<本文>
1.ガンマーフィールドの概要
放射線照射による品種改良は、農林水産省の放射線育種場のガンマーフィールドにおいて行われている(
表1および
図1参照)。このガンマーフィールドは、中央に
コバルト60の
線源がある。半径100メートルの円形圃場で、ガンマ線照射による作物の突然変異誘発のための主要施設である。
2.品種改良状況
植物において自然に起きる突然変異の中より優れたもののみを抽出し、交配をかさねてより良い品種をつくり出すことは時間と労働を必要とするが、放射線を利用することによりより速く、より優れたものを早く見つけ出すことができる。
これまで多くの品種が放射線照射による誘発変異から得られている。主なものでは放射線による品種改良法で得られたものに、イネの新品種「レイメイ」、「アキヒカリ」、ダイズの新品種「ライデン」などがある。「レイメイ」は原品種「フジミノリ」のもつ良質、多収穫性、耐冷性などの長所はそのままで、倒れやすい欠点を除いた短稈性の品種である。「アキヒカリ」は、これをさらに改良した品種で普及している。「ライデン」は親品種「ネマシラズ」より成育期間が25日も短くなり、寒くなる前に充分に実を結ぶようになった。
米アレルギー性疾患用の「低アレルゲン米」および腎臓疾患用の「低グルテリン米」、サビ病抵抗性の「サトウキビ」などを作り出した。オオムギの縞萎縮病抵抗性系統が選抜され、それを交配母体に使い、抵抗性品種「マサカドムギ」が育成され、普及された(
図2参照)。
また、病気に強い日本ナシもつくられた。これまでは、ナシの病気を防ぐには、農薬をたくさん使わなければならなかったが、放射線をあてて改良し、黒斑病耐病性品種のナシがつくられるようになった。これは「ゴールド二十世紀」、「寿新水」、「おさゴールド」という名前で売りだされている(
図3参照)。
ほかにも、純白系のエノキダケ「臥竜1号」(
図4)や色々な花色を持つキク(
図5)、常緑性品種のコウライシバ「ウインターカーペット」(
図6)など数多くの新しい園芸植物が作られてきている。これに見られるように今後ますます作物の品種改良には放射線は利用され、我々に有用な品種の植物が生産されることとなると思われる。
最近の研究では、放射線育種場と日本原子力研究所高崎研究所(現日本原子力研究開発機構高崎量子応用研究所)の共同研究により、菊の培養外植片にイオンビーム照射し、花色変異系統を多数作出することに成功している。
また、産業的に重要な栄養繁殖性作物であるリンゴやチャでも、病気に強い突然変異体が作出されて、素材化が進められている(
図7参照)。
<図/表>
<関連タイトル>
放射線育種の概要 (08-03-01-08)
放射線育種の利用例 (08-03-01-09)
放射線と突然変異 (09-02-06-02)
放射線による植物への影響 (09-02-01-05)
<参考文献>
(1)日本文化振興財団:「放射線の話」
(2)(財)原子力安全技術センター:「放射線利用」
(3)科学技術庁:「放射線と人間環境」
(4)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:パンフレット
(5)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:オオムギの縞萎縮病抵抗性突然変異、テクニカルニュース、No.21(1979)
(6)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:テクニカルニュース、No.29(1986)
(7)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:テクニカルニュース、No.43(1993)
(8)壽 和夫ほか:ニホンナシ新品種「ゴールド二十世紀」、農業生物資源研究所報告、No.7,105-120(1992, 3)
(9)北川健一ほか:ニホンナシ新品種「寿新水」、鳥取県園試報、3:1-13(1999)
(10)増田哲男ほか:ニホンナシ新品種「おさゴールド」、生物研研究報告、12:1-11(1998)
(11)永富成紀ほか:エノキタケの放射線育種法と純白系突然変異品種の開発、テクニカルニュース、No.50(1995)
(12)日本原子力研究所:イオンビームで新花色のキクを世界で初めて作出−植物に突然変色を起させる新しい手段−、ニュース館(,(1998年6月25日)