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1.IAEA/RCAの概要
(1)RCAの目的
IAEAのRCAは、アジア・太平洋地域の開発途上国を対象とした原子力科学技術に関する共同の研究、開発および訓練の計画を、締約国間の相互協力およびIAEAとの協力により、適当な締約国内の機関を通じて、促進および調整することが目的である。日本で該当する機関は、放射線医学総合研究所、日本原子力研究開発機構などである。
(2)IAEAの技術協力方式
国際原子力機関(IAEA)の技術協力局は、開発途上国の原子力の平和利用技術の普及を支援する組織である。図1に技術協力局の組織を示す。技術協力の方式には、a)IAEA加盟国とIAEAで協力協定を結ぶ国別協力(National Project)、b)地域が協定を結びIAEAと協力する地域協力(Regional Project)、および、c)いくつかの地域にまたがって協力する地域間協力(Interregional Project)がある。
地域協力のうち、アジア・太平洋地域協力協定(RCA)は正式名「原子力科学技術に関する研究、開発および訓練のための地域協力協定(Regional Co-operative Agreement for Research, Development and Training Related to Nuclear Science and Technology for Asia and the Pacific)である。
(3)RCAの歴史と加盟国
IAEAの指導を基に、1972年にアジア・太平洋地域の10ヶ国が原子力科学と技術の協力協定を結び活動を開始した。それ以降、5年毎に協定が更新されている。当初の加盟国10ヶ国は、インド、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、パキスタン、韓国、バングラデシュ、およびスリランカであった。日本は1978年に加盟した。
加盟国とIAEAが参加して、第1回のRCA加盟国の政府専門家会合が1979年に日本で開催された。この会合では、従来のRCA活動全般を再検討した上で協力関係のあり方などについて討議し、これを機にRCAが本格的に動き出した。
1987年には協定は、共同研究等の推進・調整をより効果的に行う枠組みを盛り込んだ新協定に切り換えられ、その後も5年ごとに更新されて現在に至っている。
2009年の加盟国は17ヶ国、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インド、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイおよびベトナムである。
(4)RCAの運営
RCAの事務局は、当初IAEAの技術協力局に置かれた。2005年に韓国にRCA地域事務所(RCARO)が置かれ、専門家会議と運営会議が主体的に運営している。IAEAは技術協力局にRCA活動を支援する専任職員一名を置き、「パートナー」としての役割を果たしている。
RCA加盟国は、年1回持ち回りで政府代表者会合(3月)とウィーンで総会(9月)を開催し、状況と成果を報告し、プロジェクトを評価、計画する。RCAではIAEAの協力のもとに、加盟国会合で議論し加盟国が主体的にプロジェクトを設け、加盟国内の適当な機関がプロジェクトをリードする。日本は、「人間の安全保障」の観点から、特に医療分野における協力を重視しプロジェクトのリード・カントリーである。
(5)RCAの協力分野
2009年のRCAのプロジェクトはa)農業、b)医療・健康、c)環境、d)工業、e)エネルギー、f)研究炉、g)放射線防護、h)途上国間の技術協力の8分野である。これまでに、336件のプロジェクトが実施されている。表1に2009〜10年に実施されている23件のRCAプロジェクトを示す。
2.日本とRCA
(1)日本の主なRCA協力
RCAが取り組むいずれの分野でも、日本は原子力先進国として積極的に専門家を派遣し、ワークショップ、セミナー、研究・技術者の受け入れ等を進めてきた。このうち、日本が特に重点的に協力した分野を表2に示す。
1979年のRCA発足当時は、食品の保存と輸出に関連した食品照射が重点テーマであった。1980年から日本は工業利用と医学生物学利用の普及に力を注ぎ、1989年以降は放射線防護にも力を注いでいる。
(2)工業利用プロジェクト
RI・放射線の工業利用プロジェクトは調査検討を経て1980年に開始された。この分野は利用範囲が広く、数多くのセミナー、ワークショップ等が開催されている。対象になった技術は、ゴムの放射線架橋技術、非破壊検査、製紙工業の工程管理、木工業の表面処理、製鉄業の工程管理、電線工業、土木分野、放射線加工、工業利用計画まで多岐にわたる。
(3)医療・生物学利用プロジェクト
医療分野の協力は1980年から開始された。協力には、医療製品の滅菌、放射線治療、子宮ガン放射線治療、RIを利用する単一光子放射断層撮影(SPECT)などがある。日本はリード・カントリーである。
(4)放射線防護プロジェクト
このプロジェクトは1989年以降に力が注がれるようになった。当初の基礎技術の習得から始まり、「標準アジア人」に関する共同研究、個人線量計の共同比較、周辺技術と体制の整備、放射性廃棄物、液状廃棄物の浄化、緊急被ばく治療などが含まれる。
(5)その他
海洋汚染と移行、電子通信網の整備、排水モニタリングなどの協力がある。
3.RCAとFNCA
アジア原子力協力フォーラム(FNCA)は1999年に、近隣アジア諸国のより効果的で組織的な原子力分野の協力のため成立した。参加国は、日本、オーストラリア、バングラデシュ、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムの10カ国である。FNCAは、(1)研究炉利用、(2)放射線の農業利用、(3)医学利用、(4)工業利用、(5)放射線・廃棄物管理 、(6)原子力広報、(7)原子力安全文化、(8)人材養成の各分野で意見と情報を交換し技術の移転を図っている。
近年は、FNCAやRCA総会において、双方の協力が検討され基本的に合意されている。2008年には放射線加工技術と放射線治療の2分野の協力が進んでいる。
(前回更新:2002年1月)<図/表>