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<概要>
 放射線業務従事者の放射線安全を確保するための安全施策は、設計段階と操業段階の2段階で実施される。原子力施設の設計段階においては安全審査指針に基づく安全審査が実施され、操業段階においては原子炉等規制法による規制に基づき、きめ細かな安全施策が図られている。
<更新年月>
2004年03月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.安全確保施策の概要
 放射線業務従事者(以下「従事者」という)の放射線被ばくには、外部被ばくと内部被ばくとがある。この被ばくを防止するための設計段階における直接的な施策は、十分な放射線遮へいと放射性物質の封じ込めの設計である。また、間接的には、従事者等が線量限度を超える被ばくをしないように、放射線の防護及び管理ができる設計であることが求められる。これらはいずれも施設の設計要件であるため、施設の設計段階において十分な対応が図られているかどうかを確認し、審査することが重要である。
 操業段階に入ってからは、これらの設備要件が設計通り十分機能し、性能が維持されていることを確認するための施設の定期点検及び放射線監視が必要である。さらに、管理区域を設定し、従事者の線量を測定及び監視することによって過大な被ばくを防止し、測定結果を報告させることによって、被ばく低減を図る。
2.設計段階における安全確保施策
 原子力施設を設置しようとするときには、事業者から設置許可が申請され、国の安全審査が行われる。この安全審査は、安全審査指針に基づいて行われるが、その指針の中で、従事者の放射線防護のための設計要件として、「従事者の立入場所における線量当量を合理的に達成できる限り低減できるように、従事者の作業性等を考慮して、遮へい、機器の配置、遠隔操作、放射性物質の漏えい防止、換気等の放射線防護上の措置を講じた設計」であることとし、さらに「異常状態において従事者が必要な操作を行うことができるように、放射線防護上の措置を講じた設計」であることも要求している。また、従事者の放射線管理のために必要な設備として「従事者の放射線被ばくを十分に監視及び管理するための放射線管理施設を設け、その施設にはエリア放射線モニタ等の必要な情報を制御室又は適切な場所に表示できる設計」であることとしている。
 核燃料施設等にあっては、特に「放射性物質を限定された区域に閉じ込める十分な機能を有する設計」であることとし、放射線遮へいについても、「従事者が立ち入る場所については、遮へい設計の基準となる線量当量率を施設内の区分に応じ適切に定めること。また、開口部又は配管等の貫通部があるものに対しては、必要に応じ、放射線漏洩防止措置が講じられていること」とし、具体的な設計対応が求められている。また、遮へい設計に当たっては、遮へい計算に用いられる線源、遮蔽体の形状及び材質、計算誤差等を考慮し、十分な安全裕度を見込むこととしている。
3.操業段階における安全確保施策
 操業段階の施策は、主に設計段階で審査された各種安全設備の性能を維持することと、事業者及び従事者の行動規範を確立することにあり、これらの施策は原子炉等規制法に準拠して行われる。
 その施策の第1は、事業者の行動規範として、放射線等のレベルに応じて管理区域を設定し、従事者以外の者の立ち入りを制限するとともに、従事者の被ばく低減のための各種設備の整備を図ることである。また、遮へい性能及び封じ込め設備等の放射線防護設備の性能維持及び確認のために、定期検査の実施を義務付け、さらに、管理区域内の外部放射線の線量率、空気中の放射性物質の濃度及び放射性物質による表面汚染密度について定期的に測定し、良好な作業環境を維持することによって、従事者の被ばく低減を図ることとしている。
 施策の第2は、従事者の行動規範として、管理区域内での飲食、喫煙等の行為を禁止し、個人被ばく線量計及び必要な防護具の着用を義務付けることによって、内部及び外部被ばくの低減化を図っている。過度又は不注意な放射線被ばくを防止するため、線量率等の状況に応じて、危険な区域への立ち入り禁止又は制限の措置を行い、従事者に指示の徹底を図ることとしている。
 施策の第3は、従事者に対する保安教育の充実を図ることとし、管理区域に立ち入る前の放射線安全等の教育訓練の実施の徹底に加えて、定期的な再教育訓練を義務付けている。
 以上の諸施策については、その結果の記録と保管が必要であり、特に、従事者の被ばく線量については上、下半期ごとに、また線量限度を超えまたは超えたおそれのあるときはその都度、監督官庁への報告を義務づけ、被ばく低減のための対策の立案に生かすこととしている。また、主要な原子力事業所の従事者の被ばくについては、財団法人放射線影響協会の放射線従事者中央登録センターが被ばく線量等を一元的に登録管理することによって従事者の被ばく管理の充実が図られている。
 事業者に対しては、上記諸施策を確実に履行させるために、保安規定を定めさせ、その内容について監督官庁が審査し、適切と認められるときに認可している。この保安規定の遵守状況については、定期的または必要と認められるときには随時に行政官による立ち入り検査が実施される。
 従事者の被ばく線量の結果の報告は、関係官庁でまとめられ原子力安全委員会に報告される。委員会では報告に基づいて従事者の被ばく低減対策等について審議される。例として、以前、BWRの定期点検時の従事者の被ばく線量がPWRに比べて高かったが、その原因が原子炉一次冷却水中の放射化腐食生成物によるものであり、原子炉一次冷却水の水質管理を厳しくすることによってその生成が抑えられるとの結論がだされた。この審議結果に基づいて対策が立てられた結果、BWR関係の被ばく従事者の線量が著しく低減した。
 なお、ICRPの1990年勧告によると、従事者の実効線量限度が現在の年50ミリシーベルトから5年間の平均として年20ミリシーベルトに変更され、この勧告が国内法令への取り入れられた。
<関連タイトル>
放射線の被ばく管理 (09-04-01-12)
原子力発電所における放射線被ばく管理 (09-04-01-13)

<参考文献>
(1)内閣総理大臣官房原子力安全室(監修): 原子力安全委員会安全審査指針集改定 10版(2000)
(2)原子力規制関係法令研究会(編): 原子力規制関係法令集 ’2003年版、大成出版社(2003)
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