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<概要>
 放射能測定の一種にカロリメトリー法がある。カロリメトリー法(熱量法)は、放射能を含む物質の状態、化学的性質とはほとんど無関係に放射能を知ることができる測定法である。精度の高い熱量測定法が開発されたため、放射能の絶対測定法として利用されている。マイクロカロリメーターは、特に微小な熱量の測定を行うための方法である。この方法は小型の熱伝導型あるいはペルチェ効果利用型といった熱量精密測定のための熱検出部に工夫がなされている。現在利用されている双子型のマイクロカロリメーターでは、α線源あるいは低エネルギーのβ線源に対して10MBq程度の放射能を高精度で測定可能であり、最近ではX線源やγ線源の測定にもこの方法が利用されるようになった。
<更新年月>
2010年02月   (本データは原則として更新対象外とします。)

<本文>
1.はじめに
 原子核壊変で発生する放射線のエネルギーは通常きわめて大きいが、発生した放射線は一般に、物質中で弾性衝突やそれに伴うイオン化、励起などによって急速にエネルギーを失い、比較的短時間のうちに発熱量と周囲への放熱量とがバランスして熱平衡に達する。ただし、放射線のエネルギーが高過ぎたり、中性子線のように物質中での透過性が大きいと、放射線は物質中で僅かしか吸収されず、したがって、熱量測定器内で熱に変換される割合が小さい。
 一方、α線や比較的低いエネルギーのβ線は熱量測定器内でほとんどすべてのエネルギーが吸収されるため、熱量測定器が断熱状態かあるいはそれに近いと、発生した熱エネルギーが蓄積され測定器内の温度が上昇する。マイクロカロリメーター を用いる放射能の測定では、この僅かな温度変化を精密に測定する。そのため通常測定器内の2個の皿の一方に測定しようとする放射線源を、他方の皿には放射能物質を含まない放射線源と同種・同量の材料を入れ、その間に生じた微小な温度差を検出し、発熱量を定量する。この発熱量に基づき、計算で放射能(又はその濃度)を求める。
2.放射能測定におけるマイクロカロリメトリーの位置付け
 放射能測定法にはデジタル式とアナログ式とがある。デジタル式には各種の計数管、半導体検出器などがある。デジタル式の測定では放射線を個別に検出・測定するため、高感度であるばかりでなく放射線の種類の検知が容易なものが多い。アナログ式の放射能測定器には、放射線を電気量に変換して測定する電離箱、光量に変換して測定する写真乾板、熱量に変換して測定するカロリメーターなどがある。アナログ式では、放射線のエネルギーを電離電荷または熱エネルギーに変換して測定する。そこで、エネルギーの変換効率とその変換された状態の安定度や測定系の検出限界などのために、デジタル式に比べて感度が低く、また、放射線の種類を判別するのは一般的に難しい。一方、測定対象である放射性物質では、放射線の種類、エネルギーは多種多様であり、放射能濃度も幅広い。しかも、放射性物質の壊変様式はさまざまで、測定試料はしばしば幾つかの放射性物質の混合物であって複雑なものが多い。したがって、このような少量の試料での精密測定が望まれている。
 カロリメトリー法は放射線の熱エネルギーへの変換効率が高く、かつ一定しており、測定精度も高いため、放射能濃度の高確度検定法として特徴がある。マイクロカロリメトリーは、単一の核種が既知の放射性物質であって、その放射能が10MBqを超え物質中での透過能が小さいα線あるいは低エネルギーβ線放射体の測定法として最適である。なぜなら、これらの放射線は試料自身および放射能密封容器内での放射線の吸収率が極めて大きく、高精度の測定ができるためである。カロリメーターでも測定器に適切な放射線吸収体を使用すれば、比較的高エネルギーのβ線、X線やγ線放射体の測定も可能になる。
3.発熱量の評価
 マイクロカロリメトリーで測定対象とするミリキュリー程度(1ミリキュリーは37MBq)の放射能物質は通常発熱量が小さく、1μW以下に過ぎない場合もある。そこで、このような微小熱量を精度良く測定するために、米国のNIST(旧NBS:国立標準局)が採用している方法は「ペルチェ効果」を利用するものである。これは互いに異なる2個の電気的な導体を接合し、それに電流を通じた際に生ずる熱の放射あるいは吸収を利用する測定法である。NISTでは1953年以降この方法を利用して純度および重量の分かった226Ra標準線源の測定を行っており、これが国際的な放射能標準として利用されている。一方、(独)日本原子力研究開発機構で行われている方法は、測定試料から発生する熱を感熱素子を通してヒートシンクに流しながら熱伝導を利用して測定する方法である。使用されている双子熱伝導型マイクロカロリメーターの主要部の構造概要と検出部まわりの状況を図1に示す。
4.マイクロカロリメーターによる放射能の測定例
 放射性物質の壊変あたりの発生エネルギー(崩壊エネルギーともいう)の例を表1に示す。α線あるいは低エネルギーのβ線では大部分の放射線が試料それ自身と、測定器の汚染を防ぐために用いる密封容器壁に吸収されて熱に変換されるため放射線吸収体は不必要であるが、β線のエネルギーが大きい場合、またはX線やγ線を測定する際には、それらの放射線を効果的に吸収するために、適切な密度と厚みを持った放射線吸収体を用いる。通常は密封状態にある試料を測定するが、非密封溶液のような試料でも、バイアル瓶に封入して測定器の汚染が防止できれば測定可能になる。
 表2に種々の放射性核種の放射能の測定例を示す。純ベータ核種である32P溶液の測定例では、バイアル瓶の壁を透過するβ線ならびにβ線が物質(ガラス)中を通過する際に発生する制動放射線を吸収するため厚み5mmの鉛容器(Pbポット)を放射線吸収体として使用している。鉛容器の輻射、制動放射線の漏れ、不純物核種である33Pの補正ならびに測定誤差等を評価した結果、1.80GBq程度の放射能に対して測定誤差±2%(3σ)が得られている。電子捕獲ならびに100keVのγ線を放出して壊変する核種153Gdについて、厚み2cmの銅製放射線吸収体(Cuブロック)を用いて測定した結果では、1.2GBq程度の線源に対し、測定誤差±1.8%であった。このように、マイクロカロリメーターによる放射能の測定法は放射能の高精度測定法として有用である。
<図/表>
表1 各種の放射性核種の平均壊変エネルギー
表1  各種の放射性核種の平均壊変エネルギー
表2 放射性核種のマイクロカロリメーターによる測定例
表2  放射性核種のマイクロカロリメーターによる測定例
図1 双子熱伝導型マイクロカロリメーターの主要部の構造と検出部まわりの状況
図1  双子熱伝導型マイクロカロリメーターの主要部の構造と検出部まわりの状況

<関連タイトル>
環境放射能測定による地下水年代の推定 (08-04-01-12)
環境放射線の測定法 (09-01-05-03)

<参考文献>
(1)源河 次雄:Radioisotopes, Vol.45, p65-66(1996)
(2)Mann W. B.ほか:The NBS/NIST Peltier-effect Microcalorimeter, Appl. Radia. Isot., Vol.46, p185-190(1995)
(3)源河 次雄:「ラジオアイソトープ製造頒布のためのカロリメトリーによる放射能測定」、放射線、Vol.19、p49-56(1993)
(4)Browne E.ほか:Table of Radioactive Isotopes, Ed. Shirley V. S.,John Wiley and Sons, D・9-D・26(1986)
(5)由良 治ほか:マイクロカロリメーターによるトリチウムの放射能絶対測定、応用物理、Vol.33、p342-347(1964)
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