<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の理工学利用
<小項目> 理化学利用
<タイトル>
爆薬・薬物探知への放射線利用 (08-04-01-29)

<概要>
 不法に扱われる爆薬・薬物等は、荷物などに隠蔽されて運搬される場合が多いので、その発見のために各種の手法が開発されている。特に、荷物を開けずに迅速に検査する必要があるため、透過性に優れたX線中性子線等の放射線を利用し、透視画像や元素分析を行う方法が主流を占める。また、微量の爆薬、薬物の検出には、ベータ線源を装備し、目的分子をイオン化して高感度で検出する機材が開発されている。
<更新年月>
2006年01月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
 爆薬は産業用に、薬物は医薬品として、われわれの生活面で大いに役立っている。しかしながら、これらの爆薬、薬物が悪用された場合、社会的に重大な問題を招く。一般に、事件に関連する爆薬や乱用薬物は不法に製造され、隠して運搬されることが多い。したがって、社会の安全上、航空手荷物等に隠されている爆薬や不法に運搬中の薬物を迅速に発見することが重要な課題である。
 爆薬も薬物もその種類は多く、成分も様々であるが、窒素、炭素、酸素、水素、塩素等の軽元素から形成されている等、類似する面も多いことからその探知方法にも共通するものが多い。そのため、爆薬探知機材と乱用薬物探知機材の仕組はほとんど同じである。
 爆薬や乱用薬物の探知にあたっては、隠蔽されたバルク(Bulk)のものを対象にするか、微量の試料蒸気や付着物を対象とした高感度分析を行うかで方法が異なってくる。対象試料の大きさはさまざまであり、郵便物から航空機の手荷物、さらには、コンテナー全体、荷物満載のトラック等がある。その探知方法としては様々な方法が提案・開発されているが、本稿では、X線、中性子放射線源を用いた爆薬・薬物の探知法について紹介する。
1.爆薬および乱用薬物の種類
 爆薬には、産業用のダイナマイト、エマルション爆薬、硝安爆薬、軍用のTNT、プラスチック爆薬(RDXが主成分)、さらには、手製爆薬等様々なものがあり(表1)、これらの爆薬は火薬類取締法で規制されている。さらに、爆発物を製造した場合には、爆発物取締罰則の適用を受ける。
 乱用薬物も同様に、覚せい剤、大麻、あへん、麻薬、向精神薬とかなり多種類にわたり(表2)、これらの薬物は、それぞれ覚せい剤取締法、大麻取締法、あへん法、麻薬及び向精神薬取締法などの法律でその所持・使用等が規制されている。
2.バルクの爆薬および薬物の探知方法
 不法に使おうとする爆薬や乱用薬物は、航空荷物などに隠蔽されて運ばれる場合が多く、これらバルクの爆薬や薬物を発見するための方法としては、一般的には非破壊検査が可能で透過力の強いX線、中性子線が利用されている。
2.1 X線を用いた方法
 航空荷物検査等に通常使用されているX線装置は、銃や刀剣類の検査を目的としており、金属等のX線を吸収しやすい物体の形状を見るために透過X線画像をみている。しかしながら、爆薬や薬物は、拳銃、刀剣類と異なり比較的軽元素で構成されているため、従来のX線装置では画像としてとらえることが難しいので、軽元素に対するX線の性質を利用して画像化する機材が開発されている。
(1) 後方散乱X線の利用
 X線を物質に照射すると、X線と物質の間の相互作用として、透過、吸収、散乱がある(図1)。原子番号の大きい鉄等の金属と原子番号の小さい炭素、窒素、酸素等で構成されるプラスチックを比べると、吸収は金属のほうが強いが、散乱はプラスチックの方が大きい。このX線の後方散乱の性質を利用すると従来の透過X線による方法では画像としてとらえることができなかった軽元素の画像を得ることが出来る(図2)。すなわち、このX線後方散乱画像を撮ることにより、手荷物などに隠された軽元素で構成されている爆薬や薬物を画像として探知することができる。
 通常のX線装置では、被ばく線量が多いため人体を検査することができないが、最近は低線量の同種の装置が開発され、人体に直接X線を照射し、その後方散乱像から体に隠し持っている拳銃・刀剣類等の禁制品を発見するための機材も研究されている。
(2) X線吸収係数の差の利用
 軽元素はX線を吸収しにくいといっても、多少は吸収し、そのX線吸収はX線のエネルギーとその構成元素によって異なる。したがって、2種類のエネルギーのX線を用いるとその材質を反映した画像を得ることができる。すなわち、爆薬や薬物等の原子番号の小さな物質と金属等の原子番号の大きな物質とを識別することが可能となる(図3)。これらは、近年のコンピュータ処理技術の発展によるものであるが、現在市販の装置では、原子番号の小さなもの同士の識別も可能となっており、手荷物等に隠蔽されている爆薬や薬物を特殊な色の画像として表示し、警告できる。
2.2 中性子を用いた元素分析による方法
 中性子はその透過力の強さと放射化分析による元素分析が可能なため、非破壊検査としての優れた性質をもっており、熱中性子速中性子を用いた様々な爆薬や乱用薬物の検知法が研究開発されている。表3に中性子を利用して爆薬探知をする際の核反応を示す。日本においては中性子源の取扱いの規制上、実用化はされていないが、米国等では、熱中性子や速中性子による即発ガンマ線分析法を用いた探知法が研究開発され、航空機手荷物検査用爆薬探知機材が市販されている。
(1) 熱中性子分析
 最初に開発された中性子利用の爆薬探知装置は、カリホルニウム252あるいは中性子発生装置を中性子源とした航空機用の手荷物検査装置である。爆薬は他の物に比べて窒素含有量が高いため、熱中性子により爆薬中の窒素原子の14N(n,γ)15N反応により発生する高エネルギー(10.8MeV)の即発γ線を検知し(図4)、窒素含有量の高い部分を検出して爆薬の探知を行うものである。
(2) 速中性子分析
 14MeVの中性子発生装置を利用すると、軽元素の元素分析が可能となる。爆薬や薬物の構成成分である窒素、炭素、酸素から放出されるそれぞれの6.1、4.4、5.1MeVのガンマ線を分析し、探知する試みがなされたが、現在では、次項のパルス速中性子分析に移行している。
(3) パルス速中性子分析
 パルス中性子発生装置から生成される中性子を用いて、速中性子分析の場合と同様、軽元素から発生するガンマ線をシンチレータで検出することにより、爆薬や薬物の構成成分である酸素、炭素、窒素の元素分析が可能となる。得られたガンマ線スペクトルは物質特有のものとなるため、各元素の相対比などを計算することで、内部にある物質の特定が可能となり、荷物などの中から隠蔽されている爆薬や薬物を画像として取り出すことができる。さらに、時間的な解析を行うことにより、三次元的な画像を得ることもできる。
 中性子線を用いた検査方法では、食品等にも照射することになるため、米国ではその安全性についての評価も行われている。
3.微量の爆薬および薬物の探知方法
 微量の爆薬や薬物を探知する方法としては、蒸気探知(Vapor Detection)と微粒子探知(Particle Detection)の2つの考え方がある。基本的には蒸気圧の高いものについてはその蒸気を、蒸気圧の低いものについては、スメア法等により爆薬の粒子を採取してそれを分析する。
 これらの探知機材は、使用目的により据え置き型のものから携帯型のものまで様々であり、数pgから数ngの爆薬や薬物を検知する能力を持っている。しかしながら、訓練された犬に比べると感度はまだ足りないようである。
3.1 爆薬および薬物の蒸気圧
 爆薬の空気中濃度は、ニトログリセリンのppmレベルからほとんど蒸気圧のないRDX、HMXのpptレベルまで様々である(図5)。欧米で犯罪に用いられることの多いプラスチック爆薬は、蒸気探知で検出し易いように揮発性のニトログリコールやジメチルジニトロブタン等を添加することが国際条約により義務づけられている。また、薬物の空気中濃度も、ppb〜pptレベルであり、コカインで0.2ppb、ヘロインで1.0pptである。
 隠蔽された爆薬や薬物から発生するわずかな蒸気や梱包の際、表面に付着した微量のものを探知してバルクの爆薬を発見することができる。
3.2 電子捕獲検出器(ECD)の利用
 初期の爆薬検知器には、ニッケル63を線源としたECD(Electron Capture Detector)を用いたものが多い(図6)。ECDはダイナマイトに使われるニトログリセリンなどのニトロ化合物に対して感度が良く、通常の有機化合物には反応しないなど選択性が高いため、半透膜等を通して空気を吸入する等単純な操作でダイナマイトなど蒸気圧の高いものを高感度に検出することができる。
 さらに、この検出器をガスクロマトグラフと組み合わせた装置もある。ガスクロマトグラフでは分離する時間が必要となるため、測定に時間がかかるが、単独で用いる場合よりもさらに選択性があり、誤判定が少なくなる。
3.3 イオンモビリティスペクトロメーター(IMS)による探知
 最近の微量爆薬および薬物探知機材の主流を占めているのは、イオンモビリティスペクトロメーター(IMS:Ion Mobility Spectrometer)である(図7)。IMS法は、1970年にM.J.cohenとF.W.Karasekによって紹介され、大気圧下での分析で分子構造に関係する情報が得られ、選択性に優れ、高感度であるため、環境及び軍事分野で環境汚染物質、爆薬、化学兵器の探知、さらに乱用薬物の探知にも利用されるようになった。この装置は、ニッケル63等のベータ線により爆薬や薬物等の目的分子をイオン化して大気圧下の電界内を移動させ、そのイオン特有の移動時間を測定することによってその分子を検出する装置である。移動時間とシグナル強度のグラフはプラズマグラムと呼ばれ、爆薬や薬物はそれぞれ分子固有のピークとして観測される。そのため、前項のECDより選択性が格段に高くなっている。この装置は、同じ装置で爆薬と薬物の探知が可能であるが、一般的に爆薬の場合は陰イオンを、薬物の場合は陽イオンを検出するため、爆薬と薬物はそれぞれ別々のモードで検出を行うこととなり、モードの切り替えが必要となる。
 IMSは、蒸気探知と粒子探知の両方に対応している。蒸気圧の高いニトログリセリン等は直接空気を装置に吸引することにより探知できる。また、蒸気圧の低いRDX等は、大気とともにろ紙上に吸引・捕集したり、検査対象物の表面をろ紙で拭いたりしたものを加熱して探知器本体に導入することにより、プラズマグラムを測定し探知可能である。IMSでは複数の爆薬や薬物を同時に検出することが可能である(図8図9)。さらに、プラズマグラム上の移動時間のライブラリーを作成し、爆薬や薬物の種類を自動的に同定して数種の化合物に対してアラームを鳴らすことのできるシステムも開発されている。また、ガスクロマトグラフと組み合わせることにより、さらに選択性を上げた装置もある。
 爆薬や薬物の探知にあたっては、荷物中の隠蔽箇所をできるだけ正確に特定する必要があり、二次元的な画像のみでは不十分であるため、コンピュータ・トモグラフィ(CT)、X線システム等による三次元的な画像による方法が研究されている。また、微量爆薬や薬物の検出についても常に感度の向上を目指している。
また、大気圧化学イオン化法と質量分析装置を組み合せた分析法を開発し、旧日本軍が遺棄した化学剤の処理に際してのモニタリング装置として処理現場で使用されている。
<図/表>
表1 火薬類の種類
表2 乱用薬物の種類
表3 中性子利用の爆薬探知の核反応
図1 X線と物質の相互作用
図2 後方散乱X線画像
図3 2波長X線画像
図4 硝酸アンモニウムの中性子即発ガンマ線スペクトル
図5 爆薬の蒸気圧
図6 電子捕獲検出器(ECD)
図7 イオンモビリティスペクトロメーター(IMS)の模式図
図8 爆薬のプラズマグラム
図9 薬物のプラズマグラム

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<関連タイトル>
ラジオアイソトープ(RI)中性子源 (08-01-03-16)
犯罪捜査における放射線利用 (08-04-01-18)
RIの分析計測機器への応用原理 (08-04-03-03)
RIの物理的作用・効果を利用した製品 (08-04-03-05)

<参考文献>
(1)C.Bruchini, Commercial Systems for the Direct Detection of Explosives (for Explosive Ordnance Disposal Tasks) ExploStudy, Final Report 17/2/2001.
(2)National Institute of Justice, Law Enforcement and Corrections Standards and Testing Program, Guide for the Selection of Drug Detectors for Law Enforcement Application NIJ Guide 601-00.
(3) National Institute of Justice, Law Enforcement and Corrections Standards and Testing Program, Guide for the Selection of Commercial Explosives Detection Systems for Law Enforcement Application NIJ Guide 100-99.
(4)岸 徹、鈴木康弘、立川 登、石川 勇:平成8年度国立機関原子力試験研究成果報告書、p.82-1(1998)
(5)岸 徹:薬物・爆薬探知のためのRI・放射線の利用、放射線と産業、No,96(2002)
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