<大項目> 海外情勢
<中項目> ヨーロッパ各国
<小項目> イギリス
<タイトル>
イギリスのPA動向 (14-05-01-07)

<概要>
 チェルノブイリ原子力発電所の事故以降、原子力発電所の新規建設に消極的な立場を取っていたイギリスも、北海ガス田の枯渇や地球温暖化が問題となりつつある中、政府は原子力開発の再開を視野にエネルギー政策の策定に取りかかり、2007年5月に既設原子力発電所のリプレースの必要性に言及したエネルギー白書を、2008年1月には原子力白書を発表し、積極的な原子力支援政策に転じようとしている。
 EDF EnergyがYouGovに委託して2010年5月10日〜13日に実施したインターネット世論調査によると、電源のベストミックスという観点から原子力に対する理解が高まり、原子力が「必要と思う」が64%、新規原子力発電所の建設に関しても52%が賛成している。
 また、イギリス原子力産業協会(NIA)の2008年12月の対面式インタビュー調査でも既存の原子力発電のリプレースについては、「支持する」が44%であるのに対し、「支持しない」が19%となっている。新規建設に伴う経済効果へは期待しているものの、放射性廃棄物処分問題が不安材料となっている。放射性廃棄物地層処分のサイト選定に関しては、引き続き情報の公開と国民の合意形成に向けた活動が展開されている。
<更新年月>
2010年09月   

<本文>
1.はじめに
 英国の原子力開発は1950〜60年代のマグノックス炉(黒鉛ガス冷却炉)、1960〜70年代のAGR(改良型ガス冷却炉)に続き、1970年代終りには軽水炉開発を手がけ、原子燃料サイクル施設を含めた国産技術の開発を行ってきた。1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故以降、原子力発電所の新規建設に消極的な立場を取り、1995年にサイズウェルB発電所(PWR 1基、125万kW)を最後に新規建設が途絶えていた。しかし、北海ガス田の枯渇や地球温暖化が問題となりつつある中、政府は2006年から原子力開発の再開を視野にエネルギー政策の策定に取りかかり、2007年5月に既設原子力発電所のリプレースの必要性に言及したエネルギー白書を、2008年1月には原子力白書を発表し、積極的な原子力支援政策に転じようとしている。
 一方、放射性廃棄物の処理・処分については2005年4月から公的機関である原子力廃止措置機関(NDA)が実施主体となって、低レベル廃棄物は浅地中処分、中・高レベル廃棄物は地層処分する方針である。低レベル廃棄物に関しては既にドリック処分場で浅地中処分を行っているが、将来的には新規施設の検討を行っているほか、当面中間貯蔵で対応する中・高レベル廃棄物の処分場に関しては2008年6月に公表された白書「放射性廃棄物の安全な管理−地層処分の実施に向けた枠組み」に沿って、処分地選定手続きが行われている。これまで、カンブリア州、同州コープランド市および同州アラデール市の1州2市が関心を表明し、現在、初期スクリーニングが行われている。
2.英国民の原子力発電に関する世論調査
 フランス電力会社EDFの英国子会社EDF EnergyがYouGovに委託して英国下院議員選挙直後の2010年5月10日〜13日に実施した市場調査(英国インターネットを利用して成人4,300人を対象)では、将来の電源のベストミックスの一部に原子力が「必要と思う」が64%、これは原子力に反対する自民党に投票した人でも58%が「必要と思う」と回答した。新規原子力発電所の建設に関しても52%が賛成している。表1に世論調査結果の一部を示す。 なお、EDFは2008年に原子力発電所15基を所有するブリティシュ・エナジー(BE: British Energy)を買収し、2012年以降、EPR 4基(6,600MWe)を既存発電所隣接サイト(ヒンクリーポイントとサイズウェル)に建設する計画である。
 また、イギリス原子力産業協会(NIA)が世論調査会社Iposo MORIに委託して実施した2008年12月の調査(対面式インタビューで有効回答数1,989)でも、電源のベストミックスの中で原子力を「支持する」と回答したのは65%、「支持しない」の10%を大きく引き離している。既存の原子力発電のリプレースについては、「支持する」が44%であるのに対し、「支持しない」が19%である。2002年から開始したNIAの調査以来、最低であるとしている。NIAは原子力発電を支持する傾向が高まり、特に北西部スコットランドとヨークシャーに強いと指摘している。これは新規建設に伴う経済効果を期待するものであるが、その一方で放射性廃棄物処分問題が不安材料となっていると分析している。なお、2005年調査結果はATOMICAタイトル<14-05-01-16>「英国の世論調査とエネルギーレビュー計画」参照のこと。
3.原子力広報と対応
 原子力広報事業の広報活動は原子力や放射線に対する国民の意識を把握した上で展開される。また、英国原子力産業会議(BNIF:British Nuclear Industry Forum)は、国民の意見を変えるには時間がかかり、長期的な努力が必要であるとの見解も示している。
 また、原子力広報に携わるものは、原子力広報の基礎となる各種の資料・情報を収集・分析した上で、(1)原子力のメリットのみならず課題も明示し、バランスのとれた話し方をする、(2)ビジターズセンターの建設・訪問を奨励する、(3)コミュニティに対するニュースレターを定期的に制作し、有利不利を問わず些細なことでも掲載する等を行うこととしている。そのほか、欧州には原子力青年ネットワーク連絡会(YGN:Young Generation Network)が将来の原子力産業の活性化や若手育成を目的として国際会議等の若手フォーラムや原子力学会で活動を行っている。電力会社やBNIFの主な活動を以下で記述する。
(1)原子力施設地域住民との対話
 地域住民の代表で組織する地域連絡会議と定期的な会合をもっている。メンバーは警察、農業漁業者、学校、議員、オピニオンリーダーなどで構成されている。情報は原子力施設の責任者からニュースレターを送付し、つねに情報がタイムリーに伝達されるようにしている。地域のニュースメディア、地域図書館への配布、ウェブ上での公開等で同様の情報提供をしている。原子力施設の事象が全国的なものは会社幹部による全国メディア向けの情報提示と説明をすることになっている。
(2)立地推進策
 原子力施設の建設は大規模なものになるので、地域住民の生活に影響が最小限になるように計画する。アクセス道路の敷設、防音対策、輸送も海上輸送などを優先させる。また、地域住民が使用する地域集会ホールの整備、学校設備の整備、水泳プールの整備など社会共同施設の改善を支援する。立地地域の雇用拡大には大きな効果があるので、下請けを含め約50%の人を地域住民から雇用している。資材の購入も出来る限り地域から調達する。
(3)学校教育への支援
 原子力施設の見学などの広報活動のほか、学校教育の教材を提供する。小学校、中学校、その他大学レベルまでの教材、つまり、理科実験装置、ビデオ、講師の派遣、休暇期間の理科教室など出来ることを確実に実行する。また、BNIFは各企業が実施する教育に影響力を持つ人々への広報活動を支援する。情報提供や助言、科学博物館や原子力工学ギャラリーなどを紹介する。
(4)女性向け原子力広報活動
 原子力関係の国際的な女性グループWIN(Women In Nuclear)などを通した着実な広報活動を行う。
 なお、放射性廃棄物の地層処分に関しては、2009年〜2010年にかけて “西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ”が同州のアラデール市およびコープランド市の全家庭に対して、高レベル放射性廃棄物等の地層処分場のサイト選定に関する小冊子を送付するとともに、公聴会を開催し、政府による地層処分場のサイト選定の進め方、同パートナーシップのサイト選定プロセスへの関与方法についての情報を提供するとともに、ポスターセッションにより住民との直接対話を進めている(図1参照)。
 “パートナーシップ”は市議会に勧告を与えることを目的とした諮問組織で、カンブリア州内の市議会、地方議会連合、全国農業者連盟(NFU)、地方労働組合やステークホルダーグループ等によって構成される。従来、ステークホルダーは事業者の地域への影響を監視する機関として活動していたが、現在は地方議員、各種専門家等で構成され、事業者に対して勧告することができる諮問機関の性格を有する。今後、英国地質調査所(BGS)による地質学的な適性調査結果が公表され、検討後、パートナーシップは2011年後半にはサイト選定プロセスの参加・不参加を決定する予定である。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 EDF Energyの世論調査
図1 西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップの広報活動の例

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
英国における原子力防災対策 (10-06-02-05)
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスの核燃料サイクル (14-05-01-05)
イギリスの電気事業および原子力産業 (14-05-01-06)
英国の世論調査とエネルギーレビュー計画 (14-05-01-16)

<参考文献>
(1)(財)日本原子力文化振興財団:欧州原子力PA調査団報告書1995年(1996年2月)、p.19-20
(2)(財)日本原子力文化振興財団:英国原子力PA調査団報告書1998年(1999年4月)、p.22
(3)(社)日本原子力産業協会(監修)、日刊工業新聞社(発行):原子力年鑑2010(2009年10月)、p.217-223
(4)Polling shows public support for nuclear is soaring(2008年12月),
(5)EDF Energy : Poll shows strong support for nuclear power among voters of all main parties(2010年5月),
(6)西カンブリア放射性廃棄物安全管理パートナーシップ:http://westcumbriamrws.org.uk/
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