<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 ドイツでは、福島第一原子力発電所の事故の影響を受けて脱原子力の機運が高まり、2011年に8基の発電炉が閉鎖され、2013年末時点で稼働している発電炉は9基となった。これまでに閉鎖した発電用原子炉は、9基のBWR、7基のPWR、6基の旧ソ連型のPWR型(VVER)などを含めて合計27基であり、このうち10基が解体を完了している。
 ドイツでは即時解体方式の採用を原則に、各プラントの廃止措置計画が進められている。解体技術の開発は、実証炉(グンドレミンゲンKRB-A)を用い、各種の解体ツールの性能確認、また、解体物をリサイクルする方針で解体実地試験が行われた。この経験は、世界最大のデコミッショニング・プロジェクトであるグライフスバルト発電所(44万kWe×5基、VVER-440型)に反映された。その後、脱原子力を目指した改正原子力法が2002年に成立し、電力会社と政府の合意に基づき2003年にシュターデ(PWR:67.2万kWe)、また2005年5月にオブリッヒハイム発電所(PWR:35.7万kWe)が閉鎖された。2011年に閉鎖された8基を除き、多くのサイトで解体が進んでいる。
<更新年月>
2014年03月   

<本文>
 ドイツではこれまでに27基の発電用原子炉が閉鎖された。閉鎖した発電炉の廃止措置状況を表1に示す。
 このうち、ニーダアイヒバッハ炉は1995年に、HDR炉は1998年に解体を完了し、緑地化されている。グンドレミンゲン炉は2005年に解体完了後、建屋を技術センターに転用している。グライフスバルト発電所の5基は2013年に解体を完了した。この他に、シュターデ、ヴュルガッセンなどが解体中であり、高温ガス炉など2基が安全貯蔵中である。
 ドイツの原子力政策は、連立政権と4大電力会社との2001年の原子力政策合意により、2000年以降19基の発電炉で2兆6000億kWhの発電を行うこととなった(最長運転期間を32年として全発電炉を閉鎖)。また、2005年7月以降の使用済燃料再処理を禁止した。これにより、最終処分の方式として直接処分が採用され、サイト内で放射性廃棄物中間貯蔵が義務づけられた。2009年には、代替電源の確保が困難な状況に配慮し、原子力発電所の稼働延長を認める政策が打ち出されたが、その後、2011年に改正原子力法が制定され、2022年を目標にすべての発電炉を廃炉にする予定となった。
 原子炉施設の廃止措置は、原子力法第7条による廃止措置手引書(2009年6月26日改定版)で「原子力法第1条の防護目標を前提として、あらゆる廃止措置の最終的な目標は、施設を完全に撤去したあとサイトを解放することである」と定義している。また、「構造物が残っている場合は、放射線学的観点から無制限に、サイトを他用途に向けて解放することである。さらに、まだクリアランスされていない残りの設備を、原子力法による許可を受けた別の用途へ転換することでも、廃止措置を終了させることが可能である」としている。原子炉施設の廃止措置では、即時解体あるいは安全貯蔵のいずれかを選択できるが、原則は即時解体である。廃止措置は連邦環境・自然保護・原子炉安全省(BMU)の規制及び州所管官庁による廃止措置実施者の監督と認可システムの下で実施される。表2に規制関連法規を、図1に廃止措置の全体の流れを示す。解体撤去作業には約10年を要する。
 以下にこれまでに停止された原子炉の主な廃止措置概況を記す。
(1)ニーダアイヒバッハ(Niederaichbach)原子力発電所(KKN:HWGCR、出力10.6万kWe)
 重水減速炭酸ガス冷却型原子炉KKNは、1972年から運転されたが、このタイプの炉の開発が中止され、1974年停止した。原子力発電所の解体技術の開発や解体作業経験の取得を目的として、解体工事は1987年から開始された。炉内構造物、原子炉容器等の放射化機器は1990年から1993年にかけて回転マニピュレータ型遠隔解体装置により撤去された。また、生体遮へい体は制御爆破や電気式油圧掘削機等を用いて解体された。建屋の除染を行った後、1993年10月に管理区域を解除し、建屋を解体した。全ての解体作業は1995年8月に終了し、サイトは1997年に緑地化を達成している。
(2)グンドレミンゲン原子力発電所(KRB-A:二重サイクル方式BWR、出力25万kWe)
 小型のグンドレミンゲンKRB-Aは、ECデコミッショニング・プロジェクトに指定され解体実証試験に供された。1980年運転終了後、フェーズ1として1983年にタービン建屋内機器の解体を開始。1990年からフェーズ2として原子炉建屋内原子炉給水系の解体を行い、炉内構造物の解体(フェーズ3)を1993年から開始した。フェーズ2では、汚染レベルの高い二次蒸気発生器(直径2m、高さ9.2m)を対象にアイスソーイング(水張り後凍結させ、バンドソー切断器により輪切り解体する方法)など多くの技術開発が行われた。フェーズ3では炉内構造物をプラズマ・アーク、接触式アーク、弓鋸を用いて切断、解体撤去した。
 解体金属廃棄物は、タービン建屋内に除染設備を設け、サイトからの無制限搬出を60%、サイト外の処理センターを経て制限付リサイクル(溶融)として33%を実現することにより、最終処分の比率を7%にまで低減した。2005年末までに解体撤去が完了し、解体廃棄物はモルスレーベン処分場で管理されている。なお、タービン建屋施設は、運転中の原子炉KRB-B、Cの廃棄物処理用として使用される。KRB-Aの概略を図2に示す。
(3)グライフスバルト(ノルト)発電所(Greifswald:VVER-440、出力44万kWe)
 この発電所は旧ソ連型加圧水炉5基及び建設中の3基で構成され、ドイツ統一後、旧西ドイツの原子力法に基づく安全基準を満たさなかったため、1990年閉鎖された。ドイツ政府は、この世界最大規模の廃止措置プロジェクトを実施するに当たり、連邦政府直轄のEWN(Energiewerke Nord)社を設立した。廃止措置計画を図3に示す。
 EWN社は、プラント作業経験者の雇用を守るとともに、解体コストを低減するために即時解体を選択した。2012年完了を目指して2000年から本格的工事が進められたが、目標より少し遅れて2013年に完了した。解体撤去工法を確立するため、1999年から2003年にかけて未完成の7号機及び8号機の原子炉圧力容器及び炉内構造物を用い、解体、梱包、搬送用の装置を使った遠隔試験解体を実施した。また、5号機は、低出力での試験運転後に恒久停止した。原子炉圧力容器の放射能レベルは低かったため、細断することなく2003年11月に一括撤去し、中間貯蔵施設(ISN)に保管した。遠隔解体試験と5号機の原子炉圧力容器の一括撤去の経験を基に解体撤去戦略が検討され、一括撤去方式の方が作業者の放射線被ばくが80%低減し、コストも43〜50%低減すると評価された。この評価結果に基づき、当初の廃止措置計画は2003年に図4に示すように変更された。1号機から4号機の原子炉圧力容器にはいずれも一括撤去方式を適用し、2005年に準備を開始して2007年11月までに完了した(図5参照)。この原子炉圧力容器の一括撤去では、放射能レベルが低い下部の炉内構造物と一体にして、原子炉ピット内で原子炉圧力容器の放射線レベルの高い炉心領域に筒状遮蔽を取付け、移送用レール上を滑らせて原子炉建屋外まで移動し、ワイヤー昇降機付門型移送装置を用いて大型トレーラに乗せてISNまで移送して保管された。原子炉建屋及びタービン建屋は、造船、風力発電用の主柱などの製造施設に再利用されている。
 廃止措置の費用は概算で32億ユーロ、また、廃止措置に伴う廃棄物は約180万トンであり、この内訳を図6に示す。最終放射性廃棄物の処分量は、区分管理、再利用及び中間貯蔵施設での減衰保管等により16,000トンと見積もっている。
(4)シュターデ発電所
 この発電所は、加圧水型で1972年から2003年まで運転された。即時解体を選択し、原子炉圧力容器の解体には、遠隔操作によるプロパンガス切断で行われ、2015年完了を目標に、現在、解体の最終段階にある。
(5)ヴィルガッセン発電所
 この発電所は、BWR型(67万kWe)で、1995年に廃止措置が決定、1997年から施設解体を実施し、2014年に完了する予定である。1994年9月、炉心シュラウドと格子板に亀裂が入っていることが判明したことから、補修して利用を続けることは経済的でないとして1995年5月に閉鎖された。除染の後、2009年1月から原子炉圧力容器の円筒部の解体が開始され、2010年3月に解体が終了した。
(前回更新:2008年12月)
<図/表>
表1 ドイツの発電炉の廃止措置概況
表1  ドイツの発電炉の廃止措置概況
表2 ドイツの原子炉施設廃止措置関連法規
表2  ドイツの原子炉施設廃止措置関連法規
図1 ドイツの原子炉施設廃止措置手続きのフロー
図1  ドイツの原子炉施設廃止措置手続きのフロー
図2 グンドレミンゲンKRB-Aの概略
図2  グンドレミンゲンKRB-Aの概略
図3 グライフスバルト発電所の廃止措置の計画
図3  グライフスバルト発電所の廃止措置の計画
図4 グライフスバルト初期の切断計画と新デコミ計画との比較
図4  グライフスバルト初期の切断計画と新デコミ計画との比較
図5 グライフスバルト原子炉圧力容器の一括撤去・輸送
図5  グライフスバルト原子炉圧力容器の一括撤去・輸送
図6 グライフスバルト発電所(5基)の廃止措置よる廃棄物の区分と推定量
図6  グライフスバルト発電所(5基)の廃止措置よる廃棄物の区分と推定量

<関連タイトル>
原子力施設の敷地などの有効利用 (05-02-01-06)
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
海外主要国における発電炉の廃止措置の実績 (05-02-03-01)
ドイツKKN炉の解体 (05-02-03-11)
グライフスバルト(通称ノルト)原子力発電所をめぐる動き (14-05-03-12)

<参考文献>
(1)日本電気協会新聞部:原子力ポケットブック2013年版、2013年9月、p.274-297
(2)経済産業省:海外の廃止措置規制制度について
(3)H. Steiner,et.al:Experience with the Dismantling of the NPP’s KRB Gundremmingen Unit A, and Veruchsatomkraftwerk KAHL(VAK), IBC UK Co. Limited, July 1998
(4)DECOMMISSIONING IN EUROPE:The KRB−A (Gundremmingen) Pilot Dismantling Project,
(5)DECOMMISSIONING IN EUROPE:The Greifswald Nuclear Power Plant (KGR),
(6)H. Steiner and D. Rittscher,:The Greifswald Decommissioning Project-strategy,status,and lessons learned,Nuclear DECON(2001),p.235-253
(7)Jurgen Raasch and Ralf Borchardt,:Remote Dismantling of the WWER Reactors in Greifswald,ICEM 2001(2001)
(8)European Commission:REPORT EUR 17622, A REVIEW OF THE SITUATION OF DECOMMISSIONING OF NUCLEAR INSTALLATIONS IN EUROPE ANNEX2 SUMMARY OF SHUTDOWN NUCLEAR FACILITIES IN GERMANY(pdf,55-61),、55-61
(9)日本原子力産業協会:世界の原子力発電開発の動向 2013年版(2013年5月発行)
(10)“Decommissioning in Germany”p38-40, Nuclear Eng. Inter.(2/2013).
(11)Ralf Borchardt,“Taking apart Greifswald, two ways” Nuclear Eng. Int. July 2013.
(12)Andreas Ehlert,"Best Practice in E.ON Decommissioning Projects”,
.
(13)EWN Project overview, “The Greifswald Decommissioning Project”, Energiewerke Nord GmbH June 2011.
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ