<本文>
海外における放射性廃棄物(以下「廃棄物」という)の処理処分の主要な動きについて、IAEA/WMDB/ST/2「放射性廃棄物処理処分の現状と動向」(2002年版)をもとに述べる。
1.廃棄物対策の動向
(1) 中央ヨーロッパ諸国(CEC)及び新独立諸国(NIS)への援助
旧ソ連邦圏にあったこれらの国々に対して、原子力利用上の安全確保のための国際的な援助プログラムの主なものとして次の2つがある。一つはポーランドとハンガリーをはじめとして1989年に始まったPHAREと呼ばれるプログラムであり、もう一つはタジキスタン、ウクライナ等多くの新独立国に対するTACISと呼ばれるプログラムである。これらのプロジェクトはEU 諸国が中心になって進めており、TACISへの援助予算は、2000-2006年については3,138百万ユーロである。
(2) 科学技術的問題以外に社会的観点からの諸問題の重要度の増大
意志決定への市民参加、情報の透明性の重視等科学技術的な問題以外の社会的観点からの諸問題が重要度を増している。特に、処分場のサイト選定や環境回復の分野では、市民参加を考え、段階的な計画の推進が重視される様になってきている。また、
放射性物質をまき散らすいわゆる”dirty bomb”によるテロへの備えなど、新たな問題も出てきている。
2.廃棄物の分類
(1) 規制除外、規制免除、クリアランス
放射性物質として規制の対象になるかどうかの分類レベルとして、規制除外(天然に存在し規制できない)、規制免除(もともと
放射線による
リスクが小さく規制の対象とならない)、クリアランス(規制対象になっているが放射線によるリスクが小さいことにより規制の対象から外す)という判断の概念がある。クリアランスについては、
解体廃棄物のうちほとんど放射性物質を含まない廃材を資源として再利用することを前提に、そのレベルが決められる。再利用される資材は規制されることなく、世に出回ることになるので、分別は非常に重要である。また、食料の貿易に関しても、放射性物質としての規制対象にするかどうかのレベルは、国際的に重要な分類レベルである。IAEAには技術委員会が設けられ検討が進められているが、IAEA加盟国間での合意は未だに得られていない状態にある。
(2) 非放射性毒性
放射性毒性以外に、微生物や有毒化学物質などの有害物質を含む廃棄物について、非毒性化処理等を含む廃棄物処理マニュアルの整備が進んでいる。
(3) 使用済み燃料は資源か廃棄物か
使用済み燃料の処置としては、
再処理してプルトニウムや
ウランを回収するオプションと、そのまま密封して高レベル廃棄物として直接処分するオプションがある。使用済み燃料を廃棄物として扱う直接処分は、
プルトニウムの核拡散防止対策、高速増殖炉計画の遅れなどの理由で有力なオプションとなってきている。
3.廃棄物の発生源
廃棄物発生源は、
核燃料サイクル(原子力発電・再処理施設)以外にアイソトープ利用事業等がある。しかし、核燃料サイクル廃棄物が放射性廃棄物の大部分を占めているので、アイソトープ利用事業等からの廃棄物については、サイクル廃棄物の処理処分施設で対応している国が多い。
核燃料サイクル廃棄物は、管理の観点から高レベル廃棄物(HLW)・
使用済燃料(SF)と低中レベル廃棄物(LILW)に分類され、後者は長寿命(LL)
核種の含有量が問題であるLILW-LLと短寿命(SL)核種の含有量が問題となるLILW-SLに分けて処理・貯蔵がなされている。各廃棄物の発生量の比率を
図1 に示す。
廃棄物発生量からみて重要のものとして環境回復がある。大規模なものとしては、施設の事故とウラン鉱山がある。前者の代表的なものが
チェルノブイリ事故である。後者としては、ポルトガルのSierra da EstrelaとカナダのCigar Lakeがあげられる。原子力発電以外に医療、工業での放射性物質を使用する分野や、天然の放射性物質を含む資源を使った産業からも放射性廃棄物は生じる。ここでも社会的観点からの諸問題、特に、
放射線管理の規制を必要とするレベルについての議論が盛んである。2001年にマルタ島で発電以外の原子力利用に関する大きな国際会議が開催され、これらの問題が議論されていた。
4.施設の廃止措置
原子力発電所の廃止措置方式については、即時解体する解体撤去方式(DECOM、IAEA Stage 3)と解体する前に長時間貯蔵する密閉管理方式(SAFSTOR、IAEA Stage 1)が、これらまで主に検討されてきたが、原位置処分とする遮蔽隔離方式(ENTOMB、IAEA Stage 2)も検討対象になってきている。これらの方式の選択要因としては、放射線的環境、廃棄物・使用済燃料管理、資金、コスト、開発面から見た利用可能な技術などがある。多くの操業停止施設が封鎖、保管貯蔵のままとなっているが、専門技術者の分散、措置経費の不確定性を考えると解体撤去方式を採択することが望まれる。例として、米国での廃止措置で採用された方式の一覧表を
表1 に示す。
原子力発電所、再処理施設等の大型施設以外にも多くの役目を終えた医療施設、各種研究所等小規模原子力利用施設が廃止措置の時期にきている。IAEA加盟国におけるこれらの施設の概数を
表2 に示す。
5.処理・貯蔵
(1) 減容化
解体廃棄物の発生量を少なくするためには、廃棄物を発生する施設の設計段階での構造・材料の選定、プロセス段階での廃棄物の選別保管が有効である。また、解体廃棄物について
放射能の減衰、クリアランスレベルの活用、再利用などが重要である。
原子炉運転廃棄物から生じる低レベル液体廃棄物の減容が重要な課題であり、これまでもそのための技術開発が進められてきた。現状の処理技術を整理して
表3 に示す。最近の処理プラントとしてはスウェーデンのTHOR(加熱式有機物質減容)プロセスがあげられる。このプロセスは蒸気乾燥と高温加熱プロセスの2段階からなり、最終的にはガラス状廃棄物にする高減容プロセスである。多種類の低レベル放射性廃棄物の処理に適用されている。
(2) 貯蔵
使用済燃料の貯蔵が最も重要な課題となっている。世界中に貯蔵されており、今後増大する貯蔵量の予測を
表4 に示す。貯蔵プール内に湿式貯蔵されているものもあるが、経済的、安全確保の観点から乾式貯蔵方式が採用される方向にある。
6.放射性廃棄物の処分
処分は、人間の関与がなく、従って、回収可能性がなくても安全が保てる措置である。しかし、社会的側面からの
地層処分問題に対する市民参加の重要性が高まるにつれて、回収可能性の確保についての議論が盛んになってきた。従来型の回収可能性を考慮に入れていない地層処分と区別して、「超長期中間貯蔵」、「可逆可能地下貯蔵」「モニタリング付き地層処分」と呼ばれる放射性廃棄物の最終的管理段階の概念が検討されるようになった。将来世代の技術革新を踏まえた意志決定の自由度を増すという理由で、社会的合意の得やすさを増すことになる。例えば、米国のYucca Mountain処分場の計画では、処分場閉鎖前最短50年、大体300年程度までは回収可能な設計とすることになっている。しかし、完全に閉鎖した後の回収可能性は義務付けていない。
<図/表>
<関連タイトル>
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(1)−仏、英編− (05-01-03-07)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(2)−ベルギー、スイス、カナダ編− (05-01-03-08)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(3)−アメリカ編− (05-01-03-09)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(4)−独、スウェーデン、フィンランド編− (05-01-03-17)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分(5)−アジア・オセアニア編− (05-01-03-18)
外国における高レベル放射性廃棄物の処分の概要(6)−ロシア編− (05-01-03-19)
海外主要国における廃止措置の考え方 (05-02-01-10)
<参考文献>
(1) IAEA/WMDB/ST/2「放射性廃棄物処理処分の現状と動向」(2002)
(2) IAEA/WMDB/ST/1「放射性廃棄物処理処分の現状と動向」(2001)