<大項目> 放射線利用
<中項目> 放射線の医学利用
<小項目> 治療
<タイトル>
JRR−4におけるホウ素中性子捕捉療法(BNCT) (08-02-02-17)

<概要>
 JRR-4は、軽水減速・軽水冷却のスイミングプール型の研究用原子炉である。1965年1月に初臨界に到達以来、遮へい実験、原子炉技術者養成、放射化分析、シリコン照射、ラジオアイソトープ生産等多目的な実験に対応できる研究用原子炉として使用されてきた。その後、試験・研究炉用燃料濃縮度低減化計画に従って、1996年1月にそれまで使用してきた90〜93%濃縮ウラン板状燃料による運転を終了し、原子炉施設等の整備を行い、1998年7月から20%濃縮ウラン板状燃料を用いた炉心で臨界を達成した。1999年10月から新たに整備した医療照射設備を用い、がん治療法の一つであるホウ素中性子捕捉療法の臨床研究が医師グループによって開始された。
 JRR-4では、ホウ素中性子捕捉療法のための線量評価システムや患者セッティングシステム等を整備し、精度の高い医療照射の効率的実施を図っている。2006年9月現在、脳腫瘍、頭頚部がん等を対象に通算57回の医療照射がJRR-4において行われている。
<更新年月>
2006年12月   

<本文>
 茨城県東海村にある独立行政法人 日本原子力研究開発機構(以下、「原子力機構」という。)のJRR-4(Japan Research Reactor-4)は、軽水減速・軽水冷却のスイミングプール型の研究用原子炉である。1965年1月に初臨界に到達以来、遮へい実験、原子炉技術者養成、放射化分析、シリコン照射、ラジオアイソトープ生産等多目的な実験に対応できる研究用原子炉として使用されてきた。その後、試験・研究炉用燃料濃縮度低減化計画に従って、1996年1月にそれまで使用してきた90〜93%濃縮ウラン板状燃料(高濃縮ウラン燃料)による運転を終了し、原子炉施設等の整備を行い、1998年7月から20%濃縮ウラン板状燃料(低濃縮ウラン燃料)を用いた炉心で臨界を達成した。1999年10月からは、新たに整備した中性子ビーム設備(以下、「医療照射設備」という。)を用い、がん治療法の一つであるホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy,以下、「BNCT」という。)の臨床研究が医師グループによって開始された。BNCTはがん細胞に取り込まれる特性を有するホウ素化合物を患者に投与した後、原子炉から発生する中性子を患部に照射することによって、ホウ素10が核反応を起こし、その際に発生する粒子放射線(α線とリチウム7粒子)によって、細胞レベルで選択的にがん細胞を破壊するという原理に基づくがん治療法である。
 JRR-4を用いて医療照射を行えるように整備した医療照射設備を図1に示す。原子炉を運転することにより発生した中性子を水平方向に取り出し、コリメータによってビーム状となった中性子を患部に照射できるようになっている。また、中性子のエネルギー分布を重水タンクの重水層の厚さを変えることやカドミウムシャッターを開閉されることにより変化させることができるようになっている。
 さらに、医師が手術やホウ素化合物投与等を行うための施療室、患者血液中のホウ素濃度を測定するためのPGA(Prompt Gamma-ray Analysis:即発γ線分析)装置およびICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合プラズマ)発光分光分析装置、BNCT線量評価システムJCDS(JAEA Computational Dosimetry System)や患者セッティングシステム等を整備し、精度の高い医療照射の効率的な実施を図っている。
 BNCT臨床研究の初期段階では、悪性脳腫瘍を対象として、ホウ素10がもっとも核反応しやすい熱中性子が十分患部に到達できるように施療室で開頭手術を行って患部を露出させ、直接患部に熱中性子を照射する方法(開頭照射)が用いられていた。JRR-4では、2004年から熱中性子よりエネルギーの高い熱外中性子を利用し、中性子ビームを頭皮の上から照射して、患部に到達した時点でちょうど熱中性子化させる方法により、深部にあるがんも治療できるようになった。このことにより、開頭手術を行う必要がなくなったため患者の負担を減らすことができた。さらに近年は皮膚がんや頭頚部腫瘍などに対するBNCT臨床研究も実施されている。
 JRR-4で代表的な照射モードの中性子束を表1に示す。初期段階では開頭手術を行った上で熱中性子モードIでの照射を行っていたが、最近では非開頭での熱外中性子モードでの照射がほとんどである。また、熱中性子成分以外をできる限り抑えた熱中性子モードIIは皮膚がん等に適用されている。
 原子力機構では症例に応じて最適な照射条件を求めるため計算によって線量評価を行うJCDSを開発し、精度の高い医療照射を実現させている。
 JCDSによる線量評価では、まず、患者のCT、MRIなどの医療画像データを入力して、患者の頭部3次元モデルを作成する。このモデルに対して中性子ビームを照射する条件(ビームのエネルギー、方向、距離等)を設定し、中性子・光子輸送計算コードMCNP(Monte Carlo N-Particle Transport Code)で線量計算を行う。この計算結果を元のCT,MRIデータ上や頭部3次元モデル上に重ね合わせて表示を行い、照射条件を決定するための情報を出力する。
 JCDSの開発によって効率的な照射条件の検討が可能となった。しかし、実際に照射を実施するためには、この照射条件を忠実に履行する必要があり、特に患者の位置精度はBNCTの照射精度に大きく影響を与える。そこで複数のレーザ光を使ってJCDSによって同定された最適照射位置に患者を正確に位置合わせできる患者セッティングシステムをJCDSと並行して開発した。あらかじめこの患者セッティングシステムの一部であるシミュレータを用い照射位置合わせのシミュレーションを行うことで、実際の照射室内での患者の位置決め作業を短時間かつ高精度に行うことができるようになり、患者の負担軽減と医師等の被ばく低減にも寄与している。JCDSを用いた線量評価に基づく照射条件決定の流れと患者セッティング方法を図2に示す。
 JRR-4でBNCTが実施されるときの手順は、まず、医師グループから提出された医療照射実施計画書に基づき、JCDSを用いた線量評価を行い、医師により最適な照射条件が決定される。照射当日までに患者セッティングシステムを使ったシミュレーションを行う。照射終了までに患者血液中のホウ素濃度をPGA装置およびICP発光分光分析装置で把握し、また、照射位置の中性子束を金線等を使ってモニタリングし、これらの測定結果から照射時間を決定する。また、医療照射後も患者各部に取り付けたモニタを測定することにより、事後の全身被ばく評価等を行っている。
 JRR-4では、2006年9月現在、通算57回の医療照射が行われている。日本国内では、これまで武蔵工業大学のMITRR、京都大学のKUR、原子力機構のJRR-2等でBNCTが行われてきたが、現在、これらの原子炉は休止または停止しており、JRR-4が国内で唯一BNCTが行える原子炉となっている。
 図3にJRR-4における医療照射の実績を示す。図3を見ると当初は開頭手術を伴った脳腫瘍に対するBNCT臨床研究が年度に数回行われていた。2003年度に熱外中性子モードによる開頭照射が実施され、さらに、2004年度から熱外中性子モードを用いた非開頭の脳腫瘍BNCT臨床研究が行われ始め、2005年度からは頭頚部がん等に対するBNCT臨床研究も開始され、また、2006年度はこれらに加え、前述したとおり2006年時点では国内でBNCTが行える唯一の研究用原子炉となったため、BNCT回数が増えてきている。
 2006年度からはJRR-4の運転のある週には医療照射予定日を1日設け、医師グループ側からの要望があった時に医療照射を行えるようにしている。また、1日2例まで医療照射を行える体制を整えている。さらに茨城県東海村立東海病院等近隣の病院との協力体制により、BNCT直前のがん状況の把握、BNCT前後の患者のケアなどが行えるようになっている。
 これらのことからも今後JRR-4で行われる医療照射は多くなると予想され、更に精度の高い照射を行えるよう照射技術開発が進められている。
<図/表>
表1 医療照射設備(中性子ビーム設備)の性能
図1 医療照射設備
図2 JCDSを用いた線量評価に基づく照射条件決定の流れと患者セッティング方法
図3 JRR−4における医療照射(BNCT)の実績

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<関連タイトル>
JRR-4 (03-04-02-03)
医療分野での放射線利用 (08-02-01-03)
ホウ素中性子捕捉法(BNCT)の現状と将来の展開 (08-02-02-18)

<参考文献>
(1)H.Kumada,K.Yamamoto,A.Matsumura,T.Yamamoto,Y.Nakagawa、at el.:Verification of the Computational Dosimetry System in JAERI for boron neutron capture therapy,Physics in Medicine and Biology,Vol.49,p.3353-3365,(2004)
(2)熊田博明、山本和喜、松村明、中川義信:中性子捕捉療法のための線量評価システム、JCDSの開発、応用物理学会放射線分科会誌、Vol.31,No.4,p.287-298,(2005)
(3)熊田博明、松村明、中川義信:原子炉による医療照射のための患者セッティングシステムの開発、日本原子力学会和文論文、Vol.1,No.1,p.59-68,(2002)
(4)独立行政法人日本原子力研究開発機構 研究炉利用ホームページ:URL:
(5)日本原子力研究所:平成11年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI-Review 2000-036
(6)日本原子力研究所:平成12年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI-Review 2001-048
(7)日本原子力研究所:平成13年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI−Review 2002-033
-(8)日本原子力研究所:平成14年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI-Review 2003-002
(9)日本原子力研究所:平成15年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI-Review 2004-001
(10)日本原子力研究所:平成16年度研究炉部年報(運転・利用と研究・技術開発)JAERI-Review 2005-036
(11)独立行政法人日本原子力研究開発機構:未来を拓く原子力−原子力機構の研究開発成果−(2006)
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