<本文>
1.コンクリート放射化低減技術の必要性
1)原子力発電所
沸騰水型原子力発電施設(BWR)の
廃止措置 に伴い発生する廃棄物の区分例を
図1 に示す。110万kWクラスでは約50万トンのコンクリートが廃棄物として発生し、大部分は一般廃棄物であるが、この内、例えば
低レベル放射性廃棄物 に分類されるものは0.4万トン存在する(1)。現在解体が進められている日本原子力発電(株)東海1号炉の場合、その解体届によれば、クリアランスレベル(2)以上の放射性廃棄物は、放射化コンクリートで1.1万トン、汚染コンクリートで0.23万トン、放射化した金属類で0.23万トン、汚染金属類で0.04万トンとなり、放射化したコンクリートは全ての放射性廃棄物の69%を占めている。コンクリートが放射化されて放射性廃棄物になると、その埋設コストだけで、建設時の材料費に比べ、低レベル放射性廃棄物(L2区分、コンクリートピット埋設処分相当)で約460倍、極低レベル放射性廃棄物(L3区分、トレンチ埋設処分相当)で約65倍になると試算されている(
表1 )。今後の新たな建設においては、これを可能な限り少なくすることが望ましい。
2)加速器施設
大型の陽子加速器施設では、運転停止後、空気中に生成された放射性ガスが減衰した後に加速器が設置された部屋に入り修理などを行っている。修理に時間的な制限(2〜3日以内)があり、減衰時間がとれない場合は放射化した機器からの
被ばく線量 よりも、むしろ床、天井、壁など周りのコンクリート中に生成する残留放射能(主な
線源 は
24 Na)からの
線量 を考慮する必要がある。放射化した機器からの放射線は可動型の局所遮蔽体で遮蔽することが可能であるが、壁、床、天井全面の放射化したコンクリートからの放射線は遮蔽することができない。そのため部屋内に作業員の退避場所が確保できない可能性がある。この対策として
24 Na生成を抑制した低放射化コンクリートが効果的である。
図2 に
24 Na生成を抑制した低放射化コンクリートを適用したときの
線量率 の低減効果を示す。加速管近傍は一次粒子および二次粒子で放射化した電磁石などの機器からの放射線で線量率はかなり高いが、少し離れると急激に減少する。他方、放射化したコンクリートからの線量率は部屋内ほぼ均一であり、コンクリート壁表面では機器からの線量よりも放射化したコンクリートからの線量率の方が高くなる場合がある。このような場所に
24 Na生成を抑制した低放射化コンクリート(
図2 中の破線)を適用すると、普通コンクリートと比較して線量率を数十分の一から数分の一まで低減可能となり、部屋内に作業員の待機場所が確保できるようになる。
他方、中小出力の陽子加速器施設や
電子 加速器施設では、一般に、放射化したコンクリートからの被ばく線量は無視できる。しかしながら、施設廃止時においては、内側部のコンクリートおよび鉄筋中の残留放射能がクリアランスレベル以上になり放射性廃棄物として区分される可能性があるため、対策が必要である。国内加速器施設のコンクリート部位の残留放射能を調べた例(3)を
表2 に示す。コンクリートの放射化によりクリアランスレベルを超える範囲は(平成17年12月1日に施行された原子炉におけるクリアランスレベルを準用)、大型粒子加速器(
サイクロトロン および
シンクロトロン )で約110cm、大型電子加速器で約110cm、PET(Positron Emission Tomography)に使用するポジトロン核種製造用サイクロトロンで約15cmである。そのため今後建設するものについては、床、天井、壁の内側に低放射化コンクリート板などを設置し、建物の主要部が放射化しない方策を講じることが望ましい。
2.低放射化にする方法
原子炉や加速器の遮蔽体コンクリートには約10数ppmのCoや約1ppmのEuが含まれている。中性子がこれらの元素に吸収されると長半減期の放射性核種である
60 Co(半減期5.27年)、
152 Eu(半減期13.54年)、
154 Eu(半減期8.59年)が生成される。例えば
59 Co(n,γ)
60 Co反応の場合は、
図3 のように
59 Coに中性子nが吸収されると
励起 されて
60 Coになり、最終的には半減期5.27年で
γ線 と電子を放出して安定原子核の
60 Niになる。原子炉の中で普通コンクリートを照射した場合、
60 Coと
152 Euおよび
154 Euでγ線放出核種のほぼ全てを占めることが知られている(4)。コンクリートを低放射化にするためにはこれらの放射性核種の標的元素であるCoやEuを可能な限り含まない砂利やセメントを使用することになる。鉄筋の場合は
60 Coが残留放射性核種のほぼ全てを占めているので、低放射化にするにはCo元素の含有量の少ない鉄筋を選ぶことになる。大型陽子加速器施設におけるメンテナンス時の
24 Na対策には、
24 Na生成核反応の標的元素が少ないものでつくることが重要である。
24 Naは
23 Na(n,γ)
24 Naの他に
24 Mg(n,p)
24 Na、
27 Al(n,α)
24 Na、Si(n,sp)
24 Naの各反応で生成する。その生成率は、LRL6.2GeV Bevatron施設における測定例(5)によれば、普通コンクリート壁の表面から深さ34cmまでは、それぞれ1.0、0.02、0.01、0.002である。つまり、Na含有量が非常に少なく、かつMgやAlの含有量も適度に少ない原料を選ぶことになる。
低放射化にするもう1つの有力な方法は中性子を遮蔽することである。ボロンなどの中性子吸収物質で構成されるパネルなどをコンクリート壁の前に設置することやコンクリートそのものに中性子吸収物質を添加して熱中性子束を下げるといった方策がとられる。
以上が低放射化にする代表的な方法であるが、実際の低放射化設計はかなり複雑で、低放射化にする目的、機器性能、運転期間、製造コストとライフサイクルコストとのバランスをとりながら低放射化材料の適用と中性子束の低減方法を考えなくてはならない。低放射化設計は、
図4 に示すように、これら3つの輪の中心部分に位置し、特にコストと機能を睨みながら放射化量を可能な限り低減させる作業になる(6)。これまで局所遮蔽用としてはブロック形状(
図5 、写真1)や充填コンクリートがある。その他にもプレキャストパネル形状や現場打設のマスコンクリートとして適用されている。
3.低放射化コンクリートの開発
1)原子力発電所
原子炉遮蔽コンクリート用の低放射化コンクリートは現在開発段階(7)であり、原料である骨材、セメント、混和材など1,000種類以上の材料について、原子炉などで標的元素の化学分析が行われている。
図6 に各種骨材のEu-Co分布の例を示す(8)。低放射化の骨材として挙げられている主なものは、電融アルミナ、珪石・珪砂、石灰岩などである。これらの低放射化の程度は、ΣD/C(ΣDi/Ci、Di:核種iの
放射能濃度 、Ci:核種iのクリアランスレベル)換算で、通常使用されている安山岩の骨材と比較すると、電融アルミナは1/1,500程度、珪砂は1/150程度、高純度石灰岩は1/100程度である。これとともに低放射化セメントの開発、低放射化鉄筋の開発、放射化予測マップシステムの開発(
図7 )、放射化区分判定のための計算ツールの開発、低放射化設計基礎データの取得が行われている。セメントについてのEu-Co分布を
図8 に示す。低放射化の程度は、通常使用されている普通ポルトランドセメントと比較して、ΣD/C換算でハイアルミナセメントは1/30程度、シリカフュームは1/10程度、白色セメントは1/3程度である。これらの低放射化原料を使って開発された低放射化コンクリートを
表3 に示す。現在まで、普通コンクリートと比較してΣD/C換算で1/10から1/300程度の低放射化コンクリートやモルタルが開発されている。さらに、ボロン添加の併用で普通コンクリートと比較して1/10,000程度まで下げられると試算されている(9)。
2)加速器施設
大型陽子加速器施設ではメンテナンス時の被ばくを低減するために、
24 Na生成抑制型の低放射化コンクリートが有力である。骨材における
24 Na生成の主な標的元素であるNa、Mg、Alの含有量分布を
図9 に示す。石灰石のNa含有量は普通骨材の1/300程度で、低放射化原料として非常に優れていることがわかる。最近、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構が共同で建設を進めている大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、この
24 Na生成量を制限するために、ナトリウム総量(
24 Na生成標的核種の各質量に、各
24 Na生成比を乗じて算出した単位体積当たりの総量で(Na含有量×1.0)+(Mg含有量×0.02)+(Al含有量×0.01)+(Si含有量×0.002))という指標を導入し、普通コンクリートに比べ被ばく線量が1/10以下になるような低放射化コンクリートを適用している(10)、(11)。J-PARC(
図10 )の各施設ではビームロスが大きいと想定される出射部(
図5 、写真2)や入射部に、普通コンクリートを使った場合の被ばく線量を1/10以下に低減する目的で、
24 Na生成を抑制した低放射化コンクリートが適用されている。これによりメンテナンス時の許容作業時間が約2倍に増加すると試算されている。
他方、ポジトロン核種製造用サイクロトロンなど中小出力の陽子加速器施設では、放射化したコンクリートからの被ばく線量は無視できる。しかし、廃止の際、コンクリートの内壁部や鉄筋部に放射性核種が蓄積し、これらの部位が放射性廃棄物に区分される可能性がある。そのためこれに対応した低放射化コンクリートの開発が行われている(
図11 )。現在ではさらにボロン添加型の低放射化コンクリートも開発されている。現在のポジトロン核種製造用サイクロトロンの遮蔽体の形状には、オープン型と自己遮蔽型があり、それぞれ放射化領域が異なる(
図12 )。オープン型では床、壁、天井の内側部分が放射化し、自己遮蔽型ではサイクロトロンの周りを自己遮蔽体で覆っているので、この部分とコンクリート床部が放射化する。そのためオープン型については内側部の全て(
図5 、写真3)に自己遮蔽型については床部分に低放射化コンクリートプレキャストパネルが採用されている。
<図/表>
表1 コンクリートが放射性廃棄物になった場合の費用概算(建設時材料費に対する放射性廃棄物になった場合の埋設費の比)
表2 加速器施設のコンクリートの放射化
表3 各種低放射化コンクリート(例)
図1 BWR原子力発電施設の解体廃棄物
図2
図3
図4 低放射化設計
図5 低放射化コンクリートの例
図6 各種骨材中のEu-Co含有量
図7 コンクリート部位の放射化マップ
図8 各種セメント中のEu-Co含有量
図9 各種骨材中のNa、Mg、Alの含有量
図10 J-PARC全景
図11 ポジトロン核種製造用サイクロトロンの低放射化コンクリートのΣD/C(普通コンクリートとの比較)
図12 ポジトロン核種製造用サイクロトロンの放射化範囲(斜線部分)
<関連タイトル>
原子炉・核融合炉材料の照射損傷 (03-06-01-05)
放射性廃棄物の処理処分についての総括的シナリオ (05-01-01-02)
<参考文献>
(1)総合エネルギー調査会原子力部会中間報告:商業用原子力発電施設解体廃棄物の処理処分に向けて、資料5(平成11年5月18日)
(2)経済産業省令:平成17年11月22日経済産業省令第112号
(3)文部科学省、原子力・放射線の安全確保HP:クリアランス技術検討WG、資料4-2(2006年3月)
(4)M.Kinno,et al.:Raw Materials for Low-Activation Concrete Neutron Shields,Journal of Nuclear Science and Technology,Vol.39,No.12,1275-1280(2002)
(5)W.S. Gilbert,et al.:Concrete Activation Experiment at the BEVATRON,UCRL-19368(1969)
(6)林克己、金野正晴:原子力設備のコンクリート放射化低減技術、月刊 技術士(2006年9月)、p.8-11
(7)長谷川晃、金野正晴、林克己:コンクリートの放射化低減技術開発の現状、原子力eye、Vol.53、No.6、60-63(2007年6月)
(8)金野正晴:低放射化コンクリートの開発の現況、コンクリート工学、Vol.42、No.6、3-10(2004年6月)
(9)M.Kinno,et al.:Low-Activation Reinforced Concrete Design Methodology(10)-Low-Activation Concrete Based on Fused Alumina Aggregates and High Alumina Cement-,19th International Conference on Structural Mechanics in Reactor Technology,Tront,Canada,Aug. 12-17(2007)
(10)N.Matsuda,et al.:A Study on Induced Activity in the Low-activationized Concrete for J-PARC,Journal of Nuclear Science and Technology,Supplement 4(Mar.2004),p.74-77
(11)田野崎隆雄、他:低放射化コンクリート、コンクリート工学年次論文集、Vol.25、No.1、1847-1852(2003)
(12)経済産業省総合エネルギー調査会原子力部会廃止措置対策小委員会公開資料
(13)J-PARCセンター:
http://j-parc.jp/
(14)金野正晴:土木技術、62巻、8号(2007.8)、p.47