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<概要>
 世界原子力発電事業者協会(WANO:World Association of Nuclear Operators)は、チェルノブイリ原子力発電所の事故を契機に、原子力発電所の安全性と信頼性を高めるため、1989年に設立された民間組織であり、ロンドンに調整センターを置き、世界の4地域、米大陸(アトランタ)、東欧(モスクワ)、西欧(パリ)およびアジア(東京)に、それぞれ地域センターを置いている。WANOは、2009年には世界の全ての商業用原子力発電所を所有する事業者(35ヶ国と地域、132業者)が会員である。原子力発電の安全性と信頼性を高めるため、運転経験情報交換、ピアレビュー(訪問評価)、ワークショップとセミナー、および技術支援と技術交流を進めている。
<更新年月>
2009年12月   

<本文>
1.WANOの目的と組織
 1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故を契機に、原子力発電事業者はこの様な災害を二度と繰り返さないために、体制や国境を越え世界規模でより高度な原子力発電の安全を達成する必要性があると考え、1989年5月にWANOを設立した。WANOは行政府に直接関連しない民間機関であり、原子力発電事業を営む世界のあらゆる機関が加盟できる。
 WANOは、原子力発電所の運転に関し、会員間の情報交換、啓発、比較検討、相互学習を奨励し、その安全性と信頼性を最大限に高める目的で活動している。
 図1にWANOの組織を示す。WANOは理事会、調整センター(ロンドン)、米国のアトランタセンター、ロシアのモスクワセンター、フランスのパリセンターおよび日本の東京センターで構成され、世界35ヶ国、132の原子力事業者が会員である。表1に各センターの加盟国を、表2に東京センターの加盟機関を示す。
 プログラムの進捗と計画の検討のため、隔年総会が開催される。その際に、二年任期のWANO会長が選ばれる。この会議は、メンバー機関の原子力発電の現況と安全の進捗状態の報告および計画を提案する機会である。年3回開かれる計画会議で、選任された議長、四センター長、各センター代表二名の13名が参加し、WANOの全体計画と各センターの計画が検討される。

2.WANOの活動
 各々のセンターは、計画に拠りWANOの目的達成のため自主的に四プログラム、(1)運転経験の共有、(2)ピアレビュー(訪問評価)、(3)専門技術向上(ワークショップ、セミナー)、(4)技術支援・技術交流、を進める。表3にプログラムの概要を示す。
2.1 運転経験の共有プログラム
 当プログラムは、お互いの運転経験からの学習である。一事業者の発電所で起きた事故・事象の原因と結果に関する情報を共有することにより、同様の事故・事象の再発を防ぐように注意する効果がある。
 当プログラムでは、ある発電所で事故・事象があると、その発電所で詳細な事故報告書が作成され、担当するセンターに送られる。事故・事象の当事者は、他の会員がその情報を役立てられるように速やかに報告書を作成するよう奨められている。
 WANOの「運転経験センターチーム」は、事故報告書を解析し、原因、結果、教訓などの観点から整理し、重要操業経験報告(SOERs、Significant Operating Experience Reports)、重要事象報告(SERs、Significant Event Reports)または緊急報告(JITs、Just-in-Time Briefings)として、会員に提供する。
2.2 ピアレビュー(訪問評価)プログラム
 ピアレビュープログラムは、1991年から試験的に始まり1993年に採用されたプログラムである。このプログラムは、原子力発電所などの希望により、WANOの専門チームが訪問調査し当該発電所の問題点を洗い出し、より安全で信頼性の高い操業の達成を図る。
 専門チームは二週間滞在して、WANOの基準により、発電所の操業状態、関連書類などを調査し運転員などに面接する。主な項目は、組織、運転状況、保守点検、技術支援、放射線防護、運転経験などであり、さらに訓練・資格、非常事態、火災などを調査対象にできる。横断的な、発電所の安全文化、業務遂行状況、自己評価、施設の安全性、施設の配置、労働管理、装置の状態なども評価の対象にする。
 2000年までに世界204の発電所サイトのうち122が一回以上のピアレビューを経て、蓄えられた知識と経験は大きい。WANOは、各サイトのピアレビューのまとめを進めている。
2.3 専門技術向上プログラム
 WANOの専門技術の開発プログラムでは、世界各地の原子力発電技術者が一堂に会し、技術の安全と信頼を向上するため情報と意見を交換する。地域センターが主催するワークショップ、セミナー、専門家会議、訓練コースなどは、技術者に専門知識と技術を提供する。この活動により、世界全体の原子力発電技術の安全性と信頼性の向上を図ることができる。
2.4 技術支援・技術交流プログラム
 このプログラムには、良好操業例(Good practices)、運転指数(Performance indicators)、運転員交流(Operator exchange)および技術支援(Technical support missions)がある。
(1)良好操業事例(Good practices)
 これは会員の中の良好操業事例を他の会員の参考とするプログラムで、相互に学び運転の安全性と信頼性を増す狙いがある。良好操業事例の交換は、安全性と信頼性を増すために役立つ技術であり、方法である。実証された良好操業事例はWANO会員ウェブサイト、データベース、WANO指針、年報などによって周知を図っている。
(2)運転指数(Performance indicators)
 WANOでは、発電所の客観的な運転状況評価と情報交換状況を示す一連の指数が定められている。この指数の比較でWANOは発電所の現況を比較評価できるので、管理に利用されている。WANO会員は、四半期ごとに運転指数を報告し、WANO会員はそれをウェブサイトで見ることができる。また、このデータは報告書「Performance Indicator」で公表されている。
(3)運転員交流(Operator exchange)
 これは運転員が直接情報を交換するプログラムであり、安全と運転技術の向上に有効であると期待され、また各機関の間での資料提供やその他の協力も進められている。交流に参加した運転員は、他の発電所の操業、保守、訓練、放射線防護、組織、体制、化学成分制御、品質保持、非常時計画などを知り、自身のやり方と比較・検討して、安全と信頼性の向上を図る。
(4)技術支援(Technical support missions)
 これは原子力発電に関する課題に対して、解決法を見出す会員相互の協力である。課題は地域センターに持ち込まれ、解決法を検討する特別業務(Mission)になり特別チームが組まれる。課題は地域センターによって異なるが、たとえば停電、オンライン保守、放射線防護、廃棄物管理など多様である。最終的に特別チームは当該課題に対して助言し解決法を示して終了する。

3.WANOの出版物
 WANOは会員のためだけでなく一般を対象に、事業を報告している。いずれもインターネットのホームページから入手できる。
(1)Inside WANO:年間3回出版される雑誌である。英語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、スペイン語および日本語で出版されている。インターネット上で閲覧することができる。
(2)WANO Review:隔年開催のWANO総会に出版される活動と計画が載っている。
(3)WANO Map:世界の原子力発電所サイトが載った世界地図である。
(4)Performance Indicator:会員が四半期ごとに提供したデータから、1990年以降の毎年の発電所の状況を報告している。
(前回更新:1998年3月)
<図/表>
表1 WANO地域センターの原子力発電事業者の国名
表1  WANO地域センターの原子力発電事業者の国名
表2 東京地域センターの原子力発電事業者
表2  東京地域センターの原子力発電事業者
表3 WANOの活動
表3  WANOの活動
図1 世界原子力発電事業者協会(WANO)の組織
図1  世界原子力発電事業者協会(WANO)の組織

<関連タイトル>
原子力発電運転協会(INPO) (13-01-03-10)
世界原子力発電事業者協会(WANO) (13-01-03-15)

<参考文献>
(1)WANOホームページ
(2) 原子力委員会、国際問題懇談会資料、2007年、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/mondai/siryo/mondai05/siryo2.pdfhttp://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/mondai/siryo/mondai05/siryo_g.pdf
(3) 東北電力、WANOの概要、http://www.tohoku-epco.co.jp/whats/news/2002/21108b.htm
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