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<概要>
 原子力施設の緊急時に住民が動揺・混乱することなくその安全を守るためには、発生した異常事態と、その防災対策に関する情報が迅速かつ正確に住民に伝達されることが重要である。そのためには、国、地方公共団体、原子力事業者など防災対策に関係する各機関が各種の情報を共有して対策に当たることが基本となる。
 住民に対する広報は、災害弱者及び外国人を含むすべての住民に漏れなく情報が提供されるよう、マスメディアの利用を含めた各種の方法が利用される。
 情報の集約と広報を円滑かつ確実に実施するために、国、地方自治体、オフサイトセンター、原子力事業者などをインターネットなどで結ぶ「統合原子力防災ネットワーク」が整備されている。
<更新年月>
2016年10月   

<本文>
1. 住民広報の基本的考え方
 原子力施設の緊急時においては、地元の住民が動揺・混乱することなく、秩序ある行動をとることが大切である。このためには、発生した異常事態の状況とそれに対する対策に関する情報が、迅速かつ正確に、地元住民に漏れなく伝達されることが重要である。さらに、緊急時に秩序ある行動がとれるように、普段から原子力防災に関して、特に防災対策を重点的に充実すべき範囲の地域の周辺住民などへの情報提供を行う必要がある。
 緊急時に住民に広報すべき情報は、(1)事故の状況、放射線量のデータ、交通規制の状況などの「事実の情報」と(2)避難・退避、飲食物の摂取制限など住民が取るべき行動の指針などの「行政の判断」に関するものとに大別できる。住民への情報や指示の伝達が正確かつ迅速に行われるように以下の点に注意して広報文を作成する。
 ・住民への知識の普及の度合いを勘案して、住民が理解できるよう情報を整理する。
 ・放射線量のデータを伝える場合には、その意味を理解するための情報(平常時の数値、法令などの基準・指標)を必ず付け加える。
 ・事故発生事業所の場所、避難対象区域、交通規制の状況などの情報を伝える場合には、テレビなどで生中継ができるよう必ず地図を用いる。
 これらの情報を正確に住民に提供するためには、まず、各種の情報を集約し、その地域及び関連地域すべての防災業務関係者がこれを共有することが基本である。
 1999年9月30日に茨城県東海村で発生したウラン加工工場における臨界事故を契機に制定された「原子力災害対策特別措置法」(平成11年12月制定、平成12年6月施行、平成26年11月21日最終改正)では、原子力緊急事態が発生した場合、緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)に原子力災害現地対策本部が置かれ、国、地方自治体、原子力事業者などの関係機関が一堂に会して防災対策に当たることになっている。防災に関する情報に関しては、同センターが各種の決定事項、事故状況や応急対策実施状況などの基本情報を集約するとともに、住民へ迅速かつ正確に情報を伝えるための内容、伝えるタイミングなどの整合性を図り、各災害対策本部や報道機関へ発信する中核的な存在となる。
2. 住民広報の手段
 原子力災害も一般災害と同様にいつ起こるかわからない。自宅、職場、学校、屋外などあらゆる場所に住民が居ることを想定しなければならない。したがって、住民広報(住民へ迅速かつ正確に情報を伝えること)も複数の手段を用い、同時並行的に情報を伝達することを基本とする。
 行政機関である地元道府県は、各自治体のホームページ及び指定地方公共機関であるラジオ、テレビ、新聞など地元報道機関のホームページを通じ、事故の状況及び対応状況、オフサイトセンターにおける住民への措置に関する決定事項など、必要な情報を内容に応じて効率的・効果的に活用し、住民に提供する。
 地元市町村は、防災行政無線(屋外設置や戸別設置)、広報車、主要箇所への掲示(駅前などの電光掲示)などあらゆる広報手段を用いて事故や災害の状況、防護措置の決定事項などを地域住民に広報する。広報に当たっては、住民への知識の普及の度合いを勘案し、住民が理解できるように情報を整理する。放射線量のデータを伝える場合には、その意味を理解するための基準などを付記する。事故発生の事業所の場所、避難対象区域、交通規制の状況などの情報を伝える場合には、必ず地図を用いる。
 視覚障害者、聴覚障害者、外国人などいわゆる災害弱者は、通常の住民広報の手段による情報だけでは、原子力災害に関する様々な情報を正確に認知することは難しい。全てのタイプの災害弱者が直ちに満足できる情報を提供することは困難であるが、災害弱者に対しては、まず、タイプに応じて迅速に注意喚起を行い、タイプに応じた主な住民広報(英語や中国語などの対応できるホームページ等に問い合わせ窓口を設けるなど)の手段へ誘導する。
 現在、視聴覚障害者への注意喚起の手段として、振動機能付き携帯電話を使った一斉通報システムが導入されている。注意喚起後の広報手段としては、防災無線放送、ラジオ、テレビによる文字放送などが有効である。また、日本語の不自由な外国人に対しては、市町村防災行政無線あるいは指定公共機関として指定されている放送局の協力を得て、外国語による広報が検討されている。
3. 原子力防災ネットワークの活用
 情報の集約・共有と一元的な広報を円滑かつ確実に実施するため、国、地方自治体、オフサイトセンター、原子力事業者などの関係機関をインターネットなどを利用したネットワークで結び、迅速かつ的確な応急対策を可能とする「統合原子力防災ネットワーク」が導入されている。例として茨城県における「統合原子力防災ネットワークの構成(概要)を図1に示す。
 ネットワークは以下の方針に基づき構築される。
3.1 サーバー(サービスを提供するコンピュータ)の整備
 ・原子力災害に関する様々な情報を集約する「情報集約用サーバー」及び住民が理解しやすいよう情報を整理する「住民広報用サーバー」を整備する。
 ・行政機関や報道機関は、それぞれの活動に係る情報を「情報集約用サーバー」に送信する。また、各機関は、「住民広報用サーバー」にアクセスし、情報を入手する。
 ・「情報集約用サーバー」に送信される内容及びその情報を整理する方法については、可能な限りあらかじめフォーマットを定め自動化しておく。
3.2 行政機関が直接行う広報
 ・行政機関は、「住民広報用サーバー」から入手した情報を基に、市町村防災行政無線などを使用して、住民及び近隣住民へ情報を提供する。
 ・行政機関や防災関係機関は、「住民広報用サーバー」に掲載されている情報を行政機関ごとのホームページに転載するなどにより、住民や報道機関がインターネットを通じて情報を入手できるようにする。
3.3 マスメディアなどを経由して行う広報
 ・指定公共機関として指定されている報道機関は、「住民広報用サーバー」から入手した情報を基に、災害対策基本法に基づく協力の一環として確実に住民広報を行う。
 茨城県では災害発生時に「茨城県原子力災害ホームページ」を立ち上げ、(1)事故・トラブルの概要、(2)本部などの設置状況、(3)環境への影響、(4)屋内退避・避難、(5)飲食物摂取制限、(6)ヨウ素剤の配布、(7)学校の状況、(8)交通機関・道路規制の状況などが広報される。これらはトップページに表示され、詳細ページとしてトップページで選択された内容の詳細情報、さらに詳細ページから選択された内容の解説情報が表示されるようになっている。
4. 平常時における原子力防災に関する情報の提供
 原子力災害の特殊性に鑑み、原子力防災に関して周辺住民などへの情報提供を普段から行う必要がある。内容としては、(1)原子力の基礎知識に関する情報として放射性物質及び放射線の特性など、(2)原子力事業所の概要、(3)原子力災害の特殊性、(4)原子力災害発生時における防災対策の内容(例えば、応急対策の流れや住民がとるべき行動の基本的指針などを地図を用いてわかりやすく記述したもの)、(5)平常時から行われている環境モニタリングの提供などについて、広報誌、パンフレット、ビデオ、インターネットなど、多様な手段により周知を図ることが有効である。
(前回更新:2003年9月)
<図/表>
図1 統合原子力防災ネットワークの構成(茨城県の例)
図1  統合原子力防災ネットワークの構成(茨城県の例)

<関連タイトル>
日本の原子力防災対策の概要−考え方と体制 (10-06-01-01)
原子力防災対策のための国および地方公共団体の活動 (10-06-01-04)
緊急時の医療活動 (10-06-01-07)
原子力防災のための訓練 (10-06-01-08)
オフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設) (10-06-01-09)
原子力緊急時支援・研修センター (10-06-01-10)

<参考文献>
(1)原子力規制委員会:原子力災害対策指針(平成24年10月31日)、https://www.nsr.go.jp/data/000024441.pdf
(2)経済産業省:新潟県中越沖地震を踏まえた防災基盤の整備状況について
(防災2116-6-1)
(3)茨城県防災会議:茨城県地域防災計画(原子力災害対策計画編、
最終修正平成27年3月)
(4)茨城県:平成27年度茨城県の原子力安全行政
(5)茨城県ホームページ:茨城県原子力災害情報ホームページについて、

(6)原子力安全基盤機構」:平成22年〜23年度原子力安全基盤調査研究、
「原子力安全に係る防災情報の発信・伝達・受容に関する研究」、
東京海上日動リスクコンサルティング株式会社、平成24年2月、

(7)原子力災害対策特別措置法(平成十一年十二月十七日法律第百五十六号
(最終改正:平成二六年一一月二一日法律第一一四号))
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