<解説記事ダウンロード>PDFダウンロード

<概要>
 地球上では今日まで、20を超える人工の超ウラン元素の合成が報告されている。原子番号89のアクチニウム(Ac)から始まるアクチノイド系列は103番元素ローレンシウムで(Lr)で終わるため、104番元素のラザホージウム(Rf)からのアクチノイドを超える元素を総称して超アクチノイド元素と呼ぶ。元素の周期表はどこまで延長できるのだろうか。新しく発見されてくる重い元素はどのような性質を示し周期表のどこに入るのだろうか。そして周期表はどんな構造になるのだろうか。超アクチノイド元素を含む人工元素の発見は、当初米国とロシア(旧ソ連)の間での国の威信をかけた競い合いであった。1980年代に入るとドイツがこのレースをリードするようになり、107−112番元素の合成に成功した。最近では再びロシアのグループが112−118番元素(117番元素を除く)の合成を報告している。また2004年には、日本の理化学研究所(理研)から113番元素の合成が報告された。ここでは、超アクチノイド元素発見の歴史を簡単に述べて、最近の合成研究の最先端を紹介する。
<更新年月>
2007年12月   

<本文>
 超アクチノイド元素発見の歴史を原子番号の順にまとめる(表1)。元素名は111番元素までが承認されており、112番元素以降はまだ新元素として認められていない(新元素の承認や承認手続きは文献を参照)。これまで確認された超アクチノイド核種を、横軸に中性子数、縦軸に陽子数の関数として示す(図1)。
(1)超アクチノイド元素の合成核反応
 超アクチノイド元素は重イオンビームを用いて核融合反応で合成される。この反応では、入射イオンとターゲットがまず融合して励起した原子核、複合核を生成する。複合核はすぐに中性子やγ線などを放出して残留核種(超アクチノイド核種)として生き残るか、核分裂して壊れてしまう。したがって超アクチノイド核種の生成率は複合核の生成確率と残留核種の生き残り確率の積で表される。しかし、超アクチノイド核のように励起した重い原子核では、核分裂で壊変する確率が圧倒的に大きく残留核種の生き残り確率はきわめて小さい。
 超アクチノイド元素の合成には、これまで以下のような二つの核反応のタイプが試みられてきた。第一の反応は、ドイツ・重イオン研究所(Gesellschaft fur Schwerionenforshung:GSI)や理研が主として進めてきた方法で、二重魔法核の鉛(208Pb)やその近傍のビスマス(209Bi)をターゲットにしてクロム(54Cr)、鉄(58Fe)、ニッケル(62Ni,64Ni)および亜鉛(70Zn)などの重イオンビームを照射して合成する方法である。複合核の励起エネルギーを10−20MeVと比較的低くできるため、核分裂の確率を小さくして生き残り確率を高めることを重視している。複合核から中性子1個を放出して目的の超アクチノイド元素(核種)を合成する手法で、冷たい核融合反応と呼ばれる。107−113番元素がこの反応で合成された。
 第二の方法は、ウラン238U)、プルトニウム(242Pu,244Pu)、アメリシウム(243Am)、バークリウム(249Bk)、キュリウム(245Cm,248Cm)、カリホルニウム(249Cf)およびアインスタイニウム(254Es)などの放射性アクチノイド元素をターゲットに、酸素(18O)、ネオン(22Ne)、マグネシウム(26Mg)、イオウ(34S,36S)、カルシウム(48Ca)のように比較的軽い重イオンビームを衝突させて合成する反応である。106番元素シーボーギウム(Sg)までがこの方法で合成確認された。最近ではロシアのフレーロフ核反応研究所(Flerov Laboratory of Nuclear Reactions:FLNR)で、48Caビームを用いて112−118番(117番を除く)元素の合成が報告されている。この反応では複合核の生成確率を大きくできるが、励起エネルギーが先の反応に比べると40−50MeVと高いため、3−5個の中性子を放出して目的の超アクチノイド核種を生成する。熱い核融合反応と呼ばれる。典型的な冷たい核融合ならびに熱い核融合反応で合成される超アクチノイド元素の生成断面積を生成する元素の原子番号で示す(図2)。原子番号が増加するにしたがって生成断面積が減少していくのがわかる。熱い核融合反応で原子番号110を超える領域で断面積が増加しているが、生成した超アクチノイド核種の核(殻)構造との関連で説明されている(文献参照)。
(2)超アクチノイド元素の確認
 超アクチノイド元素の生成断面積は先に述べたように非常に小さく、数ナノバーン(nb:1nb=10-33cm2)以下で、数分から数日あるいは数か月に1原子程度の生成率である。また合成される核種の半減期も数10秒からマイクロ秒と極めて短い。このため、超アクチノイド元素の合成を確認するには、短時間で目的の核種を効率よく集め、かつ副生成物をできるだけ(理想的にはすべて)除くための分離収集系と、1個の原子でも新しい元素の核種として同定できる精巧な放射線計測系を準備する必要がある。
 1970年代の106番元素合成までは、核反応生成物をガスジェット気流で数秒のうちに実験室まで搬送し、そこで新しく合成された核種のα壊変が調べられた(超アクチノイド元素領域では、核種は主にα壊変する)。未知核種がα壊変し、その娘核種もα壊変すれば、α−α壊変の相関を測定することができる。既知の娘核種の壊変を確認できれば、そのα壊変する親核を確実に同定できる。すなわち娘核種よりもα粒子(He)を1個含んだ核種が未知の親核種となる。このα−α壊変相関の測定手法は現在でも未知の超アクチノイド核種同定の唯一の方法として使われている。さらに重い元素では、寿命が短くなり上述のガスジェット搬送法は適用できなくなってきた。1980年代に入ると、磁場や電場を使って目的の生成物(イオン)を選択的に分離収集する反跳核分離装置の開発が進み、新元素発見にめざましい進歩をもたらした。107番元素以降の発見にはすべてこのタイプの分離装置が使用されている。
 以下に冷たい核融合反応を用いて理化学研究所で合成された113番元素の実験の概要と結果を、またロシアFLNRで行われている熱い核融合反応を用いた超アクチノイド元素合成研究の一部を紹介する。
(3)理化学研究所における113番元素合成実験の概要
 実験は2003年9月から2006年5月まで、数回の中断を経て約240日間行われた。理研グループは、重イオン線形加速器で352.6MeVに加速された70Znイオンを209Biターゲットに照射して209Bi(70Zn,n)反応で生成する113番元素278113 を合成した。そして核反応による反跳でターゲットから飛び出してきた278113 を、理研で開発した気体充填型反跳核分離装置(GARIS:Gas-filled Recoil Ion Separator)を用いて選択的に取り出すことに成功した(図3)。この装置の特徴は、ヘリウム(He)ガス(86Pa)を充填した磁場中で生成物を分離収集することである。278113 の収集効率は約80%と非常に高く、入射ビームや副生成物の除去率もきわめて高い。GARISで分離された278113 は、飛行時間検出器系を通過した後にシリコン半導体検出器にインプラントされる。本装置を用いて2004年7月23日に、α壊変連鎖が1事象観測された(図4)。すなわち278113が検出器に到達してから、344マイクロ秒後に11.68MeVのα線を放出して娘核種111番元素レントゲニウム(274Rg)へと壊変した。そして連続したα壊変の後、既知の107番元素ボーリウム(266Bh)や105番元素ドブニウム(262Db)へと壊変している。さらに2005年4月2日には2個目の事象も観測された(図4)。照射した70Znのイオン総数は6.2×1019個で、反応断面積としては31フェムトバーン(fb:10-39cm2)という値を得ている。
(4)FLNRにおける48Caビームを用いた超アクチノイド元素の合成
 原子核の殻効果による安定化で二重閉殻構造が予想される、原子番号Z=114、中性子数N=184付近の球形な原子核を中心にした、いわゆる「安定な島」を超重元素と呼んでいた。最近、変形した原子核の殻効果を考慮した理論計算からN=162近傍での中性子殻効果の重要性が指摘されている。それを裏付けるかのように比較的長い寿命を持つ核種がこの領域で確認されている。したがって当初の安定な島(Z=114、N=184)へと至る不安定な海(原子核領域)の手前には浅瀬が存在することが次第に明らかになりつつある(図1参照)。
 冷たい核融合と熱い核融合反応、両者にはそれぞれ長所短所があり、どちらがすぐれているとはいえないが、Z=108、N=162の中性子過剰核領域に到達するには、熱い核融合反応が適している。なおZ=114、N=184領域には、既存の安定同位体を用いた原子核の組み合わせによる核融合反応で到達するのは、ほとんど不可能である。FLNRでは、48Caと238U、244Puあるいは248Cm等の中性子数の割合が多い原子核をイオンビームとターゲットにして超アクチノイド元素の合成を進めている(図1で主にNが162以上の領域)。Z=114、N=184領域に近づくにつれ比較的長い寿命の核種が観測され、超重核の安定領域へ近づきつつあることを示している。例えばN=170の282112 とN=173の285112 の半減期を比較すると0.5ミリ秒から34秒へと急激に増大している。
 実験手法は理研での実験とほとんど同じでガス充填型反跳核分離装置を使用している。理研での113番元素合成の報告の少し前に、243Amターゲットに48Caビームを照射して新元素115番元素の合成を発表した。合成された核種は、288115 と287115 で、それぞれ3事象、1事象のα壊変系列が観測された(図5)。115番元素がα壊変すれば113番元素になるため、新元素113番元素も同時に確認されたことになる。α壊変連鎖は、最終的にはDbの同位体となって自発核分裂(SF)している。新元素の同定には、上述したように壊変を続けていく過程で既知の核種が検出される必要がある。しかし、ここで観測された系列には既知核種はない。このためFLNRでは、直接的に生成物の質量数を決定し核種を同定しようと質量分離装置(MASHA:Mass Analyzer of Super Heavy Atoms)を用いた実験を計画している。最近では最終生成物であるDb(268Dbの半減期は約20時間と報告されている)を化学的に分離してその壊変を確認し、115、113番元素の同定につなげる試みを行っている。ガス充填型反跳核分離法を用いた場合と化学的分離手法を用いて行ったときのデータを比較すると両者の値が非常に良く一致していることから、異なる実験手法による115番元素の同定であるとFLNRグループは主張している。
<図/表>
表1 超アクチノイド元素発見の歴史
表1  超アクチノイド元素発見の歴史
図1 超アクチノイド核領域の核図表
図1  超アクチノイド核領域の核図表
図2 典型的な冷たい核融合ならびに熱い核融合反応で合成される超アクチノイド元素の生成断面積
図2  典型的な冷たい核融合ならびに熱い核融合反応で合成される超アクチノイド元素の生成断面積
図3 理化学研究所における113番元素合成実験の概要
図3  理化学研究所における113番元素合成実験の概要
図4 理化学研究所で観測された113−(278)のα壊変連鎖
図4  理化学研究所で観測された113−(278)のα壊変連鎖
図5 FLNRで観測された115番元素(115−(288))のα壊変連鎖
図5  FLNRで観測された115番元素(115−(288))のα壊変連鎖

<関連タイトル>
超アクチノイド元素の化学的研究 (05-01-05-02)

<参考文献>
(1)永目諭一郎:超アクチノイド元素研究の現状と展望、RADIOISOTOPES、54、555(2005)
(2)永目諭一郎、中原弘道:新元素の認定について、日本物理学会誌、60、707(2005)
(3)森田浩介:新発見の113番元素、日本物理学会誌、60、698(2005)
(4)J.Magill,G.Pfennig and J.Galy,Karlsruher Nuklidkarte(7th Ed.),European Commission − DG Joint Research Centre − Institute for Transuranium Elements,Karlsruhe(2006)
(5)S.Hofmann and G.Munzenberg,The discovery of the heaviest elements. Rev. Mod. Phys. 72,733(2000)
(6)Yu.Oganessian,Heaviest nuclei from Ca−48 −induced reactions,J. Phys. G:Nucl. Part. Phys. 34,R165(2007)
(7)A.Vertes,S.Nagy and Z.Klencsar,eds. Handbook of Nuclear Chemistry,Vol.2,Elements and Isotopes,Kluwer Academic Publishers,Dordrecht(2003)
JAEA JAEAトップページへ ATOMICA ATOMICAトップページへ