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<概要>
 宇宙の歴史の中で、核融合反応が続く恒星がいつ頃、どのようにして生まれ、その最後にはどのような事象が予測されるか、を述べる。超新星と呼ばれる明るい場所は、実は恒星の終焉の姿であり、そこから宇宙線が誕生している。大宇宙には2000億個の星雲があり、各星雲は2000億個の恒星を含むから、絶えずこれが続いている。宇宙の誕生後10億年から137億年(現在)にかけて、約30年に一度の頻度で超新星を観測できるとされる。このように宇宙を全体として捕らえると、我々の文明にもまた有限の時間しか残されていないことが知られる。
<更新年月>
2005年08月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 宇宙放射線の起源は宇宙の年齢137億年近く、統計的には100億年程度まで遡る必要がある。星の寿命が約100億年と言われ、宇宙放射線の発生は星の最後に起因することを考えると、その程度まで遡らなければならない。137億年前、宇宙はビッグバンという名の大爆発で発生したとされる。また現在の知識を総動員しても10−35秒より前の様子を正確に述べることはできない。その次の時代、即ち10−35秒から約30年後までの混沌とした時代は、量子宇宙と呼ばれる。そこでは単にエネルギーの塊があり、また時間と空間の区別もつかない。この時期に最初に誕生した力は重力だった。
 あらゆる法則、あらゆる原理は、宇宙の存在を基としている。我々はなぜここに居るのか、どうしてエネルギーの塊があるのか、という究極的問題についてはここではふれない。
 自然科学とは、なぜそうなったかを後から説明する分野である。リンゴが地面に落ちるかは万有引力に帰着するとしても、なぜ万有引力があるのかまでは説明しない。それらを説明しようとするのが、宇宙起源論である。
 10−35秒後からは時間と空間が分離したと言う。但し、まだ物質と光が分離していない。だからまだ宇宙は不透明であり、我々は宇宙を「見る」ことはできない。これは30万年後まで続き、それを「火の玉宇宙」と呼ぶ。この期間に宇宙は急速な膨張を見せる。インフレーション期と呼ばれる所以である。それからこれがゆっくりと膨張を続けることになるが、そこで原子核反応が起きて、様々な物質が誕生した。それらが重力により集合してまとまり、恒星が誕生した。これにより、宇宙の「見透し」が良くなった。これから後が「星の宇宙」と呼ばれ、現在の宇宙にあたる。我々の銀河系宇宙も、隣のアンドロメダ星雲も、マゼラン大星雲もそのようにしてできた星雲の一つである(図1参照)。
 それらの星雲群を包括して大宇宙と呼ぶが、大宇宙には約2000億個の星雲があり、その各星雲の中には、同様に約2000億個の恒星が含まれる。人類による宇宙探検と言っても、太陽という恒星のごく周辺から、出られるかどうか覚束ない領域内なのである。人類に許された宇宙探検の領域はそのように小さい。それは宇宙には宇宙放射線という名前を持った放射線が飛び交い、またそこが微小重力環境でもあることから、長期滞在の対策を取らない限り、困難に遭遇する可能性があるためである。
 そもそも恒星は原子核反応をしており、そのため遠方から光って見える。重力が既にあるから、表面を最も軽い水素が覆い、その下にヘリウム、そして次第に重い元素類が層状構造をなして星を構成している。恒星の誕生後、まず水素を燃料とする核融合反応が続くが、水素がなくなると、次はヘリウム燃料になる。ヘリウムは燃焼効率が高いため、星は一挙に膨らむ。この外向きの放射圧と、中心部に向かう重力が釣り合ってバランスが取れたところで、星のサイズが決まる。だから放射圧が強ければ星のサイズも大きくなる。ところがこれが永久に続く訳ではない。さらに次の燃料補給ができないためである。リチウムが少ないためである。そのため、水素からウランまでの天然の核種分布、即ち燃料物質の分布が重要なものとなる。
 燃料切れを起こした恒星で膨張圧が減った結果、星は縮もうとし、しかも、それは急激に起きるため中心部には巨大な圧力が発生する。そしてこの圧力の結果、様々な圧力は物質を圧縮し、中性子が生まれ、最終的には、星を構成する物質が四方八方にまき散らされる。この爆発のような現象は、超新星と呼ばれる。即ち超新星とは星の最後の姿だが、それを遠方から見ると、新しい星のように輝いて見えるため、超新星と呼ばれている。
 宇宙放射線、あるいは宇宙線とは、超新星が出来た時まき散らされたものの中にある、高エネルギー粒子群である。通常のピークは約600MeVだが、そのエネルギー上限は1013MeVとされ、例えば放医研の持っているシンクロトロンHIMACの最大出力、即ち核子当たり800MeV、の100億倍もある。宇宙線は陽子が最も多く、全体の約87%を占めている。現在は我々の住む銀河系宇宙の他にも、アンドロメダ星雲やマゼラン星雲等、合計して約2000億個もの星雲群が存在している。このように、ビッグバンという一見無関係なものが、宇宙放射線とは深い関係を持っているのである。宇宙放射線とは宇宙に必然性を持って生じた現象である(図2図3参照)。宇宙放射線は実は、我々の生活感覚から言えば、まばらにやってくる放射線である。そもそも一次宇宙線は過去の統計に従う限り、30年毎に一度発生する超新星に起源を持つ。これは人間の一生の間に2〜3度あるかどうかという現象である。実際問題として太陽活動によって、またその時の太陽磁場強度によって影響を受け、さらに場所によるレベルの差異もある。しかし全体として見た場合に、「宇宙線とはあらゆる場所で強さが一定の現象である」としても間違いではない。
 但し30年毎というのは決して厳格な数値ではない。宇宙放射線の主成分が陽子であるという点から分かるように、それは電荷を持っている。荷電粒子であれば、磁場の影響を受ける。現実には太陽磁場や地球磁場の影響を受けるのが宇宙放射線である。宇宙飛行士の被ばく量の計算では、その様に想定している。地球周辺というのは地球磁気圏程度の大きさである。ただしこれは圏尾がどこまで伸びているかに依存するし、どこまで伸び得るかは太陽風の状態に依存する。宇宙の歴史を記述するには、微細な差異を強調することより、太書きが必要である。
 先述のように、燃料切れを起こし、中心部に恒星の質量の大半が落ち込んだポイントでは爆発的な圧力が発生する。この巨大な圧力で構成成分が粉々になり、周辺にまき散らされ、それが超新星として観測される。この圧力は原子核さえ破壊する。即ち、原子核の間に働く「クーロン力」とか、「強い力」が整然と働くような状態から遠い状態になる。そこから様々な粒子群が飛び出してくる。特に中性子が重要とされる。初代の恒星からは、このようにして様々な自然放射性核種が生まれたと考えられる。これらは四方八方に飛び散るが、遠方から見た時、輝かしい超新星があるように見える。超新星とは星があるのではなく、実際にはその最後の光輝が星のように見えるだけである。
 超新星の中心部には1cm3当たり100億トンもあるような中性子星が残る。何でも超新星になれるわけではなく、元々の質量が太陽の8倍以下の恒星ではこれは起きない。その場合は爆発跡に、白色矮星と呼ばれる鈍い、温度の低い星が残される。我々の太陽はこのカテゴリーに属する。つまり太陽は超新星にはならない。これは恒星の残骸であり、2度と輝くことが無い。ところが太陽の質量の8倍を越える質量から出発する場合は超新星になって色々な元素をまき散らす。さらに太陽の30倍〜50倍を越えるような場合は、いわゆるブラックホールになるだろうと言われている。つまり自分の重力により、自分自身の中に呑込まれてしまう。ここに一旦落ちたら最後、二度と出て来ることが出来ない(この説明は分かり易いが、実はブラックホールは10102年という長大な時間を経たあと、蒸発してしまうという説も提出されている)。そして宇宙にブラックホールらしいものを発見したというニュースを時折見る。それらが続く限り、宇宙放射線はもっと小さい星によって、なお製造され続けていると考えられる。
 超新星は枕草子にも登場するが、最近では1970年代の白鳥座のものを始め、ハブル天体望遠鏡による発見などが続く。ハブル天体望遠鏡は100億光年を超える領域をカバーできる。従来の手法のように「ある」をそのまま受け入れて、後追いの記述に徹するか、それとも別途何か理論を打ち立てて、「あるべき」現象を探すかという問題もある。特にハブル天体望遠鏡はこの後者の現実化に寄与した。
 一般の人々に容易に受け入れられる議論が、宇宙でどこまで通用するか興味深い。様々な保存則がどこまで守られるか等、興味深い問題があるからである。宇宙放射線という、少し変わった放射線だが、それらの被ばく量を求めるとか、被ばくを避ける手だての工夫だけする以外に、もっと本質的な問題と関連しているのかも知れない。何と言っても、あらゆる現象は全て、宇宙の存在を土台にしているから、それが変わったり、無くなったりするなら、また全てを考え直す必要がある。
<図/表>
図1 ビッグバン以降の宇宙の歴史を概観
図1  ビッグバン以降の宇宙の歴史を概観
図2 宇宙放射線の誕生
図2  宇宙放射線の誕生
図3 宇宙放射線のエネルギー分布
図3  宇宙放射線のエネルギー分布

<関連タイトル>
宇宙放射線の種類 (09-01-06-02)
宇宙放射線の計測 (09-01-06-03)
宇宙放射線による年間被ばく (09-01-06-04)
宇宙放射線の影響研究と意義 (09-01-06-05)

<参考文献>
(1)Martin A Pomerantz:Cosmic rays,Van Nostrand Reinhold Company,New York,1971.
(2)藤高和信:地上より高いところで受ける放射線被ばく、日本写真学会誌、67巻、6号、550-555(2004)
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