<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 原子炉施設のコンクリート構造物は堅牢で、生体遮へい体などは壁が厚く一部は放射化あるいは放射能汚染している。このため、これらの構造物の解体には放射性粉塵等の発生が少なく、作業員の放射線被ばく及び二次廃棄物の発生を極力抑制できる解体技術が必要となる。適用されているコンクリート構造物の解体技術には、機械的衝撃法、ワイヤーソー等の研削法、火薬による制御爆破工法を利用した方法などがある。
<更新年月>
2010年11月   

<本文>
 原子力発電所のコンクリート構造物は、耐震性などに対する配慮から壁が厚く、かつその中にある鉄筋も密に配置されているため、一般構造物と比較して堅牢な構造となっている。
 コンクリート構造物のうち、解体が最も困難な構造物は、放射化している生体遮へいである。この生体遮へいは、原子炉圧力容器を取り囲んで放射線を遮へいする機能が要求されることから非常に分厚い断面構造になっており、炉心に近い部分は152Eu、60Co等で放射化している。解体に際しては粉塵の発生を抑えたり、遠隔操作を取り入れるなどして作業者の放射線被ばくを極力抑えるための配慮が必要となる。また、放射性物質が付着あるいは浸透した(放射能汚染)部分のコンクリート構造物の解体では、気中で切断あるいは破砕せざるをえないが、粉塵の発生を抑え、さらに粉塵回収装置の活用が不可欠である。
 解体時に発生するコンクリート廃棄物は、全廃棄物(1,100MWe級のBWRの場合で約54万トン、JPDRの場合で約2.5万トン)の約90%を占め、そのほとんどが放射能のない廃棄物(非放射性廃棄物)と考えられている。このことから、コンクリート中の放射能レベルに応じた合理的な区分解体あるいは汚染部分の除去を行い、放射性廃棄物の発生量を低く抑えることが重要となる。
 コンクリート構造物の解体技術・機器としては、ダイヤモンドワイヤソー、ダイヤモンドカッター等による研削によるもの、火薬による衝撃圧を利用したもの、機械的破砕・割裂によるものなど表1に示すように種々の技術及び機器が存在する。
 このうちのいくつかについて、解体の基本条件、すなわち、
 a) 放射性物質を拡散させない、
 b) 作業員の放射線被ばくを必要最小限にする、
 c)二次廃棄物(使用済みブレード、排液など解体によって副次的に発生するもの)を含め放射性廃棄物の発生をできる限り抑制する、
という観点からその特徴を示せば、一般的には次のように言える。
 ブレーカー(圧縮空気や油圧を用いたノミの往復運動による衝撃を利用した道具)など機械的衝撃によるものは、一般コンクリート構造物の解体に実績を有し、操作が手軽で、ある程度の遠隔操作も可能である。その反面、破砕片が不定形となってその処理が煩雑となるとともに、粉塵の発生が多く、また計画したとおりに対象構造物を選別解体すること、内部の鉄筋等を切断することも困難となる。
 ダイヤモンドカッター(円板状切断刃)及びダイヤモンドコアビット(円筒状切断刃)などを用いた研削による機械的切断技術は、切断装置の遠隔操作化が容易である、鉄筋コンクリート構造物を一様な大きさ及び形状で撤去できるため粉塵の発生が抑制されるという利点はあるが、装置が大型化するという欠点がある。
 ダイヤモンドワイヤソーによるブロック解体工法は、放射化レベルの高い領域の解体を遠隔操作で行うことができ放射性の粉塵等の発生が少なく、あるいは二次廃棄物の発生が少ない技術であることから(財)原子力研究バックエンド推進センター等で開発が行われた(図1図2参照)。
 また、火薬を用いた爆破技術は一度に広い領域を解体でき作業効率がよい反面、多量の粉塵の発生や騒音及び振動を伴う。
 以上のように、それぞれの技術にはその原理に起因した利点と欠点があり、解体対象物に応じた技術・機器の選択が解体の安全性と費用の低減の面から必要である。
(1)JPDR生体遮へい体の解体
 JPDRの生体遮へい体の厚みは炉心部で3mであり、また、その内部には鉄筋及び冷却配管等が埋設されている他、内側の表面は鋼板によって覆われている。このため、コンクリート構造物の解体技術・機器の開発は、解体の困難な生体遮へい体の炉心側を、遠隔操作により解体を行うこととし進められた。
 JPDRの解体実地試験においては、上述の生体遮へい体の特徴を考慮し、解体範囲と適用解体技術について、機械的切断技術、水ジェット切断技術、制御爆破技術、熱的切断技術を開発対象に、撤去作業の遠隔操作化に重点をおいた技術・機器の開発が進められた。
 遮へい体の実際の解体では、切断時の粉塵発生による作業環境への影響あるいは切断片の処理の問題等から熱的切断技術の適用は見送られ、高放射化部には機械的切断技術とジェット切断技術が、放射化レベルの低い部分及び非放射化部には制御爆破技術が選定され(図3参照)、解体実地試験を通じてこれらの技術の有効性が確認された。
 機械的切断技術は、図4に示すように、円板状ダイヤモンドカッター(直径約1m)及び円筒状ダイヤモンドコアビット(直径約15cm)による切断と穿孔を組み合わせ、遮へいコンクリートを扇型のブロック状に切断、撤去してしまおうというものである。切断装置は穿孔、切断、切断片の撤去まで遠隔操作化が図られており、作業員の被ばく低減に配慮されている。本技術は、対象物を計画した切断線に沿って撤去可能なことから、コンクリート中の放射能濃度に応じた解体を可能とする。
 JPDRに適用した制御爆破による生体遮へい体の解体手順を図5に示す。この制御爆破は、低爆速で破壊作業の小さい爆薬を用い、解体予定部以外へのクラックの発生を極力少なくして計画した範囲のみを爆破解体するもので、解体効率も比較的高いのが特徴である。
(2)米国のフォート・セント・ブレインのコンクリート製原子炉容器の解体
 高温ガス炉であるフォート・セント・ブレインの原子炉容器は、炉心下部に12基のモジュール型蒸気発生器を内蔵し、生体遮へいを兼ねた高さ32m、外形15m、側壁厚さ3mのプレストコンクリート製である。原子炉容器の放射化領域の解体は、ダイヤモンドワイヤソーによりブロック状にして撤去した(図6参照)。
(3)ドイツのグンドレミンゲンの生体遮へいの解体
 グンドレミンゲン(KRB-A)生体遮へいの厚さは1.3mで放射化レベルの高い領域は、ダイヤモンドワイヤソーを用いブロック状に解体し撤去した。(図7参照)。
(4)米国のトロージャンの生体遮へいの解体
 トロージャンでは、生体遮へいをポーラクレーンの上に設置した遠隔操作システム搭載のキャタビラー付改造重機により、油圧式掘削ハンマー、油圧式せん断機を用いて機械的衝撃により解体した(図8参照)。
(前回更新:2003年1月)
<図/表>
表1 コンクリート構造物の解体工法の概要
表1  コンクリート構造物の解体工法の概要
図1 ワイヤソー装置概念図
図1  ワイヤソー装置概念図
図2 ワイヤソー装置によるコンクリート構造物切断試験
図2  ワイヤソー装置によるコンクリート構造物切断試験
図3 JPDR原子炉遮へい体の解体範囲と適用解体技術
図3  JPDR原子炉遮へい体の解体範囲と適用解体技術
図4 機械的切断装置による生体遮へい体の解体
図4  機械的切断装置による生体遮へい体の解体
図5 制御爆破工法によるJPDR生体遮へい体の解体手順
図5  制御爆破工法によるJPDR生体遮へい体の解体手順
図6 (米)Fort St. VRAIN(高温ガス炉)原子炉コンクリ−ト製容器のブロック解体撤去
図6  (米)Fort St. VRAIN(高温ガス炉)原子炉コンクリ−ト製容器のブロック解体撤去
図7 (独)グンドレミンゲン(KRB-A)生体遮へい内側部分のブロック解体撤去
図7  (独)グンドレミンゲン(KRB-A)生体遮へい内側部分のブロック解体撤去
図8 (米)トロージャン発電炉生体遮蔽解体・撤去の実施例
図8  (米)トロージャン発電炉生体遮蔽解体・撤去の実施例

<関連タイトル>
解体に伴う廃棄物の処理・処分の方法 (05-02-01-07)
原子炉解体技術に関する最近の動向 (05-02-02-09)
JPDRの解体(1992年度以降) (05-02-04-10)

<参考文献>
(1)横田光男・今野孝昭:「原子炉解体技術開発の現状 − 3. 解体工法・解体機器」、原子力工業、32巻、第7号、1986、pp.71-79
(2)日本原子力研究所:「原子解体技術開発とJPDR解体実地試験」(パンフレット)、平成元年3月
(3)横田光男:「JPDRの解体技術」、エネルギーレビュー、1987.6、pp.7-11
(4)笠井芳夫:「コンクリート構造物の解体と再利用」、デコミッショニング技報、No.1、1989、pp.1-6
(5)H. Nakamura, T. Narazaki and S. Yanagihara : Cutting Technique and System for Biological Shield, Nuclear Technology, Vol.86, pp.168-178, 1989
(6)K. Kozawa, M. Kan, S. Yanagihara and K. Fujiki : The Progress of the JPDR Dismantling Activities : Dismantling the Biological Shield Concrete Controlled Blasting, ASME/JSME Nuclear Engineering Joint Conference, Volume 2, pp.821-826, 1993
(7)Vincent F. Liker :“Decommissioning of Fort ST. VRAIN”, デコミッショニングシンポジュウム−安全な廃止措置に向けて−要旨集、RANDEC研究協会(1996年11月)
(8)宮坂靖彦、他:JPDR解体実地試験の概要と成果、日本原子力学会誌 Vol.38、No.7(1996)
(9)宮尾英彦、他:ワイヤソーによる構造物切断技術開発(その2)、デコミッショニング技報、第20号(1999年8月)
(10)宮坂靖彦:原子力施設デコミッショニングにおける最近の解体技術動向、デコミッショニング技報、第25号(2002年3月)
(11)清木義弘:JPDR解体実地試験—放射線遮蔽体の解体撤去、デコミッショニング技報、第14号(1996年8月)
(12)Helmut Steiner:“Practical Experience in Decommissioning KRB-A Plant, Gundremmingen, Germany”, DD&R 2005
(13)Chris Futric:“Demolition of Structures by Rubblization at Trojan Plant and San Onofre Nuclear Generation Station Unit 1”, Sepctrum 2002.
(14)伊藤 章、鳥居和敬:第3回廃止措置技術-コンクリート解体/はつりの技術動向、原子力学会誌、Vol.51、No.10(2009)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ