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ハロゲン化銀結晶を写真感光物質として塗布したX線フィルムが1世紀以上にわたって使用されてきた。X線フィルムは解像力に優れている反面、黒化濃度と放射線量の比例範囲も限られるので応答範囲が狭く、現像・定着処理などの操作と銀資源の消費などが課題になっていた。
わが国の写真フイルムメーカーが開発したIPは、支持体の上に輝尽性蛍光体が塗布されたもので積分型2次元放射線検出として機能する。ここで輝尽性蛍光体とは、X線、電子線、紫外線などの放射線で蛍光体を
励起した後、発光波長よりも長波長の光を
照射すると再発光する(輝尽発光)特殊な蛍光体である。IPは、X線フィルムに比べ検出感度が3桁ほど高く、広い測定範囲で定量性があり、現像・定着処理も不要で、かつ繰り返し使用できる[文献(3)参照](
図1)。このようなIPの利便性から短時間の実習にも適応できる。
1.ARG画像の観察とARG実習
(1)ARG画像の観察−1
自然界の鉱物や植物をはじめ、食物などに含まれる
放射性物質の位置情報をIPを用いたARGで画像化した写真映像を観察する[文献(4)参照]。また、研修機材のセットにある塩化カリウム試薬、塩化加里肥料、グローランプ、燐酸加里肥料、夜光時計および御影石などについて撮像したARG画像を観察する(
図2)。これらに含まれるRIをGM計数管で実際に計数してARG画像のRI分布と比較する[文献(1)参照]。
(2)ARG画像の観察−2
生体内のARG画像観察として、ラットに(
14C)−ブドウ糖(グルコース)を投与し、その凍結切片を乾燥したサンプルのRI分布を調べると、時間とともに
14Cが体内全域におよぶことが分る。グルコース(C
6H
12O
6)は米やパンなどのでんぷん質が消化管系の酵素により分解されたものであり、小腸に吸収されて血液により各組織に運ばれエネルギーとして使われていることを意味する。このように、RI(
3H、
14C、
32Pなど)を動物に投与し、ARG画像によりRI分布を測定する手法は「全身オートラジオグラフィー」と呼ばれ、薬学・医学部門で広く利用されている。
(3)ARG画像の観察−3
RIを指標とするトレーサ法に対し、「アクチバブル・トレーサ」法を用いて、磁気共鳴断層撮影(MRI)用ガドリニウム造影剤(
152Gd−DTPA)注射による体内のガドリニウム(Gd)の残留分布を求める方法がある[文献(5)参照]。これは、非放射性の
濃縮安定同位体152Gdを含む造影剤をラットに投与後、一定時間飼育して処理したラット切片や尿などのサンプルを
原子炉で照射する(
図3)。
放射化したサンプル中の
誘導放射性核種(
24Na,
32P,
45Caほか)が減衰後、生成した
153Gd(
半減期:242日)に着目しARG法および
ゲルマニウム検出器で定量する。時間とともに大部分が腎臓から尿として排出し、一部は肝臓に残留することが分る。一方、尿などの排泄物とラット切片を臓器ごとに切り取り、
γ線測定からも
153Gdを定量しARG法の有効性を確認している(
図4)。
(4)ARG画像の観察−4
原子炉施設廃止に伴う一次冷却系重水配管(Al)に浸透する
3Hの分布と放射能をIPによるARG法と液体シンチレーション計数法(Liquid Scintillation Counting;LSC)を併用して求める方法である。配管を広げ矩形にしたサンプル周囲の非汚染面を不溶性の塗料で塗布し、汚染面のみを少しずつフッ化水素酸(1.5%)で侵食しながら、その都度深さ方向における
3HをARG法で定量する。この結果、
3Hの浸透深さは最大25μm、約90%は7μm内に存在していた[文献(6)参照]。
(5)ARG実習
ARG実習では、植物内のARG画像を実際に確認する。例えば、
14C標識・炭酸ガス雰囲気中で生長したインゲン豆の調製済み試料を用いる。カセッテ内に収まるように薄いラップ(0.40mg/cm
2)でサンプルを包装し、汚染防止のためビニール(4.5mg/cm
2)で二重に密封してある。カセッテ内のIPの上にサンプルを載せ、10〜15分程度露光させた後、IPのみ取り出しバイオ・アナライザー・システム(BAS-5000)において画像解析する。BAS-5000の操作や画像調整は研修生が交代で行い、読み取り時間の制限から読み取り画素サイズを50μm、階調数を256ビットにした(
図5)。最小画素サイズを25μmとし、解析機能(解析桁数、階調数など)を高めれば
図5よりもさらに鮮明な撮像が得られる。
2.RG実習
(1)照射場は、線源を中心に3グループで同時に3方向に露光するための開口部を3か所設け、露光面積がカセッテの広さに相当する距離(30cm以上)に設置する。開口部以外は、
中性子をパラフィン・ブロックで
遮へいし、γ線を鉛ブロックで遮へいする(
図6)。
(2)サンプル付きカセッテを露光位置(40、50、60cm)に設置し、線源を貯蔵容器から取り出して照射場の中心に置いた時刻を露光開始とする。露光中は立ち入り禁止の標識を掛け、部屋を施錠する。露光条件を
表1に示す。
(3)
線量率はγ線よりも中性子の方が高いが、中性子線による潜像化は起こらない。中性子画像を得るには、例えば中性子捕獲断面積の大きなGd酸化物粉末を混合した中性子専用IP(BAS-ND2025)を用いる。しかし、Gdの放射化でIPに有感な転換電子を潜像化するには、中性子フルエンスが格段に大きい
252Cf中性子源または原子炉中性子源が必要である。職業人を対象とする実習では、照射場の中性子線やγ線の線量率を測定実験および水、パラフィン・ブロック、鉛などに対する遮へいや散乱の様子を計測する。
(4)露光後、カセッテを外してBAS-5000が設置してある実習室に運ぶ。露光終了後から読取り開始まで約5分であり、ARG実習と同じ設定で画像解析を行う(
図7)。最後にIP消去器でIP画像を消去し、印刷した画像を考察する(
図8)。
(5)RG画像は、サンプル、露光条件および画像解析機能などにより鮮明度は異なるが、画面上で拡大することにより熱電対の断線部分の位置が判明できる(
図9)。同じ厚さのSUS片を重ねたテストピースを用いて色調の違いからインジケータの機能を持たせるようにした例を示す(
図10)。
以上のことから、中・高校生や一般の方々を対象にしたARG実習では、露光実習を省いて鉱物、植物、カリウム肥料などのIP画像を紹介するだけでも、自然界における放射性物質の存在を知ることができる。同様に、RG実習も研修生の照射場(
管理区域)への立ち入りを禁止し、施設側で露光操作をすれば比較的短時間に行うことが可能である。
<図/表>
<関連タイトル>
放射線の写真作用 (08-01-02-04)
中性子ラジオグラフィの原理と応用 (08-04-01-01)
放射線イメージング技術の研究開発と展望 (08-04-01-31)
工業用ラジオグラフィ(放射線透過試験) (08-04-02-03)
<参考文献>
(1)小林勝利:イメージングプレートを用いた実習実験 RI・放射線 一般向け教育実験ノート・14、Isotope News、No.637、25(2007)
(2)富士フイルム(株)ホームページ:BAS-5000とIPの主な仕様
(3)宮原諄ニ: オートラジオグラフィ専門課程テキスト RIS-6001、オートラジオグラフィ、日本原子力研究所 国際原子力総合技術センター(現 日本原子力研究開発機構 原子力研修センター)(2002)
(4)森千鶴夫:イメージングプレートによる極微量放射能分布の測定、RADIO ISOTOPES、48、No.9、589-599(1999)、Isotope News、No.621、15-16(2006)
(5)小林勝利、羽鳥晶子:ガドリニウム造影剤の体内残留を高感度で検出、Isotope News、No.525、12-14(1998)
(6)本石章司、小林勝利、佐伯秀也:イメージングプレートによるJRR-2 一次冷却系重水用アルミニウム配管中のトリチウム量の測定、JAERI-Tech 2000-070(2000)