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<概要>
 放射線育種場では、ガンマ線照射して、農作物の突然変異を効果的に誘発させる効率的誘発技術の研究開発、新しい特性をもつ種子の開発、突然変異誘発機構の研究、農作物の品種改良とその選抜技術の研究などを実施している。すでに、耐黒斑病の性質をもつ「ゴールド二十世紀梨」、純白系エノキダケ「臥竜1号」、常緑性高麗芝「ウィンターカーペット」、イネの短躯品種「レイメイ」、米アレルギー疾患用の「低アレルゲン米」など利用価値の高い品種を作出している。また、放射線育種場はアジア地域における放射線育種分野において、指導的立場で研究支援を行うとともに、依頼に応じた照射サービスを提供している。
 放射線育種場は、省庁再編成により2001年4月には農林水産省所管の[独立行政法人]農業生物資源研究所の1研究部門となり、研究部門の改称もあったが、内容的には旧農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場を引き継いでいる。
<更新年月>
2005年11月   

<本文>
 放射線育種場は、屋外にあるガンマ線照射施設(ガンマーフィールド)を主要な施設とする農林省の試験研究機関として1960年に設置され、組織変更により1983年には農林水産省農業生物資源研究所の支所となった。さらに省庁再編成により2001年4月には旧農業生物資源研究所と旧蚕糸・昆虫農業技術研究所とが統合され、さらに、家畜ゲノム解析やクローン技術開発を行っていた畜産試験場の研究者、免疫機構の研究を行っていた家畜衛生試験場の研究者が加わり、農林水産省所管の[独立行政法人]農業生物資源研究所となった。農業生物資源研究所の目標は、農林水産業の生産性の飛躍的向上と新たな展開を可能とする新産業の創出のための生命科学研究の深化・加速を図ることである。2005年4月現在、同研究所の職員数は常勤職員、約400名、うち研究職約270名となっている。
 放射線育種場を含む[独立行政法人]農業生物資源研究所の組織図を図1に示す。研究部門は、基盤研究、昆虫・動物生命科学研究および、植物生命科学研究から構成されており、放射線育種場は植物生命科学研究部門の5研究グループの1つである。図2は植物生命科学部門の概要を示す。
1.放射線育種場の概要
 放射線育種場の組織図を表1に示す。放射線育種場の概要を図3に示す。放射線育種場には、ガンマ線照射施設(ガンマーフィールド)、ガンマーグリーンハウスおよびガンマールームの3つの主要なガンマ線照射施設がある。図4にガンマーフィールド全体図を示す。また、アジア原子力研究フォーラム(FNCA)や国際原子力機関(IAEA)を通して、突然変異品種の利用が進んでいるアジア地域における放射線育種分野において、指導的立場で研究支援が行われている。さらに、依頼に応じた照射サービスも行われている。
 ガンマーフィールドは、半径100mの円形圃場で、中央に88.8TBq(テラベクレル)のコバルト60ガンマ線源を装備した照射塔があり、周囲を高さ8mの防護用の土堤で囲まれた屋外緩照射施設である。
 ガンマーグリーンハウスは、半径7mの正8角形の温室で、暖地および亜熱帯作物のための緩照射施設である。4.81TBq(テラベクレル)のセシウム137の放射線線源を装備している。ガンマールームは、種子、球根、穂木などを短時間に照射する施設である。44.4TBq(テラベクレル)のコバルト60線源を装備している。
2.主な研究開発
(1)突然変異の効率的誘発技術の研究開発
 放射線照射と組織培養の適切な組み合わせにより、種々の突然変異体が高い頻度で誘発でき、栄養繁殖作物を短時間に品種改良することが可能となる。また、各種の放射線照射方法を採用することによって、多種の植物において実用的な突然変異品種を育成できる。このように、各種の農作物について望ましい突然変異を効率よく誘発させ、また選抜する方法の研究開発を進めている。
(2)新しい特性の種子の開発
 種子繁殖性作物を対象にして、放射線による突然変異を利用して、低蛋白、無毛などの新しい特性を持つ作物の突然変異体の種子を育種する方法の開発やその利用法の研究を進めている。
(3)突然変異誘発機構の研究
 突然変異の遺伝子を分子レベルで解析して、放射線による突然変異の機構を解明する研究を行っている。
(4)品種改良とその選抜技術の研究
 たとえば、黒斑病に罹りやすい梨品種「二十世紀」をガンマーフィールドに定植、ガンマ線照射して、病気に強い梨の突然変異体を選抜する品種改良の研究が行われた。この成果である梨は「ゴールド二十世紀」と命名され、産地で急速に普及している。病原体の毒素と葉片を用いた選抜効率が飛躍的に高い簡易検定法を確立した。また耐病性の突然変異体の選抜技術の研究を進めている。図5に種子繁殖性植物における突然変異体選抜の模式図を示す。
3.主な成果
 上記の耐黒斑病の性質をもつ「ゴールド二十世紀梨」(図6参照)のほか、純白系エノキダケ「臥龍1号」(図7参照)、色々な花色の菊(図8参照)、常緑性高麗芝「ウィンターカーペット」(図9参照)、イネの短躯品種「レイメイ」、米アレルギー疾患用の「低アレルゲン米」、腎臓疾患用の「低グルテリン米」など利用価値の高い品種を作出している。特にイネに関しては、ゲノムの塩基配列が明らかになったことから、ポストゲノム研究として遺伝子の機能を解明する研究やゲノム情報を用いて目的とする突然変異を選択する技術構築に向けた研究が行われている。
4.所在地など
(1)独立行政法人 農業生物資源研究所
  (NIAS:National Institute of Agrobiological Sciences)
   本部所在地:〒305-8602 つくば市観音台2-1-2
   電 話:0298-38-7406
   FAX:0298-38-7408
   ホームページ:http://www.nias.affrc.go.jp/
(2)放射線育種場
  (IRB:Institute of Radiation Breeding)
  所在地:〒319-2136 茨城県常陸大宮市上村田2425
  電 話:0295-52-1138
  FAX:0295-53-1075
  ホームページ:
<図/表>
表1 放射線育種場の組織
表1  放射線育種場の組織
図1 農業生物資源研究所の組織図
図1  農業生物資源研究所の組織図
図2 植物生命科学研究部門の概要
図2  植物生命科学研究部門の概要
図3 放射線育種場の概要
図3  放射線育種場の概要
図4 ガンマーフィールドの全体図
図4  ガンマーフィールドの全体図
図5 種子繁殖性植物における突然変異体選抜
図5  種子繁殖性植物における突然変異体選抜
図6 放射線育種によって作られた耐黒斑病の性質をもつ「ゴールド二十世紀梨」(右)
図6  放射線育種によって作られた耐黒斑病の性質をもつ「ゴールド二十世紀梨」(右)
図7 放射線育種によって作られた純白系エノキダケ「臥竜1号」(仮称)(左)
図7  放射線育種によって作られた純白系エノキダケ「臥竜1号」(仮称)(左)
図8 放射線育種によって作られた色々な花色の菊
図8  放射線育種によって作られた色々な花色の菊
図9 放射線育種によって作られた常緑性高麗芝「ウィンターカーペット」(左)
図9  放射線育種によって作られた常緑性高麗芝「ウィンターカーペット」(左)

<関連タイトル>
日本の主な原子力関連機関一覧 (13-02-02-01)
放射線利用と照射施設 (08-01-03-14)
生物学における放射線利用 (08-01-04-04)
放射線照射による農作物の品種改良(放射線育種) (08-03-01-01)

<参考文献>
(1) 農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:Institute of Radiation Breeding(パンフレット)
(2) 独立行政法人農業生物資源研究所ホームページ:http://www.nias.affrc.go.jp/
(3) 農業生物資源研究所放射線育種場ホームページ:
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