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<概要>
 環境保護庁(Environmental Protection Agency,EPA)は、1970年に設立された。大気、水および大地(自然環境)を適切に保護し、人の健康の維持増進が使命であり、そのための組織と体制を持っている。業務は2006年に策定された大気改善、水質改善、大地回復、生態回復、法令遵守の5年計画に示す五つのゴールに従って進められていた。2008年末に計画の見直しがあり2009〜14年計画が策定された。2009年度予算は約7.1拾億ドル、17,000名の職員と10の管区で環境保護に取り組む。この計画では、温室効果ガスの削減に原子力を積極的に採りいれる方針である。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
1.環境保護庁(EPA)の仕事
 環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は1970年に設立された。人が住む大気、水および大地(自然環境)を適切に保護することが使命であり、そのための大きな組織と体制を持っている。しかし以下の仕事は、協力関係はあるが主に他の省庁の業務である。1)放射性廃棄物の処理・処分、2)絶滅危惧種の保護、3)労働環境、4)食品の安全、5)道路の騒音や塵埃、6)農業や園芸、7)殺菌剤、殺虫剤、殺鼠剤等の課題。
2.組織と予算
 職員は約17,000人、EPA本部はワシントンDCにある。図1は本部の組織図を示す。全米に10の管区(Region)がある。図2は予算の推移を示す。
 2009年度予算では、1)生物学研究、2)環境汚染物質の防除、3)安全な水と食品供給、4)汚染や災害に対する研究開発力と人員の確保等に力点を置く。また、引き続き、水の安全確保、テロリストや大量殺戮兵器等への対応と準備(保障措置)、環境変化の最新の分析力、化学物質や生物および放射線防護に対する対応力の増強を図る計画である。このため、約7,1拾億ドルの予算と17,217名の職員を要求している。図3は資金計画を示す。
3.2009〜14年度計画
 2008年までは、2006〜11年度計画(06計画)で運営された。2008年度に計画は見直され、2009〜14年度修正計画(09計画)が発表された。この計画では、06計画の一部が変えられたが本筋は変っていない。以下の5ゴールに分けた計画の概要を示す。
3.1 第1ゴール、大気浄化と気候変動に関する計画
 計画の目的は、大気の浄化により健康と環境のリスクを減らし、企業やセクターと協力して温室効果ガスの排出量を下げ、健康に望ましい大気環境を整えることである。09計画では、温室効果ガスの削減のため、100以上の原子力発電施設の再認可と、25の新施設の認可を進める。さらに、以下の課題に取組む。
(1)より健康に良い屋外大気:オゾン層についてNOx濃度、自動車から出る粒状物質と気化有機物質を2000年レベル、有害気体について1993年より19%減など
(2)より健康に良い屋内大気:家屋内ラドンによるガン死亡率の低減、喘息発作の軽減
(3)オゾン層の保護:2015年までにオゾン層破壊物質の消費を2003年の9900トン/年から1520トン/年以下にする、メラノーマ(黒色肉腫)発生の低減
(4)放射線の監視:2011年までに国土の77%をラドン・モニタリングシステムRadNetで監視、原子力施設からの廃棄RI、放出RI、故意のRI汚染などに対する準備と対策
(5)温室効果ガスの排出低減:2012年までに160Mトンの炭素相当の温室効果ガスの排出を削減
(6)基礎研究:2012年までに、上記目的に合わせた最先端の研究開発
3.2 第2ゴール、水質向上に関する計画
 飲み水の安全を確保する。このため、海洋、河川や生態系の回復・保存、自然の再生力を保ち、魚、植物、野生生物に健全な生息地を提供する。
(1)人の健康を守る:水道の普及率を現行89%から91%にする、自然の貝や魚が食用に適するよう水銀の排出低減、河川等の水質を水泳可能までにする
(2)水質を守る:2012年までに、海、河川、湖沼等への汚染物質の排出低減・回復作業により水質の改善、居住地区の水質改善と衛生状態の改善
(3)基礎研究:2011年まで、飲み水、河川水、水泳プールなどのレクリエーション用水などの水質の改善と、関連する生態系の研究を進める。
3.3 第3ゴール、大地の保全と回復に関する計画
 廃棄物の処理・処分方法を改良し、汚染物を減らし有害物質の漏洩を低減して大地の回復と保全を図る。
(1)大地の保全:廃棄物の排出の削減、リサイクルの拡大、工場などからの石油製品の適切なマネージメント、建設廃棄物の再利用を2003年の59%から6%向上する。
(2)大地の回復:事故や故意による危険物の排出を抑制、環境の浄化と回復
(3)基礎研究:環境回復の研究開発にあたる。
3.4 第4ゴール、健康な社会と生態系の維持に関する計画
 総合的で一貫性のある問題解決と協力により、人の健康、社会、生態系の回復、維持、保護を図る。
(1)化学物質、有機物質、殺虫剤の危険性:これらの物質の利用を低減する。2011年までに新たに導入された化学物質の安全性を確認する。2010年までに子供の血中鉛濃度の低減。2011年までに35州のガソリンの鉛利用を削減する。
(2)社会:環境を浄化し、生態系を健全に保つ。
(3)危機にある生態系の保存と回復:湿地帯の保護、河川の生態系の回復
(4)基礎研究:殺虫剤、化学物質、世界的な環境変化、人・社会・生態系の横断的研究
3.5 第5ゴール、法令と環境保護
 環境への排出の低減、環境保護の協力、法令の遵守による環境保護策を進める。環境保護を進める行政、ビジネス、公衆に協力・激励し、人の健康と環境を守る。
(1)法令整備による環境保護:廃棄物の排出低減と処理を目指し法令整備
(2)環境汚染物質の低減と環境保護策による環境保護
(3)インディアン居住地区の健康向上と環境改善:2011年までに同地区の環境モニタリングを2005年の20%から26%に向上する。
(4)科学・研究による社会維持の力の向上:環境汚染を低減した技術、社会科学、持続社会、方向決定に役立つ科学の主導的な研究を進める。
(前回更新:2004年2月)
<図/表>
図1 EPA組織図
図1  EPA組織図
図2 EPA予算の推移
図2  EPA予算の推移
図3 2009年の資金計画
図3  2009年の資金計画

<関連タイトル>
自然放射線(能) (09-01-01-01)
世界における自然放射線による放射線被ばく (09-01-05-05)
世界における人工放射線による放射線被ばく (09-01-05-07)
米国原子力規制委員会(NRC) (13-01-02-06)
米国放射線防護審議会(NCRP) (13-01-02-07)

<参考文献>
(1)USEPA:About EPA,
(2)USEPA:2006−2011 EPA Strategic Plan:Charting Our Course,
(3)USEPA:FY2009 EPA Budget in Brief,
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