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<概要>
 ニュークリアセイフティーネットワーク(NSネット:Nuclear Safety Network)は、1999年9月30日に茨城県東海村で起こった(株)ジェー・シー・オーウラン加工施設における臨界事故の反省を踏まえて、1999年12月9日に設立されたネットワーク組織である。
 原子力産業界全体の安全意識の高揚、モラルの向上および原子力の安全文化の共有化を図り、原子力産業に携わる企業および原子力に関係する研究機関等が、水平的かつ双方的に繋がり、対等のイコールパートナーの立場で活動することを目的としている。NSネットには日本の原子力産業界の36企業・研究機関が参加している。
 NSネットは、原子力安全文化の普及、会員間の相互評価(ピアレビュー ”Peer Review”)の実施、原子力安全に係わる情報交換・発信の3つの事業活動を行うことにより、原子力産業界全体の安全文化の共有および向上を目指している。
 なお、NSネットは2005年3月15日をもって「日本原子力技術協会」に事業が引継がれ、NSネット事業部として原子力の安全確保の徹底した活動が求められている。
<更新年月>
2006年01月   

<本文>
1.設立の経緯
 1999年9月30日に発生した茨城県東海村のウラン加工施設(株式会社ジェー・シー・オー)における臨界事故の反省から、原子力産業界は、安全文化の共有化、レベルアップを図っていくことが何よりも必要であるとし、原子力の安全確保および拡充を共通の課題として捉え、原子力産業界の事業者をはじめ、研究機関などの関係団体とが一体となり、安全文化の共有化・向上を図るためのネットワーク組織「ニュークリアセイフティーネットワーク」(Nuclear Safety Network、以下「NSネット」という)を設立することとした。
 1999年12月9日(平成11年)に東京で設立総会が開催され、理事長には牧野昇氏((株)三菱総合研究所相談役)が選出された。
 NSネットでは、原子力産業に携わる企業および原子力に関係する研究機関等が、水平的かつ双方向的に繋がり、安全文化の普及、ピアレビュー(会員間の相互評価)の実施、安全に関する情報交換、および過去の事例等に基づく教育支援などの活動を行い、原子力産業全体において安全文化の共有および向上を目指している。
そして、このような活動を通じて、原子力に携わる事業者同士(電力、プラント、核燃料加工および研究機関)がイコールパートナーの立場から安全について情報を交換し、評価しあうことで原子力産業界全体の安全レベルの活性化を図ることが目的である。
2.組織と会員
 NSネットは、図1に示すように、運営委員会、運営委員会幹事会、安全情報部会および相互評価部会で構成されている。
(1)運営委員会:
 総会・理事会決定に基づき、NSネットの運営および活動全般について審議・検討をおこなうための会議体として、理事会の下に設置された。原則として、NSネット参加全会員より選出された委員35名で構成されている。
(2)運営委員会幹事会:
 運営委員会を円滑に運営するための事前検討・審議をおこなうことを目的として設置された。運営委員会の委員15名程度で構成されている。
(3)安全情報部会:
 NSネットの安全文化の普及活動および情報交換・発信活動を効果的かつ円滑に推進するため、各種施策の専門的な検討・審議をおこなうための会議体として、運営委員会の下に設置された。NSネット参加会員より選出された委員15〜20名で構成されている。
(4)相互評価部会:
 NSネットの相互評価活動を効果的、かつ円滑に推進するため、各種施策の専門的な検討・審議を行うとともに、活動が適切、かつ公正に実施されていることを適宜評価するための会議体として、運営委員会の下に設置された。NSネット参加会員により選出された委員15〜20名で構成されている。
 また、NSネットの会員は、電力、プラント、燃料加工、および研究機関の原子力産業に携わる36の企業および研究機関により構成されている(表1参照)。
3.事業の概要
 NSネットの主要事業は
・「原子力安全文化の普及」、
・「会員間の相互評価(ピアレビュー ”Peer Review”)」、
・「原子力安全に係る情報交換・発信」の3事業である。以下、概要を示す。
(1) 原子力安全文化の普及
 原子力安全意識の高揚を図るため、定期的にセミナー/ワークショップを開催するとともに、NSネット会員の事業所を巡回して講演や教育・研修教材の周知、意見交換を行う「安全キャラバン」を実施する。また、ホームページの開設、およびパンフレット・定期刊行物の発行等により、会員および一般向けに原子力安全に関する情報を発信する。
(2) 会員間の相互評価(ピアレビュー)
 「相互評価(ピアレビュー)」では、会員から選ばれた各方面の専門家でチームを編成し、会員の事業所を相互訪問し、組織・運営、教育・訓練や緊急時対策等、運転・保守、放射線防護および重大な事故防止を中心に原子力安全に関する共通のテーマについて、現場観察、書類確認、面談により、プラント業務の評価を行う。
この活動の特徴は、「ピア」という言葉が示すように、事業者同士が対等の立場で率直な意見を交換するところにある。また、レビューの結果は、「長所」と「改善点」という形で事業所側に示される。
 ピアレビューの概要および報告書の全文はNSネットのホームページ(2005年4月以降は日本原子力技術協会のホームページ)で公開されている。表2−1および表2−2に2000年以降のピアレビューの実施状況を示す。
 2005年からは、ピアレビューで指摘された改善点が確実に改善されているかを評価し、安全文化の醸成、定着を確認するため、各事業所の再訪問が実施されている。
 なお、このピアレビュー手法はWANO(世界原子力発電事業者協会)のピアレビュー手法を参考とした。
(3) 原子力安全に係る情報交換・発信
 各会員間の事業所で生じたトラブル情報やヒューマンファクターに関する情報等を収集し、会員間で交換・共有するための情報交換システムを構築し、相互にデータベースとなる情報を提供することにより、会員相互の安全教育・研修等を支援する。なお、システム構築に際しては(財)電力中央研究所原子力情報センターのデータベースが参考とすることになった。
4.事業の成果
 2005年3月、「日本原子力技術協会」が設立し、NSネット(ニュークリアセイフティネットワーク)と(財)電力中央研究所原子力情報センターの事業が引継がれ、NSネットは4月13日をもってNSネット事業部として発足した。
 NSネットでは、安全文化浸透活動としての「安全キャラバン」を72回、専門家による「相互評価(ピアレビュー)」を45回、そのほか安全に関する情報交換・発信、NSセミナー、管理者セミナーの開催、NSネットニュースの発行等を行った。
 今後、NSネット事業部はNSネットの活動成果を踏襲するとともに、更に改良・発展させた上で、原子力安全確保徹底のための活動が求められている。
<図/表>
表1 NSネット会員
表1  NSネット会員
表2−1 2000年以降のピアレビュー実施状況(1/2)
表2−1  2000年以降のピアレビュー実施状況(1/2)
表2−2 2000年以降のピアレビュー実施状況(2/2)
表2−2  2000年以降のピアレビュー実施状況(2/2)
図1 NSネットの組織構成
図1  NSネットの組織構成

<関連タイトル>
世界原子力発電事業者協会(WANO) (13-01-03-15)
世界原子力発電事業者協会(WANO)の活動 (13-01-03-16)
電力中央研究所 (13-02-02-03)
原子力安全推進協会(旧日本原子力技術協会) (13-02-02-11)

<参考文献>
(1) NSネットホームページ(URL:)
(2)日本原子力技術協会 NSネット事業部ホームページ(http://www.gengikyo.jp/katsudo/NSnetJigyoTop.html
(3)日本原子力技術協会 NSネット事業部:NSネットニュース
(4)日本原子力技術協会 NSネット事業部:相互評価
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