<本文>
1.原子力に関する世論調査
英国原子力協会のため2005年11月に行われた英国公衆の世論調査(注1)によれば、大部分(59%)は原子力が将来のエネルギー源ミックスの一部であることを期待するという結果が得られている。調査は、廃止される原子力発電所に替えて新しい原子力発電所の建設を支持する割合が大きく改善されたことを示している。この支持は約41%で2004年12月の35%から上昇している。原子力発電所新設への反対は28%である(2004年は約30%)。(
図1 、
図2 )
将来のエネルギーとして期待する割合は、原子力は5%増加して33%となり、
波力発電 の水準(32%)に達している。対照的に、ガスが重要なエネルギー源とみる人の割合は、今や、少数に転じ、7%減少して23%になっている。(
図3 )
公衆は依然として、再生型エネルギー(風力と太陽エネルギー)を将来最も重要とみている一方で、二酸化炭素物排出の増加に関する問題及び、他のエネルギー源の供給不安定性に直面して、原子力反対は減っているように見える。これは、発電所の予定されている閉鎖計画によって、将来起こり得るエネルギー不足に対する公衆の不安の増加を反映している。
2.エネルギー政策の開始
ブレア首相と通商産業大臣(アラン・ジョンソン)は、2005年11月29日、エネルギー大臣マルコム・ウィックに英国のエネルギー政策のレビューを総括して、2006年半ばに政策を提案するよう要請した。レビューの委託条項は、エネルギーの需要・供給の両面を含む広範囲なもので、2010年以降の英国の目標達成に役立つ政策・手段を焦点とし、英国が、2003年エネルギー白書の中・長期目標と合致する路線にあることを保証することを目的としている。
マルコム・ウィックは以下のように述べた:
「エネルギーレビューは、気候変動及びエネルギー供給の保証に対する将来の不安が強まった状況に対応して実施される。我々が2003年のエネルギー白書の目標を達成するように進んでいるかどうかを査定するのに、今は正しい時である。レビューは、重要な国際的な経緯を考慮に入れて、我々に開かれた全てのオプションを調査する。政策提案の正しいパッケージに達する際に、困難な決定とトレードオフをしなければならないことはやむを得ないことである。大切なことは、広範囲にわたる情報を十分取り入れた討論を盛んにし、このプロセスを通して、公衆、産業界、学界、非政府組織その他の専門家と緊密に係わることである。」
レビューは、主要な関係省からの役人と首相の戦略部隊からなり、通商産業省に置かれる省間チームによって進められる。移管行政・領土関係(注2)は既に含まれており、レビュー中に含まれる。レビューチームは、政府内及び外部の両方の専門家のサポートを得る。協議は、現白書の記述及び公衆と利害関係者との交流に関する政府の計画から開始される。レビューは、2003年のエネルギー白書によって決められたる次の4つの目標に対する、進捗状況を査定する:
・ 2020年までの正しい歩みによって、2050年までに英国の二酸化炭素排出を約60%削減する道筋を示す;
・ エネルギー供給の信頼性を維持する;
・ 将来も 持続可能な経済成長率を示し、生産性の改善に役立つよう、競争的市場を推進させる;
・ あらゆる家庭が十分に、かつ適切に、暖房されるよう保証する。
このレビューは、目標に対する進捗状況を評価し、必要ならば、英国が正しい過程にいることを保証する処置をとると定めた、現在進行中の計画の一部である。それは、健全財政への政府の関与と整合をとりつつ、前進しようとするものである。レビューは、現在の発電技術(例えば再生型エネルギー、石炭、ガスと原子力)と新しくて創られる技術(例えば炭素吸収と貯蔵)の役割を含む全てのオプションを考慮する。また、輸送及びエネルギー効率の役割を考慮する。
レビューチームは、より広いグローバルな関係において、気候変動の経済学を見ているスターン・レビューチームと連携して行動する。スターンレビューに関する多くの情報は、「www.sternreview.org.uk」で見ることができる。
3.記者達への情報
(1) 省間チームはエネルギー政策の広範囲のレビューを実施する。しかし、2003年のエネルギー白書で設定された4つの目標の枠内に留まるものである。レビューの範囲は、エネルギー源、発電及びエネルギー消費を含む。
(2) エネルギーレビューは、スターンレビューと
気候変動プログラムレビュー CCPRによって実行されている作業を取りこむ:
・ 大臣は、「ニック・スターン卿に気候変動の経済に関する主要なレビューを総括し、経済的挑戦の意味を理解し、その挑戦が英国と世界にどの様に適合するかを示すよう依頼した」と2005年7月19日に発表している。
・ CCPRは、英国の気候変動プログラム下の進歩を検討して、2006年初期に報告することになっている。英国の気候変動プログラムは、2000年11月に発表された。それは我々の、京都目標を達成して2010年までに二酸化炭素排出を1990年水準の20%のレベルに下げるという国内のゴールに向かう政策と対策に集中している。
(3) エネルギーレビューの委託事項
政府はエネルギー白書の中・長期目標達成へ向けたプロセスについて、さらにオプションをレビューする。目的は、2006年にエネルギー政策に関する提案を発表するためである。レビューはエネルギー大臣マルコム・ウィックが率いるチームによって引き出される分析とオプションに依拠する。チームは主要な関係省からの役人と首相の戦略部隊からなる。分析とオプションを引き出す際に、エネルギー大臣は、公衆と利害関係者と大規模に協議する。レビューは、健全財政への政府の取組と連携して進められ、納税者とエネルギー消費者に対するの短・中・長期のコストと債務を考慮に入れる。
4.バーナード・ジェンキンのスピーチ
バーナード・ジェンキン氏(影の内閣のエネルギー大臣)は、原子力産業協会(Nuclear Industry Association)の会議『エネルギーの選択:原子力、解決の1つ』のレセプションで、政府に対して、原子力を悪魔とみることを止め、原子力が英国に炭素排出量が少なく、安全なエネルギー供給を保証する重要な役割を持つことを受け入れるよう要請した。ジェンキン氏は次のように述べた:
「政府は国のエネルギー供給の三つの柱、家庭と事業部門の顧客に入手可能な電気を提供し、供給を確保し、環境に関する責務に対応することのどれにも失敗してきた。エネルギー供給のかなりの破綻がみられ、炭素排出目標は失敗し、英国のエネルギー供給の原子力部分は、退却してしまった。原子力は化石燃料発電に置き換わることができる。『断続的な』風力発電がその地位を占めるという仮定は無邪気なものに過ぎない。保守党は、来年英国のエネルギー供給をチェックするというトニー・ブレア首相の決定−5年遅すぎる−に、満足していない。我々は、政府が今年の終りまでにエネルギー白書を発表しなければならないと思う。なぜ、首相はそれを延期しているか?遅れの理由は、不評判といわれることを怖れる政府の心配であった。政策は、また、原子力の拡大をブロックしようと『決心した』政府に取り込まれた、公衆によってゆがめられていた。核廃棄物に対する不安が原子力発電所の建設をブロックする言い訳に使われてはならないし、原子力が作る廃棄物の量は既にある廃棄物の量に比べると無視できる程度に少ない。風力産業が2010年まで、目標を達成するかどうかに拘わらず、年間に受け取る10億ポンドに比べると、原子力産業に過去に与えられた助成金は反対すべきものでさえありえなかった。助成金の整合性が完全に欠けている。原子力ロビーが原子力に関する公衆の心配を理解し、それらの心配に根拠のないことを再保証するようにしなくてはならないと言った。エネルギー政策に関する二党の合意が必要である。我々は、長年にわたってきれいなエネルギー生産をしてきたことに対して原子力産業に感謝する必要がある。我々は、原子力エネルギーを危険とみることをやめる必要がある。大きい変化が労働党の中に起きていることを理解する必要がある。」
また、協会専務理事(Chief Exective) キース・パーカー氏もスピーチをおこなった:
「エネルギー政策のレビューについての首相の発表は、公平で理性的な討論の中で原子力が採り上げられる機会になると希望を持って歓迎する。発表の動機は気候変動と供給の保証の2つの因子である。ハリケーン・カトリーナとリタがもたらした破壊的な効果に注意すべきである。石油価格の最近の上昇は、英国が世界エネルギー問題に免疫を持たないことを意味する。安い、信頼できるエネルギーの時代は、多分終わっている。英国の問題は2015年までに原子力発電の半分が廃止されて電力網から除かれることによって悪化するであろう。我々は次の10年間、電力不足に直面することになる。再生型エネルギーとエネルギー効率の進歩はかなり遅い。したがって、英国が将来の10年間に炭素排出を減少させる、持続的エネルギー供給をどのようにして保証するのかを問いただし、原子力にある役割を果たさせることを主張するのは、正しかったといわれるであろう。原子力はバランスのよいエネルギー源ミックス中の解の一部である。我々は、原子力が将来エネルギー供給及び政府がセットした環境目標の達成に決定的役割を持つと信じている。」
注1: Ipsos MORI Reputation Centerは2005年11月3〜7日の期間、英国の200のサンプリング地点において、15歳以上の成人2,035人に相対でインタビューした。データはイギリスの人口プロフィールで荷重された。Ipsos MORI Reputation Center(調査会社IpsosのMarket & Opinion Research Internationalの世評センター、Ipsosは1975年パリを本拠とするメディアと通信の専門家Didier Truchotによって創設され、公衆の意見調査の専門家Jean−Marc Lechを加え、1990年活動をヨーロッパに拡大、現在は世界に広げている。
注2: 移管行政・領土関係(devolved administrations and territorial departments)はスコットランド、ウェールズ及び北アイルランド関係の行政のことである。
<図/表>
図1 以下のエネルギー源が将来主要なエネルギー供給源となることに賛成ですか、反対ですか?
図2 廃止される原発の代わりに新規原子力発電所を建設することを支持しますか、反対しますか?
図3 将来のエネルギー源としてどのエネルギーに期待しますか?
<関連タイトル>
イギリスの原子力政策および計画 (14-05-01-01)
イギリスの原子力発電開発 (14-05-01-02)
イギリスのPA動向 (14-05-01-07)
イギリスのエネルギー事情と政策 (14-05-01-14)
<参考文献>
(1) Attitudes to Nuclear Energy November 2005 Report Prepared for Nuclear Industry Association,
(2) Department of Trade and Industry:>energy>what's new>29/11/2005 Difficult decision for energy review head Wicks
(3) Department of Trade & Industry,>Energy>What's New> 29/11/2005 Announcement of Energy Review,ENERGY REVIEW − A SECURE AND CLEAN ENERGY FUTURE
(4) Nuclear Industry Association,>Current News>Nuclear has role to play,says the Shadow Minister 5-Oct-2005