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<概要>
 放射線審議会は、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」に基づき、放射線障害の防止に関する技術的基準に斉一を図ることを目的として、文部科学省の所管を経て2012年9月より原子力規制委員会に設置されている諮問機関である。関係行政機関の長は、放射線障害の防止に関する技術基準を定めるときは、放射線審議会に諮問しなければならない。また、放射線審議会は必要に応じ、関係行政機関の長に対し意見を述べる(意見具申)ことができる。
 中央省庁再編成に伴い、2001年1月5日付けで従来の放射線審議会が解散し、新たな放射線審議会が発足し2012年9月まで活動した。東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、委員会の下に新たな放射線審議会が置かれた。
<更新年月>
2013年07月   

<本文>
1.設置の目的と経緯
 放射線審議会(Radiation Council)は、「放射線障害防止の技術的基準に関する法律」(昭和33年5月21日法律第162号)に基づき、放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的として、文部科学省に設置された諮問機関であるが、中央省庁再編成に伴い、2001年1月5日付けで従来の放射線審議会が解散し、翌1月6日に新たな放射線審議会が発足し2012年9月まで活動した。その後、東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、原子力安全規制に係る行政を一元的に担う新たな組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足し、委員会の下に新たな放射線審議会が置かれた。
 放射線審議会は、技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する機器または物質を取り扱う従事者と一般国民の受ける放射線の線量を、障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることを基本方針としている。
2.組織
 放射線審議会は、学識経験者からなる20名以内の委員で構成され、専門的な事項の調査を行うための専門委員を選任することができる。また、審議会の所掌事務を分掌するために、委員、専門委員数名ずつから構成される部会を設置できることとされており、2001年2月14日に開催された第72回総会では基本部会の設置が決定されている。3.所掌
 放射線審議会は、放射線障害の防止に関する技術的基準の設定に関する諮問についての事項を処理する。また、その事項に関し、関係行政機関の長の諮問に答申し、かつ、必要に応じ、関係行政機関の長に意見を述べることができる。
4.情報の公開
 放射線審議会は情報の公開に関して、1997年2月10日に次のような決定を行っている(一部を2003年2月26日修正)。
 放射線審議会は、放射線の防護に係る情報を公開することの重要性に鑑み、会議の運営に関して以下の措置を講じ、審議の透明性を確保するとともに、国民の参加を図ることとする。
1)会議の議事、議事録及び会議資料の公開
 総会及び部会の議事、議事録及び会議資料は原則公開する。
2)部会の報告書案の意見照会
 部会の報告書案を一定期間公開し、一般からの意見募集を行う。当該意見を検討した上で、反映すべき意見は採用し、報告書として決定する。不採用意見についてはその理由をとりまとめて公表する。また、関係行政機関からの諮問に係わる答申については、特に必要と認める場合に限り、審議会の議決により意見募集を行う。
3)審議結果の周知
 放射線審議会における主要な調査審議の結果について、インターネットを通じて積極的に公開するほか、必要に応じて国民一般や関係者への説明会等を開催する。
5.「1990年勧告(Pub.60)」の法令取入れ
 放射線審議会は、1991年2月6日の第54回総会において、国際放射線防護委員会(ICRP:International Commission on Radiological Protection)1990年勧告(Pub.60)(以下、「1990年勧告」という)の法令取入れについて基本部会で検討することとし、1991年2月22日の第60回基本部会で部会の下に「打合せ会(ICRP)」(以下「打合せ会」という。)を設置した。打合せ会は1991年3月15日の第1回打合せ会以後の検討の後、第11回打合せ会(1992年10月16日)において「ICRP1990年勧告(Pub.60)の審議状況について(中間報告)」として報告した。
 その後、中間報告における検討項目を検討するため、打合せ会の下に6つの分科会を設置し、合わせて41回の検討を重ねた。各分科会の検討状況をとりまとめて、「ICRP1990年勧告(Pub.60)の法令取入れ等に関する審議状況について」として、第16回打合せ会(1995年6月9日)において報告した。
 1995年7月から打合せ会は、職業被ばくに対する線量限度等各検討項目について、分科会の検討を踏まえた報告書をとりまとめ、第62回基本部会(1996年6月24日)に報告した。基本部会は、打合せ会の報告書をもとに更に検討を進め、基本部会の報告書案をとりまとめて公表し、国民から意見募集を行った。この国民からの意見等を踏まえて更に検討を進め、第76回基本部会(1998年2月19日)において報告書をとりまとめ、第66回放射線審議会総会(1998年3月26日)に報告した。
 総会は基本部会の報告書を検討し、特に女性の職業被ばくに対する線量限度については、小グループを設置し更に検討し、その検討結果を踏まえて基本部会報告書を一部修正、第67回総会(1998年6月10日)において本意見具申をとりまとめた(表1)。
 1999年8月31日、第68回総会において、「国際放射線防護委員会の新勧告(Pub.60)の取入れ等に関する技術的基準の改正について(諮問)」が了承された。
6.「外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針」(放射線審議会第2回基本部会、2001/10/25)
 放射線審議会は、上述のICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて次の具申を行っている。「線量限度を定める量は実効線量及び等価線量とすることが適当である」、「外部被ばくのモニタリング線量の法令上の名称については、1センチメートル線量当量等の用語は変更しないことが適当である」、「施設を設計する際の基準として、管理区域内の人が常時立ち入る場所における外部被ばくに係る実効線量は、1週間につき1mSv以下とする。また、人が呼吸する空気中の放射性物質の濃度は、1週間につき1mSvの実効線量に相当する濃度以下とする」。
 これらの意見の国内制度等への取入れに際しては、外部被ばく及び内部被ばくの評価法の技術的基準についての見直しが必要であり、放射線審議会基本部会では、関係行政機関におけるICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れの際に参考となるよう、外部被ばく及び内部被ばく評価法に係る技術的指針を検討し、報告書を取りまとめることとした。
 放射線審議会基本部会は、第76回会合(1998年2月19日)において、「内部被ばく及び外部被ばくの評価法に係る技術的指針検討ワーキンググループ」を設置した。ワーキンググループは1998年4月15日に第1回会合を開催し、外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的基準等について、放射線審議会の意見具申に沿って検討を行うこととし、それぞれ外部被ばくの評価法及び内部被ばくの評価法に係る2つの小グループを設置した。小グループにおける検討結果を基に更に検討を進め、1998年10月5日の第5回会合においてワーキンググループとしての報告書をとりまとめ、放射線審議会第77回基本部会に報告した。放射線審議会基本部会では、ワーキンググループ報告書を基に更に検討を行い、第78回会合において報告書(案)を取りまとめた。基本部会では報告書(案)を公表し、国民への意見照会を行い、応募された意見等を踏まえて更に検討を行い、第80回会合(1999年4月28日)において本報告書をとりまとめた(表2)。
7.規制免除レベルの導入
 上述のICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度への取入れについての意見具申で長期的課題として整理された「除外と免除」は、1999年4月の放射線審議会基本部会に設置されたワーキンググループにおいて検討が始められ、2000年12月に「規制免除についての検討中間報告」としてまとめられた。それをもとに、2001年1月の省庁再編後に新しい体制での放射線審議会で基本部会が新たに設置され、IAEAなど国際機関の規定した国際基本安全基準(BSS)免除レベルの国内法令への検討を開始した。この検討の結果、従来の法令における放射性同位元素の定義数量にかえて、より科学的、社会的に進んだ規制を行うために、線量規準により導出した免除レベルが妥当であること、また被ばくシナリオやパラメータなどわが国独自の方法で算出した免除レベル試算値が、BSS免除レベルの値と大きな差異がないことから、輸送と貿易における安全性についての国際整合性を勘案してBSS免除レベルを取入れることに問題がないとの結論を示した。これをまとめた報告書「規制免除について」は、2002年10月の総会で承認された(表3−1、表3−2)。
8.自然放射性物質の規制について
 上述の報告書「規制免除について」において、自然放射性物質の規制免除については、今後国内の利用実態及び海外の動向を調査して検討する必要があると整理されたのを受けて、2003年2月の総会において、自然放射性物質の規制免除についての検討を基本部会で開始することにした。自然放射性核種を含む物質には、未加工のままで利用するものから複雑な加工を経て利用するものまで、人為性や制御のしやすさにおいて様々な物質が利用されており、それらを一律に規制することは困難であるため、これらの物質を、8つの区分に分類し、わが国の利用実態やICRPの考え方を勘案して、それぞれの区分についての規制の対応の方針が検討された。この検討の結果は、報告書「自然放射性物質の規制免除について」としてまとめられ、2003年10月の総会において承認された(表4)。
9.最近の活動
 放射線審議会は、2001年1月から2012年2月末までに45件の諮問に対し答申を行った。特に2011年には、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に起因して生じた原子力発電所事故の事態に対応するための「電離放射線障害防止規則の特例に関する省令に係る放射線障害の防止に関する技術的基準の制定について(3/14)」、「緊急作業時における被ばく線量限度について(3/26)」、「原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法の規定に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の策定について(12/13)」等、被ばく防止対策関連の答申が多くを占める(表5参照)。なお、原子力規制委員会は審議会の透明性・中立性を高めようと、委員の任命要件を厳格化しているために人選に時間を要し、2013年6月現在は空席状態となっている。
(前回更新:2008年12月)
<図/表>
表1 ICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて(意見具申)目次
表1  ICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて(意見具申)目次
表2 外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針目次
表2  外部被ばく及び内部被ばくの評価法に係る技術的指針目次
表3-1 放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」目次(1/2)
表3-1  放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」目次(1/2)
表3-2 放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」目次(2/3)
表3-2  放射線審議会基本部会報告書「規制免除について」目次(2/3)
表4 放射線審議会基本部会報告書「自然放射性物質の規制免除について」目次
表4  放射線審議会基本部会報告書「自然放射性物質の規制免除について」目次
表5 放射線審議会の最近の活動(2010年〜2012年)
表5  放射線審議会の最近の活動(2010年〜2012年)

<関連タイトル>
ICRP1990年勧告によるリスク評価 (09-02-08-04)
ICRP勧告(1990年)による個人の線量限度の考え (09-04-01-08)
原子力委員会 (10-04-02-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)

<参考文献>
(1)放射線審議会:原子力規制委員会設置法;第13条2項、p.12、
http://www.cas.go.jp/jp/genpatsujiko/info/seiritsu.html
(2)原子力規制委員会
(3)日本原子力産業会議(編集発行):原子力ポケットブック 2001年版(2001年8月)、p.426
(4)原子力規制関係法令研究会(編著)2008年版原子力規制関係法令集、大成出版社(2008年9月)、p.21-23
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