<本文>
1.一般概況
平成10年度の日本経済は景気後退局面に入り、実質経済成長(実質GDP)が−2.0%と、2年連続でマイナス成長が続く、きわめて厳しい状況となった。平成10年度の
最終エネルギー消費は、前年度に比べ1.1%減少の15,156PJ(ペタ・
ジュール:1PJは原油換算2.4万トンに相当)となり、昭和57年(1982年)度以来の減少となった。1次エネルギー総供給量は、前年度に比べ2.5%減少の22,811PJとなり、こちらも昭和61年(1986年)度以来の減少となった。エネルギー供給源別構成では、原子力が対前年度比4.1%増の3,130PJとなり、全体に占める割合も0.8ポイント上昇して13.7%となった。天然ガスと水力もそれぞれ前年度より3.8%、2.4%増加したが、石油と石炭はそれぞれ4.7%、5.4%の減少となり、対前年度で
化石エネルギーは3.7%減、非化石エネルギーは3.0%増となった。これらの結果として、わが国のエネルギー起源の二酸化炭素排出量は、302.7炭素換算百万トン(対前年度比3.5%減)となり、国民1人当たりの排出量としては、2.39炭素換算トン(同0.1%減)となった。
日本
原子力発電の東海発電所(GCR、16.6万kW)が閉鎖されたため、10年度末における原子力発電の状況は、運転中(新型転換炉原型炉「
ふげん」を除く)の
原子炉は前年度より1基減の51基、4,492万kWとなった。これにより、総発電設備容量(電気事業用)に占める原子力発電の割合(シェア)は20.2%となり、前年度に比べて0.6ポイント減少した。一方、10年度の
原子力発電所の
設備利用率は、前年度より2.9ポイント高い84.2%を記録、過去最高となるとともに、4年連続で80%台となった(
表1 )。
平成10年度は新たに東北電力の東通1号機(
BWR、110万kW)が
着工し、建設中は1基増の3基、356.3万kWとなった。東通1号機は、北陸電力の志賀1号機以来10年ぶりの新規地点での着工。営業運転開始は平成17(2005)年7月の予定で、総工費は4,280億円である。一方、今後の計画としては、着工準備中地点として巻1号、浜岡5号、志賀2号の3地点356.3万kWがある。
2.平成10年度原子力産業実態調査
世界的規模での規制緩和・自由化により、わが国を含めた各国の電気事業は急激な変化に直面している。今回の第40回調査では、そうした視点から、平成10年度(平成10年4月〜11年3月)に実績回答のあった民間企業419社の売上高、支出高、取扱高、従事者数を集計し、わが国の原子力産業の実態を調査した。それによると、鉱工業の原子力関係売上高が2年連続の減少となり、なかでも電気事業への納入比率が大きく低下してきている。一方、発電所の運転と密接な関係を持っている原子力専業の売上は安定した動きとなっている。しかし、大きなトレンドとしてみた場合、原子力産業の売上低下は否定できない。また、わが国原子力産業界の輸出意欲が依然として低いという現状がアンケート調査から明らかになった。国内市場にのみ依存してきたわが国原子力産業界は、市場構造の変化への対応を否応なく迫られている。調査結果の主な指標を
表1および
図1 に示す。
a)電気事業の支出動向
・原子力関係支出高
平成10年度の電気事業の原子力関係支出高は前年度比1.2%、198億円減の1兆6,963億円となり、前年とほぼ同じ水準だった。費目別支出の内訳は、準備費523億円(対前年度13%、76億円減)、建設費2,642億円(同16%、510億円減)、核燃料費4,676億円(同3%、123億円増)、運転維持費8,976億円(同3%、270億円増)等となっている(
図2 )。
建設費は昭和58年(1983年)度に記録した8,395億円をピークに減少傾向を示してきたが、今回調査ではピーク時と比べると69%減となった。これは、平成元年度以降、建設中原子力発電所の基数が年々漸減し、10年度は、実質的に建設中の原子力発電所が女川3号機のみとなったことが影響している。これまで顕著な伸びを続けてきた運転維持費は、平成9年度から2年続いての増加、また、全支出に占める割合も53%となり、6年度から5年連続の50%台を記録した。なお、運転維持費のうち、引当金(使用済み燃料
再処理費、廃棄物処分費、原子炉解体費等)、委託費、廃棄物処理費、補償費、消耗品費等が含まれる「その他」は、総支出の20%を占め、対前年度比16%増の3,437億円となった。
平成9年(1997年)度に初めて4,000億円に達した核燃料費は、今回調査でも前年度並みである。核燃料費は、海外への支出(輸入)が比較的多いのが特徴であるが、このうち外貨支払高が1,300億円と核燃料費全体の28%を占めており、前年(1,382億円、同32%)とほぼ同じ水準を維持した。なお、核燃料費には、海外に委託している再処理費用(外貨支払)と六ヶ所再処理工場への前払金支出が含まれている。
原子力発電所の運転に係る核燃料費と運転維持費を発電電力量当たりでみると、平成10年度は、核燃料費が1.41円/kWh、運転維持費が2.71円/kWhで、合計4.12円/kWhであった(
表2 )。また、設備容量でみると、核燃料費が1万411円/kW、運転維持費が1万9,984円/kWで、合計3万395円/kWであった。ここ10年間の推移では、発電電力量当たりでも設備容量当たりでも、運転維持費は概ね減少傾向をたどっており、高い設備利用率や運転保守技術の向上などによるものと考えられる。準備費のうち、原子力関係技術の研究・開発費、従業員訓練費、外部への委託研究費などの「試験研究開発費」が同10%減の362億円、広報関係費用、新規立地に関わる事前調査費等が含まれている「その他の経費」は、同19%減の160億円となった。試験研究開発費のここ10年間の推移をみると、平成7年度(540億円)までは500億円前後で比較的落ちついた動きをみせていたが、8年度以降は急激に減少に転じており、10年度の試験研究開発費は、この10年間で最高であった7年度に比べて33%減となった(
図3 )。
電気事業の支出構成比の推移を
図4 に示したが、運転維持費は平成6年(1994年)度から5年連続して50%台を記録している。次いで核燃料費が28%、建設費16%、準備費その他が4%を占めることとなった
b)鉱工業の売上動向
平成10年度の鉱工業の原子力関係売上高は、前年度の1兆8,040億円から17%減の1兆5,020億円となり、9年度(対前年度比12%減)に続く2年連続の大幅な減少となった。近年の新規原子力発電所の建設が低調な影響が大きく現れた結果となっている。鉱工業間の中間取引的な売上を除いた、エンドユーザーである電気事業者や政府など最終需要者への売上高(最終需要相当額)は1兆3,433億円となり、対前年度(1兆6,674億円)比19%の減少となった。また、原子力関係従事者(総数46,119名)1人あたりの売上高も3,257万円となり、対前年度(3,993万円)比18%減となった。
・電気事業依存体質の変化
ここ10年間(平成元年度〜10年度)の鉱工業売上高の推移を納入先別にみると、総売上高の変動の傾向が、最大の顧客である電気事業への売上動向と大きな相関があることが分かる(
図5 )。鉱工業の売上における電気事業への納入比率は平成5年度の79%を最高に、5年連続でシェアが低下した。また、売上高も5年度には過去最高の1兆7,368億円(鉱工業売上全体では、4年度の2兆2,410億円が最高)を計上、10年度には43%減の9,821億円にまで低下しており、最大の顧客である電気事業への売上依存が弱まる傾向にあることが浮き彫りになった(
図6 )。
電気事業向け売上の内訳をみると、平成10年度は、最も大きなウエイトを占める原子炉器材・発変電機器が対前年度比29%減の3,885億円、平成5年度に記録した1兆1,416億円から、66%の大幅な減少となった。建設・土木が同28%減の629億円となった。また、燃料サイクル関係では核燃料サイクル機器の売上が対前年度比32%減の396億円に大幅減少、廃棄物処理・処分が同13%減の221億円となった一方、
核原料物質、濃縮、核燃料集含体、核燃料輸送の各項目で着実に売上を伸ばした。プラントの運転保守に関わる保守メンテナンスは、同18%減の2,330億円となった。発電所建設に関連の深い部門の売上が急激に悪化していることがわかる(
表3 )。
一方、同期間の電気事業側の支出動向との関係をみると、建設費支出が平成3年(1991年)度の7,822億円からほぼ単調に減少し続けており、10年度には2,642億円へと、約3分の1へ大幅に減少、鉱工業のプラント建設関連売上の減少を裏付ける形となっている。なお、電気事業の支出動向に対し、鉱工業の売上は1〜2年の遅れで影響が現れる傾向になっている。 建設関連支出の激減の反面、発電所の運転に伴う支出である核燃料費ならびに運転維持費は、運転基数の増加とともに、ほぼ増加基調で推移してきており、平成10年度は両者の合計が1兆3,653億円と、過去最高となった。しかし、これに対応する鉱工業の売上は、燃料サイクル(核原料物質、濃縮、核燃料集合体、再処理、廃棄物処理・処分、核燃料サイクル機器、核燃料輸送)と保守メンテナンスの動向をみると、どちらも増加傾向がみられるものの、10年度の両者の合計は4,374億円にとどまっており、建設関連の売上減少をカバーするに至っていない。鉱工業の電気事業への売上高の急激な減少は、新規発電所建設の停滞にともなう電気事業の支出構造の急激な変化に対応できないことによるものと考えることが出来る。
・政府、鉱工業向け売上
電気事業以外の納入先では、政府向け(1,581億円)、鉱工業向け(1,587億円)が大きく減少(対前年度比各16%、26%減)したほか、公私立大学・病院等向け(1,495億円)もわずかに減少した。これに対し、輸出は536億円となり、前年度の397億円から35%増加した。政府向け売上高と政府原子力関係予算の関係をみると、ここ10年間、原子力関係予算がほぼ4,000億円台で推移しているのに対して、鉱工業の売上高は、平成1〜2年度はほぼ原子力関係予算と同規模であったが、その後急減し、5年度以降は1,000億円台で低迷している(
図7 )。これは原子力予算についても電気事業の支出同様、施設建設といった鉱工業の売上に直接寄与する項目が減少してきていることが背景にあると考えられる。
・原子力専業の売上
原子力発電所建設に関係の深い機器メーカーと建設業で売上の減少傾向がはっきり現れている。一方、発電所の運転と密接な関係を持った原子力専業は安定した動きとなっている(
図8 )。プラント機器メーカーの主要業種である電機・重電製造業(本調査の業種分類「電気機器製造業(平成10年度売上回答23社)」と「造船造機業(同4社)」をあわせたもの)の平成10年度の売上高は5,996億円(対前年度比25%減、ピークの5年度の1兆1,061億円からは46%減)、また、建設業(同78社)も10年度の売上高は3,375億円(対前年度比17%減、ピークの4年度の5,958億円からは43%減)となっている。これに対し、核燃料製造、保守メンテナンス等、原子力プラントの運転維持管理と密接な関係を持った企業が多い原子力専業(同30社)は、平成10年度には売上高2,153億円(対前年度比1%減)を計上、この10年間をみても、他業種と比べて安定した実績を達成している。
・資本金500億円以上の企業の売上
鉱工業における過去10年間の資本金階層別売上高の推移をみると、主に大手建設業、電気機器製造業や造船造機業を含む資本金500億円以上の階層の企業が鉱工業全売上の約半分を占めてきた(
図9 )。平成10年度は、資本金500億円以上の企業(23社、
表4 )の売上が対前年度比21%減の6,984億円と、他の資本金階層に比べて大幅に落ち込んだため、鉱工業全売上に占めるシェアは46%へと、やや後退した。こうした企業の売上は近年売上高減少の著しい分野でのシェアがとりわけ大きいのも特徴である。
・原子力関係輸出、RI・放射線機器を中心に増加、平成元年以降10年間の鉱工業の原子力関係輸出高をみると、6年度以降大きく売上を伸ばしている(
図10 )。特に7年(1995年)度以降はRI・放射線機器が順調に増加しており、輸出の中心になっている。平成10年度の鉱工業の原子力関係輸出は、やや落ち込んだ9年度に比べて、35%増の536億円となり、この10年間で最高となった。内訳をみると、RI・放射線機器が構成比65%を占め、対前年度比6%増の350億円と、引き続き増加基調を維持している。また、9年度まで平均2億円程度(4〜9年度)で低調に推移してきた保守メンテナンス部門が、一挙に80億円へと大幅に増加した。
3.鉱工業の受注残高
次年度以降の鉱工業の売上高を予測する上で重要な指標となる受注残高(平成11年3月末現在)は、2兆4,135億円(対前年度1,349億円、6%増)となり、やや回復した。
図11 に示すとおり、この金額は同年度売上高の約1.6年分に相当し、9年度の1.3年分、8年度の1.2年分を上回っているが、10年度売上高が前年度を大幅に下回ったことを考えると、好転の兆しとはいえないと考えられる。
受注残高の部門別推移を図11に示す。原子炉機材と建設・土木両部門がそれぞれ対前年比15%、47%の増加となり、発変電機部門は9%の減少となった。燃料サイクル、その他製造部門はそれぞれ6%、34%の減少となった。RI・放射線機器部門は12%の増加となった。
<図/表>
<関連タイトル>
平成10年度電力供給計画 (01-09-05-14)
平成11年度電力供給計画 (01-09-05-15)
原子力産業実態調査報告(平成8年度) (10-05-03-01)
原子力産業実態調査報告(平成9年度) (10-05-03-02)
<参考文献>
(1)日本原子力産業会議(編集発行):平成10年度 原子力産業実態調査報告−迫られる構造変化への対応−(第40回調査)原子力調査時報第69号(1999年12月)