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<概要>
 軽水炉体系による原子力発電を次のとおり進める。(1)軽水炉の高度化:最新の知見を活用した安全設計安全評価、被ばく低減等のための自動化技術の高度化及び運転管理の高度化に取り組むとともに、プラント全運転期間中の効率的な運転・保守のための総合設備管理方策を検討する。また、長期的な視点を踏まえ、将来型軽水炉や中小型炉について調査・研究等に取り組む。(2)ウラン資源の確保と利用:1)天然ウラン資源の安定確保に努めていく。2)ウラン濃縮事業の確立を目標として、当面は安定操業の実現と経済性の向上に取り組む。国産化については、国際動向等を考慮しつつ、事業規模と時期を検討する。レーザ法濃縮技術の研究開発を次の段階に進めるか2000年頃までに判断する。3)回収ウラン劣化ウランの利用等は、将来の利用に備えて効率的な貯蔵方策や利用方法について検討していく。本稿は原文を掲載する。
<更新年月>
1998年05月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
5.軽水炉体系による原子力発電
(1) 軽水炉の高度化
 軽水炉は、世界で最も広く利用され、また我が国においても既に十分な実績を持った炉型であり、今後長期間にわたり我が国の原子力発電の主流を担うものと予想されます。
 軽水炉発電については、官民の協力により、安全性の一層の向上を図ることはもとより、これまでの安全実績を支えてきた高い品質を維持した上での経済性の向上に対しても不断の努力を続けることが望まれます。
 今後の技術開発に当たっては、一層の安全の確保に積極的に取り組むとともに、原子力産業全般における技術力の維持・向上、人材確保の動向等原子力発電を取り巻く情勢に的確に対応し、設計、運用の両面から技術の高度化を図っていくこととします。具体的には、故障やトラブル等の再発防止対策、さらには定期安全レビュー、高経年原子炉対策、シビアアクシデント対策等の総合的な予防保全対策等の一層の充実に努めつつ、システムの簡素化や操作の自動化等によるヒューマンファクターに係る対策、確率論的安全評価手法等最新の知見を活用した安全設計・安全評価、作業員の被ばく低減等を図るための自動化技術の高度化、さらに安全の確保を大前提とした運転管理の高度化に取り組んでいくとともに、プラント全運転期間中の効率的な運転・保守を行うための総合的な設備管理方策について検討していきます。
 また、長期的な視点を踏まえ、高燃焼度化燃料、MOX燃料への対応等を考慮した燃料・炉心機能の高度化、受動的安全性の概念等を取り入れた将来型軽水炉や中小型炉についての調査・研究等に取り組むこととします。

(2) ウラン資源の確保と利用
1) 天然ウランの確保
 天然ウランの累積所要量は、2000年、2010年、2030年において、それぞれ16万トンU程度、28万トンU程度、60万トンU程度と予想されます。経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)とIAEAの共同報告によると、1992年時点の我が国の需要量は世界の約13%を占めており、今後この割合は増加するものと予想されていますが、我が国の原子力開発利用の自主性、安定性を確保するという観点から、長期購入契約、自主的な探鉱活動、鉱山開発への経営参加等供給源の多様化に配慮し、天然ウラン資源の安定確保に努めていくこととします。
 自主的な探鉱活動については、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)による海外における調査探鉱を引き続き実施します。なお、民間においても必要に応じ探鉱活動を実施し、天然ウランを確保していくことが重要であり、国はこれに必要な助成を行っていきます。
2) ウラン濃縮
  ウラン濃縮の年間役務所要量は、2000年、2010年、2030年において、それぞれ5000トンSWU/年程度、7000トンSWU/年程度、10000トンSWU/年程度と予想されます。2000年においては、OECD諸国の濃縮役務需要の約2割となり、その後もこの割合は増大するものと予想されます。ウラン濃縮役務については供給能力が世界的に過剰な現在の状況が2010年過ぎにおいてもある程度の期間続くものと推定されますが、濃縮ウランの安定供給や核燃料サイクル全体の自主性を確保するという観点から、経済性を考慮しつつ、国内におけるウラン濃縮の事業化を進めていくこととします。
 ウラン濃縮原型プラントは、順調な運転を継続し、初期の目的である国内民間濃縮事業の確立に活かされており、さらに現在の運転サイクル以降の運転についても、同プラントが国内民間濃縮事業の円滑な推進のための役割を担うとの観点から、その利用を検討していきます。
 国内民間濃縮事業については、我が国における濃縮事業の確立を目標として当面は2000年過ぎ頃の1500トンSWU/年規模による安定した操業の実現と経済性の向上に取り組むこととし、それ以降の国産化の展開に関しては、国際動向、経済性、技術の継承等を考慮しつつ具体的な事業規模と時期を検討することとします。なお、国産化の基盤であるウラン濃縮機器製造分野については、将来の事業展開にも円滑に対応できるよう技術力や機器生産能力の維持・向上を図っていくことが必要です。
 今後のウラン濃縮の経済性の向上のためには、適宜評価を行いながら新技術を適切に導入することが重要です。遠心分離法濃縮技術については、六ケ所濃縮工場に現在開発中の新素材高性能遠心機の導入を図るとともに、さらに2000年代前半の六ケ所濃縮工場への導入に向けて高度化した遠心機の開発を進めます。レーザー法濃縮技術については、原子法、分子法の研究開発を次の段階に進めるべきか否かを2000年頃までに判断します。また、化学法濃縮技術の今後の実用化については、ウラン濃縮の需要動向等を総合的に勘案して判断することとします。
3) 回収ウラン、劣化ウランの利用等
 回収ウランの利用については、再濃縮してリサイクルすることが適切です。国内においては、これまでの成果に基づき、ウラン濃縮原型プラント等を利用して実用規模による再濃縮計画を進めていくなど、転換、再濃縮、加工及び原子炉での利用に関し、将来の本格利用に備えて民間関係者と動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)が共同して研究することとします。海外再処理委託からの回収ウランについては、海外で転換、再濃縮を行うべく電気事業者が本格利用に向けて準備を進めていくこととします。
 劣化ウランについては、将来の利用に備えて効率的な貯蔵方策や利用方策について検討していきます。
<関連タイトル>
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
原子力産業の展開(平成6年原子力委員会) (10-01-04-17)

<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1752号(1994年7月28日)
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