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再処理から発生する高レベル廃棄物の対策としては、ホウケイ酸ガラス等により
ガラス固化し、発熱密度を低減させるため貯蔵を行った後に、安定な地層中に処分するという地層処分を採用している国が多い。
使用済燃料を再処理しないで直接処分する、いわゆるワン・スルー方式を採用している国もある。この場合には、使用済燃料をそのまま処分用容器に封入固化するエンキャプセレーション(encapsulation)か、使用済燃料を
燃料ピンになるまで
解体して処分用容器に稠密化して封入固化するロッド・コンソリデーション(rod consolidation)かの前処理を行って、ガラス固化体と同様に地層処分することが考えられている。
(1)処分概念
高レベル廃棄物の主要な処分法には、ガラス固化後一定期間貯蔵して発熱密度を低下させてから深さ数百メートルの安定な岩盤中に処分しようとする地層処分法(
図1参照)、数百メートル深さの海洋底の堆積物中に処分しようとする海洋底下処分法がある。いずれも、OECD/NEA、IAEAをはじめ各国において、処分のための技術開発や
安全評価手法の開発が行われている。この他に処分概念として提案されたことがあるものに、氷床処分(Ice Sheet Disposal)、宇宙空間処分などがあるが、本格的な研究開発を行うに至っていない。また最近、高レベル廃棄物中の主要な元素をグループとして分離(群分離)し、有用な元素については再利用を図り、
超ウラン元素(TRU)等
半減期の長いものについては、高速中性子照射による
核分裂、高エネルギー陽子ビーム照射による核破砕等によって半減期の短い核種などに変換しようとする消滅処理、核破砕の研究も行われている。
(2)地層処分における多重バリア概念
高レベル廃棄物の地層処分では一般には
キャニスターに収納されたガラス固化体(これを廃棄体と呼ぶ)を、頑強な炭素鋼製等の
オーバーパックに収納し、
天然バリアとして安定な岩体(
母岩、地層と呼ぶことがある)中の地下数百メートルに設けた処分施設内に、緩衝材等工学バリア材と共に埋設し、さらに充填材やプラグ材等によって埋め戻す方法が採られる。
(3)処分の安全性に関する規制と評価
高レベル廃棄物の処分の安全性は、処分された
放射性物質に起因する生活圏における人間の放射線被ばくによって最終的に評価される。その規制にはIAEA、OECD/NEA、欧州諸国にみられるように、ALARAの考え方に基づいて放射線被曝の線量や
リスクの目標値を設定する方式と、米国のように、さらに技術的要因を細分し、工学バリアの閉じ込め・耐漏洩性と放射性核種の移行の主な原因となる水の移動速度等の目安を与えようとする方式とがある。いずれにおいても、安全評価が基本になっている。地層処分の安全評価には、廃棄体を取り囲む環境、すなわち処分坑道掘削による岩盤への影響や廃棄体の
崩壊熱が顕著に及ぶニアフィールド(近傍域)と、外側に位置するファーフィールド(遠方域)、それに生活圏に分けて解析を行うことが多い。安全評価における主な事象としては、処分施設内への水の侵入に伴うオーバーパックの劣化、ガラス固化体からの放射性核種の浸出、水の移動に伴う放射性核種の移行、および緩衝材と岩体に対する放射性核種の崩壊熱の影響などがある。
(4)地層処分に関する研究開発の状況
各国において、地層処分の実施計画と、これに必要な研究開発計画が策定されている。特に、スウェーデンやスイスでは
放射性廃棄物の安全な処分が実現できることを示すことが、国民世論に配慮した政府から正式に求められたので、各々、KBSレポート1、2、3およびNagra保証計画(Projekt Gewahr)レポートが作成された。
一方、研究開発計画としては、スウェーデンの原子力活動法の規定に基づく研究開発計画(3年毎に作成して承認を得る)やベルギーの安全性事前評価・実現性中間評価(SAFIR)などがある。さらに、フィンランド、米国のように既に処分場サイトが決定している国や、スウェーデン、フランス、ベルギー、西独等のように処分場候補サイトの立地調査を進めている国も多い(
表1)。
各国において、それぞれの計画に基づいて地層処分の研究開発が進められているが、これらを一層効果的に推進するために、OECD/NEA、IAEA、CEC(欧州共同体委員会)を中心とする多国間協力が活発に進められている。例えば、OECD/NEAにおいては、各国政府の処分実施政策を支援するための実証概念や研究開発計画評価に関する資料が整理された報告書の作成、スウエーデン、ベルギー、スイスなどの地下研究施設における試験研究、評価シナリオ、および確率論的安全評価手法の開発などの活動が行われている。IAEAにおいては、地層処分に関する国際基準、廃棄体の受入れ基準などの策定や各種安全評価指針、ガイダンス等が作成されている(
表2参照)。CECにあっては、地層処分に関する研究開発が体系的に、また域内主要国の分担によって進められている。
(5)わが国における高レベル廃棄物の地層処分の展望
わが国では、1999年に核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)により「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性」が取りまとめられ、地層処分の安全性やサイト調査技術等の技術的拠り所が示された。一方、実施体制については、2000年6月に「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」が制定され、実施主体「原子力発電環境整備機構(NUMO)」が設立されると共に、最終処分積立金が制度化された。特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律に基づき、経済産業省が定めた告示「特定放射性廃棄物の最終処分に関する計画」では、
・特定放射性廃棄物(ガラス固化体)の最終処分は平成40年代後半を目途として開始する。
・最終処分施設の規模は、4万本以上の特定放射性廃棄物を最終処分することができる規模とする。
・原子力発電環境整備機構は、設立後、文献調査を実施した後、概要調査を実施し、平成20年代前半(2010年前後)を目途に精密調査地区を選定し、平成30年代後半(2020年代半ば)を目途に最終処分施設建設地を選定する。
・機構は、最終処分施設建設地において、別に法律で定める安全の確保のための規制に従い、最終処分施設を建設し、平成40年代後半を目途に最終処分を開始するものとする。
こととなっている。原子力発電環境整備機構は、この告示に従い、最終処分に関する実施計画を定め、現在立地調査を進めている。
地層処分の研究開発については、2000年の原子力開発利用長期計画に基づき、核燃料サイクル開発機構(現日本原子力研究開発機構)等がこれまでの研究開発成果を踏まえ、今後とも深地層の研究施設や地層処分放射化学研究施設等を活用しつつ、地層処分技術の信頼性の確認や安全評価手法の確立に向けて引き続き研究開発を進めている。深地層の研究施設は学術的な研究の場であり、また、国民の地層処分に関する研究開発の理解を得る場としての意義を有しており、この計画は処分場の計画とは明確に区別して進めることとしており、現在、「瑞浪超深地層研究所」および「幌延深地層研究センター」において進められている。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
<関連タイトル>
日本における放射性廃棄物の発生の現状と将来の見通し (05-01-01-05)
瑞浪超深地層研究所計画 (06-01-05-13)
<参考文献>
(1)核燃料サイクル開発機構:わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性、JNC TN1400−024(1999年11月)
(2)原子力委員会 高レベル放射性廃棄物処分懇談会:高レベル放射性廃棄物処分に向けての基本的考え方(1998年5月)
(3)原子力委員会 原子力バックエンド対策専門部会:高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発等の今後の進め方(1997年)、
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo97/siryo26/siryo32.htm
(4)原子力委員会(編):原子力の研究、開発および利用に関する長期計画(平成12年11月24日)、
http://www.rwmc.or.jp/law/file/2-14.pdf
(5)通商産業省:特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律、法律第117号(平成12年6月7日)、(最終改正:平成19年6月13日、法律第84号)