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<概要>
 日韓両政府間での原子力平和利用の協力は、1985年に署名された日韓科学技術協力協定の下で行われてきたが、その後、両国が地理的に近接していることに加えて、韓国が1980年代以降に急速に原子力発電を推進してきたことなどから、原子力発電の安全性や放射線防護、環境監視等の分野で一層の協力関係を保つ必要があるとの共通の認識の下、1990年5月に日韓間で原子力平和利用の協力取極に関する書簡を交換した。
 日韓原子力平和利用協力取極は行政協定であり、核物質、原子力関連資機材、機微な技術の移転等はこの協定の対象外であるが、原子力安全早期連絡網、安全規則、防災技術等の安全性に係る事項を中心に人材の交流、養成等も含めて、この取極の下で密接な協力が行われている。
<更新年月>
2003年03月   

<本文>
1.締結までの経緯
 原子力の平和的利用の分野における日韓両国政府間の協力は、従来、1985年(昭和60年)12月20日に署名された日韓科学技術協力協定(科学技術の分野における協力に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定)の下で、人的交流および情報交換の形態で行われてきた。
 韓国は、1978年(昭和53年)に最初の原子力発電所古里1号機の営業運転を開始してから1980年代(昭和55年〜平成元年)に急速に原子力発電を導入し、合計8基(月城1号機、古里2・3・4号機、霊光1・2号機、蔚珍1・2号機)の原子力発電所(合計出力:702.9万kW)を運転開始させた。韓国における1978年から1989年(平成元年)までに営業運転を開始した原子力発電所の一覧を表1に示す。
 このような韓国での原子力発電の比率(注)が高まってきている状況にてらし、地理的に近接した日韓両国の間で、従来から行われてきた協力をさらに進展させ、特に、原子力発電所の活動における安全性、放射線防護および環境監視等の分野での協力を発展させることが重要であるとの両国政府の共通の認識を踏まえ、両国政府間で協議を行ってきた。
 1990年(平成2年)3月に韓国の李科学技術処長官が来訪の際、大島科学技術庁(現文部科学省)長官に日韓原子力協力取極締結の申し出があり、その内容についって合意をみたので、1990年5月25日に東京において、日韓原子力平和利用協力取極(原子力の平和的利用の分野における協力のための日本国政府と大韓民国政府との間の交換公文)に関する書簡交換が日韓両国外相間で行われた。
 (注)1981年から2000年までの韓国における電源別総発電電力量の推移を表2に示す。1980年代における総発電電力量に占める原子力(発電、以下「発電」を省略)の割合は1981年が約7%、1984年が約20%、1986年が約41%、1989年が約46%で、1980年代は伸び続けた。1990年以降の原子力の割合は、1990年が約45%、1993年が約36%、1995年が約33%、1998年が約38%、2000年が同じく約38%と推移している。
 1990年代以降における電源別発電電力量の推移をみると、火力は1990年に59,490百万kWh、1997年に166,163百万kWhまで増加し続け、1998年に141,409百万kWhに落ち込んだものの、1999年には153,022百万kWhと増加に転じ、2001年は176,296百万kWhと、約3倍に増加している。水力は5,000〜6,000百万kWhと、ほぼ一定の発電電力量で推移し、2000年は5,610百万kWhとなっている。原子力は1990年が52,887百万kWhで、以降増加し続け、2000年には108,906百万kWhで、倍増している。
 1990年代以降の電源構成は、火力が60〜65%程度、水力が2〜5%程度、原子力が30〜40%程度で、バランスがとれているといえる(表2参照)。(注)終わり。
2.協力取極の主な内容
 この協定の主な内容は次のとおりである。
(1) 両国政府は、法令の範囲内で、かつ、関係する国際約束に従い、原子力発電所の活動における安全性等の分野における協力を発展させ、または容易にするよう努力する。
(2) 前記の協力は、両国政府、政府の権限のある当局、企業または研究機関の間で情報の交換、専門家の交流等の方法により行われる。
(3) 協力のそれぞれの形態に関する条件は、必要な場合にはそれぞれの政府の承認を条件として、関係当事者間で取り決められる。
(4) 両国政府は、原則として毎年交互に日本国および大韓民国において協議を行う。
(5) 両国政府は、それぞれの国は「原子力事故の早期通報に関する条約」および「原子力事故または放射線緊急事態の場合における援助に関する条約」の締約国であるかぎり、原子力事故または放射線緊急事態の場合においてこれらの条約に従って行動することが確認される。
 日韓原子力平和利用協力取極(原子力の平和的利用の分野における協力のための日本国政府と大韓民国政府との間の交換公文)の全文を、表3に示す。
3.協力取極締結の意義
 韓国はわが国の隣国であるとともに、アジアで第2位、世界でも第10位の原子力発電設備を持つ国であり、同国の原子力発電所の安全性が確保されることはわが国にとって極めて重要である。この取極の締結により、原子力発電所の安全性等に関する情報交換、科学者・技術者・専門家の交流等の協力を行う枠組みが整備されたことは、両国の原子力発電所の安全性向上に資するものである。
 また、本取極のもとでは放射線防護および環境監視等の分野での協力も予定されている。
4.日韓原子力協議
 上述の「日韓原子力平和的利用協力取極」に基づく日韓原子力協議が、第1回(1990年:平成2年)、第2回(1991年:平成3年)と開催され、その後、第8回(2002年:平成14年)まで開催された。
(1)第1回日韓原子力協議
 1990年(平成2年)11月ソウルにおいて両国政府関係者が出席して開催された。この協議では、(1)日韓両国の原子力政策、両国の第三国との原子力協力の現況、国際原子力機関(IAEA)、アジア太平洋地域協力協定(RCA)等を通じた多国間協力の現状等ついて、意見交換を行うとともに、(2)日韓両国が関心を有する23の課題を設定し、これにつき協力することに合意した。合意された主な協力課題は次のとおりである。
(a)原子力発電所の活動における安全性の分野
・原子力安全早期連絡網の設置・運営
・原子力発電所の安全規制
・原子力発電所の安全研究等
(b)放射性防護および環境監視の分野
・原子力発電所に関する防災技術協力等
(c) 放射性同位元素および放射線研究の分野
・放射線の医学的利用に関する共同研究等
(d)その他の分野
・原子力に関する人材の養成等
(2)第2回日韓原子力協議
 1991年(平成3年)11月東京において開催された。
 この協議では、日韓両国は二国間および多国間における原子力協力に関する意見交換、協議の他、第1回原子力協議で合意された23の協力課題が順調に推進されていることに満足し、さらに、韓国側から新規に協力要請があった「原子力施設保修用知能ロボット開発」および「低レベル放射線計測システムに関する専門家交流および情報交換」について協力を行うことに合意した。
(3)最近の日韓原子力協議
 2002年(平成14年)10月23日、第8回日韓原子力協議が東京で開催された。この協議には、日本側から、天野之弥軍備管理・科学審議官(外務省)を代表として、外務省、経済産業省および文部科学省の関係者が、韓国側から、任洪宰(イム・ホンジェ)外交通商部国際経済局長を代表として、外交通商部、科学技術部ほかの関係者が出席した。
 協議では、日韓両国の原子力政策について理解を深めるとともに、日韓原子力平和的利用協力取極に定める諸分野における両国間の協力を発展させるために、幅広い意見交換・討議が行われた。
 なお、第7回日韓原子力協議は、2000年3月にソウルにおいて開催されている。
<図/表>
表1 1989年までに営業運転を開始した韓国の原子力発電所一覧
表1  1989年までに営業運転を開始した韓国の原子力発電所一覧
表2 韓国の電源別総発電電力量の推移(1981〜2000年)
表2  韓国の電源別総発電電力量の推移(1981〜2000年)
表3 日韓原子力平和利用協力取極の全文
表3  日韓原子力平和利用協力取極の全文

<参考文献>
(1)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力年鑑平成4年版(1992年11月2日)p.226−227
(2)外務省原子力課(監修):原子力国際条約集,(社)日本原子力産業会議(1993年6月10日)p.25,p.409−411
(3)原子力委員会:日韓原子力平和利用協力取極の締結、平成2年版原子力白書
(4)科学技術庁(監修):平成12年版科学技術六法、(株)大成出版社(2000年3月31日)p.1836
(5)外務省:第8回日韓原子力協議の開催について(プレスリリース)、http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/14/rls_1022a.html
(6)(社)日本原子力産業会議(編集発行):原子力ポケットブック2002年版(2002年11月8日)p.388,p.395
(7)(社)海外電力調査会(編集発行):海外諸国の電気事業第1編1993年(1993年12月)p.409−434
(8)(社)海外電力調査会(編集兼発行):海外電気事業統計1994年版(1994年7月31日)p.413
(9)(社)海外電力調査会(編集発行):海外電気事業統計2002年版(2002年8月30日)p.3,
p.121−136
(10)(社)日本原子力産業会議(編集発行):世界の原子力発電開発の動向2001年次報告(2002年5月31日)p.4,p.25−26,p.68−69,p.72−73,p.75,p89,p.112−113,p.134,p.157
(11)日本電機工業会:平沼博志、韓国の原子力発電と第12回環太平洋原子力会議の視点、「電気」(2000年12月)(全8枚)
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