<本文>
1.再処理された核燃料量
1.1 軍事用Pu生産
軍事用Puの生産、すなわち再処理活動が本格的に開始されたのは1944年以降の米国ハンフォードであり、いくつかの大型施設が稼動した。「地球環境に存在する核分裂生成物 <06-03-05-09>」の第3章に述べてあるように、『兵器級Pu』の生産量はその後の旧ソ連、英国、仏国、中国における生産量も合計すると約300トンとなる。この
240 Pu含有率7%以下の『兵器級Pu』は、天然ウラン金属燃料を極低
燃焼度 で燃やして得られたものである。燃料の平均燃焼度を500MWD/トンと仮定すると、黒鉛ガス炉の場合にはU燃料1トン当たり400〜450gのPuが生成する。上記300トンPu量をこの値で割ると約70万トンの燃料が処理されたこととなる。実際の処理量は、米国30万トン、旧ソ連42.3万トン、英国、仏国、中国で3.1万トンで合計は約75万トンである。
1.2 発電炉燃料の再処理
再処理された発電炉SFには、燃焼度の低い(〜7,000MWD/トン)金属U燃料と燃焼度の高い(20,000〜55,000MWD/トン)酸化物燃料がある。IAEAのエルバラダイ報告によれば、2003年末までのこれら発電炉(民生用)燃料の再処理量は、78,000トンとされている(参考文献1)。この再処理量は、発電炉から排出されたSFの約1/3と言われている。同報告によれば、世界の民生用発電炉で生成するPu量は年間約89トン、そのうち19トンが分離されている。国別の発電炉燃料の再処理実績を
表1 に示す。英仏2か国(Sellafield、La Hague両施設)で全体の95%を占めている。英国と仏国における発電炉SFの再処理実績を
図1 、
図2 に示す(参考文献2)。
1.3 その他の核燃料再処理
原子力艦船および研究炉からのSFは、その極僅かのみが再処理され他は貯蔵されてきた。これらの核燃料は高濃縮ウランが中心であり、1990年以降はPuと同様にUの回収も行われていない。データ不足と放出されたFP量が少ないことから、ここでは取り扱わない。
2.長寿命FP核種の放出量
1章に示したPu生産用のSFの全ておよび発電炉(民生用)SFの一部分を再処理した結果、FPの多くは廃棄物として人間の管理下に置かれたが、一部分は環境に放出された。長寿命の放射性FPが環境に放出されると、長期にわたって人への放射線被ばくの
リスク を与える。したがって、放出された量とその振る舞いを正確に評価しておく必要がある。以下に発電炉SFの95%を処理したLa HagueおよびSellafield両施設からの
85 Kr、
90 Sr、
137 Cs、
129 I、
99 Tc放出量を核種毎に示す(参考文献3)。
2.1 クリプトン85
希ガス の
85 Krは、再処理の際に100%放出されると考えられる。したがって
85 Krの放出量は、再処理されたSFの[(燃焼度)x(処理量)]の正確な指標となるが、
半減期 が約10.8年なので、処理前冷却期間中の減衰効果を加味しなければならない。世界の主要な再処理施設から放出された
85 Krについて、経年変化を
図3 に示す。La Hague施設では、前期のガス炉金属燃料処理期間中および後期の酸化物燃料処理期間中において、
85 Kr放出量は明らかに経年増大している。特に1990年代には酸化物燃料の処理量と燃焼度の増大による影響が明らかである。一方、Sellafield施設の場合、比較的燃焼度の低いMagnox炉燃料の処理が中心であり、1995年以降になってからTHORPで高燃焼度酸化物燃料の処理が始まると、その影響が出ている。
2.2 ストロンチウム90とセシウム137
図4 に
90 Srおよび
137 Csの放出量(kg/年)の経年変化を示す。特徴的なのは、両施設とも最近20年間に劇的な放出低減を達成していることである。
2.3
ヨウ素 129
両施設について、年間
129 I放出量(kg/年)の経年変化の推定値を
図5 に示した。2000年までに両施設から放出された
129 Iの合計(放出量が処理量にほぼ比例するとして推定)は4,700kgとなった。
2.4 テクネチウム99
99 Tcの年間放出量(kg/年)の経年変化を
図6 に示した。1990年代には、Sellafield施設において(
129 Iでも見られたが)
99 Tcの放出量に著しい増加傾向が見られる。これは、それ以前にB205施設で行われたMagnox炉SFの再処理で排出され一時貯蔵された中レベル廃液(
99 Tcを大量に含む)が、後になって計画的に放出されたことによる。1995年の放出量は300kg/年にも達し、北欧諸国、規制当局、BNFL間で深刻な論争があった。最終的にTetra Phenyl-phosphonium bromideによる還元・沈殿法(TPPプロセス)を適用して
99 Tcを回収することにより、厳しい放出量規制値:10TBq/年(=16kg/年)の実現が可能となった(参考文献4、7)。一方、THORP施設の再処理工程には、
99 Tcを
高レベル廃液 に導入する技術が採用されているので、放出量は1〜2kg/年にすぎない。La Hague施設からの
99 Tc放出量については、データが不足しているが、放出量は少ない。その理由は、THORPと同様の方式が採られているためと考えられる。
2.5 東海再処理施設からのFP放出
東海再処理施設では1977年〜2003年に約1,000トンのSFが処理された。その間の
85 Krと
129 Iの年間放出量を年間SF処理量に対してプロットした(
図7 )(参考文献5)。SF処理量当たりの放出率の特徴は、1)
85 Krでは、La Hague施設の酸化物燃料処理時のそれにほぼ等しいが、2)
129 Iは、La Hague,Sellafield両施設のそれよりも数桁低く、規則性も認められない。さらに、東海施設における
99 Tc,
90 Sr,
137 Csの放出特性は、検出限界以下というデータが多くLa Hague,Sellafield両施設の放出率より数桁は低い。
2.6 放出量の総量
以上のデータから、2000年迄にLa HagueおよびSellafield再処理施設から環境に放出された主要核種の総量を推測し、
表2 に示した。また、軍事用Pu生産に伴うFP放出量の推定値およびその他の主要な放出源からの量も記載した。
(前回更新:2006年1月)
<図/表>
表1 各国の発電炉使用済み核燃料の再処理量(2003年迄)
表2 環境に放出されたFPの量
図1 La Hagueの再処理施設における発電炉SFの再処理記録
図2 Sellafieldの再処理施設における発電炉SFの再処理記録
図3 世界の再処理施設における
図4 欧州再処理施設における
図5 欧州再処理施設における
図6 欧州再処理施設における
図7 東海再処理施設における
<関連タイトル>
再処理の概要 (04-07-01-01)
地球環境に存在する核分裂生成物 (06-03-05-09)
<参考文献>
(1)IAEA:“Multilateral Approaches to the Nuclear Fuel Cycle: Expert Group Report submitted to the Director General of the IAEA”,INFCIRC/640(22 Feb.2005)
(2)European Parliament:“Possible Toxic Effects from the Nuclear Reprocessing Plants at Sellafield(UK)and Cap de La Hague(France)”,EP/IV/A/STOA/2000/17/01(2001)
(3)館盛勝一:再処理施設から放出された長寿命核分裂生成物量の推定、Radioisotopes、54、No.8、349-358(2005)
(4)Environment Agency:“North West Region,”,“Your environment,”
(5)Sources and Effects of Ionizing Radiation:UNSCEAR 2000 Report(2000)
(6)A.Makhijani,H.Hu,K.Yih:“Nuclear Wastelands: A Global Guide to Nuclear Weapons Production and Its Health and Environmental Effects”,The MIT Press(1995)
(7)Defra:Radioactive Discharges: Sellafield/Technetium-99,