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<概要>
 RIトレーサ・線源を使用する研究機関、産業及び医療機関等から発生する放射性廃棄物はRI廃棄物と総称され、放射線障害防止法医療法に基づくものに分けられ、それぞれ研究用、医療用RI廃棄物と称されている。RI廃棄物は、原子力発電所核燃料サイクル施設から発生する廃棄物とは異なり、比較的短寿命のRIであり、放射能の減衰が早い。2007年度のRI廃棄物を発生する事業所数は1,580、発生量は11,739本(200リットル容器換算)である。集荷、一時貯蔵は日本アイソトープ協会が、処理は同協会と(独)日本原子力研究開発機構が行っている。RIを含む放射性廃棄物については、改正された「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づいて、具体的な制度の施行準備が行われている。
<更新年月>
2009年02月   

<本文>
 核燃料の成型加工、原子力発電、核燃料再処理及び大型研究施設はいずれも規模が大きく、施設の数も限られているのに対してラジオアイソトープ(RI)の利用事業所の数は極めて多く、その規模は概して小さい。また、RI利用分野で取り扱う放射性核種の数は極めて多く、さらにその化学形も多様である。それに応じて発生する廃棄物は、それぞれ少量であるが、多種多様にわたっている。
 欧米のRI生産国では、RIの製造に伴う廃棄物や大量の工業利用によって発生する廃棄物があり、RI廃棄物が全放射性廃棄物の40%ほどを占める国もある。わが国では10%程度であり、しかも需要がのびているのは極く短寿命のRIであって、比較的寿命の長いRIの需要は低迷している。
1.RI廃棄物の種類と特徴
 2008年3月末現在、国内のRI使用事業所は、4,966を数えているが、その大部分は線源としてRIから出される放射線だけを利用しており、そこで発生する廃棄物の量は極く少ない。RI廃棄物集荷事業所数は、2007年度で1,580であり、年間200リットル容器換算で11,739本の廃棄物が発生している。主要な放射性核種は、トリチウム、炭素−14、リン−32、硫黄−35、クロム−51、ヨウ素−125であり、ほとんどが短半減期核種である。
 医療用RIの利用は、最近は横ばいで、使用事業所数は910(2008年3月)である(図1参照)。主要な廃棄物中の核種は、テクネチウム−99m、ガリウム−67、ヨウ素−125、タリウム−201等約19核種であり、一般の研究用RIよりもさらに短寿命である。なお、医療機関から集荷されるRI廃棄物量は、総量の41.9%(2007年度)で、研究用RIに比べ約11%多い(図2参照)。
2. RI廃棄物の集荷、貯蔵、処理
 RI利用者は一般に小規模であり、充分なRI廃棄物処理処分を期待しにくい事情は、各国とも同様であり、集中的に処理処分を行う機関あるいは業者を指定して、そこに委託させることが多くの国でみられる。国立の原子力研究所(またはそれに準ずる機関)が全RI廃棄物の引受機関になっている例は、初期のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ベルギー、スウェーデン、ロシア、台湾など数多く、わが国でも (独)日本原子力研究開発機構が部分的にその役目を引き受けている。
 アメリカでは、早く1960年代に民間の廃棄業者を育成して肩代わりさせており、国立の原子力機関は政府関係の原子力施設からのRI廃棄物だけを扱っている。
 わが国では、RI廃棄物の集荷・処理・処分に関しては、運用上、放射線障害防止法に基づく放射性廃棄物を「研究放射性廃棄物」、また医療法関係法令に基づくものを、「医療放射性廃棄物」と区別している。放射線障害防止法で定められている放射性廃棄物処理法を図3に示す。法令に従って放射性廃棄物を廃棄する場合は、
 1)自己の施設で廃棄する方法
 2)廃棄業者へ廃棄を委託する方法
の2つの方法に限られる。
 放射性廃棄物のうち、気体廃棄物と液体廃棄物は、1)の方法によって自己の施設から希釈廃棄することができる。液体廃棄物及び固体廃棄物は、1)の方法によって処理及び保管廃棄するか、または 2)の方法により廃棄業者に引き渡し、廃棄を委託することができる。放射線障害防止法に基づいて「廃棄の業」の許可を取得し、外部の廃棄物の廃棄を受託している廃棄業者は、日本アイソトープ協会(集荷と貯蔵)と (独)日本原子力研究開発機構(処理と保管廃棄)の2機関である。また、医療法施行規則により厚生労働大臣の指定を受けて廃棄を受託できる業者は、日本アイソトープ協会(集荷、貯蔵、処理、保管廃棄)が唯一の機関である。日本アイソトープ協会は、集荷した医療廃棄物について岩手県滝沢村に茅記念滝沢研究所を1987年に建設し、液体及び固体廃棄物の各種処理施設を備えて、1987年8月から処理を始めた。処理済の廃棄物はドラム缶に入れて、同所の保管廃棄施設に保管されているが、極めて短寿命の核種のものであり、規制除外の下限値濃度が設定されれば、大部分が規制除外扱いとなるものである。
 図4にRI廃棄物の集荷、貯蔵、処理及び保管のフローを示す。また、表1にRI廃棄物の集荷、処理状況を、図5に2007年度の日本アイソトープ協会が集荷した種類別の廃棄物処理量を示す。
3. RI廃棄物の処分
 低レベル固体廃棄物については、早くから陸地処分と海洋処分を併せ行う考えがあり、海洋に面した国々では、一般廃棄物、産業廃棄物と同じように、海洋への投棄処分がなされてきた。
 わが国で本格的に海洋投棄の検討が始められたのは1969年であるが、現在では、「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)により、海洋投棄は禁止されている。(ATOMICA構成番号:05−01−03−11参照)
 1992年12月から陸地処分が青森県の六ケ所低レベル放射性廃棄物埋設センター(日本原燃)で実施されている。原子力発電所廃棄物に比べ、RI廃棄物は一般的に放射能レベルが低く、半減期も短く、また量も多くないので、六ケ所村と同じように浅地埋設することは技術的に充分可能と考えられる。
 1994年6月に策定された「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」のもと、原子力委員会は原子力バックエンド対策専門部会で、RI・研究所等廃棄物の処分について検討が進められてきた。その結果、処分を事業として進める事業主体として(財)原子力研究バックエンド推進センター(RANDEC)が2000年12月末に設立された。その後、「原子力政策大綱」(平成17年10月11日原子力委員会決定)において、「国と事業者は、国民の原子力に対する理解を遅らせ、ひいては原子力の研究、開発及び利用に支障を及ぼすことにならないためにも、処分方法の検討が関係者の間で進められている低レベル放射性廃棄物の処分方法を早急に明確にして、その実現に向けて計画的に取り組むことが重要である。」と指摘されている。RIを含む放射性廃棄物については、改正された「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」に基づいて、具体的な制度の施行準備が行われている。
(前回更新:2004年1月)
<図/表>
表1 RI廃棄物の集荷、処理状況
表1  RI廃棄物の集荷、処理状況
図1 使用許可・届出事業所数の年度推移(2008年度)
図1  使用許可・届出事業所数の年度推移(2008年度)
図2 機関別廃棄物集荷数量(2007年度)
図2  機関別廃棄物集荷数量(2007年度)
図3 放射性廃棄物処理(放射線障害防止法則19条関係)
図3  放射性廃棄物処理(放射線障害防止法則19条関係)
図4 RI廃棄物の集荷、貯蔵、処理、保管フロー
図4  RI廃棄物の集荷、貯蔵、処理、保管フロー
図5 種類別廃棄物処理数量(2007年度)
図5  種類別廃棄物処理数量(2007年度)

<関連タイトル>
海洋投棄規制と実績 (05-01-03-10)
わが国の海洋投棄中止にいたる経緯 (05-01-03-11)
RI・研究所等廃棄物処理処分の基本的考え方 (05-01-03-14)
RI・研究所等廃棄物処理処分計画 (05-01-03-20)

<参考文献>
(1)文部科学省科学技術・学術政策局(監修): 放射線利用統計 2008、日本アイソトープ協会
(2)日本アイソトープ協会(編): 医療用アイソトープの取扱いと管理 改訂3版、丸善、p.241(1985年)
(3)日本アイソトープ協会(編): 改訂2版 主任者のための放射線管理の実際、日本アイソトープ協会(1994年)、p.47
(4)日本原子力産業会議(編):放射性廃棄物管理ハンドブック1994年版、p.82−84(1994年)
(5)日本原子力産業会議(編):原子力年鑑’98/’99年版(1998年12月)、p.201−204
(6)文部科学省 放射性廃棄物企画室:RI・研究所等廃棄物の現状について、平成17年12月9日、http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/011/shiryo/05122701/001.pdf
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