<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の農林水産業利用
<小項目> 品種改良等
<タイトル>
放射線育種の利用例 (08-03-01-09)

<概要>
 現在、世界中で多くの品種が放射線照射による誘発変異から得られており、食糧の増産や農薬の軽減等に貢献している。ここでは、それらの中から日本を中心に米(レイメイ、美山錦)、大豆(ライデン、ゆめみのり)、果樹(ゴールド二十世紀など)、花卉に関する成果の一部を紹介する。
<更新年月>
2006年02月   

<本文>
 現在、世界中で多くの品種が放射線照射による誘発変異から得られており、食糧の増産や農薬の軽減等に貢献している。ここでは、それら中から日本の成果を中心に紹介する。
1.米
 放射線によって品種改良された、日本で初めての実用品種は、レイメイである。1959年に、農業技術研究所のガンマルームで、多収穫性、耐冷性の品種であるフジミノリに、60Coのγ線を20kR(5.2×10−3 C kg−1)照射し変異させて新しい品種を作ることが試みられた。その時できた品種が「ふ系70号」と「ふ系71号」である。「ふ系70号」は収量が多く、倒れにくい性質を持っており、この籾はフジミノリを育成した青森県の藤坂支場に育成が依頼された。「ふ系70号」は1963年に配付が開始され、1966年、育種の夜明け(黎明)を象徴してレイメイという名前が命名された。命名された年は全国(以下数値は水稲うるちのみを示す)で1201ha作付けされ、面積としては全国で151位だった。作付面積は年々増加し、1969年には作付面積が全国5位となり、東北地方を中心に、全部で14県で作られるようになった。この後、作付け面積は減少し、1984年には統計から姿を消してしまった。しかし、レイメイを先祖に持つ品種は今でも栽培されている。中国で1986年に2万 ha栽培されていたHangfengという品種はレイメイをかけ合わせてできた品種である。(現在でも栽培されているかどうかデータがない)、
 現在、日本で栽培されている食用米の品種はコシヒカリの系統を引くものが多いが、日本酒の酒造利用を目的とした米(酒造好適米)には放射線育種を利用した品種が数多く利用されている。その一例が、「五百万石」「山田錦」に続く生産量を誇る「美山錦」である。美山錦は1972年、放射線育種場ガンマフィールド)で酒造好適米であるたかね錦に、60Coのγ線を30kR(7.8×10−3 C kg−1)照射し変異させて作られた品種である。もとのたかね錦は酒造好適米ではあるものの、小粒で、発酵に重要な心白発現率が低く、雑味のもとになる玄米中の蛋白含有率が高かった。「信放酒1号」は大粒化し、心白発現率が高く、酒造には非常に都合の良い品種である。この籾は1978年まで長野県農業試験場で育成された。美山錦を親にもつものとして「神の舞」「美郷錦」等が挙げられる。
 前述のレイメイを親や先祖に持つ品種もあり、「豊杯」「おくほまれ」「一本〆」「華吹雪」等が挙げられる。酒造好適米における放射線育種を用いた品種改良は、1970年代に集中し、それ以降は主にその品種を交配して新しい品種を作っている。近年の品種改良では、米の栽培のし易さや食味以外にも、成分の変化についても着目され、米は、腎臓疾患用の「低グルテリン米」及び米アレルギー性疾患用の「低アレルゲン米」が作られている。
2.大豆の品種改良
 「レイメイ」とほぼ同じ時期に改良されたものとしてダイズの新品種「ライデン」と「ライコウ」がある。ライデン、ライコウの親品種である「ネマシラズ」(大豆東北6号)はシスト線虫、黒痘病等に対し、幅広い耐病虫性をもつものの極晩生品種(生育期間がかなり長い)であるため東北地方での生産には向かなかった。しかし、東北地方で栽培されている中生種には線虫抵抗性を示す品種はないため、線虫抵抗性の中生種が必要とされていた。1959年にネマシラズの乾燥種子50000粒に60Coのγ線を10kR(2.6×10-3 C kg-1)と20kR(5.2×10-3 C kg-1)を照射し、1960年から1965年(ライコウは1968年)にかけて、東北農業試験場で選抜育成が行われた。その結果、10kRを照射した中から2種類の新品種、大豆東北27号(後の「ライデン」)と大豆東北28号(後の「ライコウ」)が選抜された。大豆東北27号は親品種より成育期間が25日も短くなり、寒くなる前に充分に実を結ぶようになった。大豆東北28号は成育期間が15日短くなった。大豆東北27号は1966年に「大豆農林42号」として品種登録され「ライデン」と命名された。ライデンは2000年頃まで秋田県で栽培されていたが、現在は栽培されていない。ライデンを交配して作成された品種には「ナンブシロメ」「トモユタカ」「リュウホウ」がある。
 一方、大豆にも米と同様に低アレルゲンの品種が求められ、放射線育種を利用した低アレルゲン大豆の開発も行われている。「ゆめみのり」は、1991年に東北農業試験場作物開発部大豆育種研究室において育成した「刈系434号」に対して、γ線を照射し、1996年に「東北第124号」の地方番号を付け、選抜・固定を図られてきた品種である。人体に対する3つの主要なアレルゲンのうち、2つが欠失しているため、低アレルゲン食品として利用する事ができる。人体の必須アミノ酸であり米食だけでは不足しがちな含硫アミノ酸(メチオニン、シスチン)の含有量が普通大豆より約2割高いので、栄養価は優れている。「ゆめみのり」は2004年に品種登録されたばかりである。
3.果樹の品種改良
 放射線育種の一例として耐病性品種が挙げられる。ナシを例にとると、今まで病害防除のために袋掛けやボルドー液の散布等の防除技術が確立されたが、薬剤耐性菌の出現や新しい感染ルートの出現により、新たな対策が必要となってきていた。黒斑病に対する抵抗性はナシの品種間で差異があることが知られており、単一の遺伝子に支配される形質である。抵抗性をもつ長十郎等は劣性ホモであり、抵抗性を持たない二十世紀はヘテロであった。そこで、二十世紀を抵抗性にするためには、その遺伝子を劣性ホモにすればよいことがわかった。これは放射線の育種としては最も得意な変異である。その結果「ゴールド二十世紀」、「寿新水」、「おさゴールド」という品種が作り出された(図1参照)。
 ゴールド二十世紀はガンマーフィールドに1962年に植えた木から得られている。1981年に殺菌剤の散布を控えたところ、一つの枝だけ黒斑病の病徴が見られない枝が発見された(「γ−1−1」)。その枝を接ぎ木増殖して抵抗性を検定したところ、原品種の二十世紀に比べ明らかに強い抵抗性を示したので、系統適応試験にかけ他の形質は原品種と変わらないことが確認された。「γ−1−1」は1990年6月22日付けで、なし農林15号「ゴールド二十世紀」と命名登録された。
 新水は赤ナシの早生品種で、味が濃厚で品質が優良であるものの、ナシ黒斑病にかかりやすいという欠点があった。1987年からガンマールームで線量率2.5Gy/h・総線量80Gyのガンマ線照射をした穂木に由来する発育枝から、原品種と比べて明らかに黒斑病に強い一枝を選抜された。1993年から、ナシ第6回系統適応性検定試験に供試され、果樹試験場をはじめとする27の関係場所で特性が検討された。その結果、ナシ黒斑病耐病性品種としての優良性が認められ、「寿新水」と命名・登録された。「おさ二十世紀」は「二十世紀梨」の突然変異品種で、自家受粉でも実がなるので人工的に受粉しなくても良いという利点がある。その一方で、「二十世紀」のようにナシ黒斑病にかかりやすいという欠点もある。そこで、1987年からガンマーフィールドでガンマ線の緩照射した若木の枝から、黒斑病耐病性系統(IRB 502−13T)を「おさゴールド」として種苗登録申請され、1997年7月15日に品種登録された。
4.花卉の品種改良
 花卉の品種改良は多くの種類で行われており、花の色を変えるものが中心である。例えば色々な花色を持つキク(図2)は、もともと「大平」という同一の品種から突然変異育成されている。放射線育種場と沖縄県農業試験場の協力で、「大平」の幼苗にγ線を当て、花弁や蕾をもとに組織培養、再分化した個体から得られたもの(A〜D、F)や、γ線を当てた株から直接挿苗をしたもの(E)である。他にバラ、クレマチス、カーネーション、ベゴニア、ユリ、トルコギキョウ、ミヤコワスレ等でも品種改良が行われている。
<図/表>
図1 ガンマ線照射によって育成された黒斑病耐病性ニホンナシ3品種
図2 放射線育種によって作られたいろいろな花色のキク

・図表を一括してダウンロードする場合は ここをクリックして下さい。


<関連タイトル>
放射線照射による農作物の品種改良(放射線育種) (08-03-01-01)
イオンビームバイオ技術の現状 (08-03-01-07)
放射線育種の概要 (08-03-01-08)
放射線による植物への影響 (09-02-01-05)
農業生物資源研究所放射線育種場 (10-04-08-02)

<参考文献>
(1)鵜飼 保雄、植物育種学 東京大学出版センター(2003年)
(2)農業生物資源研究所 放射線育種場:放射線育種場のあゆみ:40年を顧みて
(3)西村 実、突然変異育種の成果と展望−−イネにおける突然変異育種(4)、農業技術. 55(7) 327-331 (2000)
(4)羽鹿 牧太、突然変異育種の成果と展望−−豆類における突然変異育種(6)、農業技術. 55(9) 424-427 (2000)
(5)伊藤 祐司、突然変異育種の成果と展望−−果樹における突然変異育種(9)、農業技術. 55(12) (2000)
(6)山口 博康、突然変異育種の成果と展望−−野菜・花きにおける突然変異育種(7)、農業技術. 55(10) 470-473 (2000)
(7)東北農試・栽二部・作3研究室.放射線によって育成した大豆新品種「ライデン」および「ライコウ」育成報告.東北農業試験場研究報告 40:65-105(1970)
(8)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:ニホンナシの黒斑病耐病性突然変異、テクニカルニュース、No.29(1986)
(9)壽 和夫ほか:ニホンナシ新品種「ゴールド二十世紀」、農業生物資源研究所報告、No.7,105-120(1992、1993)
(10)北川健一ほか:ニホンナシ新品種「寿新水」、鳥取県園試報、3、1-13(1999)
(11)増田哲男ほか:ニホンナシ新品種「おさゴールド」、生物研研究報告、12、1-11(1998)
(12)農林水産省農業生物資源研究所放射線育種場:キクの緩照射と花器培養による花色変異6系統の育成、テクニカルニュース、No.43(1993)
(13)日本原子力研究所:イオンビームで新花色のキクを世界で初めて作出−植物に突然変色を起させる新しい手段−、ニュース館(,(1998年6月25日)
(関連ホームページ)
(突然変異育種のデータベース)−−IAEA/FAO
(突然変異育種の育種マニュアル)−−アジア原子力協力フォーラム(FNCA)

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