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<概要>
 エネルギー・環境・経済に関する3E(Energy Security,Environmental Preservation,Sustainable Economic Growth)問題の同時解決は、21世紀の国際社会が取り組むべき最大の課題である。高い経済成長を遂げたアジア諸国は、世界のエネルギー需給において大きなインパクトを持つようになってきており、アジア地域が将来、地球環境負荷の大きな比重を占めることが確実視されている。中でも中国は、2020年にアジアの1次エネルギー消費の45%を占めると予測されている。2020年の世界のCO2排出量は2000年の約1.5倍に達し、その増加分の約5割をアジアが占める。今後穏やかな経済成長の見込まれる日本は、このアジア増分の約2%しか占めないが、中国はアジア増分の約53%に寄与する。また、中国の硫黄酸化物や窒素酸化物などによる大気汚染は、隣国の日本への影響も含めて深刻である。3E問題は日本の問題に止まらず、日本が如何にアジア諸国、特に、中国と協調しながらこの問題の解決に貢献していくかが重要である。
 ここでは、日中技術協力の動向と課題を、協力体制や原子力利用技術を含むエネルギー・環境技術の観点からまとめる。
<更新年月>
2005年05月   

<本文>
1.はじめに
 アジア地域が将来、地球環境負荷に大きな比重を占めることが確実視されている。中でも中国は、2020年にアジアの1次エネルギー消費の約45%、アジアのCO2排出量の約50%を占めると予測され(文献1)、硫黄酸化物や窒素酸化物の大気汚染問題も隣国の日本への影響を含め深刻である。日本としても3E問題の解決に向けて、エネルギー安定確保とエネルギーに関わる環境問題を中国と協調しながら解決することが極めて重要である。
 中国では、改革開放路線下の目覚しい経済発展の裏で、電力不足、資源の浪費やそれに伴う環境破壊が深刻化している。このままでは、今後の経済社会の発展にとって重大な制約要因になりかねないとの危機感があり、持続可能な発展戦略の一環として、経済発展モデルの転換を視野に入れた「循環経済」の実現に取り組みつつある。これは、地球環境保全の観点からも強く要請され、環境技術に力を入れてきた日本の協力も期待されている。
 日本は、中国へのエネルギー・環境分野における技術協力を、政府開発援助(ODA)で実施してきた。技術協力事業を行う法人は、国際協力機構(JICA)の他に、日本貿易振興機構(JETRO)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)等があり、中国において各機関の専門分野で大きな貢献をしつつあるが、移転技術のミスマッチや現地での技術者不足等の多くの課題も出てきている。
 ここでは、3E問題を中国、日本の現況から概観すると同時に、エネルギー・環境分野におけるこれまでの日中技術協力の動向と課題を、協力体制や原子力利用技術を含むエネルギー・環境技術の観点からまとめる(文献2)。
2.中国、日本のエネルギー・環境・経済に関する状況
 中国経済は、旺盛な内需を背景に1990年代を通じて高い経済成長を維持し、2000年代にはいってもWTO(World Trade Organization:世界貿易機関)加盟後、7〜9%の成長率を維持している。長期的には、国内経済格差、国有企業改革、失業、不良債権などの問題を抱えつつも、これまでのような適切なマクロ経済運営がなされれば、年率7.2%の成長が予測されている(文献1)。
 高度経済成長とモータリゼーションの進展により、エネルギー需要は増大し、中国は、既に、世界第2位の1次エネルギー消費国である。2020年には、石油換算20.6億トン(文献1)(IEA、World Energy Outlook2002によると17億トン)の消費が見込まれる。これによれば、世界の1次エネルギー消費に対する中国のシェアは約15%に達する見通しで、アジアでみると、1次エネルギー消費に占める中国のシェアは、2000年の38%から2020年には45%へ増加する(図1)。
 エネルギー種別では、現状で石炭が1次エネルギーの約70%、石油が約20%を占める。2020年へ向けて、天然ガスや原子力のシェア拡大に伴い、石炭への依存度は56%程度へ低下するが、石炭は、今後も主要エネルギー源である。発電構成シェアでも、2000年で石炭火力78%、水力16%、石油火力3.4%、原子力1.2%と石炭火力が大きな比重を占め(文献1、3)、2020年においても石炭火力は70%の予測である。
 世界のCO2排出量は、2000年の炭素換算65億トンから2020年には同99億トンにまで増加し、約1.5倍に達する。この増加分の約5割をアジアが占める。中でも中国のCO2排出量は、アメリカに次いで世界第2位で、2020年には、中国のCO2全排出量は炭素換算約18億トン(文献1)(文献4によると約15億トン)と予測されている。アジアにおける中国のCO2排出量割合は2000年で47%、2020年に向けて50%に増大する(図2)。2000年と2020年を比較すると、アジアにおけるCO2排出量増分は、炭素換算約17億トンであるが、その約53%を中国が占める。排出源は、現在、主に発電部門と産業部門であり、モータリゼーションによって輸送部門のシェアが高まっていくとみられている。中国の炭酸ガス排出増大が今後の地球温暖化に与える影響は大きい。
 日本では、エネルギー安全保障が、政策の優先課題であったため、過去30年間で、石油から原子力、天然ガス、石炭への急激なシフトや産業部門を中心にした省エネルギーが進展し、エネルギーの石油依存度が77%から49%まで減少した。今後は、穏やかな経済成長(年率1.3%)と、少子高齢化による人口減少および省エネルギー化が進み、エネルギー消費量は横這いまたは減少の見込みである。アジアでの1次エネルギー消費シェアも2000年の22%から2020年12%へ低下する(図1)。
 近年、地球温暖化防止が最優先課題になっているが、現時点では、地球温暖化大綱(京都議定書)における2008〜2012年温室効果ガス削減率6%(1990年比、5年間平均値)の目標達成は困難と見られている。しかし、中長期的には、アジアでの日本の炭酸ガス排出量割合は、2000年時点の17%から2020年には9%に低下する(図2)。一方、中国での炭酸ガス排出量割合は、上記のように増大することから、日本国内でも引き続き炭酸ガス排出量抑制努力を行うことはもちろんであるが、アジア域での取り組み、特に、中国との共同取り組みが不可欠である。
 日本は石炭利用・クリーン化、天然ガス利用、原子力利用、再生可能エネルギー利用、環境対策技術の先進技術を有している。これを、アジア諸国、特に、中国で有効活用してもらうことが極めて重要である。
3.日中技術協力動向と課題
 日本は、エネルギー・環境分野における中国への技術協力を、政府開発援助(ODA)という形で実施してきている(文献5)。ODAには、開発途上国に対して直接支援を実施する二国間援助と、国際機関を通じた援助(多国間援助:国際機関に対する出資や拠出)があり、さらに、二国間援助には贈与の「無償資金協力」と「技術協力」、政府貸付の「有償資金協力(円借款)」がある(図3)。図3には、2001年実績ベースの全金額と総額に対する割合を記してあるが、無償資金協力や技術協力の贈与の割合が約半分となっている。
 エネルギー・環境分野におけるODAを用いた日中技術協力の一例を表1に示す。エネルギー分野では、主に、NEDOが中心となって石炭利用、天然ガス利用、水力利用、エネルギー有効利用に関して、中国への協力を進めており、特に、中国の主要エネルギーである石炭の有効利用に関する協力事業、すなわち、循環流動床ボイラ導入支援事業や脱硫型CWM(Coal Water Mixture)設備共同実証事業等が実施されてきた。一方、環境分野では、環境省、JICAがリードして、大気汚染、酸性雨、水、一般廃棄物、化学物質、環境管理政策等、様々な分野での環境対策協力を実施しつつある。しかしながら、これらの技術協力は、例えば、脱硫技術移転でみると、パイロットプラント的な意味合いが強く、本格的な導入にまでは至っておらず、技術協力の成果を定量的に把握することは難しいのが現状である(文献3)。
 企業の総投資活動を把握するため、日系企業が、中国への投資をどれぐらい行ってきているかをEU系、米国系、アジア諸国系企業と比較して調べた。図4にエネルギー・環境技術を含む全技術分野における対中投資金額(実行ベース)推移を示す。日系企業の投資は、香港系、EU系企業に比べて小さい。中国でのヒアリング調査結果によると、この原因として、日系企業の中国での現地情報収集能力、営業力、販売力が、EU系企業に比べて低下していることが挙げられている(文献6)。
 日中技術協力動向を経済協力、企業の対中投資から調査してみると、エネルギー・環境分野ならびにそれ以外の分野も含めて、日中技術交流は発展しつつある。しかし、表2に示すように、政府ベースおよび民間ベース双方で日中協力における課題も出てきている(文献3,7)。一つは、適合技術移転、もう一つは、技術者育成である。1点目は、日本の協力内容と中国の実態がうまく整合していないという課題で、中国側の資金面、制度面の問題からインフラ整備が追いついていない、一方、技術や製品を提供する日本企業側は、現地情報の収集能力や営業力、販売力が低下しており、移転技術のミスマッチが起きている。2点目は、中国の現場技術者、研究者に移転技術やノウハウが届いていないという課題で、日本の企業や大学からの専門家派遣数や派遣回数が少ない、技術やノウハウを教える研修設備拠点が少ないという問題点がある。
 この課題への対策として、エネルギー・環境技術センターの設置が必要である。日中両政府合意のもとに、上記センターを設置、中国での現場拠点にする。中国の全地域をカバーできるような拠点数とする。日本の企業、大学等が得意技術・製品を展示、説明するとともに、省エネルギーを含むエネルギー管理や環境管理の研修も幅広く行う。研修センターがあれば、現場の中堅技術者にノウハウを提供でき、研修生は現場にそれを広く伝達できる。企業は、実際の現場を視察して周辺環境や必要条件を把握し、それに適合した工夫も可能である。また、今後、日本から中国へ移転する実用化技術の知的財産権保護や、中国への技術移転に伴う投資環境整備も重要であり、日本が本センターを通して中国政府へこれらを働きかけることができるようにする。
 地球環境問題やエネルギー安全保障問題において、共同取り組みが必要になりつつある現在、上記センターを通して、日本の有する石炭利用・クリーン化、天然ガス利用、原子力利用、再生可能エネルギー利用、環境対策に関する先進技術を、中国に普及してもらうことが大切である。
4.日本が提供できる原子力利用技術
 中国の国家発展・改革委員会能源局(2003年3月設置)は、電力事業の発展原則の一つとして原子力発電を積極的に開発し、2020年までに総発電容量の4%、36百万kW(約31基)を原子力発電で賄う計画である(文献8,9)。純国産で原子炉を造る技術は、まだ、確立されておらず、当面、外国から原子炉を輸入することになる。一方、日本の原子力(軽水炉;LWR)は1970年から順次投入され、現在では1次エネルギーの約15%、総発電量の約1/3を基幹電源として供給しており、軽水炉技術で日本は中国へ貢献できる。
 中国は、2004年、原子力設備の輸出入を制限する国際的な核不拡散の枠組みであるロンドンガイドライン(*)に加盟することを決定したため、今後、日本からも中国へ原子力技術、製品を輸出することが可能になる。ただ、EU、米国も自前の原子力技術、製品を、国を挙げて売り込む動きを見せており、日本も政府の後押しが必要である。

[用語解説]
(*)ロンドンガイドライン(London guideline):インドの核実験を契機として、核物質の核兵器への転用を防ぐために1975年、日、米、旧ソ連等7ヵ国がロンドンに集まって対策を協議し、その後、計15ヵ国が参加して非核兵器国への原子力関連輸出に適用されるガイドラインに合意した。これをロンドンガイドラインといい、1978年IAEAから公表された(現在は27ヶ国)。
<図/表>
表1 エネルギー・環境分野における日中技術協力の一例
表1  エネルギー・環境分野における日中技術協力の一例
表2 日中技術協力における課題と対策
表2  日中技術協力における課題と対策
図1 アジアの1次エネルギー消費(地域別)
図1  アジアの1次エネルギー消費(地域別)
図2 アジアのCO2排出量推移
図2  アジアのCO2排出量推移
図3 日本の政府開発援助(ODA)実施体制の仕組み
図3  日本の政府開発援助(ODA)実施体制の仕組み
図4 企業の対中投資金額推移(実行ベース)
図4  企業の対中投資金額推移(実行ベース)

<関連タイトル>
エネルギーに関する国際的取り組み (01-01-01-01)
アジアにおけるエネルギー動向 (01-07-02-10)
アジア地域におけるCO2排出量の予測(科学技術政策研究所) (01-08-01-10)

<参考文献>
(1)財団法人日本エネルギー経済研究所、「アジア/世界エネルギーアウトルック −急成長するアジア経済と変化するエネルギ−需給構造−」、2004年3月
(2)大平竜也、「エネルギー・環境分野における日中技術協力動向と今後の展望」、科学技術動向2004年7月号、p.22−30
(3)張 継偉、「中国の電力産業の動向」、エネルギー経済、第30巻第2号(2004年春季).
(4)NIRA北東アジア環境配慮型エネルギー利用研究会編、「北東アジアの環境戦略」、日本経済評論社、2004年
(5)外務省:ODAホームページ、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/
(6)富士通総研:金賢敏、「日米欧企業の対中投資戦略・マネジメントの比較」、2001年、http://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/010620_03.pdf
(7)財団法人日本エネルギー経済研究所:小川芳樹、「東アジアのエネルギーと環境問題」、http://www.esri.go.jp/jp/tie/ea/ea4.pdf
(8)諸岡秀行、船越節彦、「中国の電力・原子力発電の動向」、海外事務所報告1、4−20、2004年
(9)中国新聞社、2004年5月25日付
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