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1.設立の背景 表1に米国の放射線防護に関する主な出来事を示し、以下にそれらの重点的な内容を記す。レントゲンのX線の発見(1895年)、ベクレルの天然放射能の発見(1896年)等を経て、放射線と放射能が科学技術の研究開発課題となった。初期の研究開発では、ベクレルやマリー・キュリーの放射線の大量被ばくが疑われる。また、その利用では、X線管球製造者の外部被ばくやダイアルペインターの内部被ばくが知られている。
1915年、英国レントゲン協会は1898年頃から収集してきたX線被ばくデータを整理し、X線の過剰被ばく防止を決定した。これは、放射線防護の最初の組織的活動である。1921年に英国X線ラジウム防護委員会が設立され、しばらくは、同委員会の基準が国際的な基準であった。米国は1922年まで英国の基準を採用していたが、1920年代から1930年代に国内独自の放射線防護のガイドラインが定められるようになった。
1928年、「国際X線およびラジウム防護委員会」が設立され、放射線科医師、X線技師および看護婦を対象とした「X線およびラジウムの防護」に関する勧告を出した。
1946年、米国科学アカデミー‐研究審議会(National Academy of Science‐National Research Council:NAS-NRC)の原爆傷害調査委員会(Atomic Bomb Casualty Commission:ABCC)が、広島と長崎の被爆者の放射線影響の調査を開始した。
1950年、国際X線およびラジウム防護委員会で国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)が設立された。
1954年、第五福竜丸乗組員が、ビキニ環礁の米国核実験によるフォールアウトで被ばくした。
1954年、米国科学アカデミー‐研究審議会に「原爆放射線の生物学的影響委員会(Committees on Biological Effects of Atomic Radiation:BEAR)が設置され1954-1964年に活動した。同委員会では原爆放射線の生物学的影響を検討するため、6委員会を設置し遺伝学的影響、病理学的影響、気象学的影響、農業・食料への影響、放射性廃棄物の拡散と処分、及び海洋学的影響と漁業への影響を調査検討した。表2に米国科学アカデミーによる原爆放射線の生物学的影響(BEAR)の報告書(6委員会の最終報告(1960年))を示す。これらの報告は、その後の米国の政策と方針に大きな影響を与えた。なお、本委員会の活動は原爆傷害調査委員会(ABCC)の活動とは重複しない。
1959年、連邦放射線審議会(Federal Radiation Council:FRC)が設立された。本審議会の業務は、電離放射線に関し、1)被ばくの健康影響と連邦の政策、2)大統領への助言などであった。
1970年、環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)が発足した。
2.連邦放射線審議会(Federal Radiation Council:FRC)の活動
1959〜1970年に連邦放射線審議会(FRC)は、国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection:ICRP)や米国科学アカデミー−研究審議会の原爆放射線の生物学的影響委員会(BEAR)の検討報告等を基に、7報の環境保護庁(EPA)と連邦放射線審議会(FRC)による連邦指針レポート(Federal Guidance Report)(表3)と大統領の放射線防護に関する施政方針(Federal Guidance Policy Recommendations)(表4)の策定に貢献した。
3.環境保護庁(Environmental Protection Agency:EPA)の活動
1970年、環境保護庁(EPA)が発足し、連邦放射線審議会(FRC)の業務を継承した。図1にEPAの本部組織を示す。放射線防護は大気・放射線局(Office of Air and Radiation:OAR)の放射線・屋内大気部(Office of Radiation and Indoor Air:ORIA)が主に担当する。EPAの支部は次の10都市、ボストン、ニューヨーク、フィラデルフィア、アトランタ、シカゴ、ダラス、カンザスシティ、デンバー、サンフランシスコ及びシアトルにある。 図2に大気・放射線局(Office of Air and Radiation:OAR)の組織を示す。放射線に関する業務は主に放射線・屋内大気部(Office of Radiation and Indoor Air:ORIA)が所掌する。ORIAは、放射線と室内大気汚染から市民と自然の保護が業務であり、基準を設け、指針を示し、政策を立案し、不要な放射線被ばくや室内大気汚染を制御する計画やプロジェクトを進める。 表5に放射線・屋内大気部ORIAの主なプログラムを示す。市民の放射線と放射能への理解を促すプログラムが多い。このうち、リスク評価・連邦指針(Risk assessment and federal guidance)のプログラムは、環境放射能と原子力・放射線の利用に直接関連し、その詳細を米国科学アカデミー‐研究審議会(NAS-NRC)に検討を依頼している。 表6にEPAが依頼した検討課題に対する米国科学アカデミー‐研究審議会(NAS-NRC)の報告を示す。各々の検討課題に対して、NAS-NRCは専門委員会をつくって検討した。検討報告は専門委員会名「電離放射線の生物影響に関する委員会(Committee on the Biological Effects of Ionizing Radiation:BEIR)」の頭文字からBEIRレポートと呼ばれ、これまで8報告がある。そのうちBEIR-I、III、V、VIIは低レベル放射線の影響に関するものであり、BEIR-IV、VIはアルファ放射線とラドンの影響に関するものである。BEIR-IIは放射線利用のリスクとコスト対利益の評価である。BEIR-VIIはPhase 1とPhase 2があり、低レベル放射線量と癌の発生確率に関するものである。
米国では、米国科学アカデミー(NAS)の報告は最も権威と一貫性があるとみなされ、放射線影響の評価と防護における信頼性の高い情報源とみられている。環境保護庁(EPA)はそれらの情報等を基に、連邦指針レポート(Federal Guidance Report)(表3)を発表し、大統領の放射線防護に関する施政方針(Federal Guidance Policy Recommendations)(表4)の策定に貢献した。それらに沿って関連法規が策定・施行されている。
(前回更新:2004年7月)<図/表>