<大項目> 原子力の行政・制度・政策
<中項目> 原子力行政機構
<小項目> 文部科学省
<タイトル>
広島大学原爆放射線医科学研究所 (10-04-05-04)

<概要>
 広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研)は、「原子爆弾放射能による障害の治療および予防に関する学理と応用」を確立する目的で昭和36年(1961年)4月に設置された。原医研は、研究部門、国際放射線情報センター、放射線関係施設、動物実験施設、事務部および大学医学部附属病院の2つの診療科で構成している。研究部門には、ゲノム障害制御研究部門、ゲノム疾患治療研究部門、放射線再生医学研究部門および放射線システム医学研究部門の4つの部門、16の研究分野があり、放射線が人体に及ぼす影響の解明や放射線障害の治療など放射線医学の分野において「卓越した研究拠点」として機能することを目標に、非常に幅広い研究分野で活動を行っている。
<更新年月>
2006年11月   

<本文>
1.設立の経緯と目的
 広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研:Research Istitute Radiation Biology Medicine、RIRBM)は、昭和33年(1958年)4月に広島大学医学部に設置された附属原子放射能基礎医学研究施設が前身で、「原子爆弾の放射能による障害の治療および予防に関する学理と応用」の確立を目的として昭和36年(1961年)4月に原爆放射能医学研究所として開設され、平成14年(2002年)4月、現名称に改称された。
 原医研は、開設以来、原爆後の障害の研究や原爆被爆者の治療のため、基礎医学、放射線生物学、社会医学、臨床医学を結集して根本的医療法の確立に取り組んできた。
 その後、高齢化、人口の減少など被爆者の実態の変化、原子力発電所事故の発生など研究環境の変化に対応して、平成6年(1994年)6月に附属原爆被災学術資料センターを国際放射線情報センターに改組、また10研究部門から「環境生物、分子生物、社会医学、病態治療」の4大研究部門に改組された。さらに、上述したように平成14年(2002年)4月の名称変更とともに、4大研究部門(ゲノム障害制御、ゲノム疾患治療、放射線再生医学、放射線システム医学)、15研究分野、1附属研究施設(国際放射線情報センター)に改組・再編された。また、平成17年(2005年)4月には1研究分野が増設された。なお、平成16年(2004年)4月から、国立大学法人広島大学原爆放射線医科学研究所としてなった。表1に同研究所の沿革を示す。
 研究所の理念は、次の2点である。1)大学附置研究所として我が国最大の放射線影響研究分野の中核的研究機関であり、放射線影響研究において「ヒトの放射線障害の研究と治療開発」に関し「世界の卓越した研究拠点(COE)」としての地位の確立を目指す。2)得られた研究成果を大学院教育に反映させることにより、放射線影響学・医科学分野におけ次世代の研究者及び医師の育成や放射線災害医療などの緊急の社会的な要請に応えられる人材の養成を行う機関として機能させる。
2.組織
 広島大学原爆放射線医科学研究所の組織は、図1に示すように、4つの研究部門から成る。4つの研究部門には、ゲノム障害制御研究部門、ゲノム疾患治療研究部門、放射線再生医学研究部門および放射線システム医学研究部門があり、各研究部門に4つの研究部門があり、計16の研究分野から成る。付属施設には、国際放射線情報センターと放射線先端医学実験施設がある。また、医歯薬学総合研究科等支援室の下に、原爆放射線医科学研究所分室がある。
3.主な研究活動の概要
3.1 ゲノム障害制御研究部門
(a)放射線ゲノム学研究分野
 放射線感受性や高発がん性のヒト疾患を研究対象として、その発症機序を分子レベルで解明することを目標としている。さらに、生命の基本物質であるDNAが細胞のなかで放射線をはじめとする様々な外的要因からどのように守られているかそのメカニズムの解明を目指している。
(b)ゲノム障害病理研究分野
放射線がゲノムに及ぼす最も重大な損傷であるDNA二重鎖切断に対する相同組換え修復機構の研究を行うことによって、この異常に起因する癌をはじめとする染色体不安定性を呈する疾患の分子病態の解明をめざしている。このようなDNA修復機構は単に修復に関わるのみならず、DNA複製やチェックポイントによる細胞周期の制御機構とも密接に関連するために、これらのDNA代謝ネットワークをヒト細胞において総合的に理解するよう努めている。
(c)ゲノム応答研究分野
 放射線照射を受けた細胞は、特定の遺伝子発現を介してシグナル伝達経路を活性化し、様々な応答現象を示す。当研究分野では、細胞周期チェックポイント制御やアポトーシス誘発に関わるシグナル伝達関連因子を中心に、ゲノム損傷に対する細胞応答の分子機構を明らかにすることを研究目的としている。
(d)分子発ガン制御研究分野
 ゲノムは、様々な外的、内的刺激に対し恒常性を保持する機構とその刺激に反応してゲノムを変化させ環境に適応する機構を有する。発がんや老化はこの様な機構の破綻として捉えられる。放射線等による発がん機構の解明をゲノム損傷、修復、細胞応答の観点から分子、細胞、及び個体レベルで推進し、その成果のがん治療への応用を目指している。
3.2 ゲノム疾患治療研究部門
(a)がん分子病態研究分野
 細胞の増殖・生存・分化を制御し、大切なゲノムDNAがこわれないようにきちんと維持するシステムの不調ががんの原因である。当分野では、白血病を主な研究対象として、どこにどのような異常が生じるとがんになるかを解明し、そうした異常を修正する画期的な抗がん剤の開発へ向けたがん発症のメカニズムを探る。
(b)遺伝子診断・治療開発研究分野
 当分野は、基礎(シーズ)から初期臨床開発までを繋ぐ翻訳研究を目的とする。臨床への還元を目指し、オーダーメイド医療の確立研究、難治性固形癌の新規創薬標的の策定、癌不死化機構や低酸素応答機構の解明などを主たるテーマに、ゲノミクスを基盤とした新規先端医療の創生研究を行う。
(c)血液内科研究分野
 白血病、悪性リンパ腫、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫再生不良性貧血、止血異常症、血栓症などの分子・遺伝子レベルでの病態の解明とその遺伝子診断法の確立、広い意味での分子標的療法、細胞移植療法の開発を目指している。
(d)腫瘍外科研究分野
 当分野は、原爆被災者の後障害に対する外科的治療の研究を使命として創設され、その後、研究目標はがんの総合的治療研究に集約され、腫瘍外科として消化器、内分泌、呼吸器癌を中心に、手術、化学療法、開発的治療の臨床研究と基礎研究を進めている。診療部門は広島大学医学部との円滑な連携のもと、広島大学病院消化器・内分泌・呼吸器外科(原医研腫瘍外科)として外来・入院診療を行っている。
3.3 放射線再生医学研究部門
(a)細胞再生学研究分野
 放射線障害などの環境ストレスに対して細胞レベルでの修復、再生がどのように行われているか?、という研究課題に、最新の顕微鏡を使った画像解析技術や生化学的手法を用いて取り組むことにより、放射線障害や癌などに対する新しい診断法、治療法の開発に貢献する。
(b)組織再生制御研究分野
 トランスジェニックマウスやノックアウトマウスなどの遺伝子改変マウスを作製することにより、遺伝子の個体レベルでの機能解析およびヒト疾患モデルの開発をを行っている。また、ES(embryonic stem)細胞を用いた被爆に対する新たな再生医療開発の基礎検討も行っている。
(c)幹細胞機能学研究分野
 ショウジョウバエの遺伝学的解析から発見されたポリコーム遺伝子群が自己複製能を含めた造血幹細胞の活性を維持するために重要な役割を果していることを明らかにした。最近、ポリコーム遺伝子群がDNA複製のライセンス化の制御に関っていることが見出され、造血幹細胞の活性を制御する分子基盤を明らかにすることによって造血幹細胞移植療法の発展と新しい再生医療の開発を目指した研究が行われている。
(d)原子力災害医療学研究分野
 当研究分野は、原子力災害被災者や放射線事故被ばく患者が発生した場合に備え、以下の研究を担当する。
(1)急性期、慢性期の診断・治療法の研究、
(2)同上のための基礎実験、
(3)国内外の原子力災害時や被ばく事故発生時は、患者治療のために国際協力及び国内協力を行う。
3.4 放射線システム医学研究部門
(a)放射線分子疫学研究分野
 被爆者のデータベース構築とそれに基づく被爆者の死亡要因他の疫学的研究を中心に研究が行われてきた。現在では、さらに神経疾患を中心とした分子遺伝学、分子疫学的研究が行われている。具体的には、1)遺伝性脊髄小脳変性症の原因疾患の探索、遺伝子診断。2)アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症の感受性遺伝子の探索等である。
(b)計量生物研究分野
 医学・生物学および環境科学関連データの解析法の開発およびその応用の研究を行う。最近の研究の主なテーマは、放射線発がんに関する数理モデルの研究、遺伝子多様性データの解析、疾病の時空間分布の推定に関する統計解析システムの開発、一般化線形混合モデルにおける近似尤度に基づく推測の研究などである。これらの研究は、データ解析一般に関する理論、アルゴリズム、コンピュータソフトの開発と、それに基づいた応用研究として実施されている。
(c)線量測定・評価研究分野
 2005年4月に国際放射線情報センターより独立し誕生した。広島・長崎原爆線量評価はじめ、チェルノブイリ、JCO、セミパラチンスク核実験場近郊などの線量評価などを行ってきた。また、これらの研究で利用してきた評価法を緊急被曝医療にも役立てられるよう評価法の改良も行っている。
(d)ゲノム発現情報研究分野
 疫学的データ解析成果とゲノム情報を用いた解析法をリンクさせ、個々人の放射線影響の実態を明らかにするべく、基礎・臨床の両面から研究を進めている。
3.5 附属施設
(a)国際放射線情報センター
 原子爆弾及び放射線による被災に関する情報の調査並びにそれらの資料の収集、整理、保存及び解析を行い、学術研究の発展に資するとともに、これらの情報の提供と資料の活用を通じて、被災者の福祉のみならず人類の福祉への寄与を図っている。
(b)放射線先端医学実験施設
 研究所全体における放射線を中心とする医学研究を効率よく推進するために、放射線実験系、動物実験系、遺伝子実験系の3つの研究支援体制を配置している。放射線実験系は多彩な放射線発生照射装置を配備し、国内外で有数の放射線生物実験設備を誇っている。また、動物実験系と遺伝子実験系は最先端の分子生物学を駆使した生化学実験から動物実験に至る医学研究を可能とする設備を有している。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 広島大学原爆放射線医科学研究所の沿革
図1 広島大学原爆放射線医科学研究所の組織図

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
放射線医学総合研究所 (10-04-05-02)
京都大学原子炉実験所 (10-04-05-03)
放射線影響研究所 (13-02-01-27)

<参考文献>
(1)広島大学原爆放射能医学研究所(編):広島大学原爆放射能医学研究所 年報32号(創立30周年記念号)、広島大学原爆放射能医学研究所
(2)広島大学原爆放射線医科学研究所:要覧2002
(3)広島大学原爆放射線医科学研究所ホームページ
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ