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<概要>
 財団法人環境科学技術研究所は、青森県六ヶ所村に1990年12月3日に設立された。設立目的は、(1)青森県内の空間放射線(放射能)の分布の調査と使用済み核燃料の再処理工場立地の安全審査に採用された種々の物理・化学的性質の妥当性の実証、(2)放射性物質が環境を循環する機構の解明、(3)低線量の放射線が生物に与える影響に関する実証的研究、及び(4)放射線(放射能)とその生物影響などに関する知識の普及・啓発である。このため、環境動態研究部、環境シミュレーション研究部、生態影響研究部及び広報・研究情報室がある。平成22年度は65名の常勤職員と4名の非常勤職員が勤務し、予算は30.87億円である。
<更新年月>
2010年11月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 財団法人環境科学技術研究所(Institute for Environmental Sciences)は、ウラン濃縮施設、低レベル廃棄物埋設施設及び再処理施設が青森県六ヶ所村に建設される事が契機となって、1990年12月3日に設立された。
 研究所の設立目的は、(1)青森県内の空間放射線(放射能)の分布を明らかにし、使用済核燃料の再処理工場立地の安全審査に採用された種々の物理・化学的性質の妥当性の実証、(2)放射性物質が環境を循環する機構の解明、(3)低線量の放射線が生物に与える影響に関する実証的研究、及び(4)放射線(放射能)とその生物影響などに関する知識の普及・啓発である。
2.組織と予算
 図1に組織図を示す。平成22年度は65名の常勤職員と4名の非常勤職員で構成される。そのうち環境動態研究部は14名、環境シミュレーション研究部は11名、生態影響研究部は14名である。図2に平成22年度予算、30.87億円の内訳を示す。
3.主な研究調査活動
 3研究部の主な研究と研究施設を以下に示す。
3.1 環境動態研究部
 環境動態研究部の目的は、再処理施設の操業に伴い放出される微量の放射性元素(物質)について、その環境中での移行を野外や全天候型人工気象実験施設で調べ、人や生態系に対する放射線の影響を評価し、合わせて環境の保全に役立てる事である。
(1)主な研究
 環境中を移動する放射性元素の化学形と移行挙動を観測・分析し、実測値と予測値を比較して移行モデルを開発する。また、微量の放射性元素を選択的に濃縮する植物を探索し、濃縮機構を解明する。人や生物が自然から浴びる放射線量を評価するため、食品中の放射性元素を分析し、バックグランド線量を測定調査する。
 図3は、大地から人が浴びるガンマ線被ばく線量の調査結果の例である。
(2)主な研究施設、全天候型人工気象実験施設(図4
 大型人工気象室、降雪ボックス、小型人工気象チャンバーなどを備えており、雨や雪を降らせ風を吹かせ国内のほとんどの気象を模擬することができる。この中で植物を植え、色々な気象条件下で植物が元素を吸収する状況を実験・調査する。
3.2 環境シミュレーション研究部
 環境シミュレーション研究部の目的は、燃料の再処理で大気中に放出される放射性炭素や三重水素(トリチウム)の自然界、農作物、人などへの移行・蓄積を実験・調査し、被ばく線量を評価する事である。
(1)主な研究
 炭素は、大気中では二酸化炭素になっており光合成で植物に取り込まれる。そして食料や飼料になって人や家畜の中に摂りこまれる。炭素は生物の主要な構成元素なので、放射性炭素の環境や人体での挙動を予測することが重要である。三重水素(トリチウム)は主に水になって大気や海洋に放出される。実験ではその挙動を調べるため安定な重水を利用する。人体内における放射性炭素や三重水素(トリチウム)の代謝の実験調査では、それらの体内での挙動を調べ、被ばく線量を評価する技術開発を進めている。
(2)主な研究施設、閉鎖型生態系実験施設(図5
 この施設には、植物実験施設、動物飼育・居住実験施設及び陸・水圏実験施設が在る。それらを繋ぎ、人間や動物の食料や酸素を植物から供給し、水循環系をつくり、人間と動物の排泄物から肥料を作るなどして物質を閉鎖空間内で循環させ、人が住める実験生態系を構築する。その中で、安定同位体を利用して放射性炭素、三重水素(トリチウム)などが生態系でどのように移行・蓄積するのかを調べる。
3.3 生物影響研究部
 放射線の影響のうち、長期の微量放射線の被ばくによる影響を、マウスを使って実験・調査し人への影響を推定する。
(1)主な研究
 研究は、イ.低線量放射線の寿命への影響と死因の検討、及びロ.低線量放射線の子孫への影響の検討である。
(2)主な研究施設
 低線量生物影響実験施設(図6):低線量率のガンマ線を長期連続照射することができる施設。特定の病原体を持たないSPFマウスを飼育し、3照射室で同時に約1,000匹を照射できる。
 先端分子生物科学研究センター(図7):マウスや培養細胞などを用いて遺伝子やタンパク質のレベルから、細胞、個体のレベルまで低線量(率)放射線が生物に及ぼす影響を調査する。センターには、ガンマ線照射装置、遺伝子の変化を高感度に検知する組換実験室、細胞・遺伝子解析用機器、タンパク質質量分析装置(LC-MS)などを備えている。
4.広報・研究情報室の活動
 放射線や放射能、その生物影響などに関する知識の普及・啓発のため、インターネットのホームページ(http://www.ies.or.jp/)上部に、放射線の基礎を説明する「放射線の知識」、報道発表や見学などの「お知らせ」等のバナー(banner)を配置している。さらに、求めにより講師を派遣する「説明活動」により、人々の理解増進に努めている。また、研究所の調査研究の成果については、ホームページのバナー「調査研究」から、年度ごとの研究成果とその評価を知ることが出来る。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 (財)環境科学技術研究所の組織(平成22年)
図1  (財)環境科学技術研究所の組織(平成22年)
図2 平成22年度予算
図2  平成22年度予算
図3 青森県に住む人の年間ガンマ線被ばく線量
図3  青森県に住む人の年間ガンマ線被ばく線量
図4 全天候型人工気象実験施設
図4  全天候型人工気象実験施設
図5 閉鎖型生態系実験施設
図5  閉鎖型生態系実験施設
図6 低線量生物影響実験施設
図6  低線量生物影響実験施設
図7 先端分子生物科学研究センター
図7  先端分子生物科学研究センター

<関連タイトル>
気体廃棄物の処理 (04-07-02-06)
ヨウ素モニタ (09-04-03-10)
放射能ソースタームの評価に関する研究 (06-01-05-07)
再処理施設から放出された核分裂生成物 (06-03-05-08)
環境放射線モニタリング (09-04-08-02)
環境試料モニタリング (09-04-08-03)
茨城県環境監視センター (10-06-01-12)
再処理プロセスにおける放射性廃棄物の発生源 (11-02-04-02)

<参考文献>
(1)環境科学技術研究所、研究所の紹介
(2)環境科学技術研究所、環境動態研究部
(3)環境科学技術研究所、環境シミュレーション研究部
(4)環境科学技術研究所、生物影響研究部
(5)環境研パンフレット
(6)環境科学技術研究所、放射線の知識
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