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第3章 我が国の原子力開発利用の将来計画
本章では、前章の考え方の下で進められる我が国の原子力開発利用の将来計画を具体的に示しました。
1.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立
(1) 平和利用の堅持と国際的信頼の確立
我が国は、今後とも
原子力基本法に則り、厳に平和の目的に限り原子力開発利用を推進していきます。
我が国は唯一の被爆国であり、究極的には地球上から一切の核兵器を廃絶していくことが国民の悲願です。
原子力委員会としても、国民の負託に応えるべく原子力平和利用の確保という責務を果たしていきます。
原子力平和利用の透明性は、核不拡散体制上の義務を厳格に果たすことによって確保されますが、一方で、変動の激しい国際状況の中でどれだけ国際的な信頼を得ているかということも重要となっています。
したがって、我が国が、
核燃料リサイクルを始めとする原子力開発利用を推進していくに当たっては、より広い視野から、安全保障や国際政治経済等の動向を十分踏まえて、核不拡散や原子力国際協力に係る政策を確立していくことなどを通じて、国際的な信頼を得ていくよう努力しなければなりません。
(2) NPT体制の維持・強化
NPTの目標は、核兵器の拡散防止、原子力平和利用の推進及び軍縮の促進です。この条約が、原子力平和利用と核不拡散を両立させる枢要な国際的枠組みであり、原子力平和利用の円滑な推進のためには核不拡散体制の維持・強化が不可欠であることに鑑みれば、この条約の無期限延長支持は妥当と考えます。
我が国は核兵器の究極的な廃絶を望んでおり、この条約の無期限延長が現在の核兵器国による核兵器の保有の恒久化を意味するものであってはなりません。未加入国の早期加入を促進して同条約の普遍性を高めるよう努めるとともに、全ての核兵器国に対してより一層の核軍縮を働きかけることが重要です。
また、NPTに基づく
IAEA の保障措置を、全ての原子力活動について受けている我が国は、このようなNPT締約非核兵器国の一員として、NPT体制の中で原子力平和利用の利益を最大限享受できることを自ら示していく必要があります。
(3) 新たな核不拡散努力
東西冷戦の終焉とともに米露の核軍縮の動きが進展する一方で、旧ソ連における核兵器等の管理の不安定化や不安定地域における核拡散の問題という新たな核拡散の懸念が増大しています。
旧ソ連における核拡散の懸念については、核軍縮を安全かつ確実に進めることが重要です。特に、核兵器の
解体から生じるプルトニウム等の核物質は、再び核兵器に利用されないことが基本であり、これらは厳重な国際的計量管理の下に置かれるべきです。これらの核物質については発生国が自らの問題として適切に対処していくべきですが、諸外国が協調してこの問題の長期的な解決方策を検討していくことも重要です。我が国としても核軍縮の促進と核兵器の拡散防止の観点から重要な意義を持つものと認識して、平和目的に限って原子力利用を推進するとの基本方針に立って、発生国が行うこれらの核物質の貯蔵等に貢献していきます。
核拡散の懸念のある不安定地域に対しては、NPTへの加入とそれに基づく保障措置の厳格な義務の履行を求めます。我が国としては、不安定地域に対するIAEA保障措置が適切に適用されるよう努めるとともに、不安定地域において相互信頼を醸成するための努力が当事者間で自発的にとられることが重要であるということを踏まえつつ、このような地域の安定化に努力していきます。
さらに、IAEA保障措置の強化・合理化、核物質防護等への対応、原子力資機材等の輸出規制の強化に積極的に取り組んでいきます。
(4) 我が国の自発的な核不拡散努力
プルトニウム輸送を契機として我が国の核燃料リサイクル計画に対して国際的な懸念が示されていますが、このような懸念を払拭し、国際的信頼を得ていくための基本は、NPT体制に基づくIAEA保障措置を厳格に受け、また二国間原子力協力協定等に基づいて核不拡散措置を厳格に履行しながら、原子力開発利用を進めていくことです。
今後、我が国においては民間再処理工場を始めとする
原子力施設の増加に伴い保障措置業務が大幅に増加していくことが予想されますが、このような観点から保障措置の信頼性を維持していくため、
査察、核物質の分析、情報処理等が十分な信頼性を持って実施できるよう必要な体制を整備していきます。今後とも国と民間事業者は、現在の核不拡散に関する制度を厳格に遵守し、実績を重ねるとともに、その核不拡散努力について適切に広報していくこととします。
さらに、我が国は、核燃料リサイクル計画を国際的信頼を得つつ実施していくために、NPT体制から要求される義務に加えて、以下に述べる政策を自発的にとっていきます。
すなわち、余剰のプルトニウムを持たないとの原則を堅持しつつ、合理的かつ整合性のある計画の下でその透明性の確保に努めるとともに、核燃料リサイクル計画の透明性をより高めるための国際的な枠組みの具体化に向けて努力します。また、我が国と既に核燃料リサイクルに係る協力関係にある国以外の国との協力に関しては、関係国とも調整しつつ慎重に進めます。さらに、核不拡散関連の技術開発を積極的に進め、アクチニドのリサイクル技術の研究開発など核不拡散にも配慮した研究開発にも取り組んでいきます。
<関連タイトル>
原子力開発利用の大前提(平成6年原子力委員会) (10-01-03-02)
原子力開発利用の基本方針(平成6年原子力委員会) (10-01-03-03)
<参考文献>
(1)原子力委員会(編):21世紀の扉を拓く原子力 −原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画− 大蔵省印刷局(平成6年8月30日)
(2)原子力委員会(編):原子力白書 平成6年版 大蔵省印刷局(平成7年2月1日)
(3)日本原子力産業会議:原子力産業新聞 第1751号(1994年7月21日)