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<概要>
 1955年に原子力基本法が成立し、旧文部省、旧科学技術庁、旧通産省等が原子力行政を開始し、1956年に原子力委員会が発足した。原子力船「むつ」の放射線漏れを契機に1978年に原子力委員会から旧原子力安全委員会が分離した。1999年のJCO事故の教訓と反省から、2001年の行政改革では経済産業省に旧原子力安全・保安院が設置された。東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)に伴う福島第一原発事故を契機に原子力安全規制の体制が抜本的に改革され、2012年9月18日に旧原子力安全委員会と旧原子力安全・保安院は廃止され、原子力安全規制を一元化した新たな規制行政組織として原子力規制委員会が2012年9月19日に発足した。原子力規制委員会は、原子力利用に関する縦割り行政や一省庁が推進と規制の両方の機能を担う内部矛盾の弊害を除くため、原子力の規制を統括することとなった。これにより、日本の原子力開発は、原子力委員会が原子力利用全般を総括し、経済産業省や文部科学省等が利用・開発を推進し、原子力規制委員会が規制する体制となった。ここでは、原子力委員会、原子力規制委員会、経済産業省資源エネルギー庁、文部科学省及び国土交通省の原子力開発利用に関する業務内容、組織体制等について述べる。
<更新年月>
2013年12月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.原子力行政体制の概要
 図1に日本と諸外国の原子力行政の体制を示す。原子力開発・利用の先進国では推進と規制の行政体制は分離している。日本での体制は、技術開発上の失敗や事故等を経て改善され、変化してきた。1955年に原子力基本法が成立し原子力開発が開始され、1956年に原子力委員会が発足した。原子力船「むつ」の放射線漏れを契機に、1978年、原子力委員会から旧原子力安全委員会が分離・独立し、2001年の行政改革ではJCO臨界事故の教訓と反省から原子力規制組織として、経済産業省に旧「原子力安全・保安院」が置かれた。
 2011年3月の福島第一原発事故を契機に、原子力利用に関する縦割り行政と一行政組織が推進と規制の相反する両方の機能を担う内部矛盾の弊害を除くため、2011年8月の閣議で「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」が決定された。その後、原子力事故再発防止顧問会議、原子力安全規制に関する国際ワークショップ等を経て旧原子力安全委員会及び旧原子力安全・保安院は廃止され、2012年9月19日に新たな規制組織として「原子力規制委員会」とその事務局の「原子力規制庁」が発足した。新体制の発足により原子力の開発利用に関する二つの業務、「推進」と「規制」は完全に分離された。原子力委員会(内閣府の審議会)は原子力を総括し、経済産業省、文部科学省等は発電や放射線・RI利用を含めた原子力利用と研究・開発を推進し、原子力規制委員会と原子力規制庁(環境省の外局)が安全規制を行う体制が確立した。
2.関連省庁の業務と組織
2.1 原子力委員会
 原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する行政の民主的な運営を図るため、次に示す事項について企画・審議し、決定する(原子力委員会設置法、第1、2条)。なお、内閣官房の有識者会議において原子力委員会の役割と所掌内容の範囲等の検討が行われ、2013年2月に報告書が取りまとめられた。現在、この報告書に基づき、更に具体的事項について検討が進められている。
(1)原子力利用に関する政策に関すること。
(2)関係行政機関の原子力利用に関する事務の調整に関すること。
(3)関係行政機関の原子力利用に関する経費の見積り及び配分計画に関すること。
(4)原子力利用に関する試験及び研究の助成に関すること。
(5)原子力利用に関する研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること。
(6)原子力利用に関する資料の収集、統計の作成及び調査に関すること。
(7)核燃料物質及び原子炉に関する規制に関すること。
(8)そのほか、原子力利用に関する重要事項に関すること。
 図2に原子力委員会と原子力規制委員会の役割を比較して示す。原子力委員会は、原子力の研究、開発及び利用に関する政策並びに関係行政機関の原子力の研究・開発及び利用に関する事務について審議・決定し、各省がそれぞれの所掌に基づいて分担・実施する。また、原子力利用の安全確保に関係がある事項について企画・審議したとき、又は決定するときは、それを原子力規制委員会に通知する(原子力委員会設置法、第26条)。図3に原子力委員会の事務局体制を示す。
2.2 原子力規制委員会と原子力規制庁
 原子力規制委員会発足の経緯は、1.で記したとおりである。委員会は、原子力利用における事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識にたって、(1)確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定し、又は実施する事務を一元的につかさどるとともに、(2)専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使し、国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全に関する規制と安全保障に資することを目的に設置された(原子力規制委員会設置法、第1、2条)。なお、原子力規制委員会は環境省の外局で、原子力規制庁は原子力規制委員会の事務局として設置された。
 以下に、原子力規制委員会の業務の概要を示す(原子力規制委員会設置法、第4条)。
(1)原子力利用の安全確保に関すること。
(2)核燃料サイクル全般の安全確保に関すること(核燃料の製錬、加工、貯蔵、再処理及び廃棄の事業、原子炉、核原料物質と核燃料物質の使用に関する規制、その他)。
(3)核燃料物質その他の放射性物質の防護に関する関係行政機関の事務の調整に関すること。
(4)国際協力や国際協定に基づく保障措置のための規制、その他の原子力の平和的利用の確保のための規制に関すること。
(5)所掌事務に含まれる国際協力に関すること。
(6)放射線による障害の防止に関すること。
(7)放射能水準(環境の放射性物質と放射線量)の把握のための監視及び測定に関すること。その方針の策定及び推進並びに関係行政機関の経費の配分計画に関すること。
(8)原子力利用における安全の確保に関する研究者及び技術者の養成及び訓練に関すること。(大学における教育及び研究に係るものを除く)。
(9)原子力事故の原因及び原子力事故により発生した被害の原因を究明するための調査に関すること(福島第一原発事故の調査が含まれる)。
(10)その他、必要な調査及び研究、及び法律や命令により当委員会に属する事務。
 図4に原子力規制委員会と原子力規制庁の組織、それぞれの業務、所管独立行政法人等を示す。
2.3 経済産業省資源エネルギー庁
 経済産業省(経産省)の原子力に関する任務は、エネルギーに関する原子力政策及び原子力エネルギー利用の技術開発に関することである(経済産業省設置法、第4条)。
 図5に経済産業省資源エネルギー庁の原子力利用関連の部課室を示す。資源エネルギー庁は経産省の外局であり、鉱物資源及びエネルギーの安定的かつ効率的な供給の確保とこれらの適正な利用の推進を図ることが任務である(経済産業省設置法、第16条)。資源エネルギー庁の電気ガス事業部には、原子力利用に関するものとして原子力政策課と原子力立地・核燃料サイクル産業課が置かれている(経済産業省組織令、第109条)。
 原子力政策課は、原子力エネルギー政策、原子力の技術開発、(独)日本原子力研究開発機構の業務のうち核燃料サイクルの技術的確立に必要な業務の事務を行い、原子力国際協力推進室を置く(経済産業省組織令、第129条)。
 原子力立地・核燃料サイクル産業課は、核原料物質及び核燃料物質の安定的かつ効率的な供給の確保とその発達、改善及び調整、核原料物質や核燃料物質及び放射性廃棄物に係る技術開発、廃棄事業の発達、改善及び調整、及び原子力発電施設の建設推進に関することを所掌し(経済産業省組織令、第130条)、放射性廃棄物対策室が置かれている。
2.4 文部科学省
 文部科学省(文科省)は、教育の振興及び生涯学習の推進を中核とした豊かな人間性を備えた創造的な人材の育成、学術、スポーツ及び文化の振興並びに科学技術の総合的な振興を図るとともに、宗教に関する行政事務を適切に行うことを任務とする(文科省設置法、第3条)。
 以下に文科省の原子力・放射線等に関する業務の概要を示す(文科省設置法、第4条)。
(1)放射線の利用に関する研究開発に関すること。
(2)原子力に関する技術開発で科学技術の水準の向上に関すること。
(3)放射性同位元素の利用の推進に関すること。
(4)原子力政策のうち科学技術に関すること。
(5)原子力に関する関係行政機関の試験及び研究に係る経費その他これに類する経費の配分計画に関すること。
(6)原子力損害の賠償に関すること。
 図6に文部科学省の放射線・原子力関連の組織を示す。研究開発局には環境エネルギー課と原子力課が置かれている。環境エネルギー課には、核融合開発室が置かれ、核融合研究開発に関する計画の作成及び推進、関係行政機関における事務の調整等の業務を行う(文科省組織令、第75条)。原子力課は、政策の企画、立案、計画の作成並びに推進、関係行政機関の事務の調整、原子力の基盤的研究開発、研究開発施設の設置及び運転の円滑化、研究者の養成、それらに関する国際協力等を所掌する。また、(独)日本原子力研究開発機構の運営一般に関する事務を行う(文科省組織令、第76条)。参事官は、原子力損害の賠償に関する事務をとる(文科省組織令、第77条)。
 研究振興局のライフサイエンス課は、(独)放射線医学総合研究所の運営一般に関する事務を行う(文科省組織令、第68条)。基礎研究振興課には素粒子・原子核研究推進室が置かれ、(独)理化学研究所の運営一般に関する事務を行う(文科省組織令、第63条)。
 科学技術・学術政策局の研究開発基盤課は、放射線と放射性同位元素の利用に関する業務を行い、量子放射線研究推進室を置いている(文科省組織令、第58条)。
2.5 国土交通省
 国土交通省は、国土の利用開発及び保全、その整備、交通政策や観光立国施策、気象業務並びに海上の安全・治安の確保が任務であり、気象庁、観光庁、海上保安庁等はその外局である(国土交通省設置法、第3条)。
 図7に国土交通省の核燃料物質等の輸送や原子力防災に関連する組織の概要を示す(国土交通省組織令及び組織規則)。放射性物質等の輸送は、大臣官房、鉄道局、自動車局、海事局及び航空局に関連する。大臣官房の「危機管理官」は、大臣官房の事務のうち放射性物質の輸送に関する危機管理を総括し(組織令、第31条2)、「運輸安全監理官」は放射性物質の輸送の安全を総括する(組織令、第31条3)。また、「安全防災対策官」は運輸安全監理官の職務のうち、放射性物質の運搬の安全確保を分担する(組織規則、第11条2)。海事局の海洋・環境政策課に置かれた「技術企画室」は、原子力船開発に関する事務を行う(組織規則、第97条)。自動車局の「環境政策課」は、放射性物質の道路運搬に関する規制を担当する(組織令、第133条)。
<図/表>
図1 原子力行政体制の諸外国との比較
図1  原子力行政体制の諸外国との比較
図2 原子力委員会の役割
図2  原子力委員会の役割
図3 原子力委員会の事務局体制
図3  原子力委員会の事務局体制
図4 原子力規制委員会と原子力規制庁の組織
図4  原子力規制委員会と原子力規制庁の組織
図5 経済産業省の原子力利用関連の組織
図5  経済産業省の原子力利用関連の組織
図6 文部科学省の放射線・原子力関連の組織
図6  文部科学省の放射線・原子力関連の組織
図7 国土交通省の原子力防災関連の組織
図7  国土交通省の原子力防災関連の組織

<関連タイトル>
原子力委員会 (10-04-02-01)
原子力規制委員会 (10-04-03-02)
文部科学省と原子力行政 (10-04-05-01)
経済産業省と原子力行政 (10-04-06-01)
国土交通省と原子力行政 (10-04-07-01)

<参考文献>
(1)内閣府、原子力委員会の役割、平成25年8月
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/genshiryoku_kaigi/dai2/sankou.pdf
(2)電子政府の総合窓口、原子力委員会設置法

(3)原子力規制委員会、パンフレット

(4)電子政府の総合窓口、経済産業省設置法、

(5)電子政府の総合窓口、経済産業省組織令、文部科学省設置法、文部科学省組織令

(6)電子政府の総合窓口、国土交通省設置法、国土交通省組織令

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