外の需要家で全体の20.8%にとどまっていた。これに対して1996年、2003年および2009年の電力自由化指令で示された内容の履行状況を監督する欧州委員会は、EDFが新規事業者の参入を阻害していると指摘し、市場調整暫定規制料金(TaRTAM)が国家補助に当たるとしたため、その改善に向けて2010年12月には「電力市場体制に関する法律(NOME)が成立した。NOME法ではEDFが発電する原子力総発電量のうち最大で25%を、原価に近い価格でEDF以外の事業者に譲渡すること、譲渡価格は政令によって定められることになった。また、2015年7月には、2025年までに原子力の割合を現在の75%から50%へ低減、原子力発電容量の上限を6,320万kWに設定して、
再生可能エネルギーの利用を促進させるという内容の「エネルギー転換法案」が国民議会で可決されている。
1.2 電気事業体制
発電事業は主にEDF、CNR(Compagnie Nationale du Rhne、旧GDF・スエズ社系)、E.OMフランス(SNET、独E.ON系)が行っている(
図1参照)。フランスの2015年12月末時点の国内設備容量は1億2,931万kW(水力19.7%、火力17.4%、原子力48.8%、風力8.0%、その他再生可能エネルギー6.1%)、そのうちEDFの国内発電設備容量は9,377.9万kWで全体の72.5%を占める。また2015年12月末の国内発電電力量は5,460億kWh(原子力76.3%、火力6.2%、水力10.8%、風力3.9%、その他再生可能エネルギー2.8%)、そのうちEDFの国内発電電力量は4,557億kWh、EDFがフランス国内発電電力量の83.5%を占める。なお、CNR社は
水力発電設備を中心に346万kW程度を、SNET社は石炭火力、ガスコンバインドを中心に320万kW程度を有し、国内電力量の2%程度を発電している。GDF・スエズ(現、ENGIE)社にはベルギー・エレクトラベル社が参加、E.OMフランス社には、スペイン・エンデサ社が参加している。
図2にフランスの電力・ガス産業の変遷を示す。
送電設備はRTE EDF Transport(RTE)が高圧系統を運用し、CNESセンターが400kVの送電系統と国際連携系統を、URSEセンターが7地域の225kV、90kV、63kVの送電系統を管理している。配電事業はEDF系列のeRDFおよび地方配電事業者(地方自治体直営事業者、農業協同組合(SICAE)、公私混合営事業者(SEM)、電力消費者協同組合、私営事業者など160社程度)が担当しているが、eRDFのシェアは約95%である。卸電力市場は解放された当時、市場価格に左右されない、政府規制料金(消費電力の約7割に規制料金が課される)を適用するEDFが小売供給量の85%を占めていたが、次第に再生可能エネルギーの新規参入者の販売シェアが増加傾向にある。
一方、EDFは国のエネルギー政策の根幹を担う電力会社として、政府からの強いサポートが存在し、競争力の高い発電設備と国内を中心とした強固な営業基盤で支えられている。2015年12月末時点、EDFの国内発電設備容量は9,377.9万kW、電源別では原子力67%、水力21%、化石燃料12%である。エネルギー自給率の8割近くを原子力発電に依存するフランスの
原子力発電所の全58基を保有する。
なお、EDFは原子力開発が予想以上に進み、発電コストが安価で価格競争力が高い発電電力を、国際連携線を通じてスイス、イタリア、スペイン、英国、またCWE電力取引所を通じて近隣諸国へ輸出している。また、国内電力市場が縮小傾向にあるなか、英国、ドイツ、イタリア、スイスやベルギーへ積極的に進出している。英国ではEDFエナジー(EDF Energy)を通じて発電、配電、供給事業を行い、2009年1月のブリティッシュ・エナジー(BE)社の買収により、BE発電設備1,060万kW(原子力設備:870万kW)を加えた。ドイツではEnBW(株式保有率:46.07%)を通じてドイツ南西部のバーデン・ヴェルテンベルク州を中心に発電・送配電・供給事業を、イタリアではエディソン(Edison、株式保有率:48.96%)を通じて発電・配電・供給事業を行っている。スイスでは国内首位のエネルギー会社アルピック(Alpiq)の株式を25%所有し、ベルギーでは国内2位の発電・供給会社SPEの株式51%を取得した。東欧諸国、南米ブラジル、中国などへの投資も積極的に進められている。2015年現在、EDFグループ全体の発電容量は134,231MW(原子力54%、水力16%、再生可能エネルギー6%、火力15%、CCGT9%)と世界最大規模である。発電の75%はCO
2を排出しない電源であり、CO
2排出量は2015年時点でドイツのRWE社707g/kWh、イタリアENEL409g/kWhと比較すると、EDFが15g/kWh、フランス国内EDFグループでも31g/kWhと排出量は非常に少ない。
2. 原子力産業
フランスの原子力研究開発は、従来原子力庁(CEA)が中心となって進められ、その商業化・産業化は、核燃料サイクル事業をCEAの子会社コジェマ社(COGEMA)が、原子炉の製造をフラマトム社が携わってきた。フラマトム社は米国ウェスチングハウス社の資本・技術が入ったコンソーシアムであったが、1975年に資本の国産化、技術の国産化に成功して、世界有数の原子炉メーカーとなった。同社は1970年代後半、年間数基のペースで、フランス国内のPWR58基・6,560万kWをEDFから独占的に受注した。しかし、1980年代半ば以降、電力需要の鈍化に伴い原子力開発計画の縮小でフラマトム社は合理化や多角化に努めるとともに、他企業との合併など事業再編を模索した。2001年1月、フラマトム社は、自社とドイツのシーメンス社(SIEMENS)の原子力部門を統合し、共同子会社・フラマトムANP社(フラマトム66%、シーメンス34%)を発足させた。
さらに、政府は原子力関連企業の一層の業務の効率化・合理化および国際競争力の向上に努めるため、2001年9月に持株会社アレバ社(AREVA SA)を創設した。フラマトム社グループは、核燃料サイクル企業であるコジェマ社グループ(COGEMA)や原子力庁持株会社CEA−アンデュストリ関連企業とともにアレバ社に整理統合された。2006年3月からは持株会社アレバ社のもと、COGEMAはアレバNC(AREVA NC)に、フラマトムANPはアレバNP(AREVA NP)に名称を変更している(
図3参照)。2015年末時点のアレバ社の資本構成は、CEA54.37%、政府28.83%、一般投資家4.0%、アレバNC元少数株主(Total0.95%)、アレバNP元少数株主(EDF2.24%)などで、世界40カ国以上の生産拠点と100以上の販売網を持ち、従業員総数は約42,000人に及ぶ(
図4参照)。
(1)アレバNP社(AREVA NP、旧フラマトムANP社(Framatome ANP))
ドイツのシーメンス社と欧州加圧水型炉(EPR)の共同開発を視野に設立した合弁会社で、原子力PWRプラント部門の中核を担う。南アフリカ、韓国、中国、インドなど新興諸国での受注実績がある。日本とは、2006年10月に三菱重工と協調関係を樹立。中型第3世代加圧水型軽水炉ATMEA 1(PWR、110万kW)の概念設計を共同で進め、2007年9月には合弁会社ATMEA(アトメア、資本金:6600万ユーロ(日本円換算で約104億円)三菱重工50%、AREVA50%)をフランスに設立した。
(2)アレバNC社(AREVA NC、旧フランス核燃料会社コジェマ(COGEMA))
コジェマ(COGEMA)は1976年1月にCEAの生産局が独立した、ウランの採掘事業、ウラン濃縮、原子燃料製造、
再処理など核燃料サイクル全般を手掛ける世界最大の原子力企業である。世界市場でPWR、
BWRに向けの原子燃料を供給している。ラ・アーグ再処理工場、メロックス
MOX燃料製造工場を所有・運転するほか、ニジェール、カナダ、オーストラリア、カザフスタンにウラン採掘施設を所有する。
2015年6月、フランス大統領府は2大国営原子力企業の再編計画を発表し、アレバ社の原子炉事業をEDFが取得する案を承認、2015年7月にはEDF社がアレバNP社の過半数(51%〜75%)の株式を取得し、アレバ社は最大25%の株式を所有することで合意した。アレバ社は近年原子炉契約受注が低迷していることから、2014年の連結純損失が48億3400万ユーロに上ったほか、フィンランドのオルキルオト3号機の建設遅延など主要原子力開発プロジェクトで被った追加損失は約20億ユーロに達している。また、フランスは2009年のアラブ首長国連邦(UAE)の原子力建設受注に失敗し、原子炉メーカーと原子炉発電事業者を一体化する必要性が生じていた(
図5参照)。
(前回更新:2009年11月)
<図/表>
<関連タイトル>
フランス原子力庁(CEA) (13-01-02-10)
フランスの原子力政策および計画 (14-05-02-01)
フランスの原子力発電開発の状況 (14-05-02-02)
フランスの原子力開発体制 (14-05-02-03)
フランスの核燃料サイクル (14-05-02-05)
<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2009年版(2009年8月)、
p.540−545
(2)海外電力調査会:海外諸国の電気事業 第1編 2008年版(2008年10月)、
p.111−152
(3)三菱総合研究所:平成25年度発電用原子炉等利環境調査(諸外国における
原子力政策等実態調査)報告書 2014年3月、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/000859.pdf
(4)日本エネルギー経済研究所:平成27年度電源立地推進調整等事業(国内外
における電力市場等の動向調査)調査報告書、2016年2月、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2016fy/000099.pdf
(5)三菱総合研究所:平成25年度発電用原子炉等利環境調査(諸外国における
原子力発電及び核燃料サイクル動向調査)最終報告書 2014年3月、
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2014fy/000858.pdf
(6)RTE:2015 Annual Electricity Report,
http://www.rte-france.com/sites/default/files/2015_annual_electricity_report.pdf
(7)AREVA:2015Reference document,
(8)三菱重工ニュース 第4723号(2008年7月7日発行):
http://www.mhi.co.jp/news/story/0807074723.html
(9)フランス電力:Facts&FIGURES 2015、
https://www.edf.fr/sites/default/files/contrib/groupe-edf/espaces-dedies/espace-finance-en/financial-information/publications/facts-figures/f_f_2015_va.pdf
(10)総合資源エネルギー調査会、電気事業分科会原子力部会、第3回国際戦略
検討小委員会 資料3(2009年2月)、日本エネルギー経済研究所 小山堅:
フランス、ロシアにおける国家エネルギー戦略と原子力発電、