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<概要>
 IAEAには、原子力の平和利用促進のための1.原子力エネルギー局、2.原子力安全・核セキュリティ局、3.原子力科学・応用局、4.技術協力局、原子力の核兵器利用防止のための5.保障措置局及びIAEA全体のマネジメントを担う6.管理局がある。1.原子力エネルギー局は持続可能な原子力開発の促進、核燃料サイクルと原子力施設のライフサイクルに関する技術支援の提供、原子力情報と知識マネジメントにおける能力構築を実施する。2.原子力安全・核セキュリティ局は、電離放射線の有害な影響から人類、社会及び環境を防護し、持続可能な原子力安全・核セキュリティの枠組みを提供する。3.原子力科学・応用局は、保健、食品、農業から環境、水資源、産業に至るまで、幅広い社会経済分野を担当する。4.技術協力局は、国、地域及び地域間における原子力科学技術の利用を支援する。5.保障措置局は、世界の査察機関として保障措置を実施し、核兵器の拡散防止に貢献する。これらの活動の内容は、IAEAのホームページや担当部局、INISやIAEAライブラリから知ることができる。
<更新年月>
2023年8月

<本文>
 国際原子力機関(IAEA)は、原子力の平和利用の促進とその軍事利用への転用を防止する目的で1957年に発足し、図1に示す6局で構成される(2022年12月現在)。そのうち、原子力の平和利用促進を担当するのが、1.原子力エネルギー局、2.原子力安全・核セキュリティ局、3.原子力科学・応用局、及び4.技術協力局であり、原子力の核兵器への転用防止を担当するのが、5.保障措置局である。これに加えてIAEA全体のマネジメントを担う6.管理局がある。

1.原子力エネルギー(NE)局
 加盟国の原子力利用計画を支援することにより、持続可能な原子力開発を促進するとともに、核燃料サイクルと原子力施設のライフサイクルに関する技術支援を提供し、エネルギー政策、分析、原子力情報・知識マネジメントにおける能力構築を担当する。
 活動は(1) 原子力発電、(2) 燃料サイクル・廃棄物技術、及び(3) 情報サービスに大別される。
(1)原子力発電部
 加盟国の戦略的な原子力エネルギー計画を支援し、既存の原子力発電所の性能維持と長期に亘る安全性の確保、次世代原子炉の技術開発と非電力用途への原子力の安全な利用のための協力枠組みの提供、原子力発電計画のための先進的な管理手法や能力構築を支援する。
 主な業務としては、a) 原子炉の安全管理、保守、老朽化対策、b) 原子力発電プロジェクトの管理・支援、c) SMRを含む新型炉の技術開発支援、d) 加盟国への助言の提供、e) 水素製造等の原子力の非電気的応用、f) 人的資源の開発等がある。
 革新的な原子炉と燃料サイクルの研究開発では、INPRO(International Project on Innovative Nuclear Reactors and Fuel Cycles)がある。これは、21世紀のエネルギー需要に応えるエネルギーシステム開発を支援する計画であり、2001年に発足し43ヶ国とEUが参加している。日本は2006年に参加した。将来の原子力エネルギー技術、その比較検討、選択基準などの検討が進められている。
 またグロッシー事務局長のイニシアチブとして、規制機関と運転事業者・メーカーによる議論を進め、SMR建設の円滑な推進、CO2排出量の実質ゼロを目標とする原子力の調和・標準化イニシアチブ(NHSI)を2022年に開始した。
(2)燃料サイクル・廃棄物技術部
 核燃料サイクル、廃棄物管理、研究炉に関するIAEAの活動の企画・立案及び履行の役割を担っている。特に、a)安全で、環境に優しく、費用対効果の高い核燃料サイクル・廃棄物管理・廃止措置、環境回復(原子力発電を支える活動)の実現、b) 研究炉の利用促進及び運転、c) 使用済密封線源を含む全ての廃棄物の管理に関する戦略・技術の検討に重点を置いている。
 核燃料サイクルについては、ウラン生産、発電用原子炉の燃料技術、使用済燃料の管理、新型炉の燃料と燃料サイクル等がある。また、放射性廃棄物については、放射性廃棄物インベントリの特性評価、廃棄物の最小化、使用されていない放射線源の回収・調整・保管・リサイクル等の支援を実施する。
 研究炉については、原子力インフラ開発を含む研究炉のライフサイクルのあらゆる段階で加盟国を支援し、研究炉で使用される高濃縮ウランの低減に貢献する。
(3)計画・情報・知識マネジメント部
 原子力利用の経済性、エネルギーシステム計画、環境に関する持続可能な開発問題、情報管理・情報発信、及び原子力の知識マネジメントの分野で、支援を行う。
 原子力情報について、情報全般を検索できるINIS(International Nuclear Information System)及びIAEAライブラリを管理する。

2.原子力安全・核セキュリティ(NS)局
 電離放射線の有害な影響から人々、社会及び環境を守り、その原因が安全でない行為であれ、核セキュリティ上の不備であれ、強力で持続可能かつ目に見える世界的な原子力安全・核セキュリティの枠組みを提供する。
 主な業務は、(1) IAEAの安全基準の策定と関連文書の整備、安全レビューとアドバイザリーサービスの提供、(2) 放射線防護、放射性廃棄物、輸送の安全基準の開発・支援、(3) 核セキュリティ要件とガイダンス文書の作成、加盟国への人材育成支援、技術的アドバイス、ピアレビュー及びその他のアドバイザリーサービス、(4) 事故・緊急事態対応センターの運営、(5) 原子力安全と核セキュリティ間の調整、(6) 東京電力福島第一原子力発電所事故に関する報告書の作成等である。

3.原子力科学・利用(NA)局
 保健、食品、農業から環境、水資源及び産業まで、幅広い社会経済分野を担当する。研究施設は、モナコ海洋環境研究所、ウイーンの同位体水文学研究所、及びオーストリアのサイバースドルフにある原子力応用研究所である。
 健康研究では、放射線生物学・放射線治療、放射線量計測・医療放射線物理を利用して、がん、心血管疾患、栄養不良、その他の疾病への対処を支援する。
 食品・農業研究では、害虫駆除、ツエツエ蝿駆除、食品の安全性と品質の向上、水資源探査における安定同位体の利用などがある。
 物理・化学研究では、核データ、原子・分子・プラズマと物質の相互作用過程、放射線の照射技術、研究炉・加速器利用、トレーサー技術、核分裂・核融合研究、放射性同位元素と放射性医薬品の製造支援、標準物質の製造・配布などが含まれる。
 地球・海洋環境研究では、核・放射性同位体技術を用いて、放射性核種、微量元素、有機汚染物質、気候変動、生物の生息地の破壊、多様性の損失が環境に与える影響等を理解し、緩和策や対策を提供する。

4.技術協力(TC)局
 国、地域及び地域間のレベルにおいて、持続可能な開発の主要な優先課題に対処するための原子力科学技術の利用を支援する。
 2022年には、年間89.9Mユーロの予算(技術協力基金)で、アフリカ、アジア・太平洋、ヨーロッパ及びラテンアメリカ・カリブ海の4地域で原子力の平和利用の促進活動を実施し、約1200のプロジェクトを展開した。
 技術協力の形式は、国別協力、地域協力、地域間協力に分かれる。
(1)国別協力:加盟国−IAEAで協力協定を結ぶ方式である。
(2)地域協力:地域−IAEAで協力協定を結ぶ方式である。アフリカ地域(AFRA)で402プロジェクト、ラテンアメリカ・カリブ海地域(ARCAL)で230プロジェクト、アジア・太平洋地域(RCA)及びアラブ地域(ARASIA)で380プロジェクト、そしてヨーロッパ・中央アジアの33ヶ国で170プロジェクトの技術協力支援を行っている。
(3)地域間協力:国や地域の境界を越えた技術協力支援を提供する(28プロジェクト)。放射性廃棄物の処理処分、放射線利用、核医学、原子力開発に係る能力構築、廃炉・環境修復などのプロジェクトがある。
 上記プロジェクトは、いずれも2023年8月現在の情報である。

5.保障措置(SG)局
 核物質が核兵器に転用されないように、IAEAが保障措置協定及び取決め等をIAEA加盟国と締結し、保障措置等を通じて同協定締結国が核物質及び技術を平和目的でのみ使用するという国際的な法的義務を遵守していることを確認する。同協定締結国が報告した核物質の利用などの活動を、SG局の査察官が独自に検認する。
 概念・計画部は核物質、施設及び活動の保障措置に関する概念、アプローチ及び方法の開発、保障措置政策及びガイダンス文書の作成等の業務を担当する。
 査察を担当する実施部は地域別に3組織から構成される。
 情報管理部は、情報収集・分析及び専門家の育成、計量報告や追加議定書に基づく申告書を受理し、分析を行う。
 保障措置分析室は、核物質及び環境試料の分析、関連する資材の提供、分析所ネットワークにおける加盟国の研究機関との協力を担当する。

6.情報交換活動
 IAEA各局の活動情報の多くは、インターネットで直接アクセスして入手できる。出版物はIAEAのホームページの「Publication」で確認できる。
 INISは、132ヶ国と24の国際機関が参加しているIAEAの原子力情報データベースであり、原子力の科学技術に関する文献、出版物、INIS参加国の政策関連の報告書等を包含する。このデータベースは、2009年4月よりインターネットから無料で利用できる。問い合わせ先は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 JAEAイノベーションハブ 科学技術情報課(電話:070-1538-6485 電子メール:inismail@jaea.go.jp)となっている。
 IAEAライブラリは、原子力情報の保存・管理、情報提供、情報交換の中枢であり、IAEAの国際標準・指針・規則、レポート、レビュー、会議報告、特許、ジャーナル、教育・訓練などに関する多くの科学・技術情報を管理・出版している。

<図/表>
図1 IAEAの組織(2022年12月現在)
図1  IAEAの組織(2022年12月現在)

<関連タイトル>
IAEAによる開発途上国等への技術支援・協力 (13-01-01-01)
IAEAによる国際基本安全基準等の策定(BSSとINES) (13-01-01-02)
IAEAの保障措置 (13-01-01-05)
国際原子力機関(IAEA) (13-01-01-17)
国際原子力機関(IAEA)による放射線防護活動 (13-01-01-18)
国際原子力情報システム(INIS) (13-01-01-23)
IAEAのアジア・太平洋地域協力協定(RCA) (13-03-02-02)
日本のIAEA/RCAへの協力 (13-03-02-03)

<参考文献>
(1)外務省、国際原子力機関(IAEA)の概要、
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/iaea_g.html
(2)IAEAホームページ, Department of Nuclear Energy,
https://www.iaea.org/about/organizational-structure/department-of-nuclear-energy
(3)IAEAホームページ, Department of Nuclear Safety & Security,
https://www.iaea.org/about/organizational-structure/department-of-nuclear-safety-and-security
(4)IAEAホームページ, Department of Nuclear Sciences and Applications
https://www.iaea.org/about/organizational-structure/department-of-nuclear-sciences-and-applications
(5)IAEAホームページ, Department of Technical Cooperation,
https://www.iaea.org/about/organizational-structure/department-of-technical-cooperation
(6)IAEAホームページ, Department of Safeguards,
https://www.iaea.org/about/organizational-structure/department-of-safeguards
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