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<概要>
 原子力発電所から発生する放射性廃棄物は、LLW(低レベル放射性廃棄物)とHLW(高レベル放射性廃棄物)に大きく分類される。核燃料物質等を原子力発電所等の所外に運搬する場合には、一般公衆や作業員の被ばく低減と処理・輸送の費用低減を目標に、各国特徴のある容器を開発し、各国それぞれの法体系、管轄下のもとに運用されている。各国の輸送に関する安全基準は「IAEA放射性物質安全輸送規則」に基づいて構築されるが、これは国連の「危険物輸送の国連勧告」の一部で、加盟国の法令に関する強制力はない。しかし、海上及び航空輸送に関する国際規則においては、それぞれ、国際海事機関(IMO)及び国際民間航空機関(ICAO)がほぼ全面的にこのIAEA輸送規則を取り入れているため、実質的に条約としての効力を有する。今後、老朽化した原子力発電所の閉鎖、修理・修復や廃止措置に伴い、様々な多様な形態の廃棄物の発生・運搬と、それに伴った廃棄物管理が行われることが予想される。
<更新年月>
2009年01月   

<本文>
 放射性廃棄物等を原子力発電所等の所外に運搬する場合には、一般公衆や作業員の被ばく低減と処理・輸送の費用低減を目標に、各国特徴のある容器を開発し、それぞれの法体系、管轄下のもとに運用されている。各国の輸送に関する安全基準は、主として「IAEA放射性物質安全輸送規則(以下、IAEA輸送規則)」に基づいて構築される。IAEA輸送規則は、国連の「危険物輸送の国連勧告」の一部で、加盟国の法令に関する強制力はないが、海上及び航空輸送に関する国際規則においては、それぞれ、国際海事機関(IMO)及び国際民間航空機関(ICAO)がほぼ全面的にIAEA輸送規則を取り入れているため、実質的に条約としての効力を有する。放射性廃棄物が有する危険性は放射性及び核分裂性に加え、爆発性、可燃性、自然発火性、化学的毒性、腐食性など副次的危険性の考慮が求められる。このため、放射性核種量、放射線レベル等によって、輸送容器と処分容器、処分兼輸送容器などの形態で管理される。原子力発電所から処理会社、処分場への輸送にはトラック、トレーラーが一般的であり、廃止措置に伴う大型機器等の輸送には鉄道、バージなどが使用される場合がある。なお、原子力発電所から発生する放射性廃棄物は、大きくLLW(低レベル廃棄物)とHLW(高レベル廃棄物)に分類され、それぞれの処分サイトへ輸送され、処分される。ここでは欧米諸国の主なLLW輸送の現状を示す。
1.米国のLLWの輸送に係る概要(表1および表2参照)
 米国におけるLLWはNRCの10CFR61.55に記載されているように、含有核種(長寿命、短寿命の核種)と濃度によってさらにクラスA、B、Cに分類される。LLWの処分に関しては1980年のLLW政策法、1985年の修正法により、州独自で処分場を持つか、またはコンパクトと呼ばれる州間協定を設立して処分場を共有するかが義務づけられている。民間のLLW処分場としてはバーンウェル、リッチランド、またクラスAのみの処分が可能なクライブがある。輸送に係る所轄官庁は、米国運輸省(DOT)、原子力規制委員会(NRC)等である。
1.1 廃棄物容器および輸送容器等の概要(表3および図1参照)
 廃棄物のカテゴリーに従って、廃棄物容器として木製、金属性、コンクリート製およびポリエチレン製の高健全性容器(HIC)等、多様な容器が使用され、容器は処分場によって異なる。バーンウェル処分場で使用されている容器の一例として、クラスA廃棄物は55ガロンドラム缶(約200L)や金属箱(約2.8立方m)等が使用され、クラスB/Cの廃棄物に対してはコンクリート製またはHICが使用される。処分場にはコンクリートボールト(円筒型:約14立方m、矩形型:約30立方m)が設置され、この形態は1995年から行われている。輸送容器は、クラスAにはISOコンテナ(ISO規格の20フィートコンテナ)が一般的に使用され、クラスB/Cには鉛遮へいのキャスク等が使用されている。
 米国では廃棄物処理業者が発電所廃棄物を引取り処分することが一般的であり、輸送効率を図るため、大型の輸送容器(ISOコンテナ等)が使用される。処分場に到着した輸送物および車両は、州の健康環境局によってDOT、NRCおよび州の規則に従って、健全性が検査される。また、メインヤンキー、トロージャン等発電所の解体に伴う廃棄物は、原子炉圧力容器炉内構造物の一体型がB型輸送物、蒸気発生器がIP輸送物(*1)として輸送されている。一体化輸送処分は被ばく低減と処理・輸送の費用低減化を目的としている。また、DOEの原子力施設の解体・修復で発生するコンクリート廃材、金属片、土砂等は、縦:約2.1m、横:1.5m、収納:約7.3立方m、重量:約24トンまで対応できるポリプロピレン製の袋(Soft−Sided Waste Container)が一部で使用されている。
(*1:IAEA規制1985年版で規定された産業用輸送物(Industrial Package))
2.英国のLLWの輸送に係る概要(表1および表2参照)
 放射性廃棄物カテゴリーは濃度等によりVLLW(極低レベル)、LLW(低レベル)、ILW(中レベル)、HLW(高レベル)に区分される。LLWの処分場には、UKAEAのドンレー処分場とBNFLのドリッグ処分場がある。ドンレーはCulham、Dounreay、HarweLLWindscaleおよびWinfrithの解体、修復廃棄物の処分場で、それ以外はドリッグ処分場で処分される。輸送に係る所轄官庁は運輸・地方政府・地域省(DTLR)、貿易産業省(DTI)である。
2.1 廃棄物容器および輸送容器等の概要(表3および図1参照)
 BNFLのドリッグ処分場の処分容器はボールトとよばれるコンクリートの壁でできており、それにフルハイトコンテナ、ハーフハイトコンテナ等の容器で処分されている。ハーフハイトコンテナは、ドラム缶圧縮体等の重量の重い廃棄物を収納し、モルタルで充填されている。フルハイトコンテナは一般的にドラム缶廃棄物を収納している。これらのコンテナはISOコンテナであり、欧州、米国で広く使用されている。輸送手段には主にトラック、トレーラーが使われている。
3.フランスのLLWの輸送に係る概要(表1および表2参照)
 廃棄物カテゴリーは濃度等によってVLLW、LLW、ILW、HLWに区分される(表1参照)。LLW処分場は2箇所あるが、ラマンシェ処分場は既に閉鎖され、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が操業するオーブ処分場のみが現在稼動している。廃棄物圧縮装置および充填装置を設備している。施設構造は、半地下式コンクリートピットで、ピット底盤で集水排水する。
3.1 廃棄物容器および輸送容器等の概要(表3および図1参照)
 廃棄物は、トラックで直接処分場に輸送されるか、専用ターミナルであるブリネ・ル・シャトーまで鉄道で、それ以降はトラックで処分場に輸送される場合もある。処分場で使用される容器は、基本的に4タイプで、ドラム缶、コンクリート容器(2種類)、金属容器に分類される。マルクールにある集中処理センター(CENTRACO)では廃棄物を焼却、減容、梱包など集中処理しているが、7立方mと3.5立方mの金属容器が主に廃棄物容器として使われる。輸送容器としてA型オープン・トップ・コンテナ(固定蓋コンテナ)が使用される。
 その他、スペイン、スウェーデン、ドイツ、フィンランドなどの諸国でも低レベル放射性廃棄物の処分場が操業している(表4参照)。特徴的な輸送形態としては、スウェーデンの陸上から自動車ごと船(シギン号)に積載し、海上を輸送する方法(ロールオン・ロールオフ)があげられるが、今後、原子力発電所の閉鎖、修理・修復や廃止措置に伴い、様々な多様な形態の廃棄物の発生・運搬と、それに伴った廃棄物管理が行われることが予想される。
(前回更新:2004年9月)
<図/表>
表1 欧米諸国の放射性廃棄物の区分と処分方法
表1  欧米諸国の放射性廃棄物の区分と処分方法
表2 欧米諸国における低中レベル放射性物質の輸送に係る所轄官庁、輸送法令および輸送、処分実施機関等の概要
表2  欧米諸国における低中レベル放射性物質の輸送に係る所轄官庁、輸送法令および輸送、処分実施機関等の概要
表3 米・英・仏における低中レベル放射性廃棄物容器、輸送容器等の概要
表3  米・英・仏における低中レベル放射性廃棄物容器、輸送容器等の概要
表4 欧米諸国における低レベル放射性廃棄物処分の状況
表4  欧米諸国における低レベル放射性廃棄物処分の状況
図1 米・英・仏における低レベル放射性廃棄物廃棄体形態の例
図1  米・英・仏における低レベル放射性廃棄物廃棄体形態の例

<関連タイトル>
海外における放射性廃棄物処理処分の動向(IAEA報告) (05-01-03-12)
トロージャン原子炉の廃止措置 (05-02-03-16)
わが国の核燃料物質輸送に係る安全規制 (11-02-06-01)
輸送容器の安全性 (11-02-06-10)
核燃料輸送容器の臨界安全性と遮蔽安全性 (11-02-06-12)
核燃料物質の車両運搬 (11-02-06-13)
核燃料物質の船舶運送 (11-02-06-14)

<参考文献>
(1)日本原子力産業会議:放射性廃棄物管理ガイドブック1994年版(1994年7月)
(2)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物データブック(1998年11月)
(3)日本原子力学会:放射性廃棄物の用語について、p.21
(4)NEA/RWM/RF:RWMC Regulators’ Forum(RWMC−RF):The Regulatory Control of Radioactive Waste Management in NEA Member Countries REV1,(2002.2)
(5)原子力環境整備促進・資金管理センター:放射性廃棄物ポケットデータブック2001、2001年1月
(6)原子力環境整備促進・資金管理センター:諸外国における放射性廃棄物関連施設・サイトについて、2008年3月
(7)原子力委員会:平成19年原子力白書、関連データ集、http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/hakusho/hakusho2007/data.pdf
(8)原子力安全基盤機構:平成19年度放射性物質の国際輸送に係る技術的動向調査報告書、平成20年7月
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