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<概要>
 原子力産業は総合的な長期間の大きな投資を必要とする分野であり、放射性廃棄物処分の長期の監視、防災と事故時の影響の低減、材料の再利用、資源の有効利用等の観点から、規制情報や安全情報の密接な交換が望ましい。ドイツとは、1985年から規制全般の意見交換から始まり、2006年にはドイツ環境自然保護原子炉安全省安全局(BMU)と文部科学省科学技術・学術政策局との間に取決めがある。スウェーデンとは、1988年に原子力発電検査庁(SKI)と当時の通産省資源エネルギー庁との間で情報交換の取決めが結ばれ、2006年には経産省原子力安全・保安院に引き継がれている。韓国との間には、1991年から韓国科学技術処(MOST)と当時の通産省資源エネルギー庁及び科学技術庁原子力安全局との間に取決めがあり、これらは、それぞれ経産省原子力安全・保安院、及び文部科学省科学技術・学術政策局に引き継がれている。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
1.目的
 エネルギー資源の多様化、二酸化炭素排出量の低減、放射線利用の拡大等から、原子力利用は国際的に広がっている。原子力産業は総合的な長期間の大きな投資を必要とする分野であり、利用技術、放射線防護・安全技術、経済性・福祉等の向上の観点から科学技術情報の交換は不可欠であり、また、放射性廃棄物処分場の長期の監視、防災と事故時の影響の低減、材料の再利用、資源の有効利用等の観点から、規制情報や安全情報の密接な交換は原子力利用に好ましいものである。
 日本は、表1に示す国々と原子力の規制情報や安全情報交換の取決めを結び、経験・知見を公開し助言と意見交換を図り、より合理的で効果的な規制の検討に反映している。
2.日独の規制情報、安全情報の交換
(1)経緯
 1985年に西独研究技術省(BMFT)と当時の通産省資源エネルギー庁との間で規制情報交換の取決めが結ばれ、規制全般の意見交換が始まった。1989年には、環境自然保護原子炉安全省安全局(BMU)と当時の科学技術庁原子力安全局との間で原子力の安全情報交換の覚書が結ばれた。1990年に東独・西独の統一があったが取決めは継続され、2006年には環境自然保護原子炉安全省安全局(BMU)と文部科学省科学技術・学術政策局との間に取決めがある。2004年に資源エネルギー庁との取決めは終了した(表1)。
(2)活動
 表2に主な活動を示す。1986年のチェルノブイル事故後の約10年間は、安全情報や規制情報の活発な交換があったが、1995年以降は低調になる。これは、10年以上の長い議論があったドイツの脱原子力活動と無縁ではない。
 1998年、ドイツの社民党と緑の党の連立政権は、脱原子力のため2001年に原子力発電所の段階的な閉鎖を決めた。発電所間や事業者間で割当て量を交換して運転延長を計ることは認められているが、新しい原子力発電所から古い原子力発電所への割当量の移譲は認められにくい状況である。
 2005年には、原子力推進派のキリスト教民主社会同盟と社民党との連立政権が誕生したが、当面、脱原子力政策に大きな変更は無い模様である。
3.日・スウェーデンの規制情報、安全情報等の交換
(1)経緯
 1988年スウェーデン原子力発電検査庁(SKI)と当時の資源エネルギー庁との間で、原子力発電の安全情報交換の取決めが結ばれた。1989年にはSKIと当時の科学技術庁原子力安全局との間で、原子力安全の確保に関する情報交換覚書が結ばれた。2006年にはSKIと経産省原子力安全・保安院との取決めがある(表1)。
(2)活動
 表2に主な活動を示す。2000年までは活発な意見と情報交換が見られたが、それ以降は比較的低調である。これは、スウェーデンの原子力事情と関連しよう。
 米TMI事故の翌1980年に、スウェーデンは原子力発電の全廃期限を2010年に設定し段階的に廃止することを決めた。しかし、1997年に全廃期限は撤回された。2006年の総選挙で新しい政権が成立し、原子力政策については、1)2006〜2010年の間は発電所の段階的廃止について政策決定はない、2)新しい原子力発電所は建設しない、3)廃止した2基の発電所は運転再開しない等を決めている。ただし、出力増強は認めており、現行のほとんどの発電所の出力増強は既に実施済みか計画中である。
4.日韓の規制情報、安全情報等の交換
(1)経緯
 1990年、原子力協力の強化の取決めが結ばれ、原子力安全、放射線利用、人的交流等を積極的に進めることとなった。1991年には韓国科学技術処(MOST)と当時の通産省資源エネルギー庁との間で「日韓規制情報交換取決め」が結ばれ、また同年、当時の科学技術庁原子力安全局との間で「原子力安全情報交換協力実施取決め」が結ばれた。これらは、それぞれ経産省原子力安全・保安院、及び文部科学省科学技術・学術政策局に引き継がれている(表1)。
(2)活動
 表2に主な活動を示す。1990−95年の間は、原子力安全文化、運転経験と安全規制、原子力安全早期連絡網の設置・運営等の情報交換が活発である。1996−2000年の間は、規制の全般的な意見交換とともに、1995年の「もんじゅ」のナトリウム洩れと1997年のアスファルト固化工場の火災が話題になっている。
 韓国はエネルギー資源の97%を輸入しており、2008年には原子力発電所20基、17.7GWeが運転中である。また、2030年に電力の60%を原子力発電でまかなう計画である。原子力安全規制については、教育科学省(MEST)の韓国原子力委員会(NSC)が基本方針を決定し、技術的なサポートは韓国原子力安全技術院(KINS)が担当している。今後も原子力安全と規制情報の活発な交流が予測される。
(前回更新:2003年3月)
<図/表>
表1 二国間原子力規制情報交換等の枠組み(2009年)
表1  二国間原子力規制情報交換等の枠組み(2009年)
表2 ドイツ、スエーデン、韓国との規制情報、安全情報等の交換活動
表2  ドイツ、スエーデン、韓国との規制情報、安全情報等の交換活動

<関連タイトル>
日米原子力協定 (13-04-02-01)
日仏原子力協定 (13-04-02-03)
日露原子力協定 (13-04-02-07)
日韓原子力平和利用協力取極 (13-04-02-08)
原子力規制情報交換等の日米、日仏間の取決め (13-04-02-09)
日英原子力協定(1998年) (13-04-02-12)
エネルギー環境分野における日中技術協力の動向 (13-04-02-13)

<参考文献>
(1)原子力安全・保安院
(2)原子力安全委員会、原子力安全白書、昭和56−平成18年、二国間協力
(3)原子力安全委員会、原子力安全白書、平成9年、第2編 第5章、第2節 二国間協力
(4)原子力安全委員会、原子力安全白書、平成13年、第3編 第7章 第3節 二国間協力
(5)原子力安全委員会、原子力安全白書、平成18年、第4編、第7章、第2節 二国間による協力
(6)(社)海外電力調査会、ドイツ
(7)原子力委員会、伊藤原子力委員会委員の海外出張報告(平成19年)、スウェーデン、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2007/siryo40/siryo40-1.pdf
(8)アジア原子力協力フォーラム(FNCA)、第二回パネル報告、韓国、http://www.fnca.mext.go.jp/panel/panel2_02.html
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