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<概要>
 フランスの原子力開発は、1945年のフランス原子力庁(CEA)の設立から始まる。当初から軍事利用と民生利用が視野にあり、1973年の第一次石油危機以降は民生利用が急展開された。CEAは2000年に4部門(国防、原子力、技術利用、基礎研究)に分割再編成された。2001年に民間企業フラマトムはドイツのシーメンス社の原子力部門を買収し、同年フラマトムとコジェマが合併し政府の持株会社アレバ(AREVA SA)が誕生した。当アレバ社は原子力部門(Areva NP)、原子燃料部門(Areva NC)及び送電設備部門(Areva T&D)を包含する。
 CEAの研究開発のうち、軍事研究では、抑止力維持のため核実験に代わる計算機シミュレーション技術の開発、核弾頭と潜水艦技術については陸・海用核弾頭の開発、第4世代弾道ミサイルの開発等がある。エネルギー研究では、放射性廃棄物についてマイナーアクチノイド(MA)の分離・核変換技術、新原子力システムについて第4世代エネルギーシステムの開発、新エネルギー技術については水素製造、燃料電池、太陽光発電、エネルギー管理等の研究がある。工学研究では、ミクロ・ナノ技術、ソフト技術及び健康技術の開発が中心課題である。基礎研究では、熱核融合技術の開発、気候・環境科学の研究等がある。国際協力については、10ヵ国以上と二国間協力協定を結び、原子力の安全に関する多国間協力のほか、国際原子力機関(IAEA)や国際エネルギー機関IEA)の活動に参加している。
<更新年月>
2011年11月   

<本文>
1.歴史、背景
 フランスの原子力開発・利用は1945年に始まる。当時の臨時政府に、ドゴール将軍の指示でフランス原子力庁(Commissariat a l'energie atomique:CEA)が設立された(表1)。当初から軍事利用と民生利用が考慮され、軍事利用では1960年に原爆実験に成功し、1974年までに45回の大気圏核実験がある。民生利用では、1963年に発電炉の運転を開始した。
 1973年の第一次石油危機は、フランスのエネルギー供給の不安定性を露呈し、当時のメスメル首相によりエネルギー自立戦略が立てられ国内の原子力の開発・利用体制が整備された。原子力政策はフランス原子力庁(CEA)が主導し、民間企業のフラマトム(Framatome)が原子炉製造を、CEA子会社のコジェマ(COGEMA)が核燃料製造を担当する分業体制になった。
 2000年にCEAの体制は、4部門(国防、原子力、技術利用、基礎研究)に分割再編成された。2001年にフラマトムはドイツのシーメンスの原子力部門を買収した。同年フラマトムとコジェマが合併し、原子力部門(Areva NP)、原子燃料部門(Areva NC)及び送電設備部門(Areva T&D)を包含するフランス政府の持株会社アレバ(AREVA SA)が誕生した。
 2010年以降は、CEAはエネルギー資源の多様化を図り、正式名称はCommissariat a l'energie atomique et aux energies alternatives:CEA(Alternative Energies and Atomic Energy Commission:原子力・代替エネルギー庁)となった。
2.業務と組織
 2009年には、CEAの職員数は15,718名で、10の研究センターがある。全予算は39億ユーロ、そのうち45%はフランス政府から、34%は関連会社やEUから得ている。
 図1に研究センターと所在地を示す。本部は、パリにある。軍事研究は、ヴァルドック(Valduc)、イル・ド・フランス(Ile de France)、ル・リポ(Le Ripault)、グラマ(Gramat)、及びセスタ(Cesta)研究センターで進めている。原子力利用(エネルギーと工学)は、カダラッシュ(Cadarache)、フォントネ・オ・ローズ(Fonternay sux Roses)、グルノーブル(Grenoble)、サクレー(Saclay)及びマルクール(Marucoule)の各研究センターが分担する。基礎研究は、軍事研究と原子力利用の研究センターにまたがっている。
 1956年に設立された原子力科学技術研究所INSTN(National Institute for Nuclear Science and Technology)は、CEA、工業省、教育省が共管する原子力関連の高等教育機関である。本部はサックレーのCEAにあり、分所がグルノーブル(Grenoble)、カダラッシュ(Cadarache)、マルクール(Marcoule)、及びシェルブール・オクタヴィル(Cherbourg-Octeville)にある。
 図2にCEAの組織概要を示す。研究開発部門(Sector)には、国防、原子力、技術研究及び基礎研究の4部門がある。一方、管理安全部門(Sector)の活動は、人事、戦略・国際関連、情報管理及び保安保全に分かれる。
3.活動
 主に研究開発部門の研究開発活動と国際協力の概要を述べる。
(1)国防
 計算機シミュレーション、核弾頭と潜水艦技術の研究開発がある。フランスは核兵器の政治的価値を認め、長期に亘る核抑止力の維持をはかっている。核実験は1996年に終了したが、核抑止力維持のため、計算機シミュレーション技術を開発している。そのプログラムの開発は、核爆発の物理モデルの開発、シミュレーションのための膨大なソフトと高度な計算機の開発、及び過去の核実験データ等の解析・検証による。
 核弾頭と潜水艦技術については、陸用と海用核弾頭の開発と営繕、新型潜水艦用原子炉と推進器の開発と営繕、第4世代弾道ミサイルの開発と営繕がある。また、使用期限がきた原子炉と推進器の解体と放射性廃棄物処理技術も業務に含まれる。
(2)エネルギー
 放射性廃棄物、新原子力システム及び新エネルギー技術が中心課題である。放射性廃棄物について、処理・処分技術の研究・開発とともに、高レベル放射性廃棄物の分離−核変換の研究がある。この研究では、長半減期のマイナー・アクチノイド(MA)の化学分離、その高速炉または専用施設を利用した核変換による低害化を狙っている。
 新原子力システムの研究では、安全性が高く初期コスト、運転コスト、サイクルコスト等に優れた第4世代エネルギーシステムの開発を目指している。高速炉システムとともに水素エネルギーと2025年以降の需要に見合う高温原子炉の開発が選択肢にある。
 また新エネルギー研究では、輸送と貯蔵に優れた水素製造、バイオマス、燃料電池等の研究開発のほか、太陽光発電とエネルギー管理の研究開発がある。
(3)工学研究
 CEAの技術開発は広く、ミクロ・ナノ技術、ソフト技術及び健康技術を含む。ミクロ・ナノ技術では、情報技術や健康分野に高度な知的マイクロ技術の発達を目指し、マイクロ電子技術、DNAチップ、セル(細胞)チップなどのバイオチップ、それを利用するマイクロシステムを開発中である。
 ソフト技術の目的は、電子チップに組込む統合的ソフトウェアの開発である。主に、知識工学、ロボット工学、バーチャルリアリティ等のソフト技術、またモバイルフォン、自動車、航空、鉄道輸送等の双方向連絡システムの技術、さらにデジタルシステムに不可欠なセンサー、シグナル処理の技術等に力が注がれている。
 健康技術は、もとより原子力技術に不可欠な部門である。健康技術は、生物学、薬学、医学、物理学、化学、マイクロ液体科学、マイクロ電子工学、マイクロ−ナノテクノロジーなどに広がる分野である。また、今日の技術開発において高度に複雑化したプロセスや現象に関する大量のデータの取扱、解析、処理等に深く関連する。
(4)基礎研究
 基礎研究には、熱核融合技術の開発、気候・環境科学の研究、高度な分離化学と放射線・物質相互作用の研究、原子核科学や素粒子科学、ナノ科学、低温科学、放射線生物学、核技術の健康科学への利用等の研究がある。
(5)国際協力
a)二国間協力
 CEAは、原子力及び非原子力分野で米国、ブラジル、モロッコ、チュニジア、ロシア、インド、中国、ベトナム、韓国、日本等と二国間協力協定を結んでいる。
b)多国間協力
 海洋環境の保全に関し、「廃棄物投棄に係わる海洋汚染防止条約(ロンドン条約)」に加盟し(1972)、また、北東大西洋の海洋環境の保全に関する「オスパール(OSPAR)条約」に加盟(1992)している。安全に関し、「国際原子力安全条約」(1994)及び「使用済燃料管理及び放射性廃棄物管理の安全に関する条約」(1997)に加盟している。また核物質の防護に関して「核物質防護条約(PP条約)」(1979)、原子力損害賠償に関し「パリ条約」(1960)とその補足条約「ブリュッセル補足条約」(1963)に加盟している。その他、国際原子力機関IAEAや国際エネルギー機関IEAの活動に参加している。
(前回更新:2005年10月)
<図/表>
表1 フランスの原子力開発・利用の歴史概要
表1  フランスの原子力開発・利用の歴史概要
図1 CEA研究センターの所在地
図1  CEA研究センターの所在地
図2 CEA組織図
図2  CEA組織図

<関連タイトル>
フランスの原子力政策および計画 (14-05-02-01)
フランスの原子力開発体制 (14-05-02-03)
フランスの原子力安全規制体制 (14-05-02-04)
フランスの核燃料サイクル (14-05-02-05)
フランスの電気事業および原子力産業 (14-05-02-06)

<参考文献>
(1)フランス、CEAホームページ、Facts and figures, Adresses et standards telephoniques, Bilateral agreements, International cooperation, Defense, Energy, Technologies, Fundamental research,
(2)フランス、CEA、2009年報(2010)

(3)M. Schneider, “Nuclear France Abroad, History, status and prospects of French nuclear activities in foreign countries”, pp.8-9 (2009), Mycle Schneider Consulting, Independent Analysis on Energy and Nuclear Policy,
http://www.nirs.org/nukerelapse/background/090502mschneidernukefrance.pdf
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