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<概要>
 この指針は、発電用軽水型原子炉施設における安全機能維持の観点から、火災防護に関して考慮すべき事項をとりまとめたものである。すなわち、原子炉施設は、火災発生防止、火災検知及び消火並びに火災の影響の軽減の3方策を適切に組み合わせて、設計されなければならない。ここでは指針のほぼ全文を示す。
(昭和55年11月6日原子力安全委員会決定 平成2年8月30日一部改訂)

(注)東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。本データに記載されている火災防護に関する審査指針については、原子力規制委員会によって見直しが行われる可能性がある。なお、原子力安全委員会は上記の規制組織改革に伴って廃止された。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.まえがき
 火災に対して設計上考慮すべき内容については、「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(平成2年8月30日原子力安全委員会決定)に示されている。この指針を受けて、発電用軽水型原子炉施設の安全機能維持の観点から、火災防護に関して考慮すべき事項をとりまとめたものである。なお、許可申請の内容が本指針に適合しない場合があったとしても、それが技術的な改良、進歩等を反映して、本指針が満足される場合と同等の安全性を確保し得ると判断される場合、これを排除しようとするものではない。
2.用語の定義
(1) 「火災区域」耐火壁、隔壁、間隔又は、それらの組み合わせによって、他の区域と分離され、火災防護の見地から、1つの単位と考えられる空間をいう。
(2) 「耐火壁」床、壁、天井、扉等耐火構造の一部であって、1時間以上の耐火能力を有するものをいう。
(3) 「隔壁」火災の波及を防止するための不燃性構造物をいう。
(4) 「消火装置」消火器具、消火栓設備、自動消火設備及び遠隔手動消火設備をいう。
(5) 「火災検出装置」火災の発生の検出を行い、警報等を行う設備をいう。
(6) 「火災荷重」ある空間内に保持されている可燃性材料の潜在的発熱量をその空間の火災荷重という。
(7) 「不燃性」火災により燃焼しない性質をいう。
(8) 「難燃性」火災により著しい燃焼をせず、また、加熱源を除去した場合はその燃焼部が広がらない性質をいう。
(9) 「可燃性材料」不燃性材料以外の材料をいう。
3.火災防護に関する審査指針
 火災により原子炉施設の安全性が損なわれることを防止するためには、安全機能の重要度に応じて、以下の火災発生防止、火災検知及び消火並びに火災の影響の軽減の3つの方策を適切に組合せた設計でなければならない。

指 針解 説
全般火災発生防止、火災検知及び消火、火災の影響の軽減の3つの方策を組合せた設計であること。同一発電所内での同時に無関係な複数箇所での火災発生や有意に起こることは考えられない自然現象及び他の異常事象と同時に無関係な火災が発生することは仮定しなくともよい。
1.火災発生防止
1-1原子炉施設の設計にあたり、その運転時はもとより故障時にも火災の発生を防止するための予防措置が講じられていること。発火性又は引火性の液体又は気体を含む系統の漏洩防止、電気系統の地路、短絡防止などのほか、特に水素に起因する火災発生に配慮した火災防護設備を設ける。
1-2安全機能を有する構築物、系統及び機器は、実用上可能な限り不燃性又は難燃性材料を使用する設計であること。安全上重要な区域の中で、手動消火のために接近できない上、遠隔操作消火装置もない所には可燃性材料を集積しない。区域内で油のような可燃性材料を使う時はその貯蔵量を必要最低量とする。
1-3>原子炉施設内の構築物、系統及び機器は落雷・地震等の自然事象により火災を生ずることがないように防護した設計であること。避雷針を設けたり、耐震設計をする。
2.火災検知及び消火
2-1火災検出装置及び消火装置は、安全機能を有する構築物、系統及び機器に対する火災の悪影響を限定し、早期消火を行える設計であること。「悪影響を限定する」とは、火災の影響範囲の拡大を防ぎ、放射性物質の制御されない放出を防止することである。
1)火災検出装置は各区域の火災の影響や性質、また、放射線、温度、湿度、空気流等の環境条件を考慮する。また、常用電源喪失の場合でも機能するとともに、原則として制御室で監視できるようにする。さらに必要に応じてスプリンクラ、換気設備及び防火ダンパ等を制御、作動させられるようにする。
2)消火用水の量は十分で、その配管を他の系の配管と共用する時は信頼性が下がらないようにする。また消火ポンプ系は多重性をもたせ、その故障の警報は制御室で監視できるとともに常用電源の喪失時にも機能を失わないこと。
3)消火栓は全ての火災区域の消火活動に対処できるように配置する。
4)電気ケーブルが密集し、人が容易に接近できない区域には水スプリンクラ系を用いる。密閉された所ではガススプリンクラを用いても良いが、採用する場合は、立入者には早期に警報をだすようにする。ただし、スプリンクラ系を用いる時は重要な構築物、系統及び機器がその散布によって機能を著しく阻害されないこと。
2-2消火装置は、その破損、誤動作又は誤操作によって安全機能を有する構築物、系統及び機器の安全機能を失わない設計であること。
2-3消火装置は、火災と同時に有意に起こると考えられる自然事象によっても、その性能が著しく阻害されることがない設計であること。「火災と同時に有意に起こると考えられる自然事象」とは、火災と同時に発生する確率が有意である地震等の独立事象をいい、「その性能が著しく阻害される」とは、想定火災に対処する消火能力が喪失することをいう。
3.火災の影響の軽減
3-1安全機能を有する構築物、系統及び機器を含む区域は、その重要度に応じ、隣接区域の火災による影響も含めて火災の影響の軽減対策が講じられていること。「その重要度」とは原子炉の停止、除熱の観点からの安全上の重要度をいい、「火災の影響の軽減対策」とは以下の事項を考慮した設計を意味する。
1)安全上重要なものを含む区域のうち、火災の影響を受ける恐れのある所は適切な区画によって火災区域を設定する。
2)各火災区域について、耐火壁によって延焼を防ぐか、耐火壁、隔壁、間隔及び消火装置の組合わせによって延焼を防止する。但し、制御室以外では可搬型消火器の効果を期待してはならない。
3)影響の軽減を耐火壁だけに期待している火災区域では、その中や周辺の火災荷重に基づいて耐火壁能力を決める。この場合も原則として消火装置を設けることが望ましい。
4)影響を軽減するために、耐火壁、隔壁、間隔及び消火装置の組合せを利用する火災区域では、これらの効果を評価する。
5)上記の3)と4)の評価の際には、消火装置の単一故障を仮定し、熱、煙、流出流体等の影響や断線、爆発等の2次効果も十分考慮する。
6)換気系は、他の火災区域からの火、熱、又は煙が安全機能を有する構築物、系統及び機器の存在する火災区域に悪影響を及ぼさないようにする。また、これに係わるフィルタを火災の延焼から防ぐ方法を用いる。
7)電気ケーブルや引火性液体の密集区域及び通常運転員が駐在する区域では火災によって発生する煙を処理できるように設計する。
8)火災に関連した爆発の起こる可能性はできるだけ排除する。
9)原子炉施設近辺には可燃性材料の量を少なくし、外部で発生した火災により安全機能が損なわれないように設計をする。
3-2原子炉施設内のいかなる場所の想定される火災に対しても、この火災により原子炉に外乱が及び、かつ、安全保護系原子炉停止系の作動を要求される場合には、単一故障を仮定しても、原子炉を高温停止できる設計であること。
低温停止に必要な系統は、原子炉施設内のいかなる場所の想定される火災によっても、その機能を失わない設計であること。
「想定される火災」とは安全評価上考えられる頻度で発生する火災、例えば、油等の引火性材料の火災、電気機器及び電気ケーブルの電気火災等をいう。「単一故障を仮定」とは、想定した火災によって原子炉を速やかに停止し、かつ、停止状態を維持する必要が生じた場合、高温停止のために新たに作動が要求される安全系の機器に動的単一故障を仮定するよう要求している。「高温停止できる」とは、想定される火災の原子炉への影響を考えても高温停止状態の達成に必要な系統及び機器がその機能を果たすことができることをいう。

補足:
(1)この指針は、原子炉施設の建設に着手する直前に国によって実施される「設工認」で適用される。
(2)これ以外に一般の建築物を対象した建築基準法や消防法による制約も受ける。
(3)同一施設内で同時に互に無関係な火災の発生は想定しなくてよいとしている。
(4)地震と同時に地震のせいで生ずる火災は、「地震」と「火災」の重なりを考慮するよう要求している。
<関連タイトル>
安全審査指針体系図 (11-03-01-01)
指針の整備 (11-03-01-02)
発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針 (11-03-01-05)
発電用軽水型原子炉施設の安全評価に関する審査指針 (11-03-01-10)

<参考文献>
(1) 科学技術庁原子力安全局原子力安全調査室(監修):改訂8版 原子力安全委員 会安全審査指針集、大成出版(1994).
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