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<概要>
 BWR型原子力発電所で使用されるMARK I型格納容器圧力抑制系において、原子炉冷却材喪失(LOCA)時及び逃がし安全弁作動時に生じると考えられる動的な荷重を評価することを目的とした指針である。
 MARKI型格納容器の設計の妥当性を評価するに当たって圧力抑制系内にLOCA時及び逃がし安全弁作動時に考慮すべき動荷重及びそれらの評価方法を示している。ここでは本指針のほぼ全文を示す。
(昭和62年11月5日 原子力安全委員会決定、平成2年8月30日 一部改訂)

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている動荷重の評価指針については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
1999年11月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 原子炉冷却材喪失(LOCA)時に圧力抑制系内においては、原子炉冷却系から多量の冷却材が流出するに伴い、ドライウェルから非凝縮性ガスが圧力抑制プールへ移動し、さらに流出した蒸気がプール水によって凝縮される。この過程でプール水が運動し、このため種々の動的な荷重が生じる。また、逃がし安全弁の作動時にも逃し安全弁排気管(以下「排気管」という)内非凝縮性ガス及び原子炉冷却材が圧力抑制プールに流れこむ事によって、動的な荷重を生じる。
 「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」の格納容器に関する指針を満足するためには、これらの動荷重に対して、圧力抑制系の各構成部分がそれぞれ十分な強度をもち、健全性を確保する事を定量的に評価する必要がある。
 本指針では、MARK-I型格納容器の設計の妥当性を評価するに当たって、圧力抑制系内にLOCA時及び逃がし安全弁作動時に考慮すべき動荷重及びそれらの評価方法を示したものである。
 なお、新たな知見による別の妥当な評価方法等が示され、これによって本指針で満足される場合と同等の安全性を確保し得ると判断される場合にはそれを排除しようとするものではない。
 MARK-I型格納容器は、原子炉圧力容器及び再循環回路を取り囲むフラスコ形の鋼製のドライウェル、並びに圧力抑制系からなる。圧力抑制系は、円環形の圧力抑制室並びにこれに連絡するベント管、ベントヘッダ及びダウンカマからなる。逃がし安全弁排気管は、プール水中に導かれ、排気管の先端には、T字型クエンチャが設置される。
 MARK-I型格納容器の圧力抑制系は、LOCA時に原子炉冷却系から流出してくる蒸気を凝縮し、格納容器内の圧力上昇を抑制し、格納容器に放出された核分裂生成物が格納容器外へ放出されるのをできるだけ少なくする機能を有する。
 代表的なMARK-I型格納容器の構造説明図を図1に、主要設計諸元を表1に示す。
1. 考慮すべき動荷重
 MARK-I型格納容器の動荷重の評価に当たっては、以下に掲げるような原子炉冷却材喪失時並びに逃がし安全弁作動時に圧力抑制系内に生じる動的な荷重を考慮し、格納容器の健全性が確保できる設計であることを確認しなければならない。
1.1 原子炉冷却材喪失(LOCA)時の動荷重
 1.1.1 圧力抑制系のバウンダリに加わる荷重
     LOCA時の圧力抑制室内の現象と動荷重を 図2 に示す。
  (1) 破断発生直後に生じる圧力波により、プール壁面に加わる荷重
  (2) ベントクリアに至るまでの過程におけるダウンカマ下端からの噴流によりプール壁面に加わる荷重
  (3) 気泡の形成、プールスウェルによりプール壁面に加わる荷重
  (4) プールスウェル時の圧力抑制室気相部圧縮により圧力抑制室気相部壁面に加わる荷重
  (5) フォールバックによりプール壁面に加わる荷重
  (6) プールスウェル後のプール水面の揺動によりプール壁面に加わる荷重
  (7) 蒸気凝縮に伴いプール壁面に加わる荷重
 1.1.2 圧力抑制系内の構造物に加わる荷重
  (1) ベントクリア、気泡形成、プールスウェル、フォールバック及び蒸気凝縮に伴いプール水の流動により構造物に加わる荷重
  (2) ベントクリア時にダウンカマに対して横方向に加わる荷重
  (3) プールスウェル時にベント系に加わる衝撃荷重及びドラッグ荷重
  (4) プールスウェルに伴い圧力抑制室気相部内の構造物に加わる衝撃荷重
  (5) プールスウェル時、蒸気凝縮時の真空破壊弁作動により弁本体に加わる荷重
  (6) プールスウェル後のプール水面の揺動により構造物に加わる荷重
  (7) 蒸気流によりベント系に加わる荷重
  (8) 蒸気凝縮に伴いダウンカマに対して横方向に加わる荷重
 1.1.3 格納容器を貫通する配管系に加わる荷重
    1.1.1及び1.1.2に示した荷重によって格納容器を貫通する配管系に間接的にもたらされる荷重
1.2 逃がし安全弁作動時の動荷重
 1.2.1 圧力抑制系のバウンダリに加わる荷重
    逃がし安全弁作動時の圧力抑制室内の現象と動荷重を 図3 に示す。
  (1) クリアリングに引き続き、排気管内にたまっていた非凝縮性ガスがプール内に吹き出し膨張、収縮することによりプール壁面に加わる荷重。
  (2) 排気管からプールへ流入する蒸気の凝縮が不安定となる場合に生じるプール壁面に加わる荷重。
  1.2.2 圧力抑制系内の構造物に加わる荷重
  (1) 弁の作動開始直後、排気管内にたまっていた水のクリアリングによる噴流により、構造物に加わる衝撃荷重及びドラッグ荷重。
  (2) クリアリングに引き続き、排気管内にたまっていた非凝縮性ガスがプール内に吹き出して膨張、収縮することにより構造物に加わるドラッグ荷重。
  (3) 排気管からプールへ流入する蒸気の凝縮が不安定となる場合に生じる構造物に加わるドラッグ荷重。
  (4) 弁作動時にクェンチャ自身に加わる荷重
 1.2.3 格納容器を貫通する配管系に加わる荷重
     1.2.1及び1.2.2に示した荷重によって格納容器を貫通する配管系に間接的にもたらされる荷重。
2. 動荷重の定量的評価
2.1 評価方法
  前項に揚げた各動荷重は、現在得られている理論、実験データとの比較等により、使用の妥当性を示し得る評価方法を用いて定量的に評価されなければならない。
2.2 事故条件、弁作動条件
  本指針の対象とする格納容器の動荷重は多種多様であり、各々の荷重の大きさや継続時間等は事故条件と弁作動条件に依存し、それらの最悪条件は必ずしも同一ではない。したがって、動荷重の評価に当たっては、例えばプールスウェル、蒸気凝縮荷重に関しては、破断面積をはじめとするパラメータへの依存性、荷重及びその組み合わせについて適切な安全余裕を考慮しなければならない。また、逃がし安全弁作動時の動荷重に関しては、弁が引き続き継続的に作動する等の作動条件、原子炉圧力条件、荷重及びその組み合せについて適切な安全余裕を考慮しなければならない。
<図/表>
表1 MARK-I型格納容器主要設計諸元
表1  MARK-I型格納容器主要設計諸元
図1 代表的なMARK-I型格納容器構造説明図
図1  代表的なMARK-I型格納容器構造説明図
図2 MARK-I型圧力抑制系内のLOCA時の現象と動荷重の説明図
図2  MARK-I型圧力抑制系内のLOCA時の現象と動荷重の説明図
図3 MARK-I型圧力抑制系内の逃がし安全弁作動時の現象
図3  MARK-I型圧力抑制系内の逃がし安全弁作動時の現象

<関連タイトル>
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
指針の整備 (11-03-01-02)
BWR、MARK-II型格納容器圧力抑制系に加わる動荷重の評価指針 (11-03-01-12)

<参考文献>
科学技術庁 原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員会 安全審査指針集、大成出版(1994)
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